第105話 考えたら負け
二日かけて我が故郷に帰って来た。
小人族の航路が使えたらもっと早く帰って来れたのだが、敵対とまではいかないまでも友好な関係は築けてはいない。
「うん。小人族の戦艦を打ち落としたからな」
まるでオレの心を読んだかのように突っ込みを入れて来る公爵どの。
「って、なんでいんのよ?」
帝国出るまでとか言ってたじゃん。
「休息だ。サプルのお守りで疲れたからな」
それはまるで問題ありまくりだと言ってるもんだろうが。まあ、追及はしないけどさ。
「そうかい。なら、ゆっくりしていきな。うちの村は年越し祭があるからよ」
「年越し祭? なんだそれ?」
「うちでは一年で終わりを今頃にして、この一年ガンバりましたねと言う慰労と来年もイイ年になるよう願う祭りだよ」
「うん。発祥はお前で最終回答」
なに、ファイナルアンサーみたいに言ってんだよ。あんたも転生者かよ。
「当たりだよ。けど、広めたのは村の連中だよ。冬の楽しみとしてな」
「……豊かだよな、お前の村は……」
さすが公爵。祭りをするのにも金と物と人が必要だとわかってる。
「ガンバったからな」
努力なくして豊かなし。苦労の先に幸せがあるのさ。
「休息なら嫁さんでも呼べばイイさ。報いてやんなよ」
こんな自由な公爵どのを支えるんだから苦労は一塩だろうさ。
「そうだな。一度、お前の村を見せておくのもいいかもな。見本のような村だしよ」
「うちの村を見習っても領地経営には役に立たんだろうに」
中程度の村を見習うって、一国に匹敵する公爵の言うことじゃねーだろう。
「あれだけ異種族に寛容で、争いごとがなく、魔物の被害もない。村人は働き者で商売も得意。なにより、幸せそうに笑っている村などここ以外見たことねーよ」
言われてみればオレも見たことねーな。
「さらに町や国まで創っちまうアホがいるんだ、見習うことばかりじゃねーか」
「…………」
なんも言えねーとはこのことだな。
「なんにせよ、妻たちを連れて来るよ。ヴィアンサプレシア号を借りていいか?」
「サプルがイイってんなら構わんよ。ただ、村には入れられんからな。行き来は……なんかあったっけ?」
ミタさんに問う。
「グレインの町からカイナーズホームまで飛行バスが出ていますし、カイナーズホームにもホテルがあるので問題ないかと」
知らないことが二つも出て来たが、それはサラリと流しておこう。オレは転移バッチがあるから利用しないと思うし。
「それは助かる。妻は平等に扱わんとならんからな」
それもサラリと流しておこう。オレは結婚するなら一人と決めてるんでな。
「じゃあ、またあとで」
と、コーレンでヴィアンサプレシア号へと戻っていった。
「時速にしたら六〇キロは出てるのによく乗り込んで来れるもんだ」
「本当ですね。凄い才能です」
と、万能メイドに言われても嬉しくはねーだろうな。才能のないオレは嬉しくも悲しくもねーけど。
「ベー! 降下するね!」
あいよ。と、コーヒーカップを掲げて答える。
ちなみにオレたちは竜宮島に降りようとしてます。留学者にクレインの町はまだ見せたくないのでな。
竜宮島に駐屯する小人族には連絡を入れてあるので、プリッシュ号改が現れても騒ぎはしない。いや、ある意味騒いでんのか? なぜか知らんが滑走路に並んで旗を振っていた。
「なにあれ?」
誰か知ってる人いる?
「小人族の帰還の儀だそうですよ」
と、ミタさんが教えてくれました。まあ、連絡してってお願いしたのミタさんだしね、知ってるか。
まあ、小人族の帰還の儀で迎えられました。
「ベー様、お帰りなさいませ!」
たぶん、ここを仕切る者だろう。
「ああ。ただいま。留守をありがとな」
とりあえず、知ってる風に答えておく。すぐ出るし。
「いえ。我々の役目ですから」
「すまんが、また留守を頼むな。頼りにしてるぜ」
じゃ! とその場を去る。決して逃げたわけじゃないのであしからず。
いつの間にかできた桟橋(上空から見えました)に向かい、クルーザーを無限鞄から出してデカくする。
「留学者諸君。これに乗ってくれ」
説明はなしだ。さっさと乗り込みな。
戸惑いながらも素直に従う留学者諸君。大図書館の魔女さんに教育のなんたるかを学びたいもんだ。もちろん、実行するのは別の人だけど。
「ミタさん。海部落の港に向かってくれ。留学者諸君にうちの村を見せたいからよ」
港は人魚やカイナーズホームがあるからな。海部落の港から我が家へと向かうとしよう。
「畏まりました」
「ベー! わたしは先に帰ってるね」
お好きにどうぞ。ただし、オレたちが見えなくなってから転移してね。頼むよ。
そう目で伝えると、サムズアップで答えるメルヘン。ほんと、前世の知識を教えてるヤツだれだよ? メルヘンに変なこと教えんなや。
………………。
…………。
……。
って、オレでした!
◆◆◆
「ボブラ村よ、オレは帰って来た!」
………………。
…………。
……。
「なんだ、ベーか」
「なにごとかと思ったよ」
「さあ、仕事に戻るか」
………………。
…………。
……。
「……ベー様……」
見ないでー! そんな哀れんだ目でオレを見ないでー!
ヤだ。なにこの仕打ち? 久しぶりに我が村に帰って来たのに、なんで誰も温かく迎えてくれないの? オレ、村のためにガンバって来たよね? ガンバったよね? なのにこの扱い酷くね?
ミタさんに同意を求めるが、サッと視線を逸らされた。
留学者諸君はどう思うよ? と視線を向ければこちらを見てもいなかった。
沈黙が痛い。だが、ここで負けてはいられない。オレはボブラ村のベー。村人の中の村人。キング・オブ・村人。ネバーギブアップスタンドアップだ、オレよ!
崩れ落ちた脚に喝を入れ、根性で立ち上がる。
汚れてはないけど、ズボンをパンパン。架空の埃を払う。
「うん。久しぶりの村はイイもんだな」
なかったことにする。そう、なにもなかったのだ。イイね、皆。
「──はい。いいものですね」
できるメイドは空気も読める。なに事もない顔で乗っかて来てくれた。
「冬でも漁をするんですね」
「ああ。冬にはサオラって言う回遊魚? が岸の近くまで来るんだよ。鍋にすると旨い」
白身魚だが、煮るとイイ味を出してくれるのだ。
「うん。今日はサオラのゴジル鍋にしよう」
「はい。では、買いにいかせますね。ナオ。お願いします」
「畏まりました」
と、青鬼のメイドさんが買いに走っていった。もう、気にもならないくらいに村に溶け込んでるってことね。了解了解。
「んじゃ、いくか」
「ベー様。歩きでいかれるのですか?」
ん? なんか不味いか?
「皆様は長旅で疲れていると思うので歩きは辛いかと。館は山にありますし」
留学者を見れば歩きは辛いです! と目で訴えてる感じがする。軟弱か!
「そうだな。馬車でいくか」
「馬車ですか?」
「まあ、正確に言うなら竜車だな。ピータ、ビーダ、出て来い」
皆さん、覚えているだろうか。竜人からもらった二匹の護竜のことを。オレはすっかり忘れてました。生きてる? ってか、いる?
「ぴー!」
「びー!」
「やっと出れたでち!」
おっと。ウパ子さんもいましたっけね。完全無欠に記憶から抜けてましたわ。メンゴメンゴ。
ぴーびーなんか文句を言ってる感じ。わかんないけど、ごめんなさいと、誠心誠意、謝らせていただきます。
「ブルー島に帰ったらいっぱい遊んでイイから竜車になってくれよ。なあ?」
「ぴー」
「びー」
「しょうがないでし」
うん。ウパ子さんはやらんでイイからね。ピータとビーダを先導してちょうだい。
結界で荷車を創り出し、大きくさせたピータとビーダに装着させる。
あ、クルーザーを仕舞わないと。残しておくと大変だからな。ほい、収納。
「では、留学者諸君。乗ってくれ」
「ベー様。皆様のお荷物はこちらで運びますね」
あいよ。任せた。
「ゆっくりいくんで村をよく眺めてくれ。オレの自慢の村をな」
村を見れるように背向かいの座席にしました。
結界で創った荷車(人を乗せるときはなんて言うんだっけ?)にびっくりしなが留学者が乗り込んだ。
「ピータ、ビーダ、出発だ」
「ぴー!」
「びー!」
「いくでし!」
なんの行進だ? とか思っちゃダメ。そして、海部落の方々の奇異な目に負けちゃダメ。君たちは帝国の代表みたいなもの。毅然としなさい。
「手でも振ってやりな」
海部落の子どもたちよ。世にも珍しい見習い魔女さんたちだよ~。
「……なんの辱めかしら……?」
「……恥ずかしい……」
そんな君たちにイイ言葉を教えてやろう。
考えたら負けだ! ってな。
◆◆◆
「……あ、あの、そのもの悲しい鼻歌、止めてもらえませんでしょうか、聞いてるともの凄く悲しくなるので……」
竜車を操りながらゆっくり走らせていると、すぐ後ろにいた留学者さんがそんなことを言ってきた。
「ん? オレ、なんか鼻歌歌ってた?」
意識もしてなかったわ。なに歌ってた?
「子牛をドナるやつです」
と、ドレミが教えてくれた。ドナる?
「あ、あれね。そうかそうか。この状況、あれか」
意気消沈な留学者の空気がなんかの状況に似てるなと思ってたが、売られていく子牛の空気か。
納得納得。でも、オレの心の中で止めておこう。言ったら大変だもの。
「せっかく見知らぬ土地に来たんだから落ち込んでんじゃねーよ。もっと積極的に楽しめ。あんたらの自由と命はオレが保障してんだからよ」
まあ、なんでもかんでも自由にはさせられないが、村にいる限りは安全は約束する。つまらなかったなんて大図書館の魔女さんに報告されたくねーからな。
「わたしたちは学びに来たんです。観光などしている暇はありません」
上が真面目だと下まで真面目になるのかね? うちはテキトーにはならんのに。
──上がだらしないから下がしっかりするのでは?
なんて幻聴は右から左にさようなら~。二度と来ないでくさいな。
「せっかく世界を知れる機会を棒に振ってんじゃないよ。なんのために大図書館の魔女さんがあんたらを送り出したと思ってんだ。世界を見せるためだろうが」
もちろん、それだけではないのは重々承知。だが、世界を見せるためも本当のことだ。オレを見て視野の狭さを知り、自分ではいけないから見習いたちにいかせたのだ。
「あんたらは大図書館の魔女さんが選んだんだ」
まあ、大図書館の魔女さんが直に、ではないだろうが、決定したのならそれは大図書館の魔女さんの意だ。思いだ。願いなのだ。ならば、託された見習いたちはそれに応える義務がある。
「いずれ大いなる魔女になるまだ何者でもない少女たちよ。世界を知れ。己を知れ。他人を知れ。まだ見ぬ真実に恐れてはならない。その真実は自分を高見に連れてってくれる糧なのだから」
「なぜ、そこまでするんですか?」
「決まってる。大図書館の魔女さんに自慢したいからさ。うちに来た留学者はこんなに学びましたよってな」
別に優劣を決めたいわけじゃないが、勝負はしてみたい。相手は知の守護者。学びをよしとしてる者。そんな大図書館の魔女さんを驚かせたらさぞ楽しかろうよ。
「まあ、気に入らないと言うなら逆らえばイイさ。そんな者を選んだ大図書館の魔女さんを嘲笑うのも一興だからな」
それを許す人ではないから勝負してみたいのだ。どんな手を使って来るか考えただけでゾクゾクするぜ。
「館長に恥をかかせるようなことはいたしません」
「ああ。誇れるように行動するんだな」
さぞや大図書館の魔女さんも喜ぶだろうよ。指導者って言葉があれほど似合う人(外)もいないからな。
「おっ、あれがオレんちだよ」
館が建ってまだ数ヶ月であり、この光景も馴染んでないのだが、なぜかホッとするから不思議である。
「……ベー様は貴族なのですか……?」
「貴族ではねーよ。まあ、一代限りの貴族の息子だよ。まあ、人魚の三国から伯爵位はもらってるけど、ただの村人だよ」
説得力ねー! とか言わないで。なら、貴族だって言えば納得してくれんのか? 無理だろう。だからオレは村人なの。
「あ、皆様。ベー様はベー様だと思っていれば混乱せずにすみますよ」
フォローなんだか貶めてるのかわからないミタさん。反論できないので黙ってます。
竜車が館の前に到着。御者台から飛び降りて玄関の前に立つ。と、館の中からメイドたちがわらわらと出て来てオレの左右に並んだ。
「ようこそ我が故郷にして我が家に。帝国からの若き魔女殿を歓迎します」
オレの言葉にメイドさんたちがいらっしゃぃせと続いた。
密かにミタさんに頼んでおいたけど、なかなか立派な歓迎ができた。うちのメイド、ステキすぎる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます