第169話 最強のヒロイン、参上
なんて効果的な正体バラシしたのに、モーダルは不敵な笑みを浮かべていた。
さすがと言うべきか、肝が据わっていること。タイプ的に世紀末に出て来る英雄だな。
「違和感の正体はそれか。フフ。その姿がしっくりくるな」
たまにいる直感派か。こう言う相手が一番厄介なんだよな。隠し事ができないからよ。まあ、その分、長々と説明しなくても直感で決断できるから話が早くて楽なんだけどな。
「悪かったな。騙していて」
「いや、構わんさ。事情は察せれるからな。とは言え、凄いものだな。見た目完全に老魔術師だったぞ」
「結構、練習したからな」
元となった老魔術師をよく観察して、何日か老魔術師の姿で過ごした。その後、ジジイしゃべりが抜けなくて大変だったのはイイ思い出である。
「そっちの魔女もか?」
「いや、オレだけだよ。大人が一人いれば怪しまれないからな。ちなみに、帝国の魔女──いや、魔女見習いなのは本当だぜ。交換留学生として預かってるのさ」
話が長くなりそうなので、無限鞄からワインとグラスを出してやる。オレはコーヒーを飲むけどな。
「べーは、いったい何者なんだ?」
「何者ととわれたら村人と答えるしかねーが、いろいろ巻き込まれた人生を送っているよ」
「巻き込んでいるのはあなたでしょうが」
「アハハ。その言葉でお前がどんな男かわかると言うものだな」
それでわかられたくないが、こう言うタイプに否定しても無駄だ。他人の言葉より自分の直感を信じるからな。
……まあ、オレも同じだけどよ……。
「まずはっきりさせておこう。あんたは、オレの話に乗るかい?」
モーダルの思いは決まっているのはわかる。だが、ララちゃんを証人にはっきりさせておく。帝国も巻き込むために、もな。
モーダルも一瞬で理解したのか、ララちゃんに目を向けてフフと笑った。
「悪どい男だ」
「オレは誰かを不幸にして幸せになろうとは思わねー。お互い、幸せになろうぜ、って男だぜ」
それぞれの誠意努力に期待はするがな。
「よく言う。だがまあ、利用されないだけマシか」
「利用したければどんどん利用したらイイさ。オレは構わねーぜ」
「そうしたらお前もどんどん利用するんだろう?」
当然と、コーヒーカップを掲げてニヤリと笑ってみせた。
「あくまでも同等、と言うことか」
「お互い様って、そう言うもんだろう?」
それがお互い幸せになろうぜ、ってことだ。
「帝国を侵略する気か?」
それ如何では敵になるって顔を見せた。
「友達の国を侵略する気はねーよ。ちゃんと対価は払うさ」
ラーシュが欲しがるものはいくらでも持っているんだからな。
「友達?」
「ラージリアン帝国の王子で竜王を倒した勇者さ。首都にいたなら噂くらいは耳にしてるだろう? 王子の活躍の裏に誰かいるとかよ?」
手紙には宮廷事情は書いてなかったが、内容から憶測や推測はできる。
継承権からも外れていた第七王子が急速に力をつけ、北の大陸のものを手に入れている。これが周りにバレないわけがねー。いろいろ調べるはずだ。
調べれば調べるほど噂は広まる。ラーシュ王子を支える謎の協力者がいるってな。
「……聞いたことはある。それがお前だと?」
「あんたの目で見たことが答えさ」
細かい証明を見せてもモーダルには確認できねー。だが、面と向かっているオレは見せられる。それで答え合わせしたらイイさ。
「……どこまで計算して動いているのだ……?」
「チェスはしたことあるかい?」
ラーシュに教えたら爆発的に広まったと手紙に書いてあった。
「あ、ああ。第六位以上の者は嗜みになっている」
僅か数年で嗜みとか、爆発的に広まってるな。帝国人のツボにハマったか?
「勝つために駒をいくつも用意して配置する。あとは状況に応じて動かすだけ。まあ、口で言うのは簡単だが、なかなか上手くいかないのが人生さ」
オレの予想では南の大陸にくるのはもっと先だったんだがな。
「その姿は本当の姿なのか?」
見た目に騙されんヤツを相手にするのは本当に参るな……。
「本当の姿さ。なかなか信じてもらえんけど」
わざとらしく肩を竦めてみせた。察しろと意味を込めて。こう言うタイプは自分が納得できれば真相は胸に仕舞うからな。
「そうだな。大体の者は見た目で判断するかな」
その見た目で苦労したのかな? オレの目にはコミュニケーション能力が低くて苦労したように見えるけどよ。
「お前が帝国の敵ではないのは理解した」
「忠誠心が高いんだな」
皇国に、と言うより特定の誰かに向けられてるような気がする。モーダルの性格を考えるとな。
「そう見えるか?」
「……女、か……?」
そう口にすると穏やかに笑った。
この性格からしてモーダルより身分の高い女だろうな。でなければ、悟り切ったような笑いなんかしねーよ。
「略奪は可能かい?」
「さてな」
と、遠くを見て笑った。
つまり、前途多難ってことらしい……。
「諦めるな。さらば与えられん」
略奪愛や寝取られはお勧めできんが、イイ形に収められるよう求めるのは許されるはずだ。たとえそれが妄想でもな。
「ふっ。ともあれ、お前の話に乗ろう」
ワイングラスを掲げるモーダルに、オレもコーヒーカップを掲げて応えた。
お互いニヤリと笑い、グラスとカップを鳴らし合った。
◆◆◆◆
なにはともあれ実績作り。モーダルの知名度を上げるのだ。
要塞の兵士数は二〇〇数人。そのうち半分は要塞維持に従事してるので、金目蜘蛛退治には百人くらいしか使えないってことだ。
「まあ、金目蜘蛛くらいなら五〇人もいれば充分さ」
「……二〇〇人いても苦しんでいたんだがな……」
「槍で戦ってたら千人いても苦労するよ。この要塞に魔法や魔術を使えるものはいるかい?」
「こんな田舎にはいないよ」
南の大陸は魔法のほうが進んでいるが、使えるものはそんなにいないらしい。
「なら、ララちゃんにやらせるか」
まずはモーダルの槍やら鎧やらを出してもらい結界改造。オーガなら百単位で相手できるくらいに仕上げた。
「ララちゃん。槍に最大の雷撃を流してくれ」
「だ、大丈夫なのか? これ、普通の槍だろう?」
「あ、確かに見た目がショボいな」
結界を外して横へポイ。昔、オレが作った見た目シャレオツな槍を出した。
「こっちに頼む」
「無駄に派手だな」
「英雄が持つにはイイだろう?」
言っちゃーなんだが、モーダルは精悍で体格はイイのになんか地味目なんだよな。洒落っ気のないオレが言うのもなんだが、もっとお洒落に気をつけたほうがイイぞ。
「ドレミ。エリナんところからサポートできるヤツを連れて来られるか?」
モーダルの立場が確固たるものになるまでは他種族を横には置けない。なるべく南大陸の者に見えるヤツのほうがイイ。
まあ、ドレミの分離体でもイイんだが、たまにはエリナにも働いてもらおうじゃねーか。腐嬢三姉妹(覚えてる? 引きこもり、骸骨嬢、エルフのリッチだよ)だけの腐れた関係ばかりしてると世界のためにならんからな。
「──こんなこともあろうかと用意しておりました。クフフ」
と、不気味ガール、アヤネが現れた。
「……なんでお前が来るんだよ……」
「クフ。べー様を支えるのがわたしの役目ですから」
そう言うのはいらんって言っただろうに……。
「誰だ? この少女は?」
「クフフ。お初にお目にかかります。わたし、コンゴウジ・アヤネと申します。お気軽にアヤネとお呼びくださいませ」
親からもらった名前で自己紹介しろや。いや、オレもアヤネで覚えちゃってるけど!
「そ、そうか。おれはモーダル・モアドだ。よろしくな」
こいつ、女には丁寧になるんだな。
「リオル、リアリー、出て来なさい」
と、南大陸人の男と女が現れた。
どちらも二〇歳半ばくらいで、人とは違う気配を放っていた。
「人造人間か?」
「はい。キョーコさんと同じですが、どちらもサポートに徹したスキルを持たせておりますよ」
キョーコって、あのマンションの管理人だっけか? 数度しか会ってないのにアウトよりだから忘れられないでいるよ。
「リオル、リアリー。モーダル様にご挨拶を」
「モーダル様、リオルと申します。あなたに忠誠を」
「モーダル様、リアリーと申します。あなたに忠誠を」
説明を求める目をこちらに向けてくるが、そんなものこちらに求められても困るわ。オレの想像から一〇〇光年ばかり外れてんだからよ。
「モーダル様。二人の周知はお任せください。しっかりとお伝えしますので。クフフ」
アヤネは転生者で、神(?)から超能力を願った。
底はわからんが、なかなかエグい超能力だったっけ。もしかしたらオレの結界に匹敵するかもしれんな……。
「……なにをする気だ……?」
「お伝えするだけですよ。クフ」
おそらく、催眠術的なものを使うはずだ。あいつのは黄金竜をも黙らせるからな。
アヤネの言葉に不穏なものを感じたのか、額から冷や汗を流していた。
「べー様。要塞のことはすべてお任せください。きっちりばっちり済ませておきますので。あ、スパイの尋問もしておきますね。リオル、リアリー、いきますよ」
「「はい、アヤネ様」」
クフフと笑いを残して部屋を出ていった。
「おい。本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫。安心しろ」
「なら、おれの目を見て言えよ!」
すまん。今のオレは自分を納得させるので精一杯なんだ。自分のことは自分でなんとかしてくれや。
「さあ、夜も遅いし、寝るとするか」
「おい!」
聞こえない聞こえない聞こえない。オレは寝るんだから聞こえなぁ~い!
「ララちゃんも猫も明日な~」
村人忍法、ドロン! &朝まで雲隠れ! 皆、グッナーイ!
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