第14話 フュワール・レワロ

 ヴィベルファクフィニー物語、ここに完!


 に、なってもなんら後悔のねーこの状況。イイ人生でした。さようなら~。


 ………………。


 …………。


 ……。


 って終わらせてくれないのが我が人生。この運命が憎い……。


「ベー。また溺れたの」


「バカね」


 ルンタの尻尾で水の中から取り上げられた。


 リビング島に放り投げられ、飲み込んでしまった水を結界で吐き出した。おぇ~!


 臭い対策しかしておらず、茫然自失で失敗を活かせなかった。ここは落ち着いてクールになろうぜ、オレ。


 ってか、そもそもオレはなにしに来たんだっけ?


 いやまあ、ほとんど自業自得なんだが、この下水道を調べるために来ようとはしていた。


 牙ネズミとタコの調査。あと、不安要素(骸骨嬢とは斜め上をいったがよ)の確認。できたら排除と考えていた。


 今現在の情報では、生態ピラミッドができており、バランスのよい生態系となっている。


 不確定要素は、骸骨嬢とオレンジ色のタコと判明。見た目や存在はアレだが、領都の住人に害を与える存在ではない。


 ……いや、オレには害しか与えない存在だけどよ……。


 落ち着いて、クールに考えたら、このままがイイんじゃね? って結論になる。


 ゼルフィング商会としては下水道の掃除や補修をやってればイイ。骸骨嬢がいる場所は見なかったことにして、極力避ける。うん。イイね。それでいこう。


「ってことで帰るか」


 よっこらしょと立ち上がり、空飛ぶ結界を生み出した。


「はぁ~。帰ったら風呂に入らなくちゃな」


 結界で水分や汚れを取ったとは言え、気分的に汚れたてる感じだ。身より心をさっぱりさせてーよ。


「ルンタどの、ヴィどのをこちらに」


「わかった~」


 スルッとルンタの尻尾がオレの体に巻かれ、元の席に戻されてしまった。さりげなく退散、失敗でござる……。


「……なんだよ? もうオレいらないじゃん。お前らでやれよ……」


 同類同士、一般人を巻き込むなや。


「いや、ヴィどのの知恵をお貸しくだされ。拙者には無理でごさる」


「オレは無理。以上!」


 バッサリと切る。オレにお前らをどうこうするなんてできねーわ! 邪神にでも頼れ!


「そこをなんとか頼むでごさるよ~。ヴィどの以外頼れる者がいないでごさるよ~」


 なぜか足にすがりついて来る汚物嬢。鬱陶しいわ!


「お前らでなんとかすればイイだろうが! なんとでもできる力があんだからよ!」


 つーか、なにをオレに頼んでんだよ? いや、これっぽっちも知りたくねーけどよ!


「それができないからヴィどのを頼っているでごさるよ~」


「お前にできねーもん、オレにできるわけねーだろうが!」


 オレの三つの能力じゃテメーらをまっとうになんてできねーわ。クソ! こんなことになるなら聖魔法を願うんだったぜ。


「いや、ヴィどのしかできないでござるよ。キャロの居場所を守って欲しいでござる~」 


 いつの間にキャロなんて呼ぶまで親しくなってんだよ? ってか、話がまったく見えねーよ! レイコさん、要約して!


「えーと、ですね。キャロリーヌさんは、ここから離れられないので、公爵様にお願いしてここにいられるようにしてください、とのことです」


「さすがヴィどのに憑く幽霊どのでごさる!」


 アハハ。レイコさん、エリナの中で変人扱いされてるよ。


「いや、大元のベー様が貶められてますから」


 ナヌー! オレはまともだわ! 変人じゃねーわ!


「ヴィどの、公爵様に頼んでくだされ~」


「別にお前の配下にしたらイイじゃねーかよ! 同類なんだからよ」


「同類ではないでござる! 同志でござる! やっと現れた対等な立場になってくれる友達でごさる!」


 知らねーよ。つーか、お前に友達と付き合えるコミュニケーション能力なんてねーだろうが!


「無茶言うな! どう考えても公爵どのが許すわけねーだろう!」


 自分の住むところの下にリッチ級の骸骨や災害級のタコがいる。それで「おう、イイよ」なんて言ったら友達付き合い止めるわ!


「そこをなんとかしてもらいたいでござるよ!」


 なんともなんねーよ。オレをなんだと思ってんだよ。S級村人でも限界があるわ。


 と、そこで終わるならオレの人生どんなに楽か。そんなときに限って変な案が出て来るから嫌になるぜ……。


「その顔は名案が出たでござるな!」


「……名案ってほど名案じゃねーよ。どっちかと言えば邪道な案だわ……」


 前々から思ってたが、オレは裏で暗躍させたら最悪な野郎だよな。


「それでこそ最凶の村人でござる!」


 なんだろう。最強が最凶に聞こえたのは気のせいか?


  ◆◆◆


「そもそも、なんでここから動けねーんだよ?」


 まずはそこから始めねーど、オレの案など絵に描いた餅。失敗するに決まっている。


「キャロの話、まったく聞いてなかったでござるな」


「はい。まったく聞いていませんでした」


 なにが楽しくて骸骨嬢の話なんて聞かなくちゃならんのだ。いや、聞いたのオレだけどよ。


「つーか、なんでお前が会話の内容を知ってんだよ?」


 その口振りからしてまた覗いていやがったな。


「え、えーと、あれでござる。なんと言うか、その、すまんでござる! ドレミからの報告が気になっての覗いてました!」


「──マスター、申し訳ありません。わたしの独断です」


 メイド型(小)のドレミが頭を下げた。


「こいつが、それを受け入れた時点でアウトなんだよ」


 イイ関係を続けたいのなら親しき仲にも礼儀あり、だ。


「オレがお前に協力してるのは、あくまでもバンベルとの友義からだ。お前のためじゃねー」



 いくら友達の頼みとは言え、オレの害となるならバッサリと切る覚悟はある。恨まれようが敵に回ろうが、今生は自分のために決めたのだ。


「……すまんでござる……」


 二度とするなとは言わない。したいのならやればイイ。それを決めるのはエリナ。オレが口出すことじゃねー。


「そんで、どう言うことなんだ?」


「……キャロは、この土地に縛られているござる」


 ハイ、説明プリーズだよレイコさん。


 汚物に説明を求めたオレが悪い。わかる人(幽霊)からわかるように説明されたほうが話がスムーズにいくってものだ。


「理由はわかりませんが、キャロリーヌさんは、ここにあった石碑らしきものに触れたら、この場に固定されたようです」


 うん。まったくわかりません。


「これは、わたしの憶測、いえ、妄想に近いものですが、石碑とは要石で、ここの精神制御体に組み込まれたかもしれません」


 益々もってチンプンカンプンですがな。


「シュヴエルさんを覚えてますか? 古竜にいた竜人を」


 名前は忘れたが、姿と存在は記憶してますと頷く。


「わたしは、キャロリーヌさんは、シュヴエルさんと同じ……いえ、それに近い存在になったのだと思います。天井を見てください。あの模様、古竜で見た模様と似てませんか?」


 言われ見上げれば、まあ、似てもいなくはない。だが、それだけでは理由にはなるまい。


「もちろん、模様だけではありません。ここは、魔力、霊力に満ちてますし、造りが数百年前のものにしては技術が高過ぎます。石になんらかの塗料が塗られています」


 確かに言われてみれば真新しい造りだな。欠けたところもない。このリビング島も……って、これか、石碑だが要石とかは?


「でしょうね。絨毯やテーブルでわたしも気がつくのが遅れましたが」


 やけにツルツルしてるなとはオレも思ってた。骸骨嬢の衝撃ですぐに頭の中から吹き飛んだけどよ。


「引き離す、ってことは無理なのかい?」


「たぶん、無理でしょう。キャロリーヌさんは精神制御体の一部になってますから」


「……不思議現象は厄介だな……」


 自分に関係なければスルーするところだが、自分に関係あるとなるとスルーもできなくなる。が、そこをスルーするのがオレ、ヴィベルファクフィニーである。


 ハイ、サラリとスルーさせていただきます。


「まさかとは思うが、この下に竜がいるとかはねーよな?」


「竜はいません」


 なにか含みのある言い方だな。


「じゃあ、なにがいるんだい?」


「いる、と言うよりは、あると言うべきですね」


 厄介度、スーパーマックス上昇中だな……。


「わたしの予想では、フュワール・レワロがあります。前に一度見たものと酷似してますから」


 フュワールは知らんが、レワロは聞いたことがある。何千年も前に滅びた国の言葉で、確か、都市だか街と訳されるはずだ。


「フュワール・レワロ。今の言葉に直せば地下都市。ですが、わたしは、箱庭と呼んでます」


「つまり、移住型ダンジョンってわけか」


 それはエリナのところでお腹いっぱいなんだがな……。


「ダンジョンと言ってもゲームのようにモンスターやレベルアップするところではなく、シェルターを兼ねた地下都市のようでござる」


 まあ、モンスターを倒したら経験値と金が得られる世界なんてゲームの中でのこと。リアルにあったら世界の常識やなんやらの均衡が崩れるわ。


「ダンジョンには誰か住んでんのか?」


 骸骨嬢に尋ねる。


「人は住んでませんが、守護兵がたくさんいますね」


 いないと言うことは、シェルターとしての役目を終えたか、都市としての機能を失ったか、平和的な理由だとイイんだがな……。


「守護兵ってのは、なんだい? 動く鎧とかか?」


 骸骨兵だったらまんまダンジョンだな。


「いえ、黒羽妖精です」


 うん? なんだって?


「黒羽妖精ですよ」


 ハイ、こんなとき頼りのレイコさん。出番だよ!


「……そんな嫌な信頼、迷惑極まりないですが、たぶん、羽妖精の亜種か古種かもしれません。ちなみにプリッシュ様の正式種族名は白羽妖精です」


 黒とか白とか、まんまな種族名だな。つーか、誰が正式って決めたんだよ? そっちのほうが気になるわ!


「こうなると羽妖精のお伽噺も真実味が出て来るな」


 だからなんだって話だが、バイブラストがどうして呪われたようなできごとが続くかの原因はわかった。


「もしかして、そのタコもダンジョンにいたヤツか?」


「パリアンヌは、ここに卵としていました。わたしが温めて孵化させたんですよ」


 自慢気に言う骸骨嬢。それは、どうやってだよ! って突っ込み待ちか? それなら全力でスルーさせていただきますネ。


「その他のも卵からか?」


「はい。やることがないので全部温めました。もうわたしの子も同然です」


 あ、うん、そっ。そんな親子のあり方もイイんじゃないかな。オレは賛同はしないけど。


「にしては、パリアンヌだけ大きいな。なに食うの?」


 デカい牙ネズミでもいんのか?


「パリアンヌはなんでも食べますが、特に好んで食べるのはワカメですね」


 はん? なんだって? なんか森と湖なバイブラストからかけ離れた単語に聞こえたんだが。


「ワカメです。ダンジョンの海で採れたものを黒羽妖精が乾燥させて持って来てくれるんですよ~」


 ごめん。その光景がまったく想像できねー。ってか、守護はどうした!?


「しかし、ダンジョンに海とはね。シェルターやダンジョンってより方舟だな」


 これはオレの勝手な想像だが、海があるなら陸もあるってことで、自然を模様して造った感がある。


 つまり、ダンジョン内で生命のサイクルがあるってことだ。そんな大がかりなことをするには必ず理由があるはず。


 シェルター的な地下都市。それだけでも過去に種が滅びそうなときがあったってことでもある。


「……天地崩壊、ですね……」


 宗教典によくある物語で、世界は何度か滅んで、神により復活したかんとか、な。


「本当にあったんだな」


「わたしもお伽噺かと思ってましたが、キャロリーヌさんの話を聞く限り、本当にあったと見るべきでしょうね」


 歴史家じゃないんで興奮はしないが、その手の話を集めてみるのもおもしろいかもな。


「話を戻すが、こいつはお前のようにダンジョンマスターってことになるのか?」


 いまいちダンジョンマスターがなんなのか理解してねーがよ。


「ある意味ではそうでござるな。ただ、拙者と違って、核がこの要石とやらで、ここから動けないでござる」


「……つまり、お前は規格外ってことな……」


 あらゆる意味においてよ。


「まあ、こいつがなんであるかはだいたい理解できた」


 納得はできてねーがな。


「こいつがここにいられるようにするのは、たぶん、大丈夫な気がする」


「なぜでござるか?」


「これもたぶんだが、公爵どのは、領都の下になにがあるかは知っているはずだ」


 これだけのものをまったく知らねーってことのほうが不自然で、なんらかの情報は受け継がれているからこそ、ここの秘密が守られていると考えるほうが自然だ。


 前々から疑問に思ってたのだ。大した特産や生産力が他の公爵領より乏しいのに、上位公爵の地位にいる。


 親しき仲にも礼儀ありと、そのことはあえて考えなかったが、ここを知った以上、正解な情報は得ておくべきたろう。


「ただ、公爵どのもこいつがいることは知らないだろう。知ってたら呑気に飛空船に乗っていられねーからな」


 知っててあれだけのことしてたら友達付き合い止めるわ。どんだけ厚顔無恥なんだって話だ。


「オレがダンジョンに入ることは可能かい?」


 興味はあるが、ダメならダメで諦めるが。つーか、ダメであって欲しい。断る理由になるからよ。


 そんな希望を見せるほどオレの運命は優しくないようで、なんか骸骨嬢が笑ったように見えた。


「はい。喜んで!」


 居酒屋か! って突っ込みを入れる気力もねーわ。はぁ~。

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