第58話 怪獣大決戦

「ゲスい波動を感じるわ」


 ニコニコ顔でプリッシュ号改に戻ったら、メルヘンが蔑んだ目で出迎えてくれました。


 アハハ。ヤダなー。ここら一帯幸せの波動で満ちてるのに、なに言っちゃってんでしょうね? そんな目をしてたら幸せが逃げちゃうぞぉ~。


「これまでにないくらい、よからぬことを考えている顔ね」


 ヤレヤレ。困ったメルヘンさんだ。この空のように広い心を持たないと幸せな未来はこないんだからね!


 そんな心の狭いメルヘンは無視して、ドームを作りましょうね~。


「あ、ミタさん。この下、崩落の恐れがあるからカイナーズの連中に教えておいてね」


「畏まりました。そう伝えます」


 ってか、まだ島を探索しきってないのか? 大きいとは言え、一日あれば回れるだろうに。


「なんか問題があったのか?」


 ミタさんの表情に変化はなかったが、一言増やしたことに違和感を覚えた。


「実は、木の魔物に邪魔されて、まだ半分も探索できてないようです」


 木の魔物、か。植物の魔物はよく見るが、木ってのは初めてだな。どんなのだ?


「待ち伏せ型で命を吸い取るそうです」


 まあ、よくあるタイプか。動くほうが珍しいしな。


「レイコさん。魔木って確か、魔大陸に生えてたものだよな?」


 前に先生がそう言っていたような……。


「はい。ですが、ある時期を境に世界に拡散されたようです」


「天地崩壊か」


「でしょうね。その環境では発生しない植物が突然発生したり、生き物がいたりと、世界各地で確認してますから」


「ここにも箱庭があった感じだな」


 いろんな環境の箱庭があったことからして、世界各地から命を集め、そして、世界各地へと箱庭を放ったんだろう。


「死人は出てねーんだろう?」


「はい。苦戦はしているようですが、死者は出しておりません」


「それはなにより」


 カイナーズのヤツらが死ぬようなら島全体を消毒せんとならんからな。


「ピータとビーダ、いるか?」


 ジャケットの内ポケットを突っ突いてみる。ウパ子と遊んでた記憶はあるが、それからの記憶がございません。戻ってる?


「ぴー!」


「びー!」


「はーい!」


 ん? なんか一つ多くね?


 ジャケットから金色とピンク色の生き物が出てきた。


「……ウパ子まで入ってたのかよ……」


 ってか、いつ入ったんだよ? まったく気がつかんかったわ!


 意外と俊敏なウパ子がオレの体の上を駆け回り、肩に乗ったら水のビームを吐き出した。


 気球部とゴンドラを繋ぐ鎖に当たり、纏わせている結界が微かに切られた。


「こわっ!」


 なんだこいつ? メッチャあぶねーもん吐き出しやがったよ!


「まあ、見た目はアレですが、神話に出てくるような竜ですからね」


「そんな竜がなんで魚に食われんだよ!」


 つーか、それを倒しちゃうここの方らさらにヤバいもんじゃねーか!


「たぶん、数が多かったでしょうし、何匹かは倒していると思いますよ。海中を探せば骨と魔石があるはずですよ」


 ミタさん、よろしこ!


 目を向けると、畏まりましたと頷いた。


「ピータとビーダ。島の魔木を食い尽くしてきてくれ。ミタさん。カイナーズを下がらせてくれ」


「畏まりました。速やかに撤退させます」


 はい、よろしこです。


「ピータビーダ。あと、ウパ子。頼むな」


 プリッシュ号改から放り投げ、三匹を五メートルサイズにデカくする。もちろん、崩壊しないように結界を施しているので大いに暴れちゃってくださいな。


「ぴー!」


「びー!」


「シャアァァァ!」


 最後のは水のビームを吐いているのでしょう。


「なんか怪獣大決戦みたいなことになってるわよ」


 それも自然の理。ちっぽけな人がどうこう言える立場じゃねーさ。


 さて。怪獣大決戦とやらが終わるまでに作っちゃいますかね。


 無限鞄から酒の空瓶を出して、粉々にする。


「ステンドグラスみたいなのできるかな?」


 まあ、とりあえずやってみるかと、錬金の指輪を発動させた。


  ◆◆◆


 とりあえず、四種類のガラスドームを作ってみた。


 茶色の日本酒。緑色のワイン。透明のウイスキー。あと、いろいろな瓶をバラバラにして足したものと、あまりパッとしねーな。


「ってか、海典の樹って太陽の光を浴びてイイものなのか?」


 レイコ教授、どうなのよ?


「大丈夫だとは思いますよ。海に生るとは言え植物。陽の光なくしては生きられないと思いますし。それで枯れたらどれだけ弱いんだって話です。亜種とは言え世界樹なんですから」


 そりゃそうか。世界を支えると言われるほどなんだから。ましてや海の中に生るまでのもの。太陽の光で枯れるなら海に入った時点で枯れてるわ。いや、よく知らんけど。


「なら、透明でやってみるか」


 なにか異変が出たら結界で暗くすればイイんだしな。


「プリッつあん、これを硬くしてみてくれ」


 緑色のをつかんでプリッつあんに頼んでみる。


「? わかった」


 触らなくてもイイようで、緑色のドームを見詰めた。


「──はい。硬くしたわよ。どのくらい硬くなったかはわからないけど」


 硬度とか言う概念を知らなければ、どのくらいとはわからんわな。


 コンコンと床で叩いてみる。


 結界に伝わる感じからして鉄並みにはなった感じがする。なぜわかるかはこれまでの経験からです。


「重さも大きさも変わった感じはしねーな。


 物質の密度が高まって小さくなったってことなく、なにかの力が加わった感じでもなし。ただ、結界や伸縮能力を使ったような感じがあるだけ、か……。


「今度は柔らかくしてくれ」


「わかった」


 と、また緑色のドームを見詰める。


「なったわよ」


 先ほどと同じく二秒ていど、か。伸縮能力と変わらん感じかな?


 緑色のドームをつかむ指先に力を入れると、粘土のように潰れた。


 グニョグニョにして丸めてみるが、粘土のように混じることはなく、ただ変形した感じだった。


「できるのは形を変えるだけか」


 まあ、それはそれで使い道はあるから無駄能力とは言わないが、そう欲しいと思える能力ではないな。


「柔かくなったの解けるのか?」


「う~ん。硬くすれば元に戻るかも」


 それも伸縮能力と同じか。元を知っておかないとエライことになるな。


 ……特に背とか体型とか、女にするときは細心の注意をしなければ命にかかわりそうだ……。


 プリッつあんができるならオレにもできる。とやってみたらアラできた。それでイイのか?


 とは今さらか。あるなら使えるようになれ、だ。


 ……オレの能力もプリッつあんの能力も無自覚で使ったら大惨事だからな……。


「硬いのは硬度でイイが、柔らかいのはなんて言うだ? 柔度か?」


 まあ、それでイイか。オレたちしか使えない能力なんだし、他人にはわからんのだから。


「使いこなせるのは徐々に、ってことで、まずは崩壊しそうなところを排除するか」


 さて。怪獣どもはどうしたかな~?


 と下を覗いてみる。


「まあ、そんなもんか」


 綺麗に、などは望んでなかったし、好き勝手にやるだろうと思ってたので、これと言った感慨はない。


 まさに怪獣が戦ったような跡に飛び降りる。


「ほんじゃやりますか」


 崩壊しそうな箇所を土魔法で取り払い、とりあえず無限鞄に仕舞う。


 それだけで時間がかかってしまい、その日はプリッシュ号改に宿泊することにした。


「ってか、クルーザーより充実してね?」


 快適に暮らせるようにと、それなりの広さにはしたが、どこぞのスイートルームも顔負けの部屋が四つもありやがり、風呂も総大理石で造られていた。


 どんな技術が使われてんだよと突っ込みたいくらいの洗浄トイレが四つもあったりと、なかなか摩訶不思議な空間となっていた。


「誰が維持してんだよ?」


「この子たちよ」


 と、メガネをかけたドレミがいました。あ、勝手に連れていたのがいたね。つーか、イイように使ってるね、君は。


 ちゃんと一〇人くらい余裕で食べれる食堂もあり、並べられた料理からして厨房もしっかりしたものがあるとわかる。


 ……なんとなく、プリッつあんが気に入ってるのがわかるな……。


 プリッつあんのものはオレのもの。オレのものはプリッつあんのもの。ってな暗黙の了解があるかは知らんが、ドレミが管理しているなら遠慮は不要と、食うもの食ったら適当に部屋を選んでベッドにダイビングする。


「もー! 寝るならお風呂に入ってよね!」


 と、なぜかプリッつあんがいました。いや、なんでよ?


 リ○ちゃんキャッスルみたいなのを自分の無限鞄から出し、暖炉の上に置いた。


「ちゃんとお風呂に入ってよ!」


 そう言い残してリ○ちゃんキャッスルに消えていった。


「…………」


 しばし考えていたが、止めた。答えなど出そうにもなかったから。


「風呂に入るか」


 このモヤモヤを洗い流すために風呂へと向かった。

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