第125話 猿のような生き物

 村人探偵ベーがこの謎を解いてやる。じっちゃんの名にかけて!


「なんのノリかは知りませんが、まずお祖父様の名前から調べたほうがよいのでは? と言うか、名前どころかいるかどうかもわかりませんよね」


「…………」


「大体、謎と言うものでもないでしょうに。おおかた、この木にかけて中に入ろうとしたらなにかに襲われて、勇者ちゃんが我を忘れて暴走した、ってところじゃないですかね」


 辺りに散らばる獣の骨や倒れた木々を見ながら幽霊探偵レイコさんが推理を説いた。


「フッ。名探偵メルヘン、プリッつあんばりの名推理、感服したぜ。さすがライバルだ」


「そう言うのはわかる者同士でやってもらっていいですか? それよりなにかに囲まれてますよ」


 え? そうなの? まったく気がつきませんでしたわ~。


「猿のような生き物四八匹に囲まれています」


「オレも鈍ったもんだ。こんなに近寄られるまでわからんとはよ」


 まあ、人外とか竜とかに触れてたら感覚も狂うけどな。現れた猿のような生き物なんか小動物にしか見えないぜ。


「ベー様を襲うとか哀れな生き物ですね」


 オレとしては実験体を確保できてハッピーですけどね。


「捕縛」


 で一網打尽。伸縮能力で小さくして収納鞄に放り込む。


「君たちの命は大切に使うから成仏してくれよ」


「あんなのが役に立つんですか? 人と体の作りが違うのに」


「違うと言っても毒のあるなしはわかるくらいには同じ作りさ」


 あまり褒められたことではないが、他の生き物のエサにもできるし、囮にも使える。ゴブリンとか猿に似た生き物も結構使い道があるのだ。


「道理でご主人様と気が合うわけです。混ぜたらダメな二人ですけどね……」


 先生は一人でもダメな存在だと思うんですけど。R18なことばかりなのでなにとは言えないがな。


「いろは。まだいるか?」


 ドレミじゃなくいろはに尋ねる。たまにはフューチャーしないと忘れられてしまうからな。主にオレが、な!


「はい。索敵範囲に六〇〇はいます」


 大暴走になったか?


「猿のような生き物、この大陸のゴブリンかか?」


「う~ん。ゴブリンではないと思いますよ。特徴がいろいろ違いますし」


「どこからか流れて来たのかな?」


 ラーシュに南の大陸にどんな魔物がいるか教えてもらったが、猿のような生き物はなかった、はず? すべてを覚えてるわけじゃないからわからん。


「かもしれませんね。南の大陸にもたくさんの種がいますからね」


 本当に天地崩壊があったのかって思うくらいの種の数だよな。


「いろは。生け捕りできるか?」


「お任せください、マイロード」


 伸縮能力を付与させた収納鞄を四つ出していろは(たぶん、本体)に渡した。


 西洋人形のようないろはが二つ分裂。二つが四つに。四つが八つにと、一六体のいろはとなった。


「捕獲しろ」


 そう命令を出す。


「イエス、マイロード!」


 そう言うと四方に散るいろは隊。オレの出番はなさそうだな……。


 まあ、いろはやミタさんがいる以上、オレが戦うことはないし、戦いたいわけでもねー。任せれることは任せるのがオレと言う男。よろしこ~。


「しかし、勇者ちゃんたちはなんでここで野宿しようとしたんだ?」


 ルククから落ちたってわけじゃないだろうに。


「マイロード。あちらに道があります」


 と、メイド型ドレミが言うので案内してもらう。あ、木にかけていた収納鞄は外しましたから。


 歩くこと二〇メートル。ぬかるんだ道に出た。


「こんなジャングルに道とは。そんなに危険じゃないのか?」


 馬車一台通れるくらいの幅があり、草がそんなに生えてない。これは頻繁に往来があるってことだ。


「あの猿のような生き物が出たから通らなくなった感じですかね?」


「かもな」


 ぬかるんではいるが、轍や獣の足跡が見て取れた。


「どっちかな?」


「ちょっと上から見てみますね」


 上昇していくレイコさん。まるで昇天のようだ。


 見えなくなるくらい上昇し、五分くらいして下りて来た。どうでした?


「あちらに煙が上がってるのが微かに見えました。集落かもしれませんね」


 ジャングルに集落? なにかの部族でも住んでるのかな?


「なら、そこにいってみるか。勇者ちゃんの情報が入るかもしれんしな」


 あの強烈な二人なら誰の記憶にも残ってるはずだ。


 捕獲はいろは隊に任せ、煙が上がるほうへと歩き出した。旅の雰囲気を味わうために、な。


  ◆◆◆


 歩き始めてすぐ、斜め横を歩いていたドレミがオレの前に出た。なんや?


「猿のような生き物です」


 道の先に猿のような生き物が団体さんでたむろしていた。


「ヤンキーか?」


「ヤンキーがなんなのかわかりませんが、なにか食べてるみたいですよ」


 霊視で見てるのか、たむろしているヤンキーがなにをしているかわかるらしい。なに食べてんの?


「……人、っぽいですね……」


「弱肉強食な世界は厳しいや」


 魔物がいる世界。弱い者が食われることに怒りを感じることはねーが、人としての感情は持っている。不愉快って感情が、な。


「まったく、人は傲慢だぜ」


「人だと言ういい証拠じゃないですか」


 レイコさんの返しに肩を竦めてみせた。まったくもってその通り。なら、人らしく生きましょうかね。


「殲滅技が一つ、殲滅拳!」


 とは、土魔術で創り出した砲弾を結界筒に入れてぶん殴って撃ち出す技である。


 本当はサプルが創り出す砲弾が威力も高く精巧でもあるのだが、獲物が竜じゃないのだからオレの土魔術で創った砲弾で充分である。


 撃ち出された砲弾はヤンキーどもに命中。土砂が噴き上げた。


「……えげつな……」


 うん。殺戮技だし。


「さらにもう一発っ!」


 止めとばかりに撃ち込んでやる。 


「マイロード。二時方向から群れが来ます。いろはに捕獲させますか?」


「いや、オレが殺る。鈍った感覚を取り戻したいからよ!」


 戦闘のセンスは皆無だが、殺戮センスはあると自負する。


「嫌なセンスですね」


 うっさいよ! ないよりはあったほうがイイんだよ! こんな弱肉強食な世界ではな!


「殲滅技が一つ、殲滅乱舞!」


 と言うほど乱舞にはなってないし威力も落ちるが、ヤンキーにはすぎた威力。木々を薙ぎ倒し、土を吹き飛ばし、血吹雪が舞う。


「……なるほど。ミタレッティーさんたちは、ベー様に戦わせないようにしてたんですね。被害が大きすぎて……」


 いや、ミタさんやカイナーズの連中が戦ったほうが甚大で迷惑だと思うんですけど?


「……まあ、どっちもどっちですけどね……」


 あ、うん。そうだね。否定はできませんね。この状況では……。


「殲滅技の向上のためにはやむなし!」


 命は命を得て生きている。だからオレは弱肉強食を肯定するし、強い者の糧になっても恨みはしない。弱い自分が悪いと死んでやるさ!


「ドレミ。ヤンキーの反応は?」


「何匹かはいますが、大体は遠ざかりました」


「まだいるんかい」


 大暴走はよくあるとは言え、ここのは多くないか? 千は軽く超えてそうだぞ……。


「まあ、一万は超えたこともありますし、まだいいほうじゃないですか?」


 魔大陸で蟻の群れ見たしな、千や二千、騒ぐことではねーな。


 ヤンキーがいなくなったので先を進み、三キロくらい歩くと、脇道が現れた。


 道幅や轍のあとからして主要道だろう。レイコさん。確認よろしこ。


「木の柵で囲まれた村がありました」


 木の柵? それはまた貧弱なところに住んでるな。ちょっとした開拓村でも丸太壁に囲んでいるってのによ。


「被害は出てそうかい?」


「いえ、被害が出てるようには見えませんでしたね。ただ、厳戒態勢のようでした」


 まあ、ヤンキーがあれだけいれば厳戒態勢にもなろうわな。


「厳戒態勢ならこのままだと不味いな」


 ヤンキーが溢れるところに村人ルックで現れたら怪しいどころか不気味でしかねー。即攻撃されても文句は言えねーよ。


「どうするんです? 幽霊のわたしが言うのも変ですが、あり得ない組合せですよ」


 村人、幽霊、幼女メイド、これの関係性を見抜けたヤツは頭狂ったヤツに違いないわ。


「ドレミ。金髪アフロのねーちゃんに姿を変えられるか?」


 あのインパクトある姿はここでも通じるはずだ。たぶん……。


「はい。問題ありません──」


 と、金髪アフロのねーちゃんにトランスフォームした。


「そう言えば、大人バージョンだったのになんで幼女バージョンなんだ?」


 バイブラストでスライムを吸収? して容量増えたんじゃなかったっけ?


「小回りが利かないので止めました。ベー様の視界を塞ぐことにもなりますから」


「ベー様ならあるものでも見えなくすると思いますけど?」


 そんな能力ねーよ。スルーしてるだけだ。


「轟牙装着!」


 を着て結界でこの大陸の風貌にして革鎧に変える。あとは、大剣を背負わせればイイだろう。


「よくそんな大剣持ってましたね?」


「狂戦士を思い出して造ってみた」


 この大剣なら神の手でも倒せるぜ!


「……ベー様の心が読めるようになったのに、ベー様がなにを言ってるかまったく理解できません……」


 理解し合えって悲しいわ~。

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