第116話 利用する気満々です
どんどん集まるダンボール箱。たくさんとは言ったが、救援物資じゃねーんだから限度を考えろよ。いや、あって困るもんじゃねーから口にはしないけどさ。ってか、この気温と湿気ですぐ悪くなんだろう。
腐らないよう積まれたダンボール箱の山に結界を施す。
「う~ん。こりゃ倉庫を造ったほうがイイかな?」
見た目が悪いし、防犯的にも不味い。いや、そうなると人を配置しなくちゃならんか。また婦人に怒られるな。どうしよう……。
「ベー様。人を配置するならこちらで選別しますが?」
悩んでるオレにミタさんが声をかけて来た。
「そうしてくれると助かるが、人、大丈夫なんか?」
無理してまではいらんのよ。
「大丈夫ですよ。メイド長ががんばってくれてますから」
あ、逆らってはダメなメイド長さんね。最近見てないけど元気にやってる?
「あ、うん、そうか。ガンバってんなら休暇とか与えておいてよ」
倒れられたらマジ困るんで身も心も休ませてやってくださいませ。
「はい。与えておきます。今のゼルフィング家にはなくてはならない存在ですからね」
「ミタさんも休みたかったら好きなだけ休んでもイイんだからな。なんなら長期休暇でもイイぞ。ミタさんもガンバってんだからよ」
ってか、ミタさんって休んでるの? いつもいる感じだけど?
……ダメな雇い主で本当にごめんなさいね……。
「ありがとうございます。ですが、あたしはベー様の専属メイド。ベー様のいくところならどこにでもついて参ります」
まるでそれが自分の使命とばかりに胸を張るミタさん。オレ、そんな崇高な存在じゃないんだけどな……。
「そうかい。まあ、休みたくなったら好きなときに好きなだけ休みな。オレは気にせんからよ」
「はい。そのときは休ませていただきますね」
そう言いながら休まないだろうから甘いもので労ってやろう。また花人族のハチミツでイイかな?
「はい! お願いします! 絶対ですからね!」
いや、なにも言ってないんだけど。あなたも人の心を読むとか止めてください。
「カイナーズホームに倉庫を造る依頼をします。人はすぐに手配しますね」
万事君に任せた。好きなようにやってくださいませ。オレは野菜を選別しますんで。
海の人魚を基準にしたのか、ウリ系が多く、豆やさつま芋、カブにニンジンと根菜類が続いた。
「ゴーヤまであるんかい」
前世のオレはあまり苦いのは好きではいからゴーヤは口にしたのは一、二回くらい。苦いとしか記憶にないな。
「人魚、ゴーヤとかも食うのか?」
この世界の苦瓜もなかなかの苦さだが、ゴーヤの苦さとは違う、ような気がする。ごめん、はっきりとは言えませんです。
「はい。最近人気で発注が多いとアバール様がおっしゃってました」
あんちゃん、ちゃんとカイナーズホームを使うようになったか。よきかなよきかな。
「なら、ゴーヤを中心にやってみるか」
どちらもウリ科? ウリ属? なんだ? わかんねーが、苦いってのは同じ。それでイイやろ。もし、淡水人魚の口に合わなければ海の人魚に渡せばイイんだからな。
木箱を出して収納結界を施す。収納空間は荷車二台分。そこにゴーヤを詰め込んだ。
収納結界箱八つ。カイナーズホームがどんな生産計画を立ててるのか怖くなるぜ……。
他の野菜も収納結界箱に詰めてると辺りが暗くなって来た。
「ベー様。作業を続けるなら明かりを灯しますが、いかがなさいますか?」
「いや、明日やるよ。急ぐことでもないからな」
「わかりました。それと、サプル様たちもこちらで夕食とのことです」
あ、サプルたちまだいたんだ。と言うか忘れてました。ごめんなさい。
「ってか、サプルたちなにしてんだ?」
オレのように景色を楽しむ性格でもねーし、観光するものもねー。ボブラ村より風光明媚なところだ。
「ギンコ様たちと狩りをしてるようですよ」
「え? レニスもか?」
「はい。カイナーズの皆様方が苦労してるようです……」
それはカイナーズに同情するよ。つーか、カイナのヤツ、よく許してんな。まあ、医療技術も高そうだから大丈夫だとは思うけどよ。
「トカゲさんたちの邪魔になってねーんだろうな?」
「ちゃんと見返りを渡しているので問題はありませんよ」
それならイイが、無茶はせんでくれよ。あ、お前が言うなとかはノーサンキューでお願いしますぜ。
「まあ、そっちはカイナーズに任せるわ」
混ぜるな危険な連中の世話はオレには荷が重い。オレはこちらで異種族交流をするからよ。
◆◆◆
オレも適応能力は高いと自負するが、レニスも底抜けに適応能力が高い女であった。
まあ、オレの結界を纏わせているので高温多湿のところでも快適に暮らせるようにはしてるが、八岐大蛇を平気な顔で食うとかさすがとしかイイようがねーな。
「ヘビってどこで食べても淡泊よね」
どこでもヘビを食ってるのもどうかと思うが、オレも似たようなものなので流しておく。
「そうだね。ちょっと料理には不向きかも」
それを平然と捌く妹もどうかと思うが、こちらは今さら。竜を捌いている時点で黙っとけ、である。
「淡泊だが、オレは好きだな」
オレは薄味派。繊細な味が好みである。
……だからって濃い味も食べますよ。カレーは辛いのが好きだし……。
「サプル。この肉でカレー作ってくれや」
なんの知識もなく、オレが集めた香辛料で前世のカレーにも負けないカレーを作るマイシスター。まあ、香辛料が高くて滅多には食えなかったけどよ。
「あ、カイナの作ったカレー、やたらと旨かったっけ」
世界貿易ギルドを立ち上げのとき作ってくれたカレー、サプルに負けないくらい旨かったな~。
「じーは料理上手だからね。オムライス、また食べたいなぁ~」
「カイナのおじちゃん、料理上手なんだ~」
「そうだよ。今度作ってもらおうか。じーのブイヤベース、とっても美味しいんだよ」
なんだろう。レニスとサプルが姉妹のように仲がイイです。
サプルは誰にでもウェルカムな性格だし、サリバリやトアラ、フェリエが上にいるから妹気質が身についてる。だから年上には懐くのが上手い。が、なにかあの三人とは違う接し方だな……?
まあ、あの三人はサプルとは趣味や好みが違うからな、近所のおねーさんって感じなんだろうよ。
……姉妹、か……。
前世も男兄弟で女兄弟はいなかったから姉妹なるものがどう言うものかわかんねーが、二人を見てるとイイもんだな~と思えて来るな。
そう言や、うちの弟はどこでなにをしてるのやら。元気にしてるだろうが、無茶だけはしないでくれと願うよ。
おっと。お前が言うなとかはよしてくれ。オレから無茶を取ったら……なんになるんだ? ま、まあ、最強の村人は自由気ままに生きるまでよ。
姉妹のように仲良くする二人の邪魔にならないよう静かにコーヒーを飲んでると、湖に浮かんでいた哨戒艇から照明弾が打ち上げられた。
「なにか近づいて来るものがある。注意しろ!」
桟橋に立つカイナーズの一人が声を上げ、宿舎から続々と銃を持った野郎どもが飛び出して来た。
「また賊か?」
カイナーズの連中が出たのでオレは慌てず騒がずコーヒーを飲んで待つことにした。あ~イイ夜だ。
「……ベー様の現実逃避も達人域に入って来ましたよね……」
なんの自慢にもならねーけどな!
しばらくするとミタさんがやって来た。
「どうやら食料を分けて欲しいとやって来たようです」
「難民か?」
「はい。どうも人魚の住み家で争いがあったようです。食料のことで」
はぁ~。そうだろうとは思ってたが、予想以上にメンドクセーになってやがるようだ。
「腹減ってんなら食わしてやってくれ」
騒がれるのもメンドクセーし、腹が減る辛さは知っている。静かになるなら施しくらいしてやるさ。
「ベー様に救われたあたしたちが言うのも間違ってますが、無闇に施しするのはどうかと……」
「心配してくれてありがとな。だが、考えあってのことさ。頼むわ」
ミタさんは心配するが、これは得をする前の損だ。なら、どんどん損するのが吉ってもんよ。
「失礼しました。ベー様の考えのままに」
オレは許可するだけでやるのはメイドさんズ。あなた方に感謝の敬礼を。
「サプル。メイドさんたちになんか甘いもんでも作ってくれや」
「わかった。任せて!」
なにもかも任せっきりのダメ兄ですが、オレが動かなければならないときは率先して動きますのでご容赦を。
働くすべての人たちに敬意を送ります。
◆◆◆
さながら難民キャンプって感じだな。
オレが考える以上に湖の中は悪い状況のようになってるようだ。
「……淡水人魚は終わってんな……」
逆によく生き残ってると感心するわ。この狭い生存圏で生きるとか苦行でしかねーよ。
「それなのに助けるんですか?」
「人魚が暮らすところは水が綺麗なんだよ」
海もそうだが、水魔法に特化した種族なだけに水を浄化させる力があるのだ。
「綺麗な水ってのは万金に値するもの。ヤオヨロズに欲しい種族さ」
本当ならバイブラストで会ったダーティーさんに取りなしてもらいたかったのだが、あちらもあちらで大変なご様子。縁が重なるまでは放置でイイやろう。
「二〇〇人くらいクレイン湖に移住してくれると助かるんだがな」
南大陸と北大陸では気候が違うし水温も違う。移住したら体調を悪くするかも知れない。移住するなら覚悟してもらわんとならんだろうな。
「移住してくれるんじゃないですか? このままだと死んでしまいそうですし」
死ぬくらいなら、そうだろうな。オレだって死ぬくらいなら恥も外聞も放り投げて逃げ出すわ。
「ってか、人魚の子どもって初めて見たわ」
見た目、一三、四歳くらいの人魚が何人かいた。
人魚の成長は早く、二、三年で成体(見た目、一七、八歳)になり、ゆっくりと成長してゆき、三〇歳前後で止まる。
「わたしも初めて見ました。なんなんでしょうね?」
種の違いか環境の違いか、まあ、探究は学者かなにかに任せればイイさ。オレはそこまで興味はねー。生きてんならそれでよし、だ。
やがて腹が満ちた人魚たちは湖の中に消えていった。
「薄情な人たちですね」
「信頼は一日にして成らず、さ」
食いもんで縛るか恩で縛るか。利用させてもらう身としてはどちらでも構わねー。慈善でやってるわけじゃねーんだしな。
「顔と言葉が合ってませんよ」
おっと。優しい顔優しい顔っと。にぱー。
「……もう好きにしてください……」
幽霊様からの許可、いただきました~。まあ、だからなんだって話だけど!
「ミタさん。野菜、間に合う?」
百人以上来て、結構な量を食い、家族にと抱えるほど持っていった。遠慮なしやな。
「問題ありません。カイナーズホームとも連絡を密にしてますので」
問題なくやってる方々に感謝の敬礼を。
夜も深くなったのでリクライニングチェアでお休みなさい。少し寝坊して起きると、また人魚が集まっていた。
「つーか、増えてね?」
軽く二〇〇人は超えてる。もしかして湖の中は秩序崩壊してんのか?
「ミタさん。食わしてやってくれ」
食料配布をメイドさんたちに任せ、オレはその様子を眺める。使えそうな人材がいないかを、な。
この湖に住む人魚の文化や社会体制は遅れている。まあ、それは前世の記憶があるから感じることであり、今の時代を考えたらそれほどではないだろう。もっと田舎にいけば人魚と似たようなところはいっぱいあるだろうさ。
それでも人として優秀な者はいて、性格のよい者、気遣いのできる者、秩序を守ろうとする者、感謝する者がいるのだ。我も我もでは世紀末より酷い状況になるだろうよ。
「ミタさん。あいつとあいつ、あとあいつをよく見ててくれや。ゼルフィング家に取り込むからよ」
「使用人として雇うおつもりですか?」
「ああ。ゼルフィング家で教育してクレイン湖やバイブラストにいってもらう。なんならミタさんの故郷にもいってもらってもイイぜ」
ミタさんの故郷の湖も結構な広さがあった。水を浄化してくれるなら魚を放流してとかも可能になるだろう。まあ、まだ皮算用だけどよ。
「わかりました。よく注意して人選します」
ミタさんのやる気スイッチがオンされました。暴走しない程度にガンバってくださいませ。
さすがにこれは丸投げはできないのでオレも人魚たちの行動を観察した。
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