第135話 コーヒーを飲みながら暗躍する村人
オレがハヤテと一緒に爆走している間に働き者さんたちがバルザイドの町へいくための準備を進めていた。アザース!
「あなたはどこまでも他人任せなのね」
委員長さんからのキッツいお叱り。なんか学生気分になるな。
「その他人にはちゃんと利を与えてるぜ」
他人任せなのは認める。甘んじて受け入れよう。だが、オレは一度たりとも責任を放棄したことはねー。ちゃんと任せたヤツを全力で守るぜ?
「あんたらだってイイ経験できただろう? 南大陸での伝もできたしよ」
帝国にいてはこんな経験はできなかっただろうし、それぞれの能力も向上しなかったはず。なに一つ損はしてない。なによりザイライヤー族とも繋がりができたしな。あ、苦労は別会計となっておりますのであしからず。
「……知って、いたのね……」
「人の考えることなんて大差ねーさ。ましてや叡知の魔女さんの考えることなどお見通しさ。まあ、叡知の魔女さんもオレの考えなどお見通しだろうけどな」
ほんと、敵にしたくない相手である。
「オレといるのが嫌だと言うならいつ帰ってもらってもイイし、別のヤツと交換してもイイんだぜ」
オレは丸投げはするが強制はしてねー。嫌だと言うなら丸投げしたりしねーぜ。
「……断れないのを知ってるクセに……」
「ああ、知ってる。だってそう言う方向に持っていってるからな」
こんなファンタジーな世界でスローライフをするって本当に大変だ。考えなしには到底無理な話だ。
皆さんのガンバりのお陰でオレはコーヒーをゆっくりまったり飲める時間がある。
「オレは、こうしてコーヒーを飲める価値を知っている」
まあ、知れたのは前世の記憶があるから。怠惰に無気力に生きたから。人生の辛さ虚しさを知ったからだ。
「オレは申し訳ねーくらい恵まれている」
神(?)から三つの能力をもらい、優しい家族に恵まれ、たくさんの友人たちがいてくれる。
「同年代に言われても納得できねーだろうが、若いうちの苦労は買ってでもしな。充実した人生を送るためによ」
苦労しない人生もまた恵まれたもんだろうが、そんな人生を送れるヤツは極少数。悲しいかな、そこにオレは含まれてねー。こうして働いている者を横目にコーヒーを飲めるのは、そうできるよう築いてきたからだ。
「オレはコーヒーを飲める価値を知っている」
あんたは、学べる価値を知ってるかい? と言う目で魔女さんたちを見た。
「……あなたって本当に憎たらしいほど生意気よね……」
「アハハ! よく言われる~」
生意気上等。オレはこれからも生意気でいくぜ!
「オレに構ってる暇があるなら猪の解体でも手伝ってきな。帝都に置いたフュワール・レワロはここよりもっと過酷だぜ」
おそらく、フュワール・レワロ──生命の揺り籠では大量に人が死ぬ。魔女もだ。それは叡知の魔女さんも理解しているだろう。アホくさとは思うが、帝国には帝国の利益があり、柵がある。オレが口出すことじゃねーが、利用はさせてもらうがな。ゲヘヘ。
「……あなたの目的はなんなの……?」
「オレていどの考えを見抜けないようでは一生叡知の魔女さんには追いつけないぜ」
叡知の魔女さんには見抜かれているだろう。が、それを突っぱねることはできねー。なんせ、たくさんの命を払ってでも生命の揺り籠から得られる利益は膨大なものになるんだからな。
「まだ名もなき未熟な魔女よ。今は周りに目を向けるより先だけを見て進むがよい。生意気な若造からの助言だ」
オレも叡知の魔女さんから得られる利益を突っぱねることはできねー。なら、どちらも利益を得られるよう動くだけ。少しでも有利になるよう策を張り巡らせるだけである。
「ほんと、憎たらしいほど生意気!」
これまでにない感情を出す委員長さん。若いな……。
「ふふ。じゃあ、名もなき未熟な魔女を成長させるためにもっとガンバらんとな」
それもまたオレの利益となる。どんどん生意気にならんとな。
「皆。いくわよ!」
肩を揺らしながら去っていく委員長さん。
「あの若さが羨ましいよ」
これまでにない感情を出す委員長さん。若いな……。
「ふふ。じゃあ、名もなき未熟な魔女を成長させるためにもっとガンバらんとな」
それもまたオレの利益となる。どんどん生意気にならんとな。
「皆。いくわよ!」
肩を揺らしながら去っていく委員長さん。
「あの若さが羨ましいよ」
「一六歳が言うセリフじゃありませんよ」
中身が中身なんだからしょうがないじゃん。もう二度と手に入らないものなんだからさ。
「もう世界征服したほうが早いんじゃないですか?」
「世界征服するメリットがあればするさ」
デメリットしかないのだからする気にはなれんよ。
「こうしてゆっくりまったりコーヒーを飲める。これ以上の至福はねーよ」
そのための苦労ならなんら喜んでするさ。
◆◆◆
準備がどんどん進められていく。
それをコーヒーを飲みながら眺めるオレ。それを軽蔑の目で見る魔女さんたち。なんのカオスだよと突っ込みをする者はなし。なんとも平和な状況である。
「ん~マ○ダム」
なんてセリフ、久しぶりだな。忙しかったんだな~。
「……激動ではありましたが、激務ではなかったですよね……」
幽霊がなにか言ってるけど、暖簾に腕押し糠に釘。いや、それって自分を貶めてんじゃね? とかの突っ込みもろとも明後日にさようなら~。オレは今日をのんびりゆったり生きてるのです。
「……その図太い神経に恐怖すら覚えますよ……」
幽霊に恐怖されるオレ。心外です。
捕まえたエボーと荷車が繋がれ、慣らし運転に出た。
「完全にジャッド村主導になってますね」
まあ、ジャッド村のヤツらに任せたからな。
「それを計画的にやってるからべー様は怖いですよね」
別に計画はしてねー。そうなったらイイなぁ~ってくらいだよ。
「成るようにやったら成った。それだけさ」
失敗したらそれまで。次に活かしましょう。が、オレのモットーだ。
「ってか、シープリット族、誰も来ねーな? 道に迷ったか?」
いや、道なんてねーけどよ。
「べー様が食べるものを、と言ったから探しているのではないでしょうか?」
とはミタさん。さすがのミタさんもシープリット族の動きは把握できてないようだ。
「シープリット族、なんかカイナの下から外れているようだが、大丈夫なのかい?」
給料はカイナーズから払われてんだろう? 好き勝手やっててイイんかい?
「おそらくですが、カイナ様はシープリット族をべー様に預けたのだと思います。カイナーズの中でシープリット族は異質な存在ですから」
「野蛮人には近代戦闘は性に合わんか」
わからないではない。シープリット族のような獣人系の種族は、理性的より本能的に生きている。ましてや万年戦国時代のような魔大陸で生きてたら近代戦は相容れないだろうよ。
「オレに預けられても困るんだがな」
インテリジェンスな村人はインテリジェンスに人を利用するのが得意なんだけどな。
「いいように扱ってるじゃないですか。それって、なにか考えがあってのことですよね?」
心が読めるんだからわかるでしょ。
「表面的なことしかわかりませんよ。それでなくてもべー様の頭の中は意味不明なんですから」
幽霊から意味不明扱いされるオレの頭の中。オレ、シンプルな頭してるんだけどな~。
「まあ、シープリット族はここで自由にやらせておけばイイさ」
野蛮人には野蛮人なりの使い道はある。そのときまでじっくり教育してやるよ。
「ミタレッティー様。シープリット族が第一次防衛線を突破しました」
言い方が敵になってますけど? ってか、ここはなんの戦線だよ?
「同じ方向から来るんですか?」
「四時、六時、九時から来ます」
「べー様。順位決めはしているのですか?」
いえ、なにも決めてません。とは言えないこの状況。オレの灰色の脳細胞よ、閃くがよい!
「……この方の頭の中は本当に意味不明だわ……」
ちょっと黙っててくれます? 今、灰色の脳細胞さんが働いてくれてるんだからさ!
………………。
…………。
……。
「よし! オレの灰色の脳細胞さん、ご苦労さまです」
村の方々に邪魔にならないところに向かい、土魔法で三〇メートルくらいの山を築き、テッペンな結界で創った一番と描いた旗を突き立てた。
空飛ぶ結界でさらに離れたところに同じくらいの山を築いて二番の旗を突き立てる。さらにさらにと山を五つ。テッペンに番号つきの旗を突き立てた。
「なんですか、いったい?」
「野蛮人を燃え上がらせて勝負を納得させるもんだよ」
副司令官さん以外に飛び抜けたヤツはいなかった。なら、団子状態で来るはずだ。そんな状態で順位をつけるのは不可能だし、納得もしまい。
「ミタさん! シープリット族に通信を出せるか?」
ワンダーワンドに乗るミタさんに叫んだ。
「放送できます!」
カイナーズ、本当に容赦ねーな。
「なら、己の全力を出して旗を取ってオレの前に持って来いと伝えてくれ。旗を持って来た勇者に誇りを授けるとな」
「畏まりました!」
どこかに飛んでいくと、どこからかサイレンが鳴り、ミタさんの声が発せられた。
「──べー様よりシープリット族の勇者たちへ。山の上に立つ旗を武と威を持ってつかみ取れ。旗をべー様に捧げなさい。誇りと栄誉が与えられるでしょう」
どこからか雄叫びが上がる。ん? なんか大きくね?
「そう、ですね? 一〇〇人二〇〇人では出せない雄叫びですよね?」
ジャングルからシープリット族が……って、なぜに大軍!? どこから湧いて出た?!
「もしかすると、魔大陸から呼び寄せたかもしれませんね」
「……あのアホ、オレに丸投げしやがったな……」
丸投げするなら一言言えや。なにも知らせず丸投げは嫌がらせでしかねーわ!
続々とジャングルから出て来るシープリット族。軽く千は超えてんじゃね?
「どうするんです?」
それはこちらが聞きたいです。神様ヘルプミー!
◆◆◆
オレの人生、阿鼻叫喚で溢れているような気がする。
「それはべー様の自業自得ですよね?」
違うと言えぬこの悲劇。オレは罪深い男である……。
「──なんなのよいったい!」
騒ぎを聞きつけたのか、魔女さんやザイライヤー族のオネーサマ方がやって来た。
……ある意味、この女性陣も野蛮人だよな……。
「なにか失礼なこと考えているでしょう?」
ハイと言ったらギルティーなのだからスットボケー。コーヒーが旨いでござる。
「……現実逃避してるでしょう……」
当たらずとも遠からず。明鏡止水と書いて現実逃避と読むからな。
「委員長さんもべー様のこと理解して来てますね」
そんな理解いらんがな。オレを本当に理解してくれる者よカムヒア~。
「本人にそう言えば飛んで来るんじゃないですか」
そこはオレのサンクチュアリ。ドントタッチミーですよ。
「……べー様は、肝心なことはわたしにわからない言語で心を誤魔化しますよね……」
常に心を読まれてるんだから防衛はするでしょうが。
「なんでもいいけど、村の人たちが怯えているわよ」
確かにあの阿鼻叫喚はオレでも怖い。F級村人には耐え難いもんだろうよ。
「なら、見えなくするか」
ヘキサゴン結界を展開して村から見えないようにする。あらよっと。
「また変な術を……」
「変を変のままにせず、自分の中で考えて、ダメなら仲間と考えて自分たちなりの答えを出して自分たちのものにするんだな」
魔女派が強くなれば帝国の中でも発言権は増すんだからな。
「あ、ケガ人の回復頼むわ。他種族に回復魔術をかける機会はそうはねーぜ」
種によっての違いを知れる。オレなら金貨一〇〇枚出しても惜しくはねーな。なのでエルクセプルや回復薬を用意しておこうかね。
「さすがに脱落者が出て来たか」
開始から約十五分。なんのバトル・ロワイアルと言いたくなるくらいのマジな肉弾戦。目を背けたくなるような負傷者が放り出せれている。
「容赦ねーヤツらだよ。ミタさん。観戦しているカイナーズのヤツらに負傷者を運ばせてくれや」
「畏まりました」
シープリット族もシープリット族だが、他のヤツらも他のヤツらである。阿鼻叫喚に大盛り上がり。賭けまでやってるヤツまでいるぜ。
「……魔族が落ち着くには何百年とかかりそうだな……」
まあ、あれはあれで頼もしいんだが、抑えるためには敵や理由を作ってやらんとならん。まったく、メンドクセーことだぜ。
運ばれて来る負傷者を魔女さんたちと一緒に回復させる。
「まったく、バトル中毒かよ」
腕が変な方向に曲がったり、泡を噴いてたりしてるのに、誰も彼もが満足顔。こいつの血には変なのが混ざってんじゃねーのか?
「なんかこいつらに回復薬を使ってやるのも惜しくなるな」
薬師としてはあるまじきセリフだが、無駄に傷つくヤツらに慈悲の心も萎えて来るわ。
「同意だわ」
委員長さんも同じ気持ちになっているようで、オレの呟きに応えて来た。
「まったくよ! あんなに苦労したのに!」
「もう、半分も消費したわ」
「でも、効果を知れて楽しいです! ウフフ」
「誰か回復薬を持って来て!」
なにかヤヴァイのが混ざっているが、聞かなかったことにしよう。オレは薬師。傷を負った者を救うのが仕事である。
「そう言い聞かせないとならない仕事ってなんでしょうね?」
それは一生答えが出ない……なんだ? う、上手く言えねーけど、人は答えを求めて生きるのさ。
さあ、集中だ集中。オレはS級な村人でA級な薬師。ケガ人を前にして逃げられるかよ。オレは誇りを持って薬師をやってんだよ!
「……なんか安そうな誇りですね……」
それは言っちゃいけないサンクチュアリ。安かろうが高かろうが誇りを失くしたヤツにイイ仕事はできない。誇りを持て、人よ!
「……ほんと、よくわからないべー様です……」
幽霊に理解されても嬉しくねーよ。オレは人に理解されたいわ。
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