第四章

第54話 今日も平和だ……。

 そうだ。島を探検しにいこう!


 なんかどっかで聞いたようなことを思ってしまったが、ここを中継島にしようと考えたのなら、一度見ておいたほうがイイだろう。


「あ、そう言や、カイナーズに調べてもらってたんだっけな」


 すっかり忘れったわ。未知な生き物と出会って殺されてないよね?


 ……いや、あれを倒すのがいたら、オレの勘が働いているか……。


「弱者を気にする強者はいないわよ」


 はぁ? なに言ってんの? 意味わからんのだけれど。


 と言うか、なんで頭の上にいるのよ。移動しないときは降りてるじゃない。いや、それだとオレ、完全にマジ○ガー的な扱い受けてるよね? ふざけんじゃねーぞ、畜生メルヘンが!


「エネルギー充填中? って感じ?」


 なんでもイイけど、心の声と会話するの止めてちょうだい。あと、オレから変なエネルギーは出ていません! 人聞きの悪いこと言わないでください! 


「ったく、謎のメルヘンめ」


「ベーに言われたらお仕舞いね」


 放り投げてやろうかと手を伸ばすが、人の頭を動かして回避する腐れメルヘン。も切れるわ!


 クソ。物体Xよりタチワリーぜ。


「ミタさん」


「──はい。なんでしょうか?」


 呼んだらすぐに現れる謎のメイド。誰かこの謎を解いてください。もし、不都合が有ったら黙っててください。オレは知るべきでない真実なら知りたくありませんので。


「島の様子、カイナーズから聞いてる?」


「いえ、まだ報告は受けてません」


 それは珍しい。想像以上にデカいのか、この島は?


「確認しましょうか?」


「いや、イイ。オレも探検に出るから伝えておいて」


 いきなり撃たれるのも嫌だし。


「わかりました。全探索班に伝えます。コーレンを出しますか?」


「んー。どうしようか?」


 もう未踏でもないし、変な生き物もいなさそうだ。コーレンで見て回るのもイイが、それでは探索とは言い難い。いやまあ、ガチの探索も嫌だけどよ……。


「島を一周してみるか」


 まずは島の大きさを把握して、島に乗り込むとしよう。なので、よろしくです。


「では、時計周りでいきますね」


 なら、炬燵を右舷側に向けますか。


 静かに発進して湾の外に出た。


 速度は四十キロ。風景を楽しみ、風を楽しむには適度な速度……なんだが、降り注ぐ太陽の光を浴びながら楽しみたかった……。


「プリッつあん。上のなに?」


「アネムよ」


 うん。知ってる。もう一生忘れないくらい、名前と体が一致したし。


「なんでついてくるのかな?」


 ってか、なんで未だに二十メートルなサイズなの? タケルはイイの? 真上を飛ばないでよ。景観台無しだよ。つーか、世界観が台無しだよ……。


「対象比が欲しいんじゃない?」


 なぜそれでクルーザーを選ぶ? 他にも対象比にしやすいのあっただろう。


「しかし、よく疲れないな。もう半日くらい飛んでんじゃねーか?」


 あれか? マグロと同じで止まったら死ぬのか?


「アネムは特に飛ぶのが好きだから」


 メルヘン機に乗って飛ぶのは、飛ぶのが好きに入るのか? 飛べればなんでもイイってことか? もう彼方に飛んでいきなよ……。


 なんかもう突っ込む気力も湧いてこない。イイ日除けができたと納得しておこう。


「波が荒いわね」


「そうだな」


 まあ、このくらいならまだ航行に支障はないだろう。外洋にも出れるクルーザーだし。


 雄大な自然を眺めながらコーヒーをいただくこの……なんだ。至福? 優越? なんかわからない感じを楽しんでいたら、日差しがさした。


 うん? と上に目を向けたらアネムが銃を両手に握っていました。


 そして、左右からなにかが現れる気配。見ればデッカイ銃を構えるメイドさんといろはさん。


 ……あぁ、ろくでも展開になるんだな……。


 なんかもう悟りを開いたような穏やかな気持ちで覚悟を決めた。


「左舷!」


 とミタさんが叫び、銃声が轟いた。


 背後なので、なにが起こったかわからないが、きっと尊い命が消えたんだろう。なんか水飛沫がスゴいですもん。


 海水が入ったコーヒーを炬燵に置き、無限鞄からタオルを出して顔を拭く。ちなみにプリッつあんは水飛沫がくる前に逃げてます。


「右舷、きます! いろは様は左舷をお願いします」


 なんかオレら、囲まれているみたいです。


 タオルを首にかけて、無我の境地に向けてダッシュする。


 四〇メートル先の海面が盛り上がり、ワニのような口を持つ巨大魚が飛び出した。


 ………………。


 …………。


 ……。


 その日、見も知らぬ命が大量に消されましたとさ。めでたしめでたしっと。


 あー今日も平和だぜ~。


  ◆◆◆


「……え、えーと、なに、この虐殺は……?」


 炬燵につかりながら平和を噛み砕いていたら、カイナが哨戒艇のようなものに乗って現れた。


「知らんわ」


 オレが止める暇なく銃撃を始めたんだからよ。


「やっぱり海はスゴいのが住んでるよね」


 それを虐殺する魔族のほうがスゴいわ。あと、巨大化させたメルヘンも。


「どうするのこれ? これ以上の肉食のがよってくるんじゃない?」


「お前の威圧で蹴散らせよ」


 少しはそのアホみたいな魔力を有効利用しやがれ。


「たぶん、それをやったら死の海になっちゃうと思う。前に一度やって、しばらく草木が生えなかったからさ」


 うん。こいつは勇者に滅ぼしてもらおう。


「お前は放射能か。しっかり管理してくれよな」


 爆発するなら宇宙で爆発してくれよ。


「大丈夫。魔力はカイナーズホームに変換してるからさ」


 それはそれで心配な気がしないでもないが、草木が生えなくなるよりはマシか。いや、マシか!?


「それより、これ、どうするの?」


「魔大陸にでも運んで大地の肥やしにでもしろ」


 生きてればエリナのエサにもできるが、死んでては肉としか使い道はない。だが、海竜や魚はもう腐るほどある。それ以上は不良在庫だわ。


「そうだね。そろそろ緑化もしないとならないし、肥料にするか。魔石はどうする? 飛空船のエネルギーになると思うけど」


「あ、そうだったな」


 そうだよ。海の生き物には魔石があるんだった。魔石がない地域に住んでると、そう言うのに疎くなるぜ。


「そっちで使わないならくれや。ちょっと使いたいことがあるからよ」


「また、なにかやる気?」


 なんだよ、その呆れたような目は? お前のほうが呆れたことやってんだろうが!


「魔道具販売だよ。ってか、今から魔大陸で魔石のある生き物を増やしていけ。そして、ヤオヨロズ国に輸出しろ」


 命はエリナに。魔石はおれに。今からそんなサイクルを作っておくのもイイだろう。


「……次から次と、よくそんなアイデアが出るよね……」


「思いつきなら誰でもできるよ」


 そのサイクルに持っていく者が賞賛されるべきだ。婦人とか婦人とか……婦人、ガンバって! そして、オレを見捨てないでね!


「その思いつきで救われている者にしたら、ベーの言葉を蔑ろにはできないよ。ヤオヨロズ国がいい事例じゃない。あれで救われた命は万単位でいるよ」


「まあ、それと同じくらい命がなくなってるがな」


 主に海の命が。まあ、人魚も凶暴な生き物がいなくなれば棲息域が拡大するのだから反論もできない。すべての命が報われない世界は無常だぜ。


「そうだね。食われないようがんばりましょう、だ」


 先に行きたきゃ強者たれ。弱者は食われるだけだ。


「それじゃ、すべて魔大陸に運ぶね。魔石はミタさんに渡しておくから」


「任せるよ」


 オレの今生、任せることで成り立ってると言っても過言ではない。よきにはからえ、だ。


 カイナが消えると、四方に浮いていた死屍累々も一斉に消えた。


「……自分の能力をどう使おうが勝手だが、もうちょっと有効な使い方しやがれ……」


 まあ、あそこまで無駄に使うのも見事だとは思うけどよ。


「ところで、プリッつあん。上のお方はいつまで巨大化してるの?」


 ブンブンバンバンうるさいんですけど。


「まだ血が滾ってるから、もうしばらくはあのままなんじゃない」


 狂戦士か! つーか、呪われてんじゃねーの? 変な銃が混ざってたか?


「飽きるまで放っておけばいいわよ。弾がなくなれば降りてくるでしょう」


 ったく。休まる暇もねーな。


「ミタさん、島一周の続き、よろしく」


 出発三〇分もしないで目的を忘れそうになるとか、この島こそが呪われてんのかもな。


「ベー様! あれを!」


 はいはい、わかってますって。フラグでしょ。オレが言ったからでしょ。呪われてるのはオレだって言いたいんでしょ。わかってるって。クソ!


 もう諦めの境地で炬燵から出て、ミタさんが指差す方向を見る。


 ………………。


 …………。


 ……。


「また、ベタな展開がきたもんだな」


 ため息一つ吐き、炬燵に戻る。あ、ミタさん、コーヒーお願い。


 すぐに出されるコーヒーを飲み、次の展開に向けて一休みすることにした。


 はぁ~。コーヒーが不味い……。

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