第87話 魔道具職人

 なんてことは日常茶飯事。気にすることもねーか。レヴィウブは種族差別はご法度だし、プリッつあんのコミュニケーション能力なら大抵のことは乗り切れるだろうからな。ましてや転移バッチを持って帰って来れねーなんてことはなし。心配する必要もねーさ。


 ってことを脳内で素早く処理して今そこにある危機からドロンさせてもらった。


 ミタさんたちメイドによる酒場経営教育は続いており、オレが現れても気がつかないくらい修羅な状況となっていた。


 ……どんなかは勝手に想像してください。オレは言語化するのも恐ろしいので……。


「買取り店にでも避難するか」


 そそくさ~と買取り店へと村人走り。なにそれ? とか聞いてはいけねーぜ☆


「ん? もう売りに来てんのか?」


 なにやら店の前にずだ袋を持った老若男女が並んでいた。


「……これを見ると確かに貧乏人のお茶ってわかるな……」


 並んだ老若男女が着ている服がどれもボロくて、スラムに住んでるヤツらが中級層に見えてくるほど酷いものだった。


 ってか、よくよく考えたら貧乏人でも飲めるお茶ってスゴいことだよな。どんだけ大量に採れんだよって話だ。庶民の酒たるエールですらスラムでは高級だって話なのによ。


 しばらく見てると、背負い籠を二つ三つ重ねて背負って来た猛者が現れた。


「……そんなに採れんのかよ……?」


 いや、それはいくらなんでも大量すぎんだろう。もう生産してるのと同じじゃねーの?


 オレとしては嬉しい悲鳴を上げたいところだが、ハルメランとしては嘆きむせび泣くんじゃねーのか? 主要産業になるくらいの量だろうによ。


「これは市長代理殿に言っておかんとならんか?」


 自分の儲けとするなら黙っていたほうが得だろうが、別にバルグル茶で儲けようとは思ってねー。つーか、面倒なのでやりたくねー。


「うん。当分間に合う量を仕入れたら市長代理殿に放り投げよう」


 買取り店も都市の出先機関にして、なくなったら買いに来ればイイ。その頃になれば質も向上してもっと旨くなってるかもしれんしな。


 もう少しで陽が暮れようと言うのに、売ろうとする客が途切れない。黒丹病で結構死んだはずなんだが、なんでこんなにいんのよ?


「……もしかして、バルグル茶も黒丹病に効くのか……?」


 あり得ねーと言えないところがもどかしい。ここに並ぶヤツらはどう見てもスラム以下のヤツらだ。まず確実に死ぬ位置にいるヤツらがこうして生きているんだからな。


 うん。否定するよりあり得るとして考えよう。そして、先生に丸投げ──ではなく、検証してもらおう。それが確実だろうからです!


「あんちゃーん!」


 と、マイブラザーの声が耳に届いた。


 反射的に声がしたほうへと目が動いたが、なぜかマイブラザーの姿はない。どこや?


「こっち! 上だよ!」


 予想外で想定外なところからでした! ってか、お前はいつも変なところから兄を呼ぶよな。できれば常識内のところから呼んでくれよ……。


 はぁ~とため息をついて上を見て固まってしまった。


 え? なに? 車? ピンク? 飛んでる?


 頭の中で飛び交う情報が大暴走。この目に映っているものがなんなのか定まらなかった。


「あんちゃん! おれたち別の都市にいくね! バーリエントって都市にワイバーンの群れが出たって言うからさ!」


「え、あ、おう。気をつけてな」


 と言うのが精一杯。我が弟……って言うか、チャコたちのパーティーはオレ以上に飛び抜けてるぜ……。


「うん! 五日くらいで戻って来るよ! ワイバーンの肉、楽しみにしてて!」


 と言い残して空の彼方に消えていきましたとさ。めでたしめでたしっと。


「──いや、なんでキャデラック!? どーゆーことよっ!?」


 あまり詳しくねーが、キャデラックエルドラドって言ったか? 五〇年代か六〇年代の。オールドカーと言うよりもクラシックカーの域に入った車がなんで空飛んでんのよ?


 いや、今のタイヤがなかったな。ってことはゲームに出て来たヤツか? いや、それってどんなゲームよ? まったく想像もつかねーわ!


「……でも、なんかちょっとカッコよかったな。アメ○カングラフティとか思い出すぜ……」


 年代ではなかったが、金曜な夜にやってたロードなショーで観て憧れたっけ。フォードサンダーバード、あれもよかったわ~。


「チャコに頼めばもらえっかな? あ、いや、カイナーズホームで売ってるかもしれんな」


 あったら絶対に買う。そして、海に向かって……は無理か。道が道だし。いや、魔大陸ならイケるか? 結界で補強すれば……。


「べー様! ここにいましたか。酒場準備が整いました。シュードゥ族の代表も集まってます」


 なんて楽しい妄想に耽っていたら、ミタさんに現実へと連れ戻されてしまった。


「ああ、わかった。今いくよ」


 楽しい未来を迎える前に今日の苦労を片付けますかね。


 ため息一つ吐き、ミタさんのあとに続いて酒場へと向かった。


  ◆◆◆


 酒場はたくさんのシュードゥ族で溢れ返っていた。


「酒クセーな」


 当たり前と言えば当たり前なのだが、飲めないオレには苦痛でしかねー。なので結界で遮断。フローラルな香りで結界内を満たした。


「ベー様。ここは騒がしいので二階の個室へと参りましょう」


 とのミタさんの言葉に従い、二階へと移動することにした。


「二階はなにに使ってんの?」


 何部屋かあるみたいだが、宿屋か?


「静かに飲みたい方のため個室です。シュードゥ族は歳を重ねると静かに飲みたくなるそうですから」


 ほーん。ドワーフとは違うんだ。あいつらは騒いで飲むのが好きらしいからな。


「こちらです」


 通されたのは八畳ほどの部屋で、テーブル一つと椅子が四脚あるだけの、なんとも質素……と言うより味気もなにもあったもんじゃねーって部屋だった。


「酒が不味くなりそうな部屋だな」


 牢屋にテーブルを置いたところで飲む酒は旨いのか? オレなら……いや、オレもコーヒーならどこでも美味しく飲めるタイプでしたね。


「ミタさん。疲れてるなら休んでも構わんよ」


 なんなら数日ほどバカンスにいって来てもイイぜ。それだけの働きをしてんだからな。なんならボーナスも出すよ。村の復興に使うのもよし。豪遊するもよしだ。


「大丈夫です。大体のことは部下に任せてますので」


 ミタさん、部下に任せることを覚えたのか。それはイイことだ。が、益々メイドが増えてそうな感じだな。


「この酒場、メイドの誰かに仕切らせるってこと、できるか? ゼルフィング家としてやりたいんだがよ」


 シュードゥ族を抑えるためにもオレがかかわっていると知らしめておくほうがイイだろう。市長代理殿も安心できるだろうしな。


「はい、大丈夫です。すでに体制作りは完了しております。あとは飛空船による輸送計画を詰めるだけです」


「飛空船もうちで仕切ってんのかい?」


「はい。ベー様配下の船団ですから」


 あ、ああ、そうだっけ。プロキオンや輸送船は商会から外してたっけ。ってか、放置してましたね。ごめんなさい!


「そうか。婦人、なんか言ってた?」


「商会と別ならお好きにどうぞ、だそうです」


 うん。怒ってないのならなにより。ゼルフィング家として好きにさせてもらいやす!


 テーブルにつき、ミタさんが淹れてくれたコーヒーをいただく。うん旨い。


「ベー様。シュードゥ族の長老衆を呼んでもよろしいですか?」


 あ、そうだった。コーヒーの旨さに忘れてたわ。


「ああ。通してくれや」


 と言うと、部屋のドアが外から開かれ、老シュードゥと船団長、枯れた細身のじーさんが入って来た。


「待たせて悪かったな」


 さすがに忘れてたとは言えませぬ。


「なに、ただで旨い酒を飲めるのだ、一年でも二年でも待つさ」


 なんとも嬉しそうな老シュードゥ。年寄りなんだから控えろや。体壊すぞ。


「その様子では酒に不満はなさそうだな」


 えーと。なにを出せって言ったっけ、オレ? なんかテキトーに言ったから忘れたわ。


「ああ。仕事終わりのビールもよいが、まったり飲む焼酎も最高だ。感謝する」


 他の二人も酒が飲めることに喜んでいるようで、満ち足りた顔で頭を下げていた。


「報酬に満足してもらえたら雇い主としてはありがたいよ」


 カイナーズホームで買った酒ならびっくりするほど安いはず。それで気持ちよく働いてもらえてイイもんを作ってくれるならジャンジャン飲めだ。


「ただ、オレが雇っている間だけだがな。終われば金を出して飲んでもらうぜ」


 そこははっきりとさせておく。


「ああ。それは重々承知している。あまり優遇されると他の種族から反感を買うからな」


 妬み嫉みは種族に関係なし、か。メンドクセーこった。


「つまり、正当な理由があれば優遇してもイイってことではあるがな」


 無限鞄から人数分のコップを出し、魔術で氷を創り出して入れてやる。


「魔術でものを温めたり冷やしたり、こうして氷を創りは出せるってのは便利っちゃー便利だが、結構手間のかかるもんでもある。魔道具で代用できると楽なんだがな」


 さらに無限鞄からウイスキーを出してコップへと注ぐ。


 酒のアルコールが氷を溶かしていくのを黙って見詰めていると、ゴクリと唾を飲む音が耳に届いた。


「……つまり、我々に作れと?」


 枯れた細身のじーさんが呟いた。


「正当な仕事をした者には正当な報酬を与えるのがうちのやり方。年齢も男女も問わない。もちろん、種族もだ。それを飲んでもイイって魔道具職人がいたら紹介してくれや。礼は弾むからよ」


 イイ感じになったウイスキーを三人へと押し出した。イイ返事を待ってるぜ。


  ◆◆◆


「……それは、ゼルフィング家で雇ってもらえると言うことだろうか?」


 すぐにウイスキーに手を伸ばすと思ったら、厳しい気配を出してオレを睨んで来た。


 うん? 不満ってことか?


「べー様。魔道具でしたらクルフ族も作れますし、人手が足りなければ増員できます」


 ミタさんがわざとらしく恭しく口にした。


 つまり、クルフ族との兼ね合いをどうしますかと言っているのだろう。三人を見れば厳しい気配が増していた。


 まったく、メンドクセーな、種族問題ってのは。繁栄したきゃ利のために感情を殺せってんだ。


 なんで村人が種族問題に苦心しなきゃならんのだ、と愚痴を言っても始まらないか。ならばそれを利用して自分の利となるよう考えろ、だ。


 コーヒーのお代わりをもらい頭を働かす。


「……新たに商会を設立させるか……」


 ゼルフィング家としてではなく、シュードゥ族に商会を設立させ、作った商品をゼルフィング家として買う。問題はシュードゥ族に商売をできるヤツがいるか、だな。


「シュードゥ族の中に商売に関心があるヤツはいるかい?」


 そう三人に尋ねてみる。


「……いないとは言えないが、親方相手にできるほどの者はいないだろう。我ら、いや、長年魔王の配下だった種は、弱い者の声はなかなか受け入れたりはしないからな……」


 気に入らなけりゃあ助けを求める相手の言葉すら受け入れねーんだから一筋縄ではいかんだろうな~。


「……カイナが放り投げるのもわかるわ……」


 こちらに投げられるのは迷惑千万ではあるが、オレもメンドクセーことを投げているのだからお互い様か。


「なら、まずは商売に関心あるヤツをゼルフィング商会に寄越せ。商会で鍛えるから」


 婦人、お願いしやす!


「魔道具職人は、こちらが指定した魔道具を大量に作れ。すべてゼルフィング商会が買う。だが、これだけは覚えておけ。シュードゥ族を支援できるのはオレが生きていられる間だけだってことをな」


 こっちは長命種ではなく短命種だ。付き合えるのは精々五〇年だろう。衰えもするし、子や孫の世代になってもいる。いつまでも口を出すなんてできねーことだ。


「オレはオレのために生きている。イイ人生にするために面倒事も受け入れる。だが、死んだあとのことまでは知らん。繁栄しようが滅びようが勝手にしろだ」


 できることなら繁栄してもらい、穏やかな未来にしてもらいたいが、人の身では願うのが精一杯。次の世代に期待するしかねーのだ。


「……肝に命じておく……」


 それを下にどう継がせるかは老シュードゥ次第。ガンバれとしか言いようがねーな。


「話を戻して、だ。コンロの魔道具って何日で作れるもんなんだ? ってか、魔大陸って魔道具が普及してんのか?」


 常に戦いに明け暮れて生活に必要な魔道具って発展するものなのか? なんか原始的な生活をしてるイメージなんだが……。


「大魔王と呼ばれる賢魔王が支配する都市でなら普及している」


「大魔王? 賢魔王? そんなのいんの?」


 初耳なんだが。


「魔大陸は広い。カイナ様が支配する地などほんの僅かだ」


 そ、そうなんだ。魔大陸、オレが想像する以上にハンパねーとこなんだな……。


「魔王ちゃん、大丈夫かな?」


 何人か魔王を倒せとか言っちゃったけど、無茶して変なことになってないとイイんだがな。


 ……混ぜるな危険な二人だから心配だぜ……。


「まあ、なんとかするか、あの二人なら」


 暴虐さんもバカではねーし、魔王ちゃんも賢い。敵わない相手には引くくらいの考えはできるだろうさ。


「そんな魔王がいるならなんでそこにいかないんだ? 物作りに特化した種族なら優遇してくれんじゃねーのか?」


 インフラ整備とか必要だろうに。


「魔王の下では強いことがすべてなのだ……」


「うん。魔大陸が発展しない理由がわかったよ」


 そりゃあんな不毛の地となるわけだ。滅びないのが不思議なくらいだぜ。 


「まあ、未来を捨てたような魔王なんぞどうでもイイ。勝手に滅びろ。オレらは未来を得るためにガンバるだけだ」


 未来を得る自由があるなら捨てる自由もある。こちらに迷惑をかけないならご自由に。オレらはお先に失礼します、だ。


「で、コンロは何日で作れるんだ?」


「材料があれば一日もかからない。半日もあれば四つは作れる。だが、そんなものを作ってどうするのだ? 薪があるのに」


 じゃあ、なんで生まれたんだよと問いたいくらいのセリフだな。


「世を便利にするためであり、儲けるためさ」


 薪の文化を否定するつもりはないし、薪のよさも知っている。失ってはならないものでもある。だが、それを女に強いるのはしたくない。


 まあ、当たり前を覆すのは大変なもので、他に方法ないかとか考えるどころかそれが作法や決まりになるから始末に終えなくなるのだがな。


「あんたたちはこの酒の旨さを知ったが、前に飲んでいた酒があるからとこの酒に手をつけないことはできるか? 飲まなくても構わないと言えるか?」


 無理だとオレは断言できる。イイものを知って、それ以下のものを許せると言うヤツがいるなら是非ともオレの前に現れて欲しい。来たら身ぐるみ剥いで無人島に放り込んでやるよ。


 それでも生き延びて、幸せと言うならその考えはドブに捨てて見習わしてもらうよ。


「魔道具の報酬は酸っぱいだけのエールにしてやるよ。構わねーな?」


「わ、わかった! よーくわかったから許してくれ! こんな旨い酒を知って、以前の酒など飲めんよ!」


 素直な欲望でなによりだ。未来を得たいならその欲を捨てないことだ。


「材料はカイナーズホームで揃えろ。金はオレが出す。ただし、一月以内にコンロを千は作ってもらう。それが終われば冷蔵庫だ。家で使うものから荷車に置けるものまでを三千は作ってもらう。もちろん、追加するかもしれんからよろしく頼むぜ」


 仕事が欲しいと言うならくれてやる。未来が欲しいと言うなら一〇年先まで用意してやる。酒を飲む暇がねーと言うほど忙しくしてやる。クルフ族に自慢してやれ。オレたちはお前らより優れているとな。ククッ。


「さあ、シュードゥ族が繁栄するときだ!」


 そして、シュードゥ族の未来に乾杯しようやとコーヒーカップを掲げた。


   ◆◆◆


「──あ、肝心なこと忘れてた」


 そうだよ。シュードゥ族を呼んだ本来の目的は魔道剣のことだろうが。忘れてんじゃねーよ、オレ!


「なあ、シュードゥ族って魔道剣は作れるか?」


 魔道剣と言うものは結構出回ってはいるが、性能はピンキリで、名工が作ったものとなれば魔剣にも匹敵すると言われている。


 ちなみに魔剣は滅多にお目にかかれるものではなく、大賢者とか大魔術師クラスでないと創れないとされ、世に出れば高額で取引されるものだ。


 もちろん、性能も魔道剣よりも優れており、自ら魔を生み出すことができるものを魔剣と呼ぶ。


 まあ、希な存在ではあるが、オレの出会い運がなせる業か、結構見てたりする。そして、博士ドクターと出会ってからは珍しくもないものになったのはご愛敬だろう。


「あ、ああ。何人かはいる」


「何人か? 魔大陸では魔道剣は一般的ではねーのかい?」


 本場ってイメージだったんだが、どうも違うらしいな。


「魔道剣より魔力が多いのがざらにいるからな、強度があるほうが好まれるんだよ」


 そう言うものなのか。まあ、肉体も凶悪にできてるからな、硬いもんじゃないとやってられないんだろう。


 ……って言うか、魔力や魔法を使っているヤツ見てねーな。銃を使ってる光景しか記憶にねーぞ……。


「ほんと、あのアホは自重しねーな」


 進化に正しいも悪いもねーとは思うが、段階は大事だとは思う。剣から銃はいくらなんでも飛躍すぎだろう。魔族の中でちゃんと受け入れられてんのか? 鍛冶とかする者から反発とか起きてねーのか? その面倒までこっちに持ってくんなよな。


 まあ、イイ。それぞれのやり方。好きにしろだ。不味いなら神が介入でもしてくんだろうさ。オレが心配することじゃねーや。


「魔道剣を作れるヤツがいるなら最高級のを作らせてくれや。作るだけ買わせてもらうからよ。ってか、あるならイイ値で買うぜ」


 博士ドクターの魔剣は性能がよすぎてオレの結界では扱い難いのだ。まったく、人外は扱い難くてたまらんぜ。


「確か、オルボスが持っていたはずだ」


 と言うことで、そのオルボスさんとやらを呼んでもらった。


 来る間、三人に酒を出してシュードゥ族の歴史を聞かせてもらった。


「我らは代々魔道船を造ることで生きてこれたのだ」


 話を聞いているうちにそんなことを老シュードゥが語った。って、なんかどこかで聞いたな、それ。どこで聞いたっけ?


「──あ、先生だ!」


 そうだよそうだよ。オレのところに来るのにシュードゥ族が造った魔道船で来たんだった。


「スゲーもん造るんだな、あんたらは」


 魔大陸から海を渡って来る船なんて飛空船を造るくらい高度な技術がいる。これはもしかして当たりを引いたか?


 博士ドクターや小人族が飛空船を造ってはいるが、運用するには莫大な金(って言うか魔石な)がかかる。ゼルフィング商会やオレは余裕で運用はできるが、他は毎日は飛ばせる者はいない。


 あ、あんちゃんとアダガさんなら一月に一回か二回、近場なら運用できるかな? 小人族は論外で。毎日運用可能でも交流できるところが人魚のところとバリアルの街だけだからな、安全のために飛ぶなと言ってあるのだ。


「……もう魔道船を造ることはないだろうがな……」


 なんで?


「ここには海がない」


 ハイ、ごもっともです。そして、ここに住めと言ってしまいごめんなさい。


「──って、海はあるだろう!」


 ミタパパがいる島……って、名前なんだっけ? 丸投げした時点でオレの中では完全終了したから聞くこともしなかったわ。


「ま、まあ、なんだ。魔道船の仕事を続けたいのなら場所の提供はできるぞ」


「それはありがたいが、飛空船を広めるのではないのか?」


「広めるさ。だが、魔道船も広めたい。空には空の魅力があり海には海の魅力があるからな」


 どちらにも魅了されるほどではないが、イイもんだと感じるくらいには魅力がある。楽しむためにも技術は残しておきたいぜ。


「べー様。オルボスさんがいらっしゃいました」


 誰とどうやりとりをしてるか謎だが、ミタさんがそう言うと、部屋のドアが開いてシュードゥ族にしては細身の老人が入って来た。


「わしになにか用か?」


「べー様が魔道剣を欲しいそうだ。融通してやってくれ」


「酒でも金でも好きなほうで支払うぜ」


 なにやら頑固そうな雰囲気。気に入らねーヤツには売らねーとか言いそう。


「本当か!? なら、酒で頼む! もう何年も飲んでなくて気がおかしくなりそうなんだ!」


 あれ? 見た目詐欺? 意外と軽い性格してる?!


「あ、まあ、酒でイイのなら酒で払うよ」


 とりあえずウイスキーやブランデーなどをテキトーに出す。ってか、もう飲んでるよ。アル中か!


「カー! ウメー! 生き返るぜっ!」


 ウイスキーをいっき飲みし、また新しいウイスキーに手を伸ばして飲み干してしまった。どんだけ飢えてんだよ。


「すまない。オルボスは一度飲み出すと止まらなくなるのだ」


「まあ、楽しく飲んでるのを邪魔するのも不粋だ。大いに飲んで大いに騒げ。明日への活力としろ」


 さらに酒を出してやり、酒場にいるシュードゥ族に振る舞ってやる。


「さあ飲め! 騒げ! 生きていることに喜べ! 今日の糧は明日の活力とするのだ!」


 そして、オレのために働くがイイよい! うわっはっはっはー!


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