第九章

第147話 水着回?

 転移した先は、白い砂浜だった。


「おー綺麗な海だな~!」


 マリンブルーとはこのことを言うんだろう。南国感全開だぜ!


「これで晴れてたら最高なんだろうけど」


 生憎の曇天。まあ、しょうがねーか。天候は時の運だしな。


 回れ右すると、ヤシの木っぽいものが聳え立ち、その奥には濃い緑のジャングルが広がっていた。


「ここを港にするのか?」


 ビーチにしたほうがイイんじゃねーの?


「港にするのは反対側よ。ここは海水浴場にするらしいわ」


 お、シーカイナーズにはわかってるヤツがいるじゃん。


「晴れたら海水浴でもするか」


 村では砂浜が少なく、海水浴したら海の衆に怪訝な目をむけられ、岩場を改造しての海水浴だった。


 こう言う白い砂浜での海水浴をしたかったんだよな。


「ってか、ジャングルに生き物はいんのか?」


 またウパ子みたいのがいるとか止めてくれよ。


「猪みたいのはいたみたいよ。遠くに陸地があるから泳いで来たんじゃない?」


 陸地? また回れ右をして目を細めて見るが、陸地なんぞ見えんかった。


「晴れたら見えるわよ」


 ってことは十数キロくらいか? それなら泳いで来れるか?


「海には危険なのはいんの?」


「そこまではわからないわ。二日しか滞在しなかったから」


 まあ、ウパ子みたいなのじゃなければなにがいてもイイさ。


「そう言や、ピータやビーダを放ったらかしたままだったな」


 あれ? どこに置いて来たっけ?


「ジャウラガル族のところで野生に戻っています」


 ああ、トカゲさんのところか。なら、問題ねーな。


「港までの道はあんのか?」


「ないわよ。そんな余裕なかったみたいだしね」


「ここからバルザイドの町まで何日かかった?」


「ん~? 二日くらい、かな?」


 二日くらいか。そこそこ距離はあるんだな。念のため、転移結界門を設置しておくか。


「港にいってみるか」


 土魔法で道を築きながら港へと向かった。


 小さな島なようで二〇〇メートルほどで港へ──いや、港を見下ろせる場所へとと出た。


「港にするには不便じゃね?」


 こちら側は岩場で波も荒い。波消しブロックや防波堤を設置しないと大変だろうよ。


「空母に戦艦か。よく海を越えて来れたもんだ」


「三隻ほど沈んで二隻が座礁したみたいよ。人は死んでないけど」


 元の世界なら軍事裁判ものだな。


「よし。港はカイナーズに任せて砂浜に戻るか」


 いつまでも見てたらオレもやりたくなるからな。さっさと離れるとしよう。


 せっかくだからとジャングルを探索したが、これと言ったものはなく、小川が数本あるだけだった。


「う~ん。飲み水がねーか。これは溜め池を造ったほうイイか?」


 って、イカンイカン。気持ちが島改造に向かってるよ。これ以上、寄り道脇道してたらプリキックを食らってしまう。


 メルヘンに屈したりはしないが、メルヘンの背後にいる者には土下座でへつらう所存である。


「よし。ここをキャンプ地とする」 


 砂浜を右足で叩き、砂で海の家を創り出した。


「ミタさん。パラソルとか持ってる?」


 あと、リゾートにあるリクライニングチェアだがベッドだかがあると助かります。


「はい。あります」


 持っているとは確信してたけど、どう言う理由で持ってたかは理解できんよ。


「じゃあ、お願い」


「畏まりました」


 カラフルなパラソルやリクライニングチェアだかベッドだかを出してくれ、なぜかシャレオツな屋台まで出した。


 まあ、なにか食うものを出してくれんだろうと軽く流しておく。


 結界で更衣室を創り出し、中に入って海パン(トアラ作)にアロハ(トアラ作)に着替え、結界サングラスをして更衣室から出た。


「よくわからないけど、三日間は休むってことでオッケー?」


 誰だ、メルヘンにオッケーとか教えたヤツは!


「ああ、オッケー牧場」


 なんかムカついたので、昭和生まれにしかわからない返しをしてやった。


「……そう。ちょっとカイナーズホームにいって来るわ──」


 転移バッチを発動してカイナーズホームへと飛んでった。水着でも買いにいったのか?


 まあ、なんでもイイや。


「カイナーズが山岳隊を組織するまでここでゆっくりするから」


 リクライニングチェアだかベッドだかに寝っ転がり、しばしのバカンスと洒落込んだ。


  ◆◆◆


 弱肉強食な異世界の南国は平和だった。


 クルーザーやシーカイナーズの偵察艇が海に出てるが、凶悪な生き物は現れてない。南国っぽい魚が泳いでいるだけだ。


「こんな平和なところもあるんだな」


「べーの頭の中も平和じゃない」


 毒舌メルヘンが鬱陶しいです。


「べー様。アイスコーヒーです」


「あんがとさん」


 なぜか水着姿のミタさんから氷いっぱいのアイスコーヒーをもらった。あー旨い。


「ってか、なんで皆水着なの?」


 メイドさんはもちろん、魔女さんたちまで水着になっている。


 ……なんの水着回だ……?


「べーだって水着じゃない」


 いやまあ、そうだけど、TPOを考えてのことだよ。南国の海で村人ルックは似合わんだろう。


「あと、なんで君はスクール水着なの?」


 胸にプリってゼッケンまでつけてよ。どこのバカが製作したんだよ?


「エリナからもらったの」


 あの腐嬢か! ほんと、碌なことしねーな!


「結構着心地いいのよ。羽も水着の中に収納してくれるんだ」


「能力の無駄遣いだな」


 まあ、オレも能力を無駄に使ってるが、あの腐嬢よりはマシな能力の使い方をしてると思うぞ。


「まあ、好きにしたらいいさ」


 南国の海でメイド服や魔女服ってのも野暮。つーか、魔女さんたち、よくビキニなんてもん着れたな? 肌を晒すのに抵抗がないのか?


「最初は抵抗しましたが、メイドが平然としてるので諦めたようですよ」


 と、レイコさんが教えてくれた。いや、いつの間にそんな情報を仕入れたのよっ!?


「順応力のある魔女さんたちだよ」


 海に入り、海中を探索したり、浮き輪で泳いでたりする。


 ……ここがどこだかわからなくなるぜ……。


「しかし、魔女も水着になったら普通の女の子だな」


 魔女サダコも……うん、なんでもありません。きっとイイって男もいるさ。たぶん、だけど……。


「べーって女の子に興味ないの?」


「子どもに興味はない」


 二〇歳以下は範疇外だ。


「そんなんじゃ結婚できないわよ」


「そのときはそのときさ」


 前世も死ぬまで独身だった。なら、今生も結婚できなくても諦めはつくさ。


「難儀な性格してるわね」


「それをひっくるめてのオレさ」


 どんなオレでもオレはオレを肯定する。なに一つ恥じることはねーよ。


「この性格も困ったものね」


「オレはなにも困ってねーよ」


 アイスコーヒーを飲み干し、サマーベッド(って言うらしいよ)から起き上がった。


 せっかくの南国の海。楽しまなくちゃ損である。


「ミタさん。ザルザイドの町に戻るまで仕事なしだ。この南国のを楽しめ!」


 言って駆け出し、結界サーフィンを創り出して南国の海に乗り出した。


 ウィンドサーフィンといきたいところだが、残念ながら風がねー。なので結界サーフィンを操り、波乗りを楽しんだ。


「あはは! 楽しい~!」


 と、プリッつあんが頭にパ○ルダーオンしてるのに気がついた。


 ……久しぶりすぎて全然気がつかんかったわ……。


「べー! もっとスピード出してよ!」


 すっかりスピード狂になりやがって。オレの速度にビビるなよ!


 なんて言ったものの、水上で五〇キロも出せばチョーコエー! おしっこチビりそうだわ……。


「べー! ちんたらしすぎよ! ミタレッティーに追いつかれるじゃない!」


 ミタさんがなんだって? こちとら結界サーフィンを操るだけで精一杯だわ!


 と、水上バイクが何台も追い抜いていった。


「……うちのメイドはなんでもこなすよな……」


 ゼルフィング家のメイドになって数ヶ月なのに、なんでこんなに元の世界のものを使いこなせるんだよ? 意味わからんわ!


「もー! 追い抜かれたじゃない!」


「サーフィンは速さではない。技だ!」


 水上バイクでできた波を使いジャンプしたり回転したりと、サーフィンのおもしろさをメルヘンに教えてやる。


「おー! ミタレッティーすごぉ~い!」


 オレのテク、まったく見てねー!


「……ミタさん、どこでマスターしてくるんだ……?」


 まるでアクション映画のようなアクロバティックな動きを見せている。


 他のメイドもミタさんほどではないが、何年も乗ってるのかと思うくらいの技術だ。ベテランって域だわ。


「メイドに能力をコピーして他に写せる者がいるそうよ。わたしも見たことはないんだけど」


 能力をコピー? もしかして転生者か?


 まあ、どうでもイイか。今は南国の海を楽しもうじゃないか。


 結界でジャンプ台を創ったり、波を起こしたりと、エンジョイサマーを満喫した。

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