第61話 命は平等ではない

「──なんじゃこりゃーっ!?」


「腕だよ」


 なくしている間に忘れたのか?


「知ってるわっ! おれが訊いてんのはなんで腕が生えるか訊いてんだよ!」


「幻肢痛を治す副次的効果かな?」


「副次じゃねーよ! メインだよ! ど真ん中だよ! 一発逆転ホームランだよ!」


 アハハ。オレとの会話でそこまで使いこなすとはやるな、親父さんよ。もっと覚えてオレと楽しい会話をしようぜっ。


「あーもー、なんてもんを飲ませんだよ……」


「いや、決めたの親父さんじゃん」


 オレは選択を示しただけだぜ。


「ふざけんな!」


 真面目にやっても怒鳴られるのが薬師業。切ないわ~。


「まあ、そんなことはどうでもイイんだよ。幻肢痛は治ったからいくぞ」


「腕をなくしてからのおれの葛藤はどうでもよくねーんだよ! これでも夜中、誰もいないところで泣いたんだぞ」


「人生なんてそんなもんだよ」


 オレも前世では泣いたものさ。で、転生したらあいつは幸せに生をまっとうしてるし、オレの前世はなんだったんだとコーヒーをがぶ飲みしたものさ。


 ……久しぶりのゲ──腹痛はとても痛かったです。薬飲んですぐに治したけど……。


「ったく、こんなことが知れたら大騒ぎだろうが!」


「それを狙ってのことだ。うちにはそんな薬がありますって宣伝するためにな」


 成功例がなければ噂は広がらないし、信じてももらえない。


「荒れるの承知か?」


「そのためのご隠居さんを巻き込んだ」


 この近辺ならご隠居さんの力は周知されてるだろうし、マフィアが絡んでいると知れば裏の者に牽制ができる。


 販売は島なので荒れても周りに迷惑はかからない。荒れたところでカイナーズが沈める……静めるだろう。


「お前はなんの黒幕だよ」


「愛と平和を望み、オレが幸せであるように暗躍──ではなく願ってる男だ」


「お前は波乱と困惑しか生んでねーわ!」


 それは見解の相違ってやつさ。まあ、踊らされているヤツらは大変だろうけどな!


「知られたこと前提に動いているから心配すんなって」


「なに一つ心配できることなんかねーよ。人が大勢死ぬぞ」


「命を無駄にしたいのなら勝手にしたらイイ。この世はそんなアホに優しくねーんだ、必死に生きてる者のために死にさらせ」


 命を救うために命を奪うなんて許されない! とか言いたいのなら勝手に言えばイイ。だが、命を救おうとしてるヤツと奪うヤツをいっしょくたにすんじゃねー。


 それは別であり、救う側の責任じゃねー。奪う側の責任だ。区別もできねーアホの言葉に従う必要はねーんだよ。


「命を救う側に奪う側を配慮することなんてなにもねー。否定したきゃ否定しろ。だが、オレはオレの考えを曲げたりはしねーぞ」


 我を通すために力をつけ、味方をつくり、金を稼いでいるのだ、そう簡単には覆されると思うなよ。


「……そう、強く生きられるお前が羨ましいよ……」


「真似したきゃ真似しな。親父さんの後ろにはオレがいんだからよ」


 目一杯威圧してやるよ。二度と反抗しないようにな。ケッケッケ。


「……そりゃ頼もしいこった……」


「──でしたら、総督にも護衛をつけてください」


 と、秘書のおねーさんが割り込んで来た。なんかあったのかい?


 なにか言おうとした親父さんを結界で黙らした。


「間者らしき者に総督府を探られました」


 出るとは思ってたが、もうかよ。早いな。


「まだ重要な情報は盗られてはいませんが、総督の腕が治ったとわかれば誘拐される恐れもあります」


「備えるベき案件だな」


 親父さんには結界を纏わせてあるので命を失うことはなかろうが、周りには纏わせてない。重要なのは親父さんだからな。


 だが、親父さんの心を守るのも必要か。仲間や家族の死を心の奥に溜めそうなタイプだし。


「セキュリティを整えるか」


 身分証明書や人物特定、不審者が入らないようにしたり、警備員を配置したり……オレではわからんからミタさんに相談するか。カイナーズにもSPとかいるかも知れんし。


「今後の課題として考えておく。今はいるヤツらで対処してくれ。一応、この部屋に罠を仕掛けておく。親父さん以外が触ったら発動するから職員に通達しておいてくれや」


 この部屋の壁にわざとらしい金庫(結界で創りました)を置き、触れたら動けない結界が発動するようにしておく。


「……わかった。カレラ、しっかりと通達しておいてくれ」


「わかりました。お任せください」


 できる秘書ってカッコイイよね。欲しいとは思わないけど。管理されるとか嫌だわ。


「じゃあ、いこうか」


「いきたくはないが、いかざるを得ないか……」


「無理しなくてはイイぞ。オレは無理強いは嫌いだからな」


 嫌だと言われたらオレは素直に諦めるぜ。


「お前の計画を知らないほうが余計に苦労するわ! これはおれの意志だ。連れていけ!」


 だったらヤケクソ気味に言うなよ。オレが騙してるみたいじゃねーか。


 まあ、誘導してるのは認めるがな!


 心の中でニヤリと笑い、親父さんの腕をつかんで島へと転移した。


  ◆◆◆


 園花館の玄関前に出現する。


 玄関前にはダークエルフの男と武装した赤鬼さん、そして、サキュバスなメイドさんがいた。


「親父さんを連れて来た。服を頼む」


「畏まりました。ブラーニー様、お部屋にご案内させていただきます」


 戸惑う親父さんの背中を押してやり、メイドさんに任せた。


 よし。ミッションコンプリート。オレ、イイ仕事した! と満足して回れ右。さて、我が家に帰るべ。


「なに帰ろうとしてんの」


 なにか後ろから頭をわしづかみされ、園花館へと引きずり込まれてしまった。止めて~!


「やっぱり逃げようとしてたよ、この丸投げ村人は」


 さっきまで座ってた椅子にものでも置くように座らされた。チッ。


「なんでもかんでも丸投げするな! 最後まで面倒見るさね」


 丸投げしてこそオレだ! とか主張したいところだが、空気が読めるオレは口を開かない。言ったらその何倍も返って来そうだから……。


 プリッつあんのウザい蹴りを顔面に受けながら、出されたコーヒーをいただく。ってか、腹減ったな。そう言や、朝、食ったっけ?


 なんか摘まみながら作業をしていた記憶はあるが、まともに食った記憶がない。まあ、いつものことだろうと言われたらそうなんだけどね。


「ミタさん。みたらし団子ちょうだい」


 あと、炊きたての餅も。メルヘンを包んでプリ大福にしてやるからさ。


 蝶のように舞うメルヘンを捕まえようとするが、蜂のように攻撃して来るのでなかなか捕まえられない。誰か殺虫剤持って来てー! 


「静かにする!」


 カイナが投げたカップがオレの額に直撃する。痛い~!


 手加減しただろうが、魔神の肉体を持つアホ。五トンのものを持っても平気な体を超えて衝撃をもたらしやがった。


 ……なに、この理不尽は……!


「それでは、初めようか」


 額を押さえて苦しんでるオレを無視して、なんか会議だかなんだかが始まった。オレ、本当に必要か?


 いない子扱いされてるのに、オレがいる必要ってなによ? いじめか? 無視すんなら帰らせろよ。


 誰も目を合わせてくれないので、いつの間にか出されてたみたらし団子をいただくことにした。あ、緑茶ちょうだい。


「まず、決めるべきは島の名前、そして、代表かな?」


 珍しくも司会を担当してるカイナ。お前、そんなキャラじゃないだろう。


「どこかのバカがやらないからでしょう」


 みたらし団子を食べるメルヘンがなんか言ってますが、意味がわかりません。まあ、知りたいわけじゃないのでサラリと流しますけどね。


「島の名前はゼムさんたちで決めてよ。町を仕切るんだし」


「よろしいので? 皆様を差し置いて」


 いぶし銀のおっちゃんが遠慮気味に口にした。


「ベーが関わっていることに上下も貴賤もないよ。あるとすれば仕事量の大小だろうね」


 カイナの言葉に婦人が力強く頷いた。うん、まあ、それはオレも認めよう。できるヤツに押しつけてるし。


「島の名前はゼムさんに任せるとして、代表を誰にするかだけど、やっぱりレイレットさんだよね。風格あるし、荒事にも慣れてるしさ」


 だったら、マフィアだってカイナーズでもイイじゃねーか。なにが違うんだ?


「そうですな。あっしもそれでよろしいかと」


「わたしも構いません」


 いぶし銀のおっちゃんも婦人も承諾した。なぜよ?


 まあ、オレにも異論はねーが、なぜ皆がミタパパが承諾されるかがわからねー。


「わたしでよろしいのか?」


 ミタパパもわかってないようで、片眉をしかめてカイナに尋ねてる。


「ベーが選んだ時点で決まったようなものだけど、レイレットさんは領分を侵さないし、集団を纏めて来た経験もあるからね」


 それは、マフィアもカイナーズも同じだろう。なにが違うんだよ。


「マフィアは裏で暗躍するもの。うちは表に出て力を示すもの。その中間に立てるのはレイレットさんしかいない、ってことさ」


 なるほどな。言われてみたら確かにだ。カイナのくせによく考えているじゃねーか。ってか、そう言うことができんならオレを巻き込むなや。


「言っておくけど、すべてはベーがいてこそ。ベーがいなけりゃこんなにスムーズには動かないからね」


 カイナのジト目をサラリと流す。


「わかった。わたしが代表となろう。だが、わたしはベー様より預かった園花館を優先させてもらうぞ」


「あっしはそれで構いやせん」


「カイナーズもそれでいいよ。ただ、代表を立てることはさせてもらうよ。この島の顔なんだからね」


「では、レイレット様とゼルフィング商会は分けたほうがよろしいですね」


 主要メンバーが話し合い、島の取り決めが築かれていく。


 オレも島のことに口を出す気はないので右から左へと聞き流す。


 つーか、もう島のこととして話が進んでんだから解放して欲しいんだけど。


 そう声を大にして言いたいが、空気を読め、空気になることができるオレは明鏡止水(現実逃避)。ただ、時(嵐)が過ぎるのを待つだけである。


 あー今日の夕食なにかなぁ~?


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