第56話 天宝(てんぽう)

「ベー様。波が荒く接岸できません」


 海底の岩が原因か、海流が原因かはわからないが、ミタさんがそう言うのならそうなのだろう。


 まあ、島の概観からここに船をつける必要はないんだが、せっかく魔力を得たことだし、港造りに挑戦してみるか。


 魔力の指輪と錬金の指輪を嵌める。


 自動調整でぴったりと嵌まるが、二つはちょっと違和感があるな。右と左にわけるか。


 魔力の概要は右手の中指。錬金の指輪は左手の中指にした。


「さて。ちょっと試してみるか」


 錬金の指輪は何度も使ったが、満タンの魔力の指輪は使ったことはない。はてさて、どんな威力かね?


「ミタさん。ちょっと待機しててな」


 空飛ぶ結界を創り出して海へと出る。


 海面から少し上を飛んでいるので波の影響はないものの、波が荒いので波しぶきがかかる。


「ベー。ちょっと結界張ってよ」


 いつの間にかパイル○ーオンしていたメルヘンが抗議の声を上げた。ったく、我が儘なやっちゃ。


 まあ、オレも波しぶきがかかるのは嫌なので、結界を張ってかからないようにする。


「で、なにするの?」


「波を殺す」


 崖まで飛ばし、錬金の指輪を発動。岩のテトラポットを創った。


「そんなんで波を殺せるの?」


「う、うぅん……」


 テトラポットのサイズなんて知らんので、テキトーにしたが、どう見ても一〇トンはない。これでは百個創っても波なんて殺せないだろうよ。


「土魔法のほうが使い勝手がイイな、これ」


 つーか、魔力があっても波を殺す魔術なんて知らねーよ。テトラポットが精々だわ。


 だが、せっかくの錬金の指輪と魔力の指輪だ、使わないのももったいない。なにかイイ方法はないもんかね?


「大きくすればいいんじゃない」


 あ、なるほど。プリッつあんにしてはナイスな提案をするじゃねーか。レッツ、採用!


「プリッつあん、放り投げるからデカくしてくれ。最大で」


「ゆっくり投げてよ」


 いつもならそんな泥臭いことイヤ! とか言いそうなのに今日は素直なこと。まあ、変なこと言ってへそを曲げられるのも面倒なのでお口にチャックだ。


 三トンくらいのテトラポットを錬金の指輪で創る。


「プリッつあん、いくぞ」


「うん」


 ゆっくりと、ふわんと空に放り投げた。


 これと言ったかけ声もなくテトラポットが三〇メートルほどにデカくなり、大量の水しぶき……ってか、津波を起こして海の中へと消えていった。


「……結構深いんだな……」


 まあ、よくあることと、テトラポットを創っては巨大化させて海に沈めるを繰り返す。


 もう二百は沈めたが、プリッつあんが文句を言うことはない。飽きないの?


「わたしも自分の能力を使いこなしたいしね」


「デカくしたり小さくしたりするだけだろう?」


 他になにかあるのか?


「それがね、硬くしたり柔らかくしたりすることもできるのがわかったのよ」


 まさかの能力発現!? あなた、本当にメルヘン? ファンタジーじゃなく異能力バトルな世界の住人なんじゃないの!?


「なんでも硬くしたり柔らかくしたりできるのか?」


「岩とかなら簡単かな? 木とかもできたよ」


 と言うので、試しに岩を柔らかくしてもらうと、粘土かと思うくらい柔らかくなっていた。マジか!?


「……ま、まあ、スゴいとは思うが、この力、必要か……?」


 いやまあ、力は使い様だから無駄とは言わないが、硬くしたり柔らかくしたり、これ、どんな場面で役に立つんだろう……。


「知らない。ベーが考えてよ」


 自分の能力なんだから自分で考えろよ。まだ、伸縮能力も使いこなせてないんだからさ~。


「まあ、それは後々。今はテトラポットを創るほうが先だ」


 別に急を要する案件ではねー。思い出したらでイイわ。


 気持ちを切り替えてテトラポットを創り、プリッつあんにデカくしてもらって海へと沈める。


 三百回と繰り返していると、なんか崖が崩れた。


 ちゃんと上から平均に使い、港にしようと考えてやってたんだがな。地盤が緩かったのか?


 土煙が止むと、崩れたところが空洞になっているのがわかった。


「鍾乳洞か? それとも海水に侵食されたのかな?」


 これも珍しいことではないので、構わすテトラポットを創っていたら、なんか煉瓦っぽいものが出てきた。


「これは、怪物が出てくるパターンね」


 そんなパターンをどこで覚えてきた! と突っ込みたいが、人工物なら怪物はないだろう。


 毒を食らわば皿まで。もうなんでもこいと、空洞の中へと入った。


  ◆◆◆


 そこはなにもガランドゥ。


 思わずギャランドゥみたいに言ってしまったが、そうボケてみたくなるくらいなんもなかった。なんやここ?


「光が差してるね」


 上を見れば、いくつもの穴が開き、空洞全体を見渡せるくらいには明るかった。


「あ、魚がいる」


 今度は下を見たプリッつあん。忙しいやっちゃ。と思いながらもオレも下に向ける。


「……小さい穴が外と繋がってんのかな……?」


 大きい魚はいず、イワシくらいの小さな魚がたくさん泳いでいた。


「食えるかな?」


 見た目は普通だし、こちらなど気にせず回遊している。こう言うパターンの魚は食えることが多い。だが、たまにハズレがあるので試食してくれるゴブリンって貴重なんだよな。


 まあ、腐嬢死がきてから野良ゴブリンはいなくなったので、試食はプリッ──じゃなくて、タケルにでもやらせるか。毒すらエネルギーにするとか言ってたし。


「ベー様! 置いていかないでください!」


 穴からミタさんや三人のメイドさんが現れた。まだ波が荒かったのによく接岸できたね。


「無理矢理接岸させました。クルーザーはベー様の力で頑丈になってますから」


 だからって無茶しすぎ。って言うだけ無駄か。無理矢理しちゃう方々だしね。


 結界を敷いて海面を歩く。


「なんなんだろうな、ここ?」


 広さは野球場くらいだろうか、崩れないよう石を組んで補強してある。


「人の手が加わっているのに、石碑や文字もありませんし、遺跡ではないと思うんですが、不思議です」


 とはレイコさんね。


「なんもねーのなら帰るか」


 海賊船とかお宝とか期待してたのに。クソ、こけおどしかよ。


「ねぇ、海の中に樹が生えてない?」


 なに言ってんだ? 海の中に樹なんて……ん? え? はあ? マジかよ!?


 プリッつあんが言ったように、樹が海の中に生えている。オレらはなんの不思議の国に迷い込んだんだよ!!


「……まさか、そんな、本当にあるだなんて……」


 驚愕する幽霊。そのまま昇天すんなよ。するなら説明してから昇天しなさい。


「海典かいてんの樹と呼ばれる世界樹の亜種です。魚人の国にあるとは聞いたことはありますが、それが真実かは伝わってないんです」


 世界樹の亜種、ね。まあ、世界樹そのものがファンタジー全開の植物だし、海の中に生えてても不思議……天元突破だが、ファンタジーの海はビックリバーン(これと言って意味はなし)。驚き過すぎて逆に信じられるわ。


「ちょっと潜ってみるか」


 ついてくる人、挙手!


 って尋ねるまでもないので、全員に潜水結界を施した。


「沈みま~す」


 三人のメイドさんはビクついたが、他は慣れたもの。平然としていた。


 イワシのような魚が逃げていき、視界をクリアにする。


「……確かに見た目は世界樹っぽいな……」


 ここが海の中とは思えないくらい普通に生っている。


「いえ、なにか金色の実が生ってますよ」


 レイコさんが指差す方向に、マジで金色の実が生っていた。


 大きさは桃くらい。形もなんか桃っぽい。ってか、桃だな。


 見た目、九〇パーセントは桃なんだから、もう桃でイイだろう。


「もしかして、天宝てんぽうなの?」


 また知らない名が。ほれ、驚いてないで説明してみんしゃい。


「不老長寿の実と呼ばれたものです。東の大陸では天女が食べるものと言われ、世に出回れば実一つで国が買えるとも言われてます。ただ、東の大陸の天宝は地上になる樹なので、海典の樹に生っているのが天宝とかはわかりません」


「ふ~ん」


 なんだ。そんなていどか。つまんねー。


「……まるで興味なし、って感じですね? 不老長寿の実ですよ」


「今時不老長寿なんて流行らんだろう。まだ便秘に効く実のほうが珍しいわ」


 あれ、南の大陸でも貴重で、世の女性が競って手入れようとしてるんだぜ。オレも欲しくて頼んだが、二つしか送られてこなかった。それが精一杯なんだってよ。


「べ、便秘って、あれ一つで国が買えるものですよ」


「土地があって人がいたら国なんて買う必要もねーだろう」


 維持費には結構な金が必要だけどよ。


「食いたいヤツがいるなら採ってきてイイぞ。オレは魚を捕るからよ」


 それよりオレは桃より魚が食いたい。なんかイワシのつみれ汁が食いたくなった。いや、イワシじゃないけど。


 結界網で一網打尽。コンテナを出して詰め込み、小さくして収納鞄に放り込む。


 それを三回繰り返しても魚が減った気がしない。どんだけいんだよ?


「こんなもんか」


 食うのはコンテナ一つ分。残り二つはブルー島に放とう。


「桃は採れたか?」


 ってか、動いた感じがしなかったが、採んなかったの?


「別に不老長寿とか興味ないし」


「あたしたち、これ以上長寿になっても大変なだけですから」


 長寿を喜ぶのは短命な種族か、毎日を後悔しながら生きてるヤツぐらい。オレたちには不要である。


「そっか。なら、ここは封印だな」


 この漁場はオレのもの。誰にも渡したりはせん。ゲヘヘ。


 サクッと壁を塞いで、その場をあとにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る