第146話 嫌な予感
「じゃあ、あとは任せた」
「じゃ、ないわよ!」
──んぶほっ!?
コークスクリューなプリキックを受けて吹き飛ばされてしまった。
「なにすんじゃいボケー!」
「それはこっちのセリフじゃアホー!」
なんて久しぶりの和気藹々がありまして、メルヘンから正座させられました。
「丸投げも大概にしなさいよ!」
「……いや、任せる人来たし……」
「来たし、じゃないわよ! サイロムが働きやすいよう環境を整えてあげなさいよ!」
充分に環境を整えてあるじゃんか。
「それじゃ不十分だから言ってるのよ!」
「まあまあ、プリッシュ様。わたしは、充分環境を整えていただいたと思ってますからご心配なく」
「べーの前で有能なところ見せたら骨の髄まで任せられるわよ!」
なんだよ、骨の髄までって? オレはしゃぶったりしないよ。生ある限り、ガンバってもらおうとは思ってるけどさ。
「それこそ望むところです。わたしにも野望はありますからね」
「だから、そう言うのべーに見せちゃダメなのよ。今、べーの頭の中で壮大な計画が発動したわよ」
……ソ、ソンナコトナイヨ。チョットシタオモイツキダヨ……。
「……どこぞの覇王ですか……」
「オレは生涯村人です」
「まだ魔王になってもらったほうが安心よ」
オレ、メンドクセーこと嫌いだから絶対になりません。
「ここを、ヤオヨロズの食料生産地とする。サイロム。万事、任せる。己の才能を遺憾なく活かしてみろ」
「はい。万事お任せあれ」
わざとらしく恭しく一礼するサイロム。野望もあり洒落も利いてる。婦人がヘッドハンティングしたのもわかるわ。
「まったく、男はバカなんだから」
「男がバカでなくなったら男じゃねーよ」
「まったく同意です」
サイロムと視線をぶつけ合い、ニヤリと笑い合った。
……フフ。イイ男じゃねーか。気に入ったぜ……。
「まあ、一応、代表たちとの顔合わせはするよ。ゼルフィング商会がどんなものか教えてやるために、な」
バカじゃない相手は楽でイイよな。こちらの言いたいことを察してくれるからよ。
一旦、隊商に戻ると、サイロムが配下の者を紹介してくれた。まあ、誰一人と名前は入ってこなかったけど!
「しかし、よくこれだけ人を集められたもんだな」
三〇数人と、どこから引っ張ってこれたんだ? 帝国人なのはわかるがよ。
「能力があっても帝国で出世するのは難しいですからな」
そのセリフ、前に誰からか聞いたな? 誰だっけ?
「コネがないのは大変だな」
「はい。ですが、運はありました」
「運は運を引き寄せる。その運を大切にするんだな」
オレも運を大切にしたからこうしてイイ人生を送れている。感謝感激雨霰である。
「はい。心に刻んでおきます」
きっと苦労したのだろう。オレの言葉を受け止めるのが重い。
「言葉を選ばずに言えば、この地域を経済支配する。ゼルフィング商会で人を雇い、いくつかの商会に分け、ゼルフィング商会の息をあちらこちらに吹きかける。武力はシープリット族が請け負う。ルダール」
「はい」
「こいつルダール。こっちサイロム。互いに協力し合え」
「……また、雑な紹介を……」
自己紹介なんてこんなもんでイイんだよ。あとは、互いに切磋琢磨しろ。
「人種種族に関係なく、才能ある者を登用する。求めるものがあるならのしあがる。ゼルフィング商会とはそう言うところだ」
と、サイロムが席を立ち、頭を下げた。
「全身全霊を懸けて望むものを手に入れてみます」
おう、ガンバってくださいな。サイロムの野望はオレの得となるんだからな。
「ってことで、今このときより南大陸支部長はサイロムな。人事も任せる。この大陸にゼルフィング商会を根づかせろ」
「はい。このサイロムに万事お任せあれ」
できる男と言うのは頼もしい限りだよ。
「べー様。代表より使いが来ました。役場まで来て欲しいとのことです」
と、メイドさんからの報告にサイロムを見てニヤリと笑った。
「さあ、商人の戦いといこうか」
「フフ。商人の戦いですか。燃えますな」
「アハハ。燃えるのはイイが、燃え尽きんでくれよ」
これから何十年とかけてここをヤオヨロズの食料生産地とするのだ。死ぬその時まで働いてくれよ。クク。
「……またべーの犠牲者が生まれたか……」
犠牲者ではない! 功労者だい!
◆◆◆
「こちらはサイロム。わたしの代わりにここを仕切る者です」
「サイロム・マイラーと申します。よき商売ができるようお願いいたします」
ってことで顔合わせ終~了~。晴れてオレは自由となりました~。パチパチパチ~。
「──じゃねーわ!」
と、スーパーミラクルプリキックを食らってしまった。
……さ、殺気を感じさせず蹴るとはやるじゃねーか……。
「その誰にも理解できない頭の中にある考えを常識ある人でもわかるように説明しなさいよ!」
吐けぇ~とばかりに髪を引っ張られる。抜けるわ!
「わ、わかったから止めいぃっ!」
なんとか許してもらい、場を隊商がいる広場に移した。あ、壊したところはちゃんと弁償しましたので安心してください。
……驚いた代表さんたちの心のケアは知らんけど……。
「まず、この町の掌握。ジャッド村までの道の整備。カイナーズの基地まではカイナーズに任せるとして、密林の開拓。作物栽培。飛空船の発着場造り。無人島はカイナーズで開拓してんのか?」
「シーカイナーズがやってるわ」
一度見ておくか。大きさを知らんと話が進められんしな。
「……なかなか難しい仕事ですな……」
「町の掌握はゼルフィング商会。道の整備や密林の開拓はシープリット族。やれることからやればイイさ」
物事を簡単にするようにするのが仕事である。
「お前が言うな!」
バチンと頭を叩かれた。心の声に突っ込まないで!
「ベー様には敵いませんな」
「勝つのは自分にだ。他人にじゃねーよ」
自分に勝てるなら他人にだって勝てる。自信ってのはそうやって築かれていくんだよ。
「ふふ。あなたとしゃべっていると父親としゃべっているような錯覚になりますな」
「父親と比べられたら、オレは全世界の父親に謝らなくちゃならんよ」
オレが父親? 父親どころか一人の女も幸せにできなかった男が父親と比べられたら苦笑いしかでねーよ。
「そうですか? ベー様ならよき父親になれると思いますよ」
……よき父親か。なれるもんなら人の親になってみたいもんだよ……。
「ベーに育てられたら非常識に育ちそうね。サプルもトータも非常識だし」
「あの二人の性格は生まれつきだわ」
生きる術は教えたが、あの性格は生まれもってのもの。オレがあの性格にしたわけじゃねー!
「隊商は戻す。あとは、サイロムの度量に任せる」
隊商のことはルダールに任せ、オレらは茶猫がいる孤児院──ナーブラへと向かった。
「あら、マーローじゃない。久しぶりね」
「おう、久しぶり」
なにやら親しげなメルヘンと茶猫。ここだけ風景を切り取れば和やかだろうが、どちらもアレな中身。ちっとも和めなかった。
……オレの周り、キャラ濃いのしかいねーな……。
「一番濃いのはベー様ですけどね」
濃い幽霊に言われても説得力ねーよ。
「勇者ちゃんの情報をくれ」
テーブルにつき、茶猫に勇者ちゃんの情報を尋ねた。
「勇者がここを旅立ったのは一月半くらい前だな。グランドバルと言う都市が竜に襲われた話を聞いて向かったそうだ」
そう言や、そんな話を聞いたな。
「グランドバルは遠いのか?」
「大人の足で一三日から一五日くらいだと。グランドバルにいくには湖と山があるそうだ。ただ、見たこともない魔物が住み着いているみたいで往来は途絶えているそうだ」
大人の足だと一三日から一五日ってことは大まかに見て四〇〇キロくらいか? いや、途中に湖と山があるなら三〇〇キロくらいかもな。
「カイナーズはいってみたのか?」
ミタさんに尋ねてみる。
「先行させましたが、山で手間取っているようです。道が崩されて迂回できないとのことです」
「カイナーズが手間取っている、か。なんかあるな……」
どうも嫌な予感がするぜ。
「空からはいけんのか?」
「浮遊石があるので迂回はできますが、越えるには高度三千メートルまで上昇しないとなりません。ドローンを飛ばしましたが霧が濃くて困難なそうです」
迂回すればイイだけのことだが、勇者ちゃんらは迂回なんてしないだろう。女騎士さんはともかく勇者ちゃんはおもしろそうと突っ込むタイプだ。
「参ったな。いくこと決定か~」
勇者ちゃんなら問題なく突破してるかも知れんが、どうにもこうにも嫌な予感がする。結界も無事だが、無事だからと言って安全なわけじゃねー。厄介な事に巻き込まれているかもしれんからな。
「山だとシープリット族は不向きか」
「険しいと無理ですな」
うおっ! ルダール、いたんかい!?
「まあ、オレらだけでいくか」
山登りは得意だし、結界や土魔法があれば超余裕だ。
「ベー様。カイナーズから山岳隊を借ります」
山岳隊? そんなもんまであるんかい、カイナーズは?
「なら、借りてくれや」
いらないと言っても借りてくるだろうし、素直に認めておくほうがメンドーがねーだろう。
「何日必要だ?」
「三日あれば」
「わかった。なら、その間、無人島でも見にいってみるか」
無人島の場所も覚えておきたいしな。
「プリッつあん、いけるか?」
「うん、いけるわよ」
ってことで、プリッつあんの転移バッチで無人島へと飛んだ。
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