第66話 作る

「アバールの店にいって来る!」


 驚愕から復活すると、じいさまがそう叫んで離れを飛び出していった。


 なにをしにいったかは知らんし、話は終わったので好きにしろだ。どうせここに帰って来るんだろうからな。


「そんで、そっちの二人はなんなんだい?」


 顔合わせ、って感じでもあるまい。じいさんは村相手の商売で、オレとはオマケ程度。近隣情報を買っている関係なのだからな。


 だったらそれも引き継ぐのでは? と思われるかも知れんが、じいさんの伝と経験があるから買う価値があるんであって、経験の浅い者では大した情報は得られない。


 じいさん以外にも情報をもたらしてくれる隊商とも繋ぎがある。じいさんからの情報がなくなってもなんら支障はねーさ。


「孫だ」


 まあ、どちらも一八、九。あんちゃんの弟……の名前はイイか。ともかく、じいさんの年齢を考えたらいても不思議ではねーな。


「カイトです。お見知りおきを」


 と、髪の短いほうの孫が挨拶する。


「ハイカと申します。今後ともよろしくお願いします」


 ガタイのイイほうが丁寧に挨拶する。


 たぶん、前者は行商人の弟子として育ち、後者は町商人の弟子として育った感じだろう。テキトーだけど。


「知ってるだろうが、挨拶されたら返しておく。オレはヴィベルファクフィニー・ゼルフィングだ。まあ、こんな若造なんで雑に扱ってくれて構わねーよ」


 皆、忘れているかも知れないけど、オレ、一六歳。生意気盛りの若造さ。


「お前を知っているヤツで見た目なんか気にしねーよ」


 それはそれで悲しいものがあるよね。まあ、見た目通りに生きたことねーけどさ。


 鬼子化け物と見られないように努力はしたが、子どもらしいことなんてしたこともねー。つーか、子どもらしいことしたほうが不気味に見えるわ。


「そうだな。本当にありがたいことだ」


 こんな見た目なのに、ちゃんと相手してくれるんだから感謝感激雨霰だぜ。


 人間、見た目が大事。見た目で判断するものに、中身を見て付き合ってくれるヤツは本当に貴重な存在である。


「だから、見た目に捕らわれれないヤツとは是非とも仲良くしたいぜ」


 それがどれだけありがたいかを知っているからこそ、こちらが損しようともその縁は絶対に守るべき繋がりなのだ。


「そう言うことを恥ずかしげもなく口にするからお前を見た目通りには受け入れられんのだ。行動力も並みの商人よりありやがるからな」


「のんびりゆったりできる世じゃないからな」


 オトンが死に、餓死寸前まで追い込まれたら嫌でも人生観は変わるものだ。この性格は今生で得たものだ。


「そんで、オレにどうして欲しいんだ?」


 二人を見て問うた。


「はい。食料の取引をお願いしたいのです」


 と言ったのはガタイがイイほうの孫だ。


「食料? 今の時期にか?」


 と言うか、食料を買いたいってことか? 


「はい。この時期に、今、買いたいのです」


 じいさんに説明を求めようとして、止めた。これは、ガタイのイイ孫の商売。本人を差し置いてじいさんに訊くのは侮辱ってもんだろうよ。


「町は領主様が変わって少しずつよくなってはいますが、食料が不足──とまではいってませんが、充分ではありません。冬越しの薪も不足しております」


 あ、ああ、そうだった。税を上げる領主だから会長さんに排除を願ったんだっけ。


「ドレミ。食料問題は深刻か?」


 と、ヴィ・ベルくんに訊いてくださいな。


「深刻ではありませんが、苦労はしているようです。周辺の領地に借金をしていたようなので」


 愛する人を救うためとは言え、ほんと、ろくなことしてなかったんだな、あの老騎士さんは……。


「町に回せる食料なんてあったか?」


 もう保存庫のことすら関わってないからな~。


 だからと言って無限鞄の中の食料では町一つは賄い切れない。村一つが精々だ。


「マイロード。魚はどうでしょうか?」


 と、ドレミさんからの提案。


「魚か。内陸のヤツが食うかな?」


 馴染みがないものは口にしないから難しいんじゃないか。


「食うヤツは結構いるぞ。毎回ボブラ村に来たら漁師から買って、町に運んでたからな」


 じいさん、そんなことしてたんだ。知らんかったわ。


「それならあんちゃん、アバールと取引しろ。海のことは任せたからよ」


 町一つともなれば海集落よりあんちゃんのほうがイイだろう。あんちゃんのところなら大量に集められるだろうしよ。


「アバールさんですか。わたしどもと取引してくれるでしょうか? 行商人相手に」


「大丈夫だろ。もし、グズるようならゼルフィング商会がいただくと言っておけ」


 婦人には恨まれそうだが、金の卵を捨てるよりはマシだ。ましてや仕入れから流通販売まで独占できるんだからよ。


「となると、専用の馬車が必要になるんだが、行商とは分けたほうがイイか。じいさん、運び屋をやる孫はいるかい?」


 子が一人だけってわけじゃねーだろうし、孫がこの二人だけってこともねーだろう。ひもじい育ちには見えねーしよ。


「ハイカに任せる。お前が仕切れ」


「と言うか、商会を立ち上げろ。町一つを賄うんだからよ」


 商会は中小企業な感じか? 町商人は商店な感じ、かな? まあ、その辺は曖昧だな。


「わ、わかりました。よい商売をさせてください」


「ああ。イイ商売をしようぜ」


 まあ、いつものように婦人にマルッとサクッとお任せなんですけどね!


  ◆◆◆ 


 と言うことで、まずはじいさんの住み処を作りますか。


 あ、二人の孫もあんちゃんのところにいきました。まずは魚を卸してくれるように頼まないとならないし、専用の荷車、そして、馬が冬でも動けるようなものを作らんといかんからな。


「ばあさん、家になんか要望はあるかい?」


 形とか広さとか。あ、オシャレ的なことは無理ですよ。


「旦那と二人、ほどよい広さがあれば充分だよ」


 つまり、オレにお任せってことだな。よっしゃ!


「あ、ミタさん。布団とか食器とかばあさんから訊いて用意してやってくれ。最低限のしか持って来てねーだろう」


 と、ばあさんを見る。


「ああ。手に持てるくらいしかないよ」


 この時代、町内の引っ越しでなければ家具一式持って、なんてことはしねー。ましてや町の外なら最低限のものしか持っていけねーだろうよ。


「渡した収納鞄分だけか」


「いや、鞄は渡した。もうわしには必要ないからな」


 売れば一財産になるのに、引退すると欲もなくなるのかね? まあ、慎ましやかに生きてきたじいさんたちならそんなもんなんだろう。


「まあ、新しい門出には新しいもので固めたらイイさ」


 その辺はミタさんに任せます。ばあさんと決めてください。


「わたしも~」


 と、大人しくしていた頭の上のメルヘンさんがミタさんの頭へと飛んでいった。


「……今さらだが、お前の人生、急転直下──いや、急転直上過ぎんだろう。肌の焼けたエルフやら妖精やら、あと、そこの……しゃべる梟とかよ……」


 それ以前に外の変化は気にならんかったのか? 


「まあ、出会いがそうさせたんだよ」


 そうとしか言いようがねー。


「ふっ。そうだな。出会いはおもしろいな」


 それで理解したじいさん。え? それで理解できたの? オレ、テキトーに言ったんですけど!?


 ……ま、まあ、オレはどうでもイイので流しておくか……。


「オレは作業に入るからゆっくりしててくれ。暇ならブルー島でも散策してこい。道を下れば店があるからよ」


 なんの店かは知らんけど、暇潰しにはなんだろう。


「あ、岬に姉御の店があるから挨拶して来てもイイかもな。同じ島に住むんだからよ」


「ああ、だからネラフィラさんがいなかったのか。あのマスター、なんも言わんからよ」


 あのおっちゃんにも困ったもんだ。まあ、だからってなにかする気にはなれんがよ。


「ネラフィラさんには……世話になったし、挨拶しとくか」


 若い頃から、とは言わないじいさん。それが長生きできるコツである。


 じいさんが出ていき、オレは作業部屋……は、プリトラスの待機部屋になりましたし、庭でやるか。


 前みたいに鍛冶の炉やら道具はないが、家と荷車を作るていどの道具と材料は揃っている。問題はねー。


「まずはじいさんたちの家を作るか」


 サリネには負けるがオレも家造りにはちょいと自信がある。


 三つの願いは元々家を造れることを念頭に願ったもので、人生観の大半(いや、五年生くらいですけどね!)を費やして来た。


 あ、殺戮技はその場の勢いとノリでガンガンしました。


「1Kのシンプルな丸太小屋ふうでイイな」


 以前なら家は造るものだったが、プリッつあんの能力が使えるようになってから作るに変わった。


 造ると作る。後、創るもあるが、オレの中ではデカいものや複雑なものは造る。机の上でできるものは作る。魔法や結界では創るだな。


 ただ、錬金の指輪や結界、土魔法を併用した場合、簡単なら作る。難しいなら造る。新しいものは創るになる。


 まあ、自分の中の大まかな決まり。そのときの気分で変わるかも知れないのでご容赦を、だ。


 公爵どののところで切った大木を一本取り出して加工する。


 結界であらよっと八等分に切り、一つを結界に包んで丸太を何百本と作り出した。


 それらをナイフと桐子を使って組み立てる。


 窓もドアもない家が完成。窓はどこに。ドアはどの面にしようかと考え、決めたらドアから切り開いていく。


 ドア枠、窓枠を作ったら一旦止め、ベッドやテーブルなどの小物(?)を作っていく。


 プリッつあんの能力を使える前は図りながら作っていたが、伸縮能力の前に正確さは不要。後で変更すればイイと、感覚で作り上げた。


「ドアや窓はデカくしてからでイイな」


 細かいところは実物サイズでやったほうがやりやすいのだ。


「次は保冷荷車だな」


 幌ではなく箱型にして後部を観音開きの扉にして、屋根にも積めるようにするか。


 結界術を使うので車体は軽くするので箱の厚さは二ミリでイイだろう。


 土魔法で鉄の箱──あ、コンテナにして、レールかなんかで移せるようにするのもおもしろいな。


 なんて考えながら試作を作っていく。


「……う~ん。こうなるとフォークリフトが欲しくなるな……」


 他にも専用の建物や機具なんかも必要か。なんか大袈裟になってくんな。


 だが、おもしろそうなのでレッツゴーだ。バッテリーやエンジンのフォークリフトは使えないが、魔道具ならいけるはずだ。こんな田舎にも魔道具は入ってきてるからな。


「こうなると一回シャンリアルの町にいかんとならんか」


 フォークリフトを使うなら城も使えるようにしたい。荷車ならぬコンテナ車を量産して流通を高めたいしな。


「フォークリフトはそのうちとして、建物を建てておくか」


 と決めて家を完成させるべく集中した。


  ◆◆◆


 じいさんたちの家、完成です。


「……つーか、山頂近くに家は不便だろう……」


 離れは山頂で平らにしたからイイが、そこから外れたら傾斜がある。


 まあ、平衡にするために土台は平衡にしたが、そうなると入り口が高くなる。


 階段を設置すれば解決するが、老人にはキツいだろう。なので土魔法で盛り上げたら道までの傾斜が急になってしまった。


「こう言うところで素人が出るよな」


 やり直しだ! と、土台の位置出しまで巻き戻す。


 ああでもないこうでもないと試行錯誤して、なんとか満足できとなった。


「……ってか、斜面に造るの間違いじゃね……?」


 これなら山頂部をもっと平らにしたほうがよかったかも知れん。


 ましてや宿屋となると空中に張り出すか、階段状にするしかない。バリアフリーとはいかないまでも、もうちょっと宿泊客に優しくせんと批判が出そうだな……。


「いっそのこと、下に造るか?」


 別に、ここに造る必要はねーんだし、宿屋なら人が多いところのほうがなにかと便利だろう。下でも景色はイイんだからよ。


「となると転移結界門も下に移動させる必要があるか」


 ブルー島への出入りがメンドクセーことになるが……転移バッチを使えばそれほどでもねーか。箱庭内なら転移は働くんだしな。


「ってか、離れと館を繋ぐドアを設置すればイイだけか」


 物置からの出入り口を館と繋げば支障はねーだろう。


 家を小さくさせて下へと向かう。もちろん、転移結界門も一緒に移動させます。


「ん? ブルー通り? なんじゃこりゃ?」


 下まで来ると、なんか看板が立ててあり、そんなことが書かれていた。


「名前がないと不便だとつけられたようです」


 と、虎サイズの猫型ドレミが教えてくれた。


「……今さらなんだが、小さかったり大きかったりするのはなんでだ……?」


 本当に今さらで申し訳ないのだが、クリエイト・レワロでスライムを吸収(?)したドレミは巨大化(?)した。


 幼女メイドはダイナマイボディを持つメイドに。猫は虎ほどに。バレーボールくらいのスライムは玉転がしくらいに。


 だが、たまに吸収(?)する前のサイズでいるときがあるのだ。


「つーか、いろはどこよ?」


 いろはの場合はたまに姿を見るが、ほとんど消えているのだ。


「ここに」


 忽然と現れる完全武装した人型(美女型か?)のいろはさん。どーゆーこと!?


「光学迷彩を展開してお側に控えております」


 あ、うん、そっ。と、サラッと流します。


「わたしは、状況に合わせて対応しております」


 よくわからん理由だが、まあ、長い説明は求めてないので、それで納得しておく。邪魔にはなってねーしな。


 ……たまに意識から放り出してるときがあるけど、それはご愛嬌ってことで許してメンゴ……。


「さて。宿屋をやるならどこがイイかね?」


 ブルー通り(これと言って反論はないのでそれで進めます)にはバンガローふうの店(?)が何軒か並んでいるが、じいさんたちの家と宿屋を置くには場違いな感じがする。


「まあ、少し離れて置くか」


 移動させるのは苦でもないし、ばあさんの意見を聞いてからでも遅くはあるまい。


 土台を創り、家をデカくして設置する。


 固定してるのを確かめ、中へと入ってベッドやテーブルを出していく。


 風呂と台所は結界で整え、トイレは外に。ってか、公衆トイレとか作ったほうがイイかな? まあ、その辺はミタさんに任せよう。


「こんなもんだな」


 暮らすには充分だろう。後は転移結界門か。メンドクセーし、そこら辺でイイや。


 とりあえず横に設置する──バン! と扉が開いた。


「やっと開いた!」


 と、プリッつあんが飛び込んで来た。なによ!?


「もー! なんなのよ!!」


 君がなんなのよ、だよ。


 プンプン怒る転移結界門からミタさんやじいさん、ばあさんと続き、孫二人、あんちゃん、多分、従業員の男が二人と現れる。


 そして最後に婦人とゼルフィング商会の者が現れた。


「団体さんでどうしたい?」


「どうしたじゃねー! 扉は開かねーし、開いたと思ったら変な場所に出るし、なんなんだよ!?」


 メルヘンに続いてあんちゃんも怒り出す。カルシウムを補給したほうがイイんじゃない?


「もー! なんで開かなかったのよ! びっくりしたじゃないのよ!」


 ドロップキックをかまして来るメルヘンをサッと避ける。殺す気か!!


 スカイフィッシュのように舞い、チュバカブラのように襲って来るメルヘンと格闘を経て、なんやかんやと姉御の店へと移動した。


 ちなみにじいさんとばあさんは家を整えるために分かれました。


「……ギルドにいるより忙しいのだけれど……」


 なにか疲れたような姉御が言ってるが、商売は商売。ガンバっておくんなまし。あ、オレ、オレンジフ◯ーチェでお願いします!


「……ここ、フルー◯ェ専門店になりそうなんだけど……」


 それはそれでイイんじゃね? 姉御、作るの上手いんだし。オレは賛成だよ。


 でも、その前にコーヒーをください。家造りに夢中で飲むの忘れてたわ。


「ベー様、どうぞ」


 なぜか厨房に入っていたミタさんがコーヒーを出してくれた。この店、どんなシステムでやってんの?


 まあ、姉御が許しているならオレが言うことではねーと流し、コーヒーを一口飲んで、怒るあんちゃんに目を向けた。


「で、なによ?」


「なによ、じゃねー。第二のアブリクトを創ったばっかりだって言うのに、今度はなにを創ろうとしてんだよ? おれを殺す気か!」


「ベー。あまり拡大しないでください。アバール商会もうちも人に限りがあるんですから」


 なにやら二人からの言われなき抗議。なぜそうなる?


「二人が怒る理由がいまいちわからんが、オレはそこの二人に魚を売ってくれと言っただけだし、ゼルフィング商会には関わりないだろう。そもそもこれは、シャンリアル伯爵領の改革だ」


 と言うか、シャンリアル伯爵領を一大食料生産地にする。

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