第57話 サイクル

 クルーザーに戻り、島一周を再開させた。


 世界樹の亜種──海典の樹とやらのあとは、これと言ったデンジャラスイベントはなく、島を一周できた。


「ベー様、到着しました」


 元の湾に戻ると、ミタさんがわかり切ったことを言ってきた。


 まあ、クルーザーの先に立ち、考え込んでいるふうにしていれば、そう言いたくもなるだろう。


 ただ、上でブンブン飛んでいるメルヘンさんのせいで集中して考えられなかったけどなっ! ほんと、鬱陶しいわ!!


「プリッつあん、プリッシュ号改を出してくれ」


 このままじゃ考えが纏まらんわ。


「アイアイサー!」


 なんかノリノリな感じで返事された。


 まあ、嫌じゃないのならこちらに否はなし。五分くらいしてプリッつあんサイズのプリッシュ号がやってきた。


 どこに停泊させていたんだろう? とか頭を過ったが、別にどうしても知りたいわけじゃないので、サラリと流しておく。


 プリッシュ号改がクルーザーの横につき、結界で創り出した渡り橋を繋げた。


 ついてくる人、挙手!


 って言うボケを噛ましてやろうとしたが、もう集まってました。ってか、メイドさんが増えてね?


 ま、まあ、うちのメイドは無限増殖するもの。気にしたら負けだ。


 ついてくる方々を小さくしてプリッシュ号改へと乗り込んだ。


「ようこそ、プリッシュ号へ!」


 なんか敬礼して迎えてくれる我らのキャプテンプリッシュ。ノリノリなメルヘンの気概を削ぐのもなんなので、オレも敬礼で答えた。


 突っ込みに向いてると思う方々よ、今からサブ突っ込み役を絶賛大募集します。我こそと思う方々は奮ってご応募してください。連絡先はオレまで。よろしこ☆


「キャプテンプリッシュ。海典の樹があった上空までよろしく頼む」


「アイアイサー!」


 メルヘンをそこまでノリノリにさせるものがなんなのか超気になんねーので、サラリと出発進行。安全航行でよろしこです。


「プリッシュ号、発進!」


 銅鑼でも打ってやろうかと思ったが、乗ってては風情がない。下にいるカイナーズのヤツらに手を振りながら乗客の雰囲気を楽しんだ。


 そこでフリの一つでももらえると場が引き締まるのだが、ミタさんたちにそれを求めるのも酷。誰かプリッつあんの代役をプリーズです。


 席に座り、ミタさんにコーヒーをお願いする。


「今度はなにを倒しにいくの?」


 巨大メルヘンがヌッと登場。だが、顔がデカくて視界に入らない。邪魔くさいので小さくしてやった。


「もー! 勝手に小さくしないでよ!」


 プリッシュ号改へと乗り込んできたメルヘンに文句を言われたが、そんなものは無視です。ってか、タケルのところに戻れや。君はあっちのチームなんだからさぁ~。


 ミタさんが淹れてくれたコーヒーを受け取り、メルヘンの文句を右から左にさようなら~とコーヒーをいただいた。あーうめ~!


 ヒュンヒュンとゆっくり航行なので、景色が美しい。ただ、戦闘機がたまに映るのは止めてください。


「あ、竜だよ竜! カイナーズが竜の群れとドッグファイトしてるよ!」


 あはは。そんなのよくある光景に驚くなんて、タケルのところのメルヘンもまだまだだな。うちのメルヘンは見向きもしないぜ。


 竜と戦闘機の戦いに興味なしと、眺める方向を変える。あー海は偉大だな~。


「ベー。目的の上空よ」


 おや、もう到着ですか。どれどれ。


 席から立ち上がり、縁に立って下を見る。


 木々が生い茂ってはいるが、やはり人の手が加わっているのがわかった。


「以前、建物があった感じだな」


 朽ち果てて土台しかないが、草木の感じからして館か小城ってサイズかな? 自然による風化で倒壊したように見える。


「キャプテンプリッシュ。オレが発着場を造るからそれまで待機な」


「アイアイサー! 健闘を祈ります」


 なにに健闘するかは知らんが、キャプテンプリッシュの敬礼に応え、縁に手をかけて飛び降りた。


  ◆◆◆


 纏った結界を操りながら落下し、着地直前でゾワッとして急ブレーキ。あと五センチってところで停止した。


 ……なんだ、この感覚は……?


 クルーザーの上から見たときから、なにかチリチリしたものは感じていたが、直前までオレの考えるな、感じろが発動しなかった。


 辺りに目を向けるが、これと言った危険なものは見えないし、感じない。廃墟になってうん百年と言った感じを見せている。ほんと、なんなんだよ!?


 なんて焦ってみてもわからないものはわからない。ならば、切り開くまで、だ。


 足元の大地を土魔法で揺らし、草木を浮かして地から抜いてみる。


 反応はなし。だが、首筋がチリチリする。


 敵意を向けられたときに感じるものに似てるが、悪意はまったく感じない。


 ……これは、地滑りのときに似た感じがするな……。


 以前、大雨が降ったとき、首筋がチリチリして落ち着かないときがあった。


 あのときは、昔、地滑りがあったと、隣のおじぃから聞いたから直前で防げたものだ。


 島で地滑りもないのだが、似たような感覚ならこれは自然現象の類い。下が空洞なのを考えると、崩落か?


 もう一度、辺りを見回し、下の空洞を繋ぐ穴を探す──が、草木でよくわからない。どこや?


 結界の道を創り、穴を探す。


 しばらくして四〇センチくらいの穴を発見。下を覗くも暗くてわからなかった。


 まだメルヘンサイズなので、四〇センチくらいの穴は余裕で潜れる。ってことで、まず結界灯を二つ創って放り込む。


 穴を覗くと、それなりの明るさで、海面と泳ぐ魚が見えた。


 穴に触れないように中へと入る。


 深さは三〇センチもない。なぜこれで地盤が持ってるか謎である。


「あ、ヒビが入ってる」


 薄くではあるが、ヒビが縦横無尽に走っている。あと一押しで確実に崩壊しそうだわ。


「しっかし、よく崩壊しないできたな。ちょっと強い雨でも降れば崩壊すんだろう、これ」


 最後の一押しにならんで済んだのは幸いだが、崩壊まで秒読みなのは確かだろう。


「結界で補強するのは簡単だが、それだと問題解決になってないような気がするな~」


 人が増えれば下にある海典の樹のことはバレるだろうし、海典の樹を知る者がいないとも限らない。


「なあ、レイコさんよ。海典の樹は争いの種になるかな?」


「──なるでしょうね」


 と、天井から現れるアホ幽霊。びっくりするわ! そして、デカいわ!


「……プリッシュ様の力、わたしに効きませんし……」


 そうなの!?


 って小さくしようとしたら、まったく小さくならなかった。幽霊マジスゲー!


 いやまあ、小さい幽霊ってのもどうなんだって話だし、小さい幽霊もそれはそれで鬱陶しい。ってか、効く効かないなんてどうでもイイわ!


「まあ、幽霊のことはどうでもイイとして、海典の樹は争いの種になるのか……」


「そんなこと幽霊に言ったら呪われますからね」


 呪いは気から。心をしっかり持って呪いを跳ね返しましょう、だ。


「ベー様には珍しい樹でしょうが、不老長寿は人を殺してでも得ようとするものですからね」


 不老長寿、ね~。


 前世を含めて長生きしたいなんて思ったこともねーし、後悔をしない生き方を求めてきたせいで、不老長寿を願う感覚がわからねー。


「命は限りがあるから尊いんだがな」


「そう思えるベー様がおかしいんですからね」


 それは否定しないし、転生した身で偉そうなことは言えないか……。


「それはともかくとして、秘密にはできんよな?」


 知らせるってことではなく、秘密にしてもバレるだろうってことだ。


「しばらくは秘密は守られるでしょうが、人が増えればおのずと知られるでしょうね」


 だよな~。人の口に戸は立てられぬ、だからな。


「いずれバレるのなら、最初からバラしたほうが得かな?」


 いっそのこと、名物にして入場料を取り、欲しいヤツにぼったくり価格で売る。それで島の維持費は賄えるし、防衛費ともなる。隠すより上手く管理したほうが安上がりな気がする。


 ってことをレイコさんに話してみる。


「つまり、産業とするのですね。よいかと思います。不老長寿と言っても十数年延ばす程度ですし、一年に数個しか採れないと謳えば希少性を高めて価格を釣り上げられますからね」


 なにか悪い顔をするレイコさん。だが、オレはもっと悪い顔をしていると思う。


 命は重く尊いもの。なら、対価も同じくらいにしなくてはダメでしょう。


 これぞ命のサイクル。素敵なサイクル。もう笑いが止まりませんな。


 フッヒッヒッヒャー!

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