第104話 勝負は見えてない

 シュードゥ族への挨拶はあっさり終了。あとは、ミタさんにお願いすればイイようにしてくれるだろう。


「ミタさん。なにか欲しいものある?」


 素晴らしい働きには素晴らしいボーナスを出すのがオレ。決して媚びてるわけじゃないのであしからず。


「いいえ。ありませんよ。ベー様からたくさんのものをもらってますので」


 そうですか。もうちょっと欲を言ってくれるとわたしめの心は安らかになるのですが。


「あ、でしたら蜂蜜をいただけたら幸いです」


 そう言えば花人族産の蜂蜜を欲しがってましたね。オッケーで~す!


 転移バッチ発動。花人族の園へ。蜂蜜もらってリターン。


「これでよろしいでしょうか?」


「ありがとうございます! 大切に食べます!」


 あなたの笑顔がわたしの平穏。これからもよろしくお願いいたします。


「主従関係間違ってない?」


 なにも間違ってはいません。わたしめがあるのはミタさんがいてこそ。あなたなしでは存在し得ないのです!


「って、帰ったんじゃなかったのか?」


 赤毛のねーちゃんからの突っ込みだったのね。突っ込み神からかと思ったよ。


「船長は船とともに、だからな」


 よくわからんが船あっての船長ってことで理解しておこう。オレにはどうでもイイことだしぃ~。


 赤毛のねーちゃんの船を小さくして無限鞄へとポイ。伸縮能力チョー便利~。


「じゃあ、またな」


「ああ。南の大陸にいくときはちゃんと連絡してくれよ。三日前くらいに。絶対だからな」


 わかってるって。ちゃんとミタさんに言っておくよ。


「……あくまでも他人任せなんですね……」


 ハイ、他人任せですがなにか?


「いつか後ろから刺されますよ」


 もう何度も撃たれたり殴られたりしてますが、アレらはノーカンですか? つーか、刺される前に幽霊に取り憑かれてることはカウントされるのか是非とも聞きたいです。


 レイコさんを睨んでやろうかと振り返るも、自由自在な幽霊はオレの視界から逃げるばかり。ちょっと前に出て来いや!


 しばらく粘ったが、一向に視界に入らないので諦め、プリッスルへと戻った。


 親睦会は終わったようで、食堂には大図書館の魔女さんと配下の魔女さんが数人いただけだった。


「わざわざ残ってなくてもよろしいのに」


 暇じゃないでしょあなたは。


「いや、たんに休んでいただけだ、ここは落ち着くのでな」


 そうなの? どこにでも……ないか、こんな食堂は。前世にも負けない調度品や食べ物、あと気にもしなかったが、クラッシックなBGMが静かに流れている。


「ただいま~」


 と、プリッつあんがご帰宅。疲れたように飛んで来て、オレの頭にパイル〇ーオンした。


 ……前世で勝手に戻って来て充電する掃除機あったな。名前は忘れたけど……。


「ご苦労さん。上手く渡せたかい?」


「ええ。喜んでたわ。特に空飛ぶ箒には。他のお嬢さん方も欲しいって」


「……貴族社会に変なものを流行らせてくれるなよ……」


 別にオレが流行らせたわけじゃないし。あ、いや、作ったのオレでしたね。ゴメンナサイ!


「空飛ぶ箒はシュードゥ族が作ってるからそのうち買えんだろう」


 オバチャーンたちのイイ小遣い稼ぎになんだろうよ。


「ところで、プリッつあん。プリッスルってまだあるか?」


 君、なぜか何個も持ってたよね?


「え、うん。あるわよ。それがどうしたの? あ、レイティム。紅茶ちょうだい」


 と、控えるメイドさんに紅茶を頼んだ。


 ……このメルヘン、メイド全員の名前を覚えてんのか……?


「そんなの当たり前でしょう」


 ごめん。君の当たり前がまったく理解できねーわ。つーか、君が恐ろしくなったわ。うちにメイド何人いると思ってんだよ! いや、何人いるか知りませんけど! ダメな雇い主ですみません!


「プリッスル、ここに置いてはダメか? 魔女さんの憩いの場所にしようと思ってよ」


 もちろん、打算があってのことです。


「へ~。魔女の憩いか。お洒落ね」


 お洒落? どこが? メルヘンのお洒落感覚はよーわからんわ。


「いいわよ。このプリッスルは予備だから」


 一度、君の持ち物について話し合いたい気分だよ。まあ、三秒過ぎたらどうでもよくなるけど!


「ミタさん。どうかな?」


「はい。問題ありません。すぐに配置します」


 もし、ニューメイド長さんがこのことを読んでいたら厚く御礼申し上げそうろう。


「……よいのか……?」


「まあ、拠点としても使えますし、そちらとの会合の場としても使えますしね。遠慮なくお越しください。もちろん、お金はいただきますがね」


 メイドさんたちのイイ小遣い稼ぎになんだろう。それで気持ちよく働いてくださいませ!


「礼を言う」


「お気になさらず」


 打算が働いてるのだから礼は不要。たくさんお金を落としてくださいだ。


   ◆◆◆


 レヴィウブでの用事は粗方片付いた、と思う。


 オレの今生、脇道寄り道回り道なので主目的がなんだったか忘れてしまったが、あとは任せてもイイくらいには片付けたはずだ。


「ミタさん。留学者をブルー島に連れていく。住む場所を用意してくれ」


「畏まりました」


 なんて言っておいてなんだが、大丈夫なん?


「ブルー島にはメイド見習いの宿舎があるので大丈夫ですよ」


 オレの視線を察したのか、ミタさんが笑いながら教えてくれた。ありがとうございやす!


「それでは、大図書館の魔女さん。またいつか」


「いつか、ではなく日時を決めんか」


「それは無理と言うもの。わたしは気の向くまま風の吹くまま、自由自在に動き回る。天が望むときが再会のときです」


 できない約束はいたしません。


「……自由なヤツだ……」


「はい。それがヴィベルファクフィニー・ゼルフィングと言う男ですので」


 オレから自由を取ったらオレではなくなる。


「では」


 ミタさんに視線を送り、留学者たちと食堂を出た。


「ベー様。転移は避けてプリッシュ号改での帰宅がよろしいかと」


 なんでや?


「魔女に転移を知られるのは不味いかと」


「わかった。プリッつあん、頼めるか?」


 ミタさんがそう言うなら従うまで。オレに否やなし。


「任せて! 久しぶりにわたしの操船を見せてあげるわ!」


 なぜかやる気のプリッつあん。変なスイッチ押しちゃったか?


 まあ、プリッつあんが喜んでるならなにより。オレの心は平穏ってことだ。


「四番、チェンジアップ!」


 で、船長服へと変身した。


「準備して来るね!」


 と言うのでプリッスルの前で皆さんと一緒にブレイクタイム。お紅茶を一杯飲んだ頃、プリッシュ号改が空から降下して来た。


「そう言や、伯爵さんたちと誼を結ぶの忘れてたわ」


 せっかく結んだ縁がもったいねーな。


「ミタさん。レヴィウブに来たときに会った二人の伯爵……なんて言ったっけ?」


 ヤベー! 完全に忘れたわ!


「ウイルトン伯爵とバインエル伯爵です」


 と、ドレミが教えてくれた。うんイイ子イイ子。


 猫型のドレミを抱きしめて撫で撫でしてあげる。


「ミタさん。両伯爵にオレの名で酒でも送っておいてよ。奥さんや子どもたちには甘いもんをさ」


「畏まりました。すぐに手配します」


 ミタさんに任せれば送られたも同然。伯爵さんたちのことは頭からポイだ。


 プリッシュ号改が着地し、巨大化したメルヘン船長が出て来た。


「ようこそプリッシュ号へ。皆さんを歓迎します」


 船長モードのメルヘンさん。ステキー! と言っとけば世は平和に回るもの。んじゃ、お邪魔しまぁ~す。


 見習い魔女さんと世話役に連絡員が乗り込み、続いてメイドさんたちが乗り込む。


「では、皆様によき空の旅を」


 プリッシュ号改が離陸。我が故郷へと発進した。


 見習い魔女さんたちは初めての空の旅に騒ぎ、終始落ち着きがない。それを嗜めるはずの世話役や連絡員も同じだ。


「微笑ましいもんだ」


 そんな魔女さんたちを眺めながらコーヒーを飲んでいると、監視していたメイドさんが声を上げた。


「一〇時方向に船影あり!」


 と言うので一〇時方向を見るが、なんかいるって程度にしか見えない。どんだけ目がイイんだよ?


「ミタさん、わかる?」


「恐らくヴィアンサプレシア号かと思います」


「なら、サプルだな」


 ってか、ちゃんと日付は理解してたんだな。結構大雑把だったのに。


「はい。メイド長が仕切ってますから」


 あ、ああ、そうだったね。ニューメイド長さんがいれば狂いはないか。お見逸れいたしやした!


「せっかくだ。ランデブーして帰るか」


「ランデブーってなぁーに?」


「一緒に並んで帰りましょうってことだよ」


 違ったらごめんなさい。


「誰か照明弾打ち上げて」


 持ってるかどうかは知らんけど。そして、あちらが理解するかも知らんけど。


 でも、うちのメイドに抜かりはなし。照明弾はちゃんと持ってるし、打ち上げたらヴィアンサプレシア号とランデブーもした。


「あ、サプルが手を振ってるわよ」


 君たちの視力で語らないで欲しい。どこにいんだよ? わかんねーよ!


 でも、メルヘン船長が見てる方向に向けて手を振ります。サプル、見えてる~。


 なぜか魔女さんたちまで手を振り出し、ヴィアンサプレシア号とプリッシュ号改は並んで帰路についたとさ。めでたしめでたしっと。


 さあ、我が家に着くまで読書でもしよぉ~っと。


  ◆◆◆


「……ほんと、お前はどこにいっても騒ぎを起こすよな……」


 現れるなり失礼なことをおっしゃる公爵どの。オレ自身騒ぎを起こした……こともないとも言えない我が人生。だが、今回は騒いだつもりはありやせんぜ。


「なんだい? ってか、ヴィアンサプレシア号に乗ってたのか?」


 まだ航行中であり、出発して三〇分も過ぎてねー。一緒に我が家へいこうとしてんのか?


「帝国を出るまでは安心してサプルの側から離れられねーよ」


「……なんかあったのか……?」


 事と次第によっちゃそれ相応のことをするぜ。


「お前と比べたら大したことじゃねーよ。こちらで処理した。ついて来たのはおれが大事にしてることを知らしめるためだ」


 よくわからんが、公爵どのがそう言うならそうなのだろう。豪快ではあるが女には誠実(?)な男だからな。


「お前の出会い運のことだから皇弟殿下と会うだろうと思ってたが、まさか大図書館の魔女まで会うとは思わなかったよ」


 はぁ~とため息を吐く公爵どの。なんか老けた?


「説明しろ」


「なにを?」


「フューワル・レワロをレヴィウブに置いたこと、エルクセプルを教えたこと、他にもありすぎて頭がこんがらがるわ!」


 うん。いろいろありすぎてよくわからんな。どうしようとしてたんだっけ?


「……大図書館の魔女さんを見たとき、こいつヤベーと思ったのがきっかけかな……?」


 その前に殿下と会ってたから記憶がいまいちだけど。


「まあ、帝国一〇姫の一人だからな」


 一〇姫ってことは、あと九人もおっかないのがいんのかよ! かかわらないことをここに誓う。


「敵にしたら怖いので興味を引くものを出したわけだ」


 結界でチェスのポーンを創り、空中に置いた。


「悪手、ではないよな? お前はそんなマヌケはしないから」


 わかってらっしゃる。


「だが、ある意味悪手だったかもしれないな。あそこまで食いつかれると」


 まだどちらもチェックまでいってない。今後どうなるかはオレにも読めんよ。


「ある意味では良手だったんだろう?」


「殿下や大図書館の魔女さんの目を公爵どのから逸らすことができた」


「……確かに、エルクセプルの出所が増えればうちの負担は減るな」


「無駄に恨まれなくもなるしな」


 まあ、それでも劣化しないバイブラストのエルクセプルが重要度は高いがよ。


「フューワル・レワロ、生命の揺り籠をあそこに置いたのは、帝国の目を集中させるためだな」


「ヤオヨロズから目を逸らさせるためにか?」


「帝国兵を縛りつけておく意味もある。余計な色気を出されても困るからな」


 公爵どのには悪いが、帝国兵を消耗してくれるのも願ってます。


「悪辣だな、お前は。フューワル・レワロはお前が握っている。お前の胸一つで閉じることもできる」


「そして、開くこともできる」


 天空の城を崩壊しちゃうような言葉があったりする。


「まさにチェックメイトかよ」


「まだチェックにもなってねーよ」


「生殺与奪権を握ってる時点でチェックメイトだわ!」


 それをやったら全面戦争。こちらがチェックメイトになるわ。


「今はまだ、持ちつ持たれつの状況だな」


「お前はそれすら利用するんだろう? ヤオヨロズのことがバレようともな」


「魔族を認知させる絶好の機会だからな」


 留学はまさに渡りに船。帝国から持ちかけてくれたからこそ帝国はオレとの約束を守らざるを得ない。破れば帝国の格が落ちるばかりじゃなくオレの信頼も失うのだからな。


「他にもありそうだな?」


「あるにはあるが、オマケみたいなもの。重要には思ってねーよ」


 オレと言う金蔓を逃がさないでいてくれたら、な。


「はぁ~。仕事が増えるぜ。車乗りてー」


「まあ、さっさと済ませて魔大陸で車を走らせるんだな」


 広大な大地をかっ飛ばして憂さを晴らすんだな。


「あーなるほど。魔大陸にいけばいいのか」


「魔大陸にはカイナーズがあるし、誘えば競争してくれるぜ」


 頼むからオレは誘わないでいてくれ。もう碌でもないことには合いたくねーからよ。


「おう。じゃあ、またな」


 なにで来たと思ったらコーレンで来たのかよ。それ、そんなにスピード出せる……ものだっけ? あれ? 時速にしたら六〇キロくらい出てるんですけど!


「フミさんたちが作ったコーレンですね」


 と、ミタさんが教えてくれました。


 シュードゥ族もシュードゥ族ならクルフ族もクルフ族だな。進化がハンパないわ~。

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