第93話 お洒落マスター
とは言え、いつ出会うかはわからねーのがオレの出会い運。一分後か一時間後か、それとも今日か明日か、正解な時間などわかりようもないのだから慌ててもしかたがねー。成るように成るでやるしかねーのだ。
「そう言や、服って受注制なのか?」
服に興味なかったから気にもしなかったが、この時代に既製品とかねーはず。大体がオーダーメイドか中古だ。まあ、貴族相手の商売だから中古はねーと思うけどよ。
「ううん。いろんなサイズが用意されてるわよ。試着とかできるようになってるし」
と教えてくださったのはメルヘンさん。なんで知ってんのよ?
「レイライたちとお店を回ったから」
誰よ、レイライって? ほんと、君はオレの知らないところで友達つくりまくるよね。どんな極意使ってんのよ?
「ラフな服も売ってんのか?」
「んー。わたしたちからしたら完全にドレスだけど、貴族にしたらラフなドレスは売ってたわよ」
誰のなにから目線かは知らんが、一般ピープルの服はないってことね。
「でも、小物は充実してたかな? ブローチとか髪留めとか。可愛い手袋や帽子があったわ」
ほんと、君は自由なメルヘンだよ……。
「結構豊富なのな。ってか、お洒落を披露する場なんてあんのか? 貴族のお嬢さまだぞ」
貴族の習わしや決まり、礼儀等は勉強したが、女子のことはまったく知らねーのだ。関係ねーと思って情報収集しなかったのだ。
……男にとって女の社会は奇々怪々。いや、アンタッチャブル。軽々しく触れてはいけないのだ……。
「それが結構あるらしいわよ。いろんな社交クラブってのがあって、そこで見せ合うんですって」
……それはまた、ドロドロなもんが満ちてそうだな……。
「帝都ではベー様がお作りになった簪が人気になっていると聞いておりますよ」
帝都で? と疑問に思ったが、サプルが広めたのだろう。お洒落グッズを持たせてるからな。
「意外と帝国って女に優しいのな」
前世の昔なら女は道具とかなのに。さすがファンタジーな世界だぜ。
「恋愛は自由にできないみたいだけどね」
メルヘンに恋愛とかわかんのか? 羽妖精に男がいるとか聞いたことねーが。
まあ、オレも恋愛がわかるかと言われたらわかんねーと答えざるを得ねーが、この時代で恋愛するのは大変だろう。ましてや身分制がある世界(国)では苦難でしかねーな。
昼食が終わり、残ったものは無限鞄へと仕舞い、飲み物はミタさんの配下にお任せ。では、買い物を再開しますかね。
「どこから回る?」
「そうだな。装飾品からいくか。値段とかデザインを知りたいし」
装飾品にも流行り廃りがあり、値段もピンキリだが、帝国産というだけで他の国では人気がある。ましてや他の大陸に持っていくには最良の貢ぎ物となるだろうよ。
「ベーってそう言うの好きよね。自分がつけるわけじゃないのに」
「オレは作るのが好きなの」
職人になるほど情熱はねーが、作ることには心踊るのだ。
「じゃあ、見るだけなの?」
「いや、買う。装飾品はあって困ることはねーし、転売できるからな」
将を射んと欲すればまず馬を射よ。権力者に取り入ろうとしたら奥さまから射止めるのが早い。その弾(装飾品)はいくらあっても困らねーのだよ。
「プリッつあん、気に入ったものを選んでくれ」
悔しいが、お洒落マスターなメルヘンのセンスに間違いはねー。きっとイイものを選び出すことだろうよ。
「うん、任せなさい! いいのを選んであげるわ!」
お願いしやっす!
◆◆◆
「意外と豊富なのな」
ショーケースに並べられた装飾具の数々。一流の職人が数多くいるってことであり、需要があるってことだ。
「綺麗よね」
「そうだな」
メルヘンはともかく赤毛のねーちゃんまで見惚れるとは、光り物が魔性なのか赤毛のねーちゃんも女ってことなのか、どちらにしろ罪作りな存在である。
「ねーちゃん。気に入ったのがあれば好きなだけ買ってイイぞ」
元はイイんだから少しは着飾れ。これから貴族や金持ちを相手にしなくちゃならんのだからな。もしかしたら玉の輿があったりするかも知れんぞ。
「いや、買っていいって、桁が凄いんだけど」
「そうだな。この指輪一つで四人家族が三〇年は遊んで暮らせるな」
前世の感覚で言えばたぶん三千万円くらい? ただ、こちらの一般ピープルの物価で言えば四人家族が三十年は遊んで暮らせるだけの値打ちがあったりする。
ちなみにこの店は、帝国でも名高い最高級装飾品店で、伯爵でも入るには勇気がいるらしい。プリッつあんの話では。
……あのメルヘンは度胸があるのかバカなのかわからんな……。
「あんたの金銭感覚、絶対死んでんでるよね」
「必要に応じて切り換えているだけだ」
オレは切り換えの申し子。スラムから貴族街でも自由自在に生きられる男よ。
「ベー。どれを買ってもいいの?」
「ああ。好きなのを欲しいだけ買ってイイぞ」
うん千万もする装飾品を買える者は極一部。毎日のように客が訪れるとは思えねー。それはつまり、最高級なだけに回転率は超悪いってことだ。
こう言う装飾品には流行り廃りがある。どんなに優れていようと型遅れや廃れたものを買う女はいない。それは、村人だろうと貴族だろうと変わりねー。
まあ、型遅れは作り直されるだろうし、また流行りが来るだろうが、売れなきゃ宝石などタダの石。余剰在庫だ。場所は取らないとは言え、店も職人も食ってはいけねー。なに事も売れてこそ、だ。
「と言うことなんだが、買ってもよいだろうか?」
帝国でも名高い装飾品店。一見さんお断りの場合もあるので一応店員(店長か?)さんに尋ねてみた。
「はい。お好きなものをお選びください」
額に汗を浮かべてはいるが、顔はスマイル0円。どうやらあまり場慣れした方ではないようだ。あ、店員(店長?)は大きなおねーさんです。
「では、遠慮なく」
無限鞄から自作の装飾品箱を三つ、取り出した。
「ねーちゃんにこれを一つやるから好きなの入れろ」
一つを赤毛のねーちゃんに。一つはプリッつあんに。残りはオレ用に。好きなだけいれんしゃい。
買うのは二人に任せ、オレは他のショーケースを眺めにいく。
「あ、ミタさんも欲しいのがあったら買ってイイぞ」
日頃の苦労を労る意味を込めて好きなのを好きなだけ買いなさい。
「いえ、あたしはつけるときがありませんから」
「なら、財産として持っておけ。ミタさんは人生長いんだからよ」
オレらの子や孫がメイドを雇うかはわからん。ミタさんもメイドを辞めているかもしれん。そのとき頼りになるのは金だ。金さえあればヤオヨロズ国で店を開く資金にもなる。持っていて損はねーよ。
「わ、わかりました。では、遠慮なくいただきます」
おう。遠慮すんな。
選ぶのを確認してから他のショーケースに移り、中をを覗いた。ここは、鍵? なんで鍵が売ってんだ? ちょっと店員さん。なんでよ?
「これはお守りです。子どもは家の宝で、あなたを大切に守ってますと」
なんでも帝国南部から始まった風習で、今では帝国中に広まってるとか。ただ、広まるにつれ意味が違って来て、出産祝いの品として贈られることが多いんだってさ。
「ほ~ん。ところ変わればいろんな風習があんだな」
イケてる風習にはのかっかるのが元日本人の性。二〇個ばかり買い上げた。
「知り合いに子どもが生まれたら贈ってやろうっと」
それまでは無限鞄の肥やしだけどよ。
「ベー。買ったよ~」
おや、早いこと。もっと時間がかかると思ったのに。
「好きなだけ買っていいんだから時間なんてかかるわけないじゃない」
そりゃそーだ。
「じゃあ、次にいくか」
今さらだが、支払はカード──黒のプレミトで済ませてます。
その中には、レヴィウブで稼いだ金や公爵どのが入金した金が三〇億ラグが入っており、まだ二億も使ってません。まったく、中身を気にせず買い物できるって幸せだよね。
ルンルン気分で店の外に出ると、サプルくらいの女の子が二人、仲良く手を繋ぎながら駆けていった。
「双子かな?」
髪の色は金と青と違っていたが、顔や背丈はそっくりだった。
「ってか、双子って初めて見たわ」
まあ、その前に六つ子を見ているから驚きも感動もねーけどよ。
「ベー様。皇族関係者のようです」
ミタさんが耳元でコソっと呟いた。そう言や、片方は金髪だったな。
「ミレリー。サミリー。走ってはダメよ」
声がしたほうを見れば、双子の母親と思わしき三〇前後の女性と、侍女と思わしき年配の女性、護衛と思わしき女騎士がいた。
すぐに皆を下がらせ、軽くお辞儀するよう指示を出す。
レヴィウブ内では無礼講とは言え、オレらは外国人で相手は皇族関係者。礼儀を示しておかなければならない。まあ、かかわりたくないってだけなんだけどな。
こちらに意識を向けた気配は感じ取れたが、接触することなく通りすぎてくれた。ふぅ~。上手く回避できたぜ。
「こんなことする必要あったの?」
メルヘンにはわからんだろうが、あるんだよ。こちらを見る男に知らしめるために、な。
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