第86話 玉に瑕
拷問室──ではなく豪華な部屋に通され、尋問官よろしく厳しい目を向けて来るマダムシャーリー。お玉さんは……見れない。だってサダコさんより怖いオーラを出してるんですもの……。
「どう言うことかしら?」
人外だけど、まだ人の温かみを感じるマダムシャーリーに集中する。
「どう言うこととは?」
質問に質問で返す。だってなにを言わんとしてるのかさっぱりなんだもん。これで答えられたらエスパーだよ。
「それと、なぜオレが咎められてるかも教えていただきたいな。万が一、オレがなにかを仕出かしたと言うなら誠心誠意、謝罪させてもらうがよ」
知らずに失礼をしてしまうことはよくある。だから謝ることに異論はねーし、言ったように誠心誠意謝るさ。
「お客様の心を満たすのがレヴィウブの矜持」
「まあ、何事も建前は大事だからな。よくわかるよ」
本音を前にしたら反発され兼ねない。ほんと、本音を隠す建前を考えるのは大変だぜ。
「なに?」
なんかさらに睨まれてんだけど。オレ、なんか変なこと言っちゃいましたか?
「これまでレヴィウブ内での不祥事は一件もありませんでした」
「そうしなきゃならないってのも大変だな。同情するよ」
さぞや働く者にしたらここは神経が細くなるような職場だろう。オレならその日で辞めてんな。まあ、書類選考で落ちるだろうけどよ。
「だからなによ?」
なんでそこまで睨まれなくちゃならんのよ? 言いたいことがあるなら口にしろ。察しられるほど付き合いが長いわけじゃねーんだからさぁ~。
「レヴィウブの体制は万全。例え相手側の失態でもすぐに対処して来ました。今回のような馬車の疲労故障など日常茶飯事。待ったと感じさせないくらい速やかに対処して来たのです。それが、気づくことなく報せが来るまでわかりませんでした」
「うんそれ、万全にはなってないよね」
事後対応って言わない、それ?
「って言うか、自画自賛する論点がズレてね? 間違いや勘違い、事故は起こることを前提に動くもんじゃねーの? それともなに? レヴィウブは全知全能の神様が経営してんの?」
そうだと言われたら反論しようもねーが、神の身でもねーもんが万全とかちゃんちゃら可笑しいわ。人の外に出た者は神になったとでも思ってんのか?
「あなたは、何者なの?」
「ただの人だよ。なに? もしかして、この一連の騒ぎはオレが仕出かしたことになってんの?」
どう言う理屈よ、それ? なんでそうなるのよ? どう考えればそんな結論になんだよ! 意味わからんわ!
「でないと理屈が通らないわ」
「アホか! この世に理屈の通じないことなんていっぱいあるわ! それに理由つけるからおかしな考えにいたるんだよ! 人の外にいるあんたらが言うな!」
ほんと、理屈が通らない人外のクセになに言っちゃってくれてんのよ。理屈うんぬんが言えるのはまっとうな世界でいきている存在に許された権利(うん。これも意味不明だな)だわ!
「……べーは神の存在を信じる……?」
黙っていたお玉さんが突然、変なことを言い出しやがった。なによ、いったい? 宗教でも始めようとしてんのか? なら一口乗るよ。聖国に負けないくらいにしちゃうよ。
「なぜ乗り気なの? わたしは神の存在を信じているのか聞いてるだけよ」
チッ。期待持たせんなよ。聖国からの目をお玉さんに向けさせようと思ったのによ。
「どうなの?」
やけに食いついてくんな。神に怨み……と言うか、幽霊って神に見捨てられた存在っぽいよな。レイコさんは「こっち来んな!」とか言われそうな感じだけど。
「信じるか信じないかで言えば信じないのほうだな。だが、オレらを見下ろす超越したなにかがいることは知っている」
たまに幻聴が聞こえたり、つい神にすがったりもするが、根本なところでは信じちゃいねーと思うな。
しかし、前世で神に等しい存在に出会った者としては存在を否定することはできねー。なんと言うか、言葉にはできねー力を感じたからな。
「超越したなにか、ね」
「これはたぶんだが、オレはその超越したなにかの思惑と言うか呪いと言うか、超越した力が働いているように感じる。これもたぶんだが、今回のこともオレの出会い運が働いたんだと思う」
前々からこの出会い運には違和感を感じていた。なんかご都合にもほどがありすぎて、なにかの物語の主人公になったような錯覚に捕らわれるのだ。
だが、オレが出会うヤツらは主人公ばりのキャラの濃さで、山あり谷ありの人生(物語)を送っている。だから気のせいだと自分に言い聞かせ、オレはそいつらのサポート役なんだろうと思っていた。
しかし、春先からの波乱万丈を考えると、超越したなにかはオレになにかをさせようとしてんじゃねーかと思うようになって来た。
まあ、なにかがわかんねーから流れに身を任せてるわけだが、そう考えると他の事象にも考えがいってしまい、嫌な答えしか出て来ねーのだ。
ってまあ、話が逸れたが、超越したなにかはいる。それは確信だ。ならばいると考えて動くしかねーわ。
「お玉さんがなにを考え、なにを思うかは知らねーが、勝てない相手には負けないように戦うことをお勧めするよ」
「つまり、神を欺け、と言うことかしら?」
もし、全知全能の神がいるのなら、欺くことも反抗することもできねーだろうが、不完全なら欺くことも反抗することもオレはできると信じている。思惑通りになんて生きてやるか。オレはオレが思うように生きてやるぜ!
「まあ、超越したなにかの手のひらで転がされるのもまた手さ。その玉には傷があり、油断してたらどこにどう落ちるかわからんのだからよ」
不完全には不完全で対抗すればイイ。どう転がるかどちらにもわからんのだからな。
「玉に瑕。まさにお玉さんのためにあるような言葉だな」
いや、意味が違うから! って突っ込みはノーサンキュー。オレの辞書には不確定要素と書かれてんだからよ。
「ククッ。神をも恐れぬ村人だこと」
「世の中には神より怖いものがあるからな」
特に目の前にいる神をも恐れぬ幽霊とか。もう全力で仲良くさせてもらうわ。
◆◆◆
「……あなたを疑ったことには謝罪させてもらうわ。ごめんなさい」
「申し訳ありませんでした」
お玉さんとマダムシャーリーが頭を下げた。
「謝罪はしかと受け取った。だからそれ以上はいらねー。今後とも仲良くやっていこうぜ」
こんな連中と敵対とか絶対にゴメンだわ。
「ええ。わたしもあなたとは仲良くやっていきたいわ」
では握手、ってことはできねーが、お互いがそれを望んでいるのがわかれば充分だ。あとは相互努力で関係を築いいけばイイさ。
「なら、仲良くやっていくためにオレ専用の転移できる場所を提供して欲しいんだがよ」
ダメだ、と言うならそれもよし。ちょくちょく来る場所でもなければあの林から向かうのも大した距離でもねーからな。
「……そう、ね。あなたの行動を阻害するほうが危なそうだし、反って自由にさせておくほうが被害が少ないかもしれないわね」
言っときますが、オレが問題を起こしてるわけじゃないんですからね。ただ、問題に遭う確率が他より高いってだけですからね。そこんとこ間違えないでくださいましよ。
「ですが玉。レヴィウブの霊壁を変えるとなると大変ですよ」
やはりレヴィウブはなにかに覆われていたか。無意識とは言え、レヴィウブに転移しなかったから変だと思ってたんだ。
「なら、レヴィウブの外でも構わんよ。川か湖があんだろう」
「なぜそれを!?」
とかマダムシャーリーが驚いてる。いや、その驚きに驚くわ。
「これだけの施設に従業員や客を見れば、馬車での運び込みなんて無理だって大抵の者にはわかんだろう。なのに不足している様子はねー。なら、なにかで大量搬入してるってことだ。隊商が列をなしてるわけでもなければ飛空船が飛んでるわけでもねー。なら、残されたのは水上輸送しかねーだろうが」
オレらのように無限鞄があれば人知れず搬入できるかも知れんが、無限鞄は伝説級のアイテムだ。いくらお玉さんでもレヴィウブを賄えるだけの無限鞄を持っているとは考え難い。
もし仮に数十個持っていと考えても帝国中から物を集めるなんて不可能だし、そんな効率の悪いことをするとも思えねー。どこかに一旦集約して、となるはずだ。
なら、その集約場所はレヴィウブの外。大量搬入しやすく、周りから違和感を抱かせない場所となるはずだ。
「慧眼でいらっしゃる」
「そこまで言われるもんじゃねーだろう。ちょっとした商人なら簡単に推測できるわ」
そんなことで慧眼とか言われたら、逆にバカにされてると解釈しちまうわ。
「中型の船が一隻置けるか 小さな倉庫でも構わんよ。転移してすぐにレヴィウブに入れるんならな」
それなら容認できんだろう。それもダメと言うなら正面(いや、どこか知らんけど)からお邪魔させてもらうぜ。
「船ならすぐに用意できますよ。運河から来るお客様もおりますから」
川ではなく運河と来たか。やっぱ帝国は発展してんのな。
「ちなみにその運河を利用するとなると、許可とか必要なのかい?」
「ええ。レヴィウブで登録してもらい年間利用料を支払えば可能です。なさいますか?」
「外国人でもできるんだ」
「いえ、外国の方には許可は出せません。が、べー様はカイ様の保護を受けてますから、バイブラストの枠で登録可能です。その際は、バイブラストの紋章を掲げてもらいますが」
「じゃあ、それで頼むわ」
公爵どのから紋章を使う許可はもらってるから事後報告で構わんだろう。ゼロワン改+キャンピングカーにだってつけてんだからよ。
「登録や周知には数日かかります。場所だけでも見ておきますか? 順路の案内もありますから」
「距離はあるのかい?」
夕方までには帰らんとならんミタさんに申し訳ねーからよ。
「距離はありますが、港からここまでは馬車を往復させてますからすぐですよ」
それならいってみるか。次からそこに転移すればイイんだしな。
「頼むわ」
ってことで馬車で港にレッツらゴー! 距離的には三キロはあったかな? 道は舗装されてたので一五分もかからなかった。
「結構船で来るヤツが多いんだな」
案内人の執事(かどうかは知らん。格好から決めつけてます)さんに思ったことをぶつけてみた。
「はい。冬は帝都で幸霊祭こうれいさいや新年祭が行われますので、ここに宿泊される方々が多いのです」
「ってことは、ここ、帝国に近い場所なんだ。じゃあ、運河ってのはオリビレス河のことか」
まさか帝都の近くにあるとは思わなかったわ。そうなるとレヴィウブの見方(在り方かな?)も変わって来るぞ……。
「よくおわかりで。帝国に住む者ですら地理を把握してない方が多いと言うのに」
「いろいろ話を聞いて、大体の位置を把握してるだけさ。さすがにレヴィウブがどの方向にあるかはわからんよ」
山脈でもあれば太陽の位置や傾きから位置は推測できるが、帝都は平野部にあり、目印になる山もなければオリビレス河の支流はいくつもあると聞いている。
これでわかるヤツは体内に測位能力(適当な名称が思い浮かばんかった)があるヤツだけだわ。
「スゲーな。これ全部魔道船かよ……」
船に帆がないことや豪華さからして魔道船なのは間違いねーし、魔道船が盛んとも聞いている。だからそのことに驚きはねーんだが、その数にはびっくりさせられたわ。
「ざっと見ただけでも一〇〇隻以上ありそうだ」
帝国の国力の高さを痛感させられるぜ……。
「べー様。空いているのが第五埠頭の端になってしまいますが、よろしいでしょうか?」
「構わんよ。置いておく用だからな」
運河を下って海へと出てみてーが、そんな暇はねーし、やるんならもっと暖かい季節がイイ。それまでは転移地点としか使わねーんだからよ。
無限鞄から小さくさせたクルーザーを出して水に浮かべ、元のサイズへと戻した。
「買っててよかったクルーザー」
念のためと、クルーザーは三隻買っておいたのだ。
「うん。そろそろ帰るか」
まだ四時くらいだが、これから戻って買い物ってわけにもいかんだろうし、クルーザーの中を整えるのも時間がかかる。それに、腹が減った。ミタさんの愛情籠った(と思いたい)料理をいただこうではないか。
「ドレミ。このクルーザーの見張りと管理に分離体を二体ほど置いてくれ」
なにが起こるかわからんから無人にするのは避けておこう。
「畏まりました。ホワイトとグリーンを配置します」
……漢字の色が切れたからカタカナになったのかな……?
「任せる。んじゃ、オレらは帰るからお玉さんとマダムシャーリーによろしくな」
「はい。お伝えします。またのお越しを心よりお待ちしております」
はいよと答え、ハルメランへと転移した。って、プリッつあんがいねー!!
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