第75話 マジサイコー

 プリッシュ号改を先頭に八隻の飛空船がやって来る。


 もちろん、プリッシュ号改は人のサイズになっており、率いる飛空船も人サイズだ。だが、そのうちの一隻がやたらとデカいのだ。


 プリッシュ号改を人のサイズに合わせようとしたら三〇メートルくらいにはなる。正面から見たら横は二〇メートル(これは左右に回転翼があるからだ)。高さは一五メートルくらいだろう。


 その状態のプリッシュ号改を基準として背後にいる飛空船は五〇メートル級の、たぶん、輸送船だろう。同じ形だから。


 だが、デカい船は横も高さも三倍あり、もう浮遊島と呼んでもイイくらいである。


「なに、あれ? 島を改造したのか?」


博士ドクターがヴィベルファクフィニー号って言ってたよ」


 はぁ? あれが? オレが作っていた形とまったく違うぞ。どこで改変があった!?


「まあ、竜機や戦闘機が離発着できるようにするにはあのくらい大きくしないとならないしね」


 なにサラッと言ってんだよ。オレが作ろうとしてたのは遊覧船だよ。空母じゃねーんだよ。つーか、あんなのなにに使えって言うんだよ。コンセプトなによ?


「べー乗るだけだけなんだし、別にいいでしょ」


 ま、まあ、船で寛ぐのが目的だから構わんのだが、あそこまでデカいと船感ねーだろう。


「あと、中にカイナーズホームの支店を出したからよろしくね」


「それはもうカイナーズの船だろう。カイナーズでやれよ」


 カイナーズ号って名前にしろや。オレの名を使うなよ。オレ、なに一つ関係ねーじゃん。


「そこはべーが活用してよ」


「なんの丸投げだよ。せめてどうしたいかを言えよ」


 オレに丸投げするとかイイ度胸だな。まあ、オレクラスになるとそれをさらに丸投げするけどな。


「従業員を働けるようにして」


 根本からかよ。丸投げにもなってねーよ。


「ったく。遊覧船が移動販売船かよ。しばらくはヤオヨロズとハルメランの往復で稼ぐしかねーか」


 まだ一都市としか交易約束を交わしてないが、いずれ他の都市にも話が伝わるはず。それまでは細々とやるしかねーだろう。


「とにかく、この都市にカイナーズの拠点を創って名を知らしめろ。魔物駆除や盗賊退治とかして。軌道に乗ったら都市の外にカイナーズホームを造れ。外なら税金も安いだろうし、商売の住み分けもできる。ただし、儲けすぎるなよ。あくまでも傭兵会社としてやっていけ」


 一人勝ちは反感を買う。持ちつ持たれつがイイ関係だ。


「往復計画は婦人と相談しろ。ついであんちゃんも巻き込め。市長代理殿にはオレから話しておくからよ」


「婦人とアバールに恨まれそう……」


 大丈夫。お前は厄災みたいな生き物に噛まれても死なないんだからよ。オレは普通に死ぬので安全なほうを担当させてもらいます。


「ってか、あんなデカいの降りられるのか?」


 いや、浮遊石を使っているだろうから降りられはするだろうが、よくあんなデカい図体を維持できるよな。どんなファンタジー理論が働いてんだよ?


「そこは博士ドクターと小人族の技術を信じていいと思うよ」


 疑ってるのは博士ドクターの性格だ。なんかマッドな感じに爆走してる感じだからな……。


「産業革命が起こる前に宇宙革命が起こりそうだ」


「宇宙か。いいよね。おれ、宇宙の戦士も好きなんだ。全方位敵に囲まれるとか燃えるよね!」


 だったら魔王を名乗れや。勇者ちゃん唆して全方位から攻撃させてやるからよ。


 アホはとりあえず放置して、着陸したプリッシュ号改の元へと向かった。


 着陸したプリッシュ号改から武装したメイドさんと、タケルとカーチェ(あと諸々)が降りて来た。


「お前らまで来たのか」


「う、うん。まあ……」


 なにやら歯切れの悪いタケル。なんだい、いったい?


「PTSD。急性ストレス障害だよ」


 と答えたのはカイナ。お前よく知ってんな。高校で習うものなのか? オレはテレビで知ったけど。


「まあ、あんなのと戦ったらそうなるわな」


「そうだね。あれはなっちゃうよね。アハハ」


 それは相手がなっちゃうって意味の笑いか? つーか、お前の笑いのツボがわからんわ。


「……他人事だと思って……」


「アホか。死は平等だ。特別な……ヤツが目の前にいたな。お前って死ぬの?」


 殺しても死ななそうだけどよ。


「どうだろう? 前の持ち主は一万年くらい生きてるとか言ってたけど」


「確かに魔神だな。厄災とか起こしてくれるなよ」


 犬の様な竜はこいつに弟子入りしたほうがイイんじゃね。百年も学べば厄災竜とかになれんだろう。


「起きても最強の村人さんが吹き飛ばしてくれるから大丈夫さ」


「そうね。神を恐れぬ傍若無人の村人だもん」


 と、元のサイズと衣装に戻ったメルヘンがオレの頭にパ○ルダーオン。


 酷い言われ様だが、まあ、そんな暴言も今は心地イイ。なんだか元に戻ったって感じだぜ……。


  ◆◆◆


「で、この船団の代表か責任者って誰だ?」


 つーか、よく船団を組織できるほど人がいたな。小人族か?


「あ、ダルンを呼んで来て」


 そう部下に指示し、連れて来られたのは二人のドワーフ……ではねーな。身長は高いし、体格もイイ。前世ならこれぞドワーフって感じだがよ。


「こちらシュードゥ族の代表のダルン。そっちは船団長のバージャだよ」


 シュードゥ族? なんか前に聞いたな。なんだっけ?


「広場に温泉を掘り当てた種族だよ。土魔法と物作りが得意な種族さ」


 あ、ああ、アレな。思い出した思い出した。ってか、これが初対面か。これまで見なかったが少数種族なのか?


「ダルンと申します」


 と、髭もじゃの老ドワーフ……ではなく老シュードゥ。


 エルフほどではないが、ドワーフも結構長命種。オレが聞いた話では三百年生きた者もいるらしい。


 この見た目から歴戦の猛者だったのだろうし、一線を退いてからの苦労が老獪さを出している。少なくとも二〇〇歳は軽く越えてるだろうな。


「船団長のバージャです」


 こちらは若い。と言っても見た目は五〇半ばくらい。体格のよさもさることながら気配が現役の猛者。戦斧を持たせたら一騎当千をしそうだな。


 ……ってか、物作りが得意な要素どこよ? 破壊が得意って要素しか見えないんですけど……?


 まあ、そんなことはどうでもイイ。今になって出て来た理由はなんなんだ? 物作りが得意ならもっと早く出して来てるはずだ。


「端的に言えば種族問題、かな?」


 種族問題って、また厄介なことを押しつけてくれてんな。お前が力で抑えろよ。それだけの力があんだからよ。


「シュードゥ族とクルフ族って仲悪くてさ、おれの言葉、全然聞いてくんないんだよ──」


 特にシュードゥ族が、って続きそうなセリフを慌てて飲み込むカイナ。ほんと、こいつは指導者に向いてねーよな。


「べー、なんとかして!」


 拝んで来る魔神様。拝まれるのお前だろうが。ったく。


「何百年何千年と続くいさかいか知らんが一朝一夕でなんとかできるわけねーだろう。オレをなんだと思ってんだよ」


 どんな名君だろうと種族問題、民族問題は解決できてねー。したと言うバカは滅ぼしてるか力で抑え込んでるかだ。融和なんて言ってる指導者は頭に蛆が涌いてるか夢物語を語ってるだけだ。


「よっ、村人の中の村人! 最強村人! 世界を一〇〇人の村と例えたらでお願いします!」


 なんだよそれ? 世界を村で例えんなよ。例えたところで問題解決には一ミリも届いてねーわ。


「クルフ族と仲良く、とは言わないよ。ただ、シュードゥ族にも希望を与えて。おれじゃ無理」


 無理なら抱え込むなよ。まったく……。


「ヤオヨロズじゃダメなのか?」


 仕事ならたくさんあんだろう。あの腐王やる気ねーんだからよ。


「なんと言うか、ちょっとあってね」


 ちょっとではないことがあったってことか。ったく。血の気が多いのしかいねーな、魔族ってのは。


 まあ、温厚な種族もいるだろうし、一緒くたにはできんが、問題を起こすのは力の気が多いヤツ。押しつけられるこっちは堪ったもんじゃねーよ。


 ため息一つ吐き、老シュードゥを見る。


 これがクルフ族憎しで動いてんなら「知るか!」と捨て置くんだが、老シュードゥからは苦悩しか見て取れねー。


 この老シュードゥもわかってはいるのだろう。このままでは滅びると。だが、長年の確執により和解するのも融和することもできない。八方塞がり。助けてくださいと、他にすがるしかないのだろう。


 ……一歩間違えればこちらに憎しみが来るとか止めて欲しいぜ……。


「つまり、クルフ族じゃなければ頭は下げられんだな?」


 嫌だと言うなら即刻お帰りくださいだ。


「はい。一族が生き残れるのなら」


 でなければ頭は下げんと言わんばかりだな。まったく。位の拗れた種族は厄介だぜ。


「……天がハルメランに救いを与えたか、それともシュードゥ族に救いを与えたか、まあ、決めるのも築くのもオレじゃねーか……」


 できればオレにも救いをいただきたいものだ。オレ、最近苦労ばかりしてるよね? 報われてもイイよね? それに見合うスローなライフをオレにくれても罰は当たらないよね、神様~!


「え? なんとかなるの!?」


「……それはシュードゥ族次第だ。得たものを活かすか潰すかはな。オレができるのは口添えだけだ。シュードゥ族をハルメランに移住させてください、ってな」


 黒丹病で死んだ者には申し訳ないが、ハルメランには人口に空きができた。それは都市としての機能どころか維持にも支障をきたすほどにだ。


 移住者を求めるにしても他の都市からは避けたい。どうせ来るのはスラムの住人か都市の息がかった者だ。許すことは乗っ取られるのと同義だ。


 ……まあ、シュードゥ族の移住も侵略と受け取られる恐れどころか必ず問題になるだろうけどな……。


「まず都市に住む者の信頼を得ろ。この都市の住人であることに誇りを持て。ここが自分たちの故郷だと慈しめ。ただし内には籠るな。そして奢るな。繁栄は外にしか広がらない。ここがあんたらの再生の地だ」


 それもシュードゥ族次第。繁栄したきゃ常に誠意努力だ。


「シュードゥ族を代表してべー様に感謝申し上げます」


「ありがとうございます」


 頭を下げる老シュードゥと船団長。そして、背後にいるシュードゥ族も頭を下げた。


「感謝はもらった。さあ、頭を上げろ。苦しんでいる同胞を救え。故郷を再建しろ。ハルメランの民であることを自ら示せ」


 おおぉっ! シュードゥ族が空気を揺るがすほど叫んだ。


 ハイ、これにてハルメランはヤオヨロズ王国の属国となりましたとさ。めでたしめでたし。


「うん。べーの中ではね」


 君の突っ込みマジサイコー。そして、突っ込みマジサンキュー。


  ◆◆◆


 さあ、市長代理殿とお話しなくちゃと意識を切り替えようとしたらカーチェが割り込んで来た。なによ?


「いやいや、船長のことを忘れないでくださいよ!」


 船長? ああ、タケルね。なんかしたっけ?


「ストレスなんとかですよ! これでは冒険に出られません!」


「休暇と思えばイイだろう。お前はもっとゆっくり生きろよ」


 まったく、この変人エルフにも困ったもんだ。親父殿との冒険を合わせたら三〇年近く冒険してるだろうに。飽きんのか?


「わたしは冒険がしたいんです! ゆっくりするのは三百年先でいいんです!」


 うん。その前にタケルは死ぬから。いや、精神が死ぬか。ほんと、ちゃんと手加減しなさいよ。


「……ごめん……」


 小さく謝るタケル。オレは別に謝るほどでもないと思うんだがな。


「生きてりゃ怖いことの一つや二つは出て来るもんだ。ましてや自分や仲間の生死に関わることを経験したら萎縮もする。恥じる必要はねーよ」


 逆にそこで萎縮しなきゃ人として終わってるわ。


「とは言え、タケルに紹介したのはオレだし、放置と言うわけにはいかんか」


 オレ的にはゆっくり乗り越えていけばイイと思うし、このまま潜水艦を降りるのもオレはありだと思う。


 人生、挫けることはある。オレも前世は挫けて人生を棒にした。そんな人生があるから今生を楽しめているんだ、否定はできんだろう。


 冒険することはカーチェが決めたこととは言え、巻き込んだのはオレだ。責任はある。知らん存ぜぬではいられんだろう。


「カイナんところで鍛えてもらうか?」


 手短な解決法はそれだろう。


「おれは構わないけど、さらに悪化すると思うよ。うち、メッチャハードだから」


 まあ、血の気の多いのが集まってるしな、前世の肉体のままで放り込んだら肉体の前に精神が死ぬだろう。


「普通に森にでも放り込めはいいんじゃない。タケルが死なないギリギリのところなら知ってるよ」


「そうだな。森は人を育ててくれるし」


 森で生きていた獣たちよ。オレの糧になってくれてありがとう。君たちのことは死ぬまで忘れないよ。


「べーの価値観は非常識なので却下してください。べーはオーガの群れを笑いながら追いかけて撲殺する村人なんですから」


 いや、オーガの皮って結構イイ値で買い取ってくれんのよ。もう笑いが止まりませんがなってくらいにな。


「それでか! ボブラ村周辺がやたら平和なのは! 他の村や町の冒険者ギルドでは必ずオーガ退治の依頼があるのにボブラ村ではないんだもん」


「魔物だって恐怖は感じます。オーガが命乞いしてる姿、初めて見ましたよ」


 ヤダ。皆が白い目でオレを見てるんですけど。止めてっ!


「とにかく、その提案は却下でお願いします」


「そ、そうだね。ごめん。ほら、べーも謝りなよ」


 いや、なんで謝らなくちゃならねーんだよ。オレは至極まっとうな提案をしただけなのに!


「だったらタケルがやる気を出すまで待てよ。無理矢理は歪みを生むぞ」


 トラウマとか恐怖は自分で乗り越えないと意味はねー。ましてやタケルは平和の中で育ったヤツだ。オレみたいに赤ん坊からこの世界で鍛えられてはいない。ちょっとのことで精神を拗らせるだろうよ。


「タケルには段階を踏ませるべきだったな。そこはオレの失敗だ」


 過保護と言われそうだが、この世界で生かそう(あ、活かそう、ですね)と思ったらタケルを段階的に育てるべきだった。前世の常識を知りながら活かせなかったオレのせいだ。


「……段階か……」


 と、なにか考えてるカイナが呟いた。なんだい、いったい?


「ロールプレイング法がいいかもしんないな」


 ロールプレイング法? なにそれ?


「まあ、おれが学んだのは学習法だけど、タケルにはいいかもしんないね。無理矢理異世界転生~その世界が現実だとタケルだけが知らない! って感じ?」


 なんだよそれ? でも、なぜか言わんとしてることは理解できた。


「夢魔族に催眠術をかけてもらって異世界に転生したと思い込ませる。さすがに体一つじゃすぐに死んじゃうから神様特典として銃を出せる能力とネットスーパー的な能力をつける。拳銃と一〇万円分をつければ大丈夫でしょう」


 拳銃はなんとも言えんが、一〇万もあれば二、三日は生きられるか。前世のオレなら二ヶ月は生きられる自信はあるぜ。


「念のためうちからサポートを出すとして、最初の村にはタムニャでも配置すればいいか。あとは、町に向かう途中でカーチェと出会わせて仲間にすれば大抵のことは対処できるでしょう」


 カーチェも個人でA級資格は持っている。火竜までなら敗けはしないだろう。


「半年か一年くらい冒険させて、最後に魔王でも出せば結構イケると思うんだ。どうかな?」


 フム。それならタケルにちょうどイイかも知れんな。自然な流れで命のやりとりができるのが最高だ。


「カーチェ。タケルの実力にあった場所はないかな? これから冬だから雪が降らないところが望ましいんだけど」


「……ボブラ村から遠くなりますが、あります。村も貸しがあるので協力してくれるでしょう」


「さすが赤き迅雷の一員。さすがだね」


 親父殿と出会う前から冒険してただけはある。タケルにつけたことだけは間違ってねーな。


「え? あの、ちょっと! なんか話がその方向にいってるんですけど!」


 うん。主役は黙ってような。もうちょっとで話が終わるからとタケルの口を結界で塞ぐ。


「よし。まずは現地調査だね。べー。ここはお願い。おれの代わりにカホを置いていくからさ」


 と、なんかクールな感じの青鬼レディーに目を向けた。


「カホと申します。お見知りおきください」


「あ、はい。よろしくお願いします」


 なんか知らん気迫に押されて下手に出てしまった。うん。敵にしちゃダメなレディーだ。


「よし。いくよ!」


 潜水艦チームを連れてどこかへと転移するカイナ。いや、魔神様。とにもかくにも神とは無常だぜ。


 ハイ。皆でタケルの成長を願いましょう。合掌!

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