第59話 登場です!

 住めば都のプリッシュ号。四日も寝泊まりしていると、愛着が湧くものである。


「……完全にベーの部屋になったわね……」


 散らかった部屋を見て持ち主が呆れている。


 そこに住んでる君も同じでしょうが。暖炉の上、なんかもうリゾート地になってるじゃん。


 プリッスルだかプリトラスだか知らんが、その周りにあるのなによ? 


「リゾートプールを作ってもらったの」


 誰にだよ? とか問う気力もなし。そりゃよかったねと流しておく。


「そうだ。使ってないプリッスルだかプリトラスを一つくれ。管理所に使うからよ」


 意外とプリッスルだかプリトラスはライフライン(?)がしっかりしている。中継島にはちょうどイイだろう。


「じゃあ、プリトラスをあげる」


 と、無限鞄からプリトラスらしきものを出して、放り投げた。雑だよ、君。


「言っておいてなんだが、イイのか?」


 嫌だと言われると思ったんだがな。


「構わないわ。いっぱいありすぎて維持できないから」


 それはつまり、維持できないくらい持ってるってことね。了解了解。


「ミタさぁ~ん。カモ~ン」


「はい。お呼びでしょうか」


 どこぞの宇宙刑事が蒸着するより速く万能メイドが登場する。


 ……宇宙メイド、ミターンとかで誰か物語を創ってくんねーかな。オレ、全巻揃えちゃうよ……。


「なにか?」


「いえ、なんでもありません……」


 そっと目を逸らす。


 熱い視線が側面に注がれるが、そんなものに負けるオレじゃねー! けど、話が続かないのでなにもなかったように振り向く。


「ここに住んで管理してもイイってヤツを集めてくれ。いなかったらそれでイイや」


 こんな辺鄙なところに住めと言うオレのほうが悪いので、いなかったら素直に諦めます。そして、ご隠居さんにポイします。


「あたしが選んでもよろしいでしょうか?」


 珍しく問い返してくるミターン──ではなくミタさん。どったの?


 なんて訊き返そうとしたが、あまりにも真剣な目を見せるので飲み込んだ。


「ミタさんの判断はオレの判断。その責任はオレにあり、オレが決断したのだから好きにしたらイイさ」


 それが例え私利私欲で動いたとしても、オレはそれを受け入れ、責任は取るさ。


「ありがとうございます」


 一礼して下がると、代わりにいつもになった三人のメイドが入ってきた。


「ベー様。カーチェ様より伝言で、先に屋敷に帰るそうです」


 あ! タケルたちのことすっかり忘れったわ!?


「あ、うん。オレが帰るまで休んでろと伝えておいてくれや」


 今はこちらに集中したいんでよ。


「畏まりました」


 と、一人が下がり、二人が残る。いや、別に用はないよ。


「ベー。お昼だよ?」


 あ、お昼だから残ってたのね。じゃあ、昼食にしましょうか。


 場所を食堂……って呼んでイイかわからない、シャンデリアが眩しい食堂へ移る。


「今日は海鮮カレーです」


 場にそぐわないことこ甚だしいが、文句のつけようがないのでありがたくいただきます。


「カレーって美味しいよね!」


 なんとも美味しそうにカレーを食べるメルヘン。なんだかやるせない気持ちでいっぱいだが、カレーはメルヘンをも魅力する、ってことで納得しておこう……。


「そうだな。この島の名物にするか」


 なるかどうかは知らんけどよ。


 のんびりゆったりカレーを食ってると、ミタさんが戻ってきた。なんかダークエルフの男を連れて。


「お食事中、申し訳ありません。管理者を連れて参りました」


 ミタさんらしくもないな~と思いながら、ダークエルフの男に目を向ける。


 たぶん、数百年は生きているだろう気配と、戦士のような鋭い目が印象的だった。


「どこの将軍さまよ?」


 そう問うと、ミタさんも男も驚いたような顔をした。


「どうしてわかりました?」


 渋い声で尋ねてくる男。いや、見たまんまじゃん。他にどう見えるって言うんだよ。逆に訊きてーわ。


「そんな目をした堅気かたぎがいるか。魔王だと言われても納得するわ」


 まあ、引退したような感じだから、魔王ちゃんとか勇者ちゃんでも勝てそうな衰えが見えるがよ。


「さすが、あの魔神を義兄弟と呼べる方です」


 カイナは魔力さえ気にしなければ怖い存在ではねーぞ。まだ、ご隠居さんのほうがおっかねーわ。


「初にお目にかかります」


 と、片膝をつき、なんか騎士っぽいポーズをとる将軍。なによ、突然?


「わたしは、レイレット・オリバー。ミタレッティーの父でございます」


 なんと、ミタパパ登場です!


  ◆◆◆


「……ミタさん、家族いたんだ……」


 いや、木の股から生まれたわけじゃないんだから両親がいるのは当たり前なんだが、ミタさんから家族の話が出たことはなかった。


「あたしも死んだとばかり思ってました。一〇〇年以上、音沙汰ありませんでしたから」


 今知る衝撃の真実! でもないか。エルフとか長命種は、人と時間の感覚が違う。人の一〇年はエルフでは一年みたいなもの。いや、エルフでも百年は長いか……?


「わたしも娘は死んだかと思っておりました。魔神が暴れておりましたからな」


 まあ、前世の兵器を惜しみもなく使っていれば、どんな魔王だろうと敵わないだろうよ。狙われた魔王に同情するわ。


「今は狂犬二人が暴れ回っているけどね」


 メルヘンに狂犬呼ばわりされる魔王ちゃんと暴虐さん。まあ、あえて反論はしないけどね。


「で、ミタさんの親父さんが引き受けてくれんのか?」


「ベー様がお許しいただけるのなら、是非」


「んじゃ任せるわ。よろしくな」


 やってくれるのならオレに否はなし。大いに任せます、だ。


「ありがたき幸せ。粉骨砕身、身を懸けて働かせていただきます」


 別に粉骨砕身するような仕事ではないと思うのだが、やる気を削ぐのも悪い。うちは気持ちよく働いてもらう家だからな。


「昼食ってなかったら親父さんも食いな。ここで暮らすのならいろいろ食わなくちゃならんと思うからよ」


 東からオレらの大陸からと、いろんな食材、いろんな料理が渡って来るだろう。それぞれの国の料理を食らい、それぞれの国の酒を酌み交わして仲良くやってちょうだいな。


「はっ。いただきます」


 上下関係が体に染み込んでいるようで、なんの躊躇いも疑問にも思わず、メイドさんが引いた椅子に座った。


 出された海鮮カレーをまた躊躇いも疑問も抱かず口にした。


「……旨いですな……」


 そこで、心を漏らすミタパパ。今までなに食ってたのよ?


「恥ずかしながら、カイナーズの基地にいくまでは獣の肉を食らう日々でした」


「あそこでサバイバルとかスゲーな」


 レースした地域しか知らんが、あそこにいるものを食えとか罰ゲームどころか地獄巡りだわ。


「戦いしか知らぬ身故……」


「まあ、ドスの利いたヤツが仕切ってくれたほうがなにかと都合がイイだろう。他も強面の連中を集めてくるんだからよ」


 魔王ちゃんや勇者ちゃんに敵わないまでも人相手なら十二分に脅威だ。メンチ切られても負けはしまい。


「職員的なのは集めたのかい?」


 さすがにミタパパ一人に任せるのは酷だろう。


「父の配下だったものを当たらせ、ゼルフィング家からメイドを派遣します」


「あいよ。それで任すわ」


 さすがミタさん、頼りになるぅ~。


「ベー様。わたしは、なにを成せばよろしいのでしょうか?」


「基本は海の中に生ってる海典の樹を守ることで、それになる実を売って儲けて欲しい。あとはそうだな。海典の樹を見たいってヤツから金でも取ってくれ」


 水族館のように通路は造ったから人気になんだろう。


「そのような大役をわたしでよろしいのですか? 我々のような裏切り者に……」


 裏切り者? なんのこっちゃい? 


 わからないときはレイコ教授の出番です。どう言うことよ?


「ダークエルフも世界樹の守護者でしたが、欲に溺れて斬り倒した過去があるんです。主たるハイエルフから怠惰のエルフ、ダークエルフと呼ばれたんです」


 え? ダークって怠惰って意味だっあの!? 肌が黒いからダークだと思ってたよ!


「ってか、ダークエルフは、よくダークエルフって名前のことを了承してんな?」


 屈辱とか思わねーの?


「それが我々の罪なら甘んじて受け入れます」


 怠惰になったのは特別で、根はミタパパのような種族なんだろうな。うちにいるダークエルフ、皆働き者だったし。


「まあ、本人たちが受け入れてんならオレがどうこう言うつもりはねーし、やるやらないはあんたらが決めな。オレは強制はしねー主義だ」


 やりたいことはとことんやれ。やりたくなければテコでもやるな、だ。でも、おっかないおねーさまに言われたらつつんしんでやらせてもらうがな!


「で、やるかい? やらないかい?」


「是非、我々にお任せくださいませ」


「んじゃ、よろしく。ここでの儲けはあんたらが自由にしな。オレはたまに来て利用させてもらうだけでイイからよ」


 下手に利益を受けると婦人に怒られそうだ。ここは、ゼルフィング商会と関係なし。ミタパパが仕切ってください。オレは利用させてもらうだけで結構なんで。


「ベー様、なにを考えてるんですか?」


 こそっとレイコさんが尋ねてくる。


「なにってなによ?」


「ベー様に利益がないどころか苦労ばかりしているように見えます。ですが、ベー様はいつも損しているようで必ず利益を得たとばかりに笑ってます。いったいなにを得たんですか?」


 ほんと、よく見てる幽霊だよ。背後にいるのによ。


「別に得てはいないさ。ただ、未来へ投資してるだけだよ」


 まあ、それが利益になるかは神のみぞ知る、だがよ。


  ◆◆◆


 プリトラスをミタパパの好みに仕上げるのに三日かかった。


 まあ、かかったって言うか、かかったそうだ。


 人それぞれの好み。変に口を出すのも悪いかと、金を出して自分たちでやってもらうことにしたのだ。


 もちろん、カイナーズホームに買いにいかし、細かいことはメイドさんにマルッとお任せしました。


 その間、オレは遊歩道を造ったり、飛空船用と潜水艦用の港を造ったりと、いや、時間を忘れて夢中になっていましたわ~。アハハ~。


「だが、後悔はない」


 ってか大満足。オレ、久々にイイ仕事したぜ!


 完成した作品を眺めなから飲むコーヒーの旨いこと。これだから物造りは止められんぜ。


「……なに一人で進めてるさね。旨いところを先取りしくさって……」


 クルーザーの上でまったりしてたらご隠居さんがジャジャジャーン。オレ、くしゃみしたっけ?


「なにと比べてるかは知らんが、不愉快さね」


 まあ、確かに。比べるのは失礼だな。あっちにはあっちのよさがあり、ご隠居さんにはご隠居さんのよさがある。でも、余所行きな顔でお茶を出してるメルヘンより、大魔王さんの娘さんのようなおしゃまな欠伸ガールに飛び出て欲しかったな~。


 ん? あれ? うちのメルヘン、なんかおしゃまな欠伸ガールに似てね? 気のせいか?


「……なんか失礼なことを考えてる顔だわ……」


「確実にしてるさね」


 改めてピーターパンって恵まれているような~って考えてたら白い目に突き刺されていた。あ、オレのライフが……。


 慌ててコーヒーに手を伸ばし、あとちょっとでゼロになるライフを回復させた。


「ライフ全快。気分爽快。元気元気でコーヒーうめー!」


 今なら竜でも狩れるぜ。いや、なんかフラグを立てそうなのでオークくらいにしておくか。オークなら千でも二千でもきやがれ! だ。


「で、なによ?」


 炬燵につかり、修羅のようなオーラを纏うご隠居さんを見た。


「……今なら怒りで魔王にでもなれそうさね……」


「おう。ガンバれ」


 なりたいのならなればイイと思うけど、うちには勇者ちゃんがいるから退治されるぞ。あ、魔王ちゃんが先かな? あの成長速度と言うか、進化のスピードはハンパねーからよ。


 そのうち戦略ニートを超えるかもな。仲良くなってよかった。


「おじいちゃん落ち着いて。あとでわたしがお仕置きしておくからさ」


「す、すまんな、プリッシュ殿。このバカをよろしく頼む」


 え? なぜに殿呼び!? いつの間に敬称つけるような仲になったのよ!? オレたち付き合い長いよね! 仲良しだよね? なんか裏切られた気分だよ!


「まあ、なんでもイイか」


 付き合っていればすれ違い勘違いがあるもの。時間が解決してくれるさ。まあ、人外の感覚でやられたらオレは死んでると思うけどね……。


「用がないんなら、オレ帰るよ」


 さすがにタケルを放っておくわけにはいかない。いやまあ、一〇日以上、放っていますけどね!


「用だらけしかない状況でよく言えるな!」


 用だらけ? なんだいそりゃ?


「これがベーとはわかっていても腹が立つぅー!」


 なんだい、いったい? 情緒不安定か? それとも長く生きすぎてボケたか? 何年生きてるかは知らないが、穏やかに暮らせよな。


「周りの人を波瀾万丈にしてるってわからないのかしらね?」


 オレは周りのヤツらに波瀾万丈にされているように思うのだが、皆、そこんとこどう思うよ?


 ──満場一致でお前が原因だ!


 とか幻聴が聞こえたが、幻聴なので気にしません。あーコーヒーがうめー!


 さて。身も心も落ち着いたし、帰りますかね。


「なに帰ろうとしてるさね?」


 炬燵から出ようとしたらご隠居さんに殴られた。なによ、突然!?


「言い出しっぺのお前がいなくてどうするさね! 最初くらい他人任せにするな!」


「だが断る! オレは強者の命令にはノーと言える村人だ!」


 なんてカッコよく断ったら、メルヘンがなにかご隠居さんに耳打ちした。


「なるほどのぉ~。さすがプリッシュ殿さね」


 え、なに? なんで悪い顔してるの?


 にんまりしたご隠居さんが消失。そして、すぐに現れた。腰抜けくんのところにいたいぶし銀のおっちゃんを連れて……。


「ベー様。皆様との顔合わせをお願いしやす」


 と頭を下げられた。


「ほら、断ってみなさいよ」


「どうした、強者な村人よ」


 嘲笑うように言う腐れメルヘンと腐れジジイ。グヌヌヌ!


「地獄に落ちやがれ!」


「「お前がな!!」」


 その日、村人が地の底に落ちましたとさ。めでたしめでたし。

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