第182話 基本、変態だけど

 準備ができたのでクレインの町へと転移した。


「発展してきたもんだ」


 建物も増え、クレイン湖にも飛空船が増えている。ってか、そんなに造ってどーすんのよ?


「べー様」


 桟橋で待っていると、プロキオンの船長がやってきた。あ、久しぶり。元気にしてた?


「よろしく頼むわ」


「はい。久しぶりの出番、しっかり勤めさせていただきます」


 いや、そんなに張り切らなくてもイイんやで。いや、出番を作ってやれないオレが悪いのかもしれないけど!


 プロキオンに乗り込み、客室に通された。


「べーくん、外を見てきていいですか?」


「船長。よろしく頼むわ」


 船に乗ったら船長の指示に従うもの。なんでよろしこです。


 オレはもう飛空船に感動もないので、客室でマ○ダムタイム。あーコーヒーうめ~。


 浮遊感が生まれ、プロキオンが発進。軽いGがかかり空へと飛び上がった。


「そう言えば、プリッシュ様がいませんね? こう言うことにはついて来そうなのに?」


 まあ、プリッつあんにはプリッつあんの用があんだろう。グローバルメルヘンだからな。


 のんびりしていると、色っぽい魔女さんが一人だけ戻って来た。若干、青い顔をして。


「高所恐怖症だったかい?」


「……だったみたい……」


 そう言って椅子に沈んでしまった。


 薬工房、結構高さがあったし、空飛ぶ箒(シュードゥ族製ね)で飛んでもいた。高所恐怖症ならそれでわかるもんじゃねーの?


「落ち着かねーなら酒でも飲むかい?」


 客室には酒が置いてあるので、度数の強いウォッカを出してやった。


「どうせ着く頃は夕方だ。酔い潰れても構わんよ」


 外はもう夕方。行動するのは明日になるんだから潰れたって問題ねーさ。


「では、いただくわ」


 ウォッカの瓶とコップを出してやる。キッツいから注意しろよ。


 なんて心配する必要もなく、ウォッカを飲む色っぽい魔女さん。酒豪か?


「もう山を越えたか」


 バリアルの街まで馬車だと何日もかかるが、飛空船だと三〇分もかからねー。上昇したと思ったらすぐに降下し始めた。


「失礼します。あと五分で着陸します」


 船員が入って来て、そんなことを告げた。はい、了解です。


 浮遊石から魔力が抜ける感じがして、ガタンとプロキオンが飛空船場に着陸した振動が伝わってきた。


 ……やはり飛空船は水に着水しないとダメだな……。


 しばらくして船長がやって来て、降りる許可を告げた。


 プロキオンから降りると、陽が暮れており、あと三〇分もしないで暗くなりそうだった。


「初めまして、べー様。支店長のロゴルです」


 バリアルの街に支店なんてあったんだ。いや、飛空船場を造ったのだからあって当然か。婦人の働きに最大の敬意を!


 心の中で婦人に敬礼して謝意を表した。


「おう。ご苦労さんな。問題なくやれてるかい?」


「はい。今のところ順調に商売をしております」


 それはなにより。バリアル伯爵から妨害は受けてないようだ。


「支店は街の中にあるのかい?」


 まったく知らない会長で申し訳ございません。


「事務所は街の中に置いてありますが、支店としては飛空船場の横に建てております。まずは支店へ案内します」


 と言うので皆で支店に移動した。


 支店は平屋だが、しっかりとした造りで、離れたところに従業員の住居らしきものも建てられていた。


 中もしっかり造ってあり、調度品も立派なものが揃えられている。


「身分のあるヤツが来るのかい?」


 立派にするのは立派なヤツが来るから。そうでなければ婦人の性格からして質素にするはずだ。


「はい。役人や街の商人が来ます。カイナーズホームで仕入れたものや海産物を売っておりますので」


 そんなことまでやってたんだ。婦人、商売上手だよ。


 他にも話を聞くが、ゼルフィング商会は受け入れられているようだ。


「ジャックのおっちゃんとは会ったかい?」


 婦人に話してなかったが、オレがバリアルの街に来ている理由を調べはするはずだからな。


「はい。ご挨拶に参りました。たまに器材を買いに来ますよ」


「そうか。なら、誰か走らせてくれるか? 明日、オレがいくってよ」


 外は暗くなったが、冒険者とかが仕事終わりにやって来るので、夜の八時くらいまでは開いてたりするのだ。


「わかりました。すぐに走らせます」


 部屋にいた者に視線を向け、頷き一つして出ていった。


「今日はもうお休みになさいますか?」


「いや、まだ起きてるよ。外の空いているところに勝手に泊まるよ。こちらに構わず仕事をしてくれや」


 突然来て仕事を邪魔する気はねー。放置してくれて構わんよ。


「わかりました。なにかあればお呼びください。警備員を巡回させておりますから」


 ここは街の外。魔物が出たりするか。


「あ、婦人の娘には部屋を用意してやってくれや」


 オレたちと違って、アーベリアン王国時間で生活してたんだからな。


「メイドさんたち、頼むわ」


「畏まりました」


 メイドさんに任せ、支店から出て新しく買ってきたキャンピングカー──いや、キャンピングトレーラーを無限鞄から出した。


「薬作りをやるが、どうする?」


「やります」


 ウォッカを飲んだのに、しらふかのように返事する色っぽい魔女さん。やはりこの人は酒豪のようだ。


 キャンピングトレーラーへとは入り、皆で薬作りを開始した。


   ◆◆◆◆


 薬作りは夜中まで続け、バリアル時間に合わせるために睡眠薬を飲んで眠った。


「……目覚め、最悪だな……」


 催眠効果があるものは色っぽい魔女さんから提供されたものだが、意識が重くて気持ち悪さが出るものだった。


 九時くらいに起きたが、一時間くらい頭が働かなかった。


「これ、もっと改良したほうがイイんじゃねーか?」


「そうね。わたしも初めて使ったけど、ここまで最悪なものとは思わなかったわ」


 色っぽい魔女さんも使ったことがないと言うので、治験がてら飲んだが、個体差ではなくこう言うものらしい。


「ドレミ。濃いコーヒーを頼む」


「どうぞ」


 幼女型メイドになっているドレミにお願いしたらすぐにコーヒーを出してくれた。サンキュー。


「……うん。苦くて目が覚める」


 苦くなくてもコーヒーを飲んだら目が覚めるけどな。


「動くの、午後からにしよう」


 目は覚めたが、気分はまだ最悪のまま。動く気になれんよ。


「そうしてもらえると助かるわ。動ける気がしない……」


 この睡眠薬、確実に失敗作だよな。


「マイロード。蒸しタオルです」


 顔に蒸しタオルをかけられ、ゴシゴシと拭いてくれた。


「コリアント様、拭きますね」


 あちらも蒸しタオルで顔を拭いてもらっているようだ。あ、魔女見習い、いたんだ! って突っ込みは止めておくれよ。


 拭いてもらってちょっとスッキリ。楽になったよ。


 そのまま瞼を閉じたまま体を横にしていると、婦人の娘が入ってきた。あ、おはよーさん。


「気分が優れないと聞きましたが、そんなに酷いのですか?」


「まあ、それなりにな」


 健康優良体だったせいか、体調不良のときはかなりキツく感じるのだ。


 ハァ~。五トンのものを持っても平気な体も絶対ではねーってことか。これからは健康に気をつけて生きていかねーとな。


「暇なら変装して街を見てきたらどうだ? メイドさんたちがついてりゃ問題ねーだろうからな。いろは、分裂体を一人つけてやれ」


「イエス、マイロード」


 街娘風のいろはが現れた。


「では、お言葉に甘えさせていただきます」


「ああ、どんどん甘えてイイよ。あんたはもううちの家族だからな。メイドさんたち、頼むわ」


 婦人を引き抜いたときから守ると誓った。なら、その娘も守るのがオレの責任だ。まあ、実行するのはメイドさんだけど!


 婦人の娘が出ていき、冷たいタオルをおでこに当ててもらって静かにしている。


 このまま眠ってしまいたいが、それではいつまでもバリアル時間に合わせられねー。ガマンして眠らないように堪える。


「……暇だな……」


 もう無音でも心穏やかになれるくらいになってたのに、体や気持ちが弱くなると静かなのがどうしようもなく寂しくなるものである。ほんと、健康とは欠かせない宝だぜ。


「マイロード。なにか観ますか? 創造主がカイナーズホームから大量にDVDを買いましたので、分裂体を通して映すことができます」


 なにやらスライムの謎機能をカミングアウトされてしまった。


「……えーと、劇団マルセーヌのDVDとかあったりするか……?」


 実を言うと、演劇とか好きなんだよね、オレ。この世界、旅芝居もねーから寂しかったんだよね。


「しばらくお待ちください」


 外国の劇団だからDVDが出てるかわからんし、エリナが買っているかもわからん。ないならないで構わんさ。


「──ありました。VHSでしたが」


 VHSとか、久しぶりに聞いたな! つーか、VHSまで売ってんのかよ、カイナーズホームは! ほんと、誰に需要があんだよ! いや、今まさにオレに需要があったけど!


「ま、まあ、観れるんならなんでもイイわ」


「わかりました」


 幼女型メイドのドレミが何体も現れ、手を繋いだかと思ったらスライム化し、うにょうにょ動いたあとに五〇インチくらいの画面となった。


 またスライムの謎機能。こいつらはどこに向かって進化してるんだろうな? いや、進化させてるのはエリナだろうけどよ。


「では、開始します」


 と、画面にノイズが走り、なんか懐かしい青色の画面になり、画像の荒い映像が映し出された。そこは忠実なんだ。


 フランスの劇団だが、なぜかこの世界のことばになっている。そんなことできるなら映像をもっとクリアにしろや。なんの拘りだよ?


 いろいろ突っ込みたいが、せっかく観せてくれるのだからありがたく観させていただきましょう。


「……こ、これは、いったい……?」


 あ、魔女さんたちもいたんだっけ。完全に意識から外れていたわ。


「演劇、帝国にもあるだろう?」


 あるって話は聞いたことがあるぜ。


「いえ、このスライムたちのことですよ」


「そこは管轄外だ。オレに聞かんでくれ」


 オレはもうスライムの謎機能を追求する気はねー。超万能生命体に死角はねー。


「興味ねーなら場所を移すよ」


 まったく動けねーってわけじゃねー。ゼロワン改+キャンピングカーに移るくらいはできる。


「いえ、構いません。わたしも演劇好きですから!」


「わたしも構いません」


「いいんじゃない」


 魔女さんたちの賛同を得られたので、皆で演劇を観賞することにした。


   ◆◆◆◆


「おもしろかったです……」


 なんにでも興味を示すそばかすさんがパチパチと拍手をしている。


「そうだな。今度、帝都の劇場にいってみるか」


「いいですね! べーくんがいくならわたしたちもいけそうです」


「見習いは外出が許されねーのか?」


 寄宿舎みたいな厳しいところなのかな?


「はい。よほどのことがない限り大図書館から出ることはできません。だから今回選ばれたことが嬉しくて。寝るのも惜しいくらいです」


 どんだけ好奇心旺盛なんだか。まあ、好感は持てるけどな。


「何年預かるとは決めてねーが、二、三年は預かるつもりだ。慌てる必要はねーよ」


 一年二年でまったく違う社会体制を学ぶなんて無理だ。最低でも三年は必要だろう。なら、いろいろ見る時間はある。オレですらこの一年で魔大陸だの南大陸だの見てるからな。


「べー様と一緒にいたらたくさん見れるでしょうけど、じっくりと見ている暇はないでしょうね」


 ま、まあ、確かに、じっくり見ているかと言われたら、そうじゃねーと答えるしかねーが、好奇心旺盛なヤツは質より量だからそれでイイやろ。


「ドレミ。コーヒーくれ」


 演劇を観てたら気持ち悪さも落ち着いたし、腹も少し減った。コーヒー飲んでメシ食って、少し動けば二時くらいから街にいけんろう。


 ドレミからコーヒーをもらいゆっくり飲んでいると、先に色っぽい魔女さんが復活。キャンピングトレーラーのシャワー室へと向かった。


「また、露天風呂でも創るか」


 飛空船場は街の外。田畑もない。露天風呂を創っても文句は言われまい。女も働いているみたいだし、あったら喜ばれんだろう。


 そんなことを考えてたら色っぽい魔女さんがシャワーから出てきたので、オレもすっきりさっぱりするためにシャワーを浴びることにした。


 シャワーから出ると、なんか魔女見習いの三人から変な目を向けられた。なによ? 先に入ったから怒ってんのか?


「いや、女性のあとに入ったからじゃないですか?」


 はぁ? 一緒に入ったならまだしも終わってから入ったんだから変でもねーだろうが。


「……あなた、本当に男なの? 同性が好きとか……?」


 なに失礼なこと言っちゃってくれてんのかね。お前ら、腐魔女か? それならエリナのところに放り込むぞ!


「そうしたら悪化するのでは?」


 うぐっ。確かに。腐界に王の蟲を帰すが如し、だな。


「別に色っぽいからと言って好みとは違うよ」


 オレにだってそれなりの欲情はあるさ。


「え、あったんですか?」


 あるよ! ただ、好みじゃないと働かないだけ。好き嫌いがはっきりしているだけだ。


「……同性でも淫魔のコリアント様に逆らうのが大変なのに、あなた変態ね……」


 拒否したらしたで変態扱いかよ。


「まあ、基本、べー様は変態ですからね」


 幽霊からの心ない決めつけ。なのに、反論できぬ自分が憎らしい……。


「ドレミ。なんか食えるもんあるか?」


「でしたら、支店の食堂で食べられたらいかがでしょうか? 温かいものが食べられます」


 支店の食堂? そんなものまであるんだ。んじゃ、いってみるか。


「あんたらもいくかい?」


「ええ。ご一緒するわ」


 と言うので皆で支店の食堂へと向かった。


「へ~。なかなかのもんだな」


 町の食堂って規模だが、メニューは居酒屋並み。酒まで置いてあるよ。


「いらっしゃいませ~! 五名様ですか?」


 なんだか接客も居酒屋っぽいな。


「ああ。ランチセットを頼むよ。飲み物は各自頼めな」


 もう二時近いが、夕方まではランチタイムらしい。つーか、ランチが銅貨一枚とか激安すぎねーか? 写真を見ると銅貨一〇枚は取れそうな質と量だぞ。


「酒が飲みたいなら好きに飲んでイイぞ」


 食事に葡萄酒を飲んだりするのは普通だしな。


「では、遠慮なく。葡萄酒をください」


「あ、わたしもお願いします!」


 そばかすさんの手を挙げて葡萄酒を頼んだ。


「酒を飲むことは許されてんだ」


「一六歳からは許されるかな」


 ってことは一六歳以上なんだ、そばかすさんは。言動が幼いから十四、五かと思っていたよ。サダコはよーわからん。


「ツンツインテールは何歳なんだ?」


「一五歳よ」


「魔女は、見た目より若いのな」


 イイところ一三歳かと思ってたぜ。ツインテールとかしてるし。


「確かに魔女は肉体の成長速度は遅いわね」


「色っぽい魔女も若いのか?」


 見た目は二三、四には見えるが。


「……それなりよ……」


 それはもう訊くなと言うことなんだろう。了解で~す。


 すぐにランチセットが運ばれてきて、四人でいただいた。あー旨い。

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