第131話 オレ、なんかやっちまった感じです

 ザイライヤー族の薬師殿から回復薬を教わり、各自作り始めた。


 薬師としての年期(いや、六年くらいだけど!)があるので、薬の配合や煎じ方は難なくこなし、すぐに回復薬を完成させた。


「……お前さん、手際がいいね……」


 薬師殿がオレの手際にびっくりしている。


 ……オババに習い始めた頃を思い出すな……。


「手先には自信があるんでな」


 前世ではそうでもなかったが、今生はなかなか器用な体に生まれた。オトンとオカンに感謝である。


「やはり、外の者は優秀なんだね」


「薬師殿には負けるよ」


 感心する薬師殿だが、残されただけあって薬師レベルは高かった。


「その歳でこれだけできれば天才だよ」


「オレを基準にしないでくれ。上には上がいるんだからよ」


 オレより才能があり、努力を重ねた者はいる。魔女さんの中にも才能がありそうなのがいる。とても自分が優秀なんて思えねーよ。努力した自負はあるけどよ。


 回復薬を作ったのなら試したくなるのが人情。虫の息になっているヤンキーに無理矢理飲ませた。


「……中の下、ってところかな……?」


 材料が違うからか、地元の材料で作る回復薬よりは効果が低い。


「いや、凄い効果じゃないですか!」


 とは、魔女さんの一人。調合が一番上手かったソバカスさんだ。


「そうか?」


「そうか? じゃないです! 帝都なら高額で取引されるほどですよ!」


 これでか? これならニーブ(オババの現弟子です)でも調合できるぞ。


 比べるためにソバカスさんが調合した回復薬をヤンキーに無理矢理飲ませる。


 傷の深さに多少の違いはあるが、治るスピードで回復薬の効果はわかる。


「下の下、って感じだな」


 オレが初めて調合したときより効果は低いぞ。


「……わたし、これでも調合では優を取ったんですから……」


 何段階の優かは知らんが、これで優を与えるヤツの腕は知れると言うものだ。


「低くないか?」


 別に貶めるつもりはねーが、帝国だぞ? 魔女だぞ? 見習いとは言え、もうちょっと腕があってもイイだろう。


「……あなたから見たらそうかもしれませんが、魔女が作る薬は人気なんですよ……」


 なにかプライドを傷つけちまったようで、不快な顔になっていた。


「いや、否定したわけじゃねーよ。帝国の薬のよさは知ってるからよ」


 公爵どのから仕入れてもらい、隊商相手に儲けさせてもらっているからな。ただ、この効果を見ると低くとしか言いようがねーんだよな。


「まあ、教育過程が違うかもしれんし、なんか事情があるんだろうよ」


 あえて教えない場合もある。これだけで判断はできんか。


「とにかく、材料がある限り作れ。流れを体に身につけさせろ。ただし、工程を一つ一つ理解しながらやれよ。雑な仕事は雑な結果しか生まねーぞ」


 ただやればイイだなんて三流の仕事だ。一流を目指すなら全集中。現役薬師としてひよっ子どもに負けてられるかだ。


 それから回復薬を調合し続け、二日後に上の中まで持っていけた。


「これ以上は材料の質だな」


 これは負け惜しみじゃなく材料の質が効果を上昇させるのだ。料理だってそうだろう? いくら腕がよくても萎びれた葉をしゃきしゃきにはできまいって。いや、料理下手なオレが言っても説得力がねーけどよ。


「採取班。質のイイもんを採ってこい!」


 収納鞄を全員に渡す。採ったらすぐ入れろよ。


 エース的オネーサマにも頼み、質の良し悪しを教えるようお願いする。


 それから集めて来るごとに質の良し悪しを教えてもらい、自分で見きわめるようにする。


「なにしてるの?」


 と、久しぶりに聞くメルヘンの声。なにって薬草の質を見極めてるんだよ。


「つまり、目的を見失ったってことね」


 目的? あれ? オレ、なにをしようとしてたんだっけ?


「勇者様を探していたのではありませんか!」


 ………………。


 …………。


 ……。


 あ。


「そうだよ! 勇者ちゃんだよ!」


 忘れんなよ、オレ! 


「いつものべーで安心するわ」


「いや、それはどうなの?」


「あんちゃんはどこにいてもあんちゃんだからね」


 メルヘン、レニス、サプルの女三人三重奏。それは、女に必須な能力なのか?


「なにしに来たんだ?」


 なにか浅草的なところでたい焼きを作ってなかったっけ? あ、たい焼き食いたくなった。ムシャムシャ。


「あんちゃんがなんかやってるって聞いたから来てみたの」


 つまり、これと言った理由はなし、ってことね。了解了解。


「まあ、薬師としての修行だな」


 危うく三年くらい修行しそうなくらい全集中してたけど!


「ミタさん。渋いお茶ちょうだい」


 ちょっとクールダウンして我を取り戻そうではないか。あーお茶が渋~い。


 なぜか一緒のテーブルについてたい焼きを食べ始める女性陣。君らもゴーイングマイウェーイだね。


「魔女さんたち、なんかやつれてない?」


 メルヘンの言葉に魔女さんたちに目を向けるとデスマーチな感じで薬草を調合していた。


「なにかを求めるとはこう言うことさ」


「べーはなにを言ってるの?」


「どうでもいいことよ。軽く流しておきなさい」


「そうだね。たぶん、テキトー言ってるだけだから」


 メルヘンとマイシスターからの理解がとっても悲しいです!


  ◆◆◆


 今すぐ勇者ちゃんを捜さなきゃ!


 と、言うわけにはいかないか。まだ、魔女さんたちによる薬草採取や調合、解剖や回復魔術が続いているし。


「ミタさん。この周辺の地図ってできてる?」


 カイナーズが地図製作してたはずだ。


「周囲百キロはできております。南西方向に町がありましたので探索班を侵入させているそうです」


「仕事が早いこと」


「カイナーズは評価制ですから」


 なにを評価するかは知らんけど、カイナーズで働くのも大変そうだ。


「町ってどのくらいの規模なんだい?」


「人口は約二千人。南大陸人がほとんどで、バルバラット族系が数十人いるそうで」


 バルバラット族? なんだっけ?


「トカゲさんたちです」


 と、ドレミさんが教えてくださいました。あーハイハイ。トカゲさんね。思い出した思い出した。


「町まで遠いのかい?」


「距離はありますが、シュンパネが使えるのですぐにいけます」


「なら、一度いっておくか」


 転移バッチに覚えさせておけばいつでもいけるしな。


「畏まりました」


 と、いったことがあるカイナーズの者を呼び、なぜか女性陣までいくことになった。君ら、暇なの?


「暇をもて余した村人に言われたくないわね」


 べ、別に暇をもて余してなんかいねーし! 毎日有意義に生きてる村人だし!


 口で勝てないのでムーとするだけ。さあ、青オニーさん。町に飛んでおくれ。


「で、では、いきます」


 シュンパネは接触する必要ないからイイよな。


「バルザイドへ──」


 視界がブレ、浮遊感に襲われたと思ったらすぐに引っ張られる感覚。ゲームのアイテムだからか、なんか人に優しくないよな。


 転移バッチのよさを痛感してる間に視界が戻り、町の門? の前に到着した。


「ここは石組なんだな」


 近くに砕石所でもあるのか? 町を囲う壁の高さが一〇メートルくらいある。


「壁が高いってことは巨大な魔物が襲って来るのかな?」


 さすがカイナの孫だけあってレニスの脳は戦闘脳である。


「そうだな。道具を使う魔物っぽいな」


 三メートルの高さになにかで叩いた痕がある。おそらく、石斧みたいなもので叩いた感じだ。ってか、最近つけられた感じじゃね? 土もなんか荒れてるし。


「ミロードかな?」


 ミロード? 初めて聞くな。どんなのだい?


「大猿の一種で、五歳くらいの知恵がある魔物よ。結構いろんなところにいるわ」


「そうなのか? うちの近くに猿はいなかったがな」


 ゴブリンはよく出たが、猿系はまったくいなかったぞ。


「そうなんだ。平和な村なんだね」


「昔、ベーが山に住む生き物を根絶やしにしたことがあったって聞いたけど」


「あんちゃん、熱中すると止まらないから」


 そ、そんな過去もありましたね。イイ思い出です。まあ、山の生き物にとっては悪夢だったろうけど!


「ベー様」


 と、麻の貫頭衣を纏い、人族の男が駆けよって来た。カイナーズのヤツか?


「おう。ご苦労さん」


「こちらへ」


 まだ明るいのになぜか人の往来はないが、この大陸の格好をしてない。目撃されると面倒だと、男の指示に素直に従った。


 ……種族が違うと衣服の違いってそれほど気にならないもんなんだぜ……。


 貫頭衣の男に連れられたところは町から百メートルほどジャングルの中。開けた場所にテントがいくつか張られ、ジャングル仕様の迷彩服を着たカイナーズがいた。


「こちらへどうぞ」


 一つだけ大型のテントに案内され、席を勧められた。なんでや?


 なんかよくわからないままに出された薄味のコーヒーを出され、なんかA4の紙を束ねたものを配られた。いや、だからなんでよ?


「バルザイドは数ヶ月前に魔物の大群に襲われたそうです」


 と、赤鬼さんが語り始めた。


 空気が読めるオレとしては「なんでやねん!」とは突っ込めねー。真面目な顔で紙の束を捲ってみた。


 誰がどう調べたか謎だが、バルザイドの町の地図や店の名前が書かれ、写真も添付されていた。


「大群の大半はミジルグと呼ばれる大猿で、ヤンキーがつき従っていたようです」


 なに気にゴブリン猿がヤンキーと言う名称になってます。オレ、なんかやっちまったか?


「それにしては被害がなかったね?」


 空気を読まないレニスが疑問を口にした。黙って聞いてやれよ。赤鬼さんの見せ場なんだからよ。


「バルザイドを訪れた勇者ちゃんが撃退したようです」


 ん? 勇者ちゃん? もしかして、勇者ちゃんは勇者ちゃんとして呼称されてんのか? オレがそう呼んでるからそうなったとか?


 今さら勇者ちゃんの名前を聞いたところでオレの中では永久に勇者ちゃん。なんら問題ねーのだが、このやらかした感はなんだろう? 


「へ~。勇者ちゃんって強かったのね」


 メルヘンさんも勇者ちゃんで認識されてんだ。なら、空気が読める者としてはサラッとサラサラ流しましょう~、だ。


「はい。バットで無双したようです」


「ん? バット?」


「なぜに?」


 メルヘンさんやレニスが?の花を頭に乗せているのを見て安心した。


 皆さん覚えているだろうか? オレが勇者ちゃんに金色夜叉こんじきやしゃを与えたことを。


「そう言えば、勇者ちゃんって剣とか持ってなかったわね? なんで?」


 と、オレに問われても困りますぜ、メルヘンさん。


「前に聞いたら、剣は一〇歳になってからと言われたみたいだよ」


 と、マイシスターが知っていました。


「まあ、剣とか持たせちゃダメな性格よね、あの子……」


 メルヘンから痛い子されてる勇者ちゃん。まあ、異論はないので黙ってますが。


「そんな子にバット? を持たせたのって……」 


 全員の目がオレに集中される。


 オレ、なんかやっちまったようです。


  ◆◆◆


「以上、報告を終わります」


 と、青オニーサンがそうシメた。


「あんがとさん。ためになったよ」


 どうためになったかは聞かんでおくれ。ガンバってくれた方々を労うために言ったんだからよ。評価制とか言ってたし、認めてやらんとな。


「あんちゃん、町にいくの?」


「いや、まだいかんよ。準備もあるからな」


 他種族や村ならまだしも町となると問題がいろいろ出て来る。それをなくすために建前を準備(用意か?)が必要なのだ。


「準備? なにを準備するの?」


「ん~。隊商が無難かな?」


 金を出してジャッド村から人を出してもらい、ザイライヤー族に護衛をしてもらえば建前になるだろうよ。


「時間かかる?」


「そうだな。商品の用意もあるから一〇日くらいはかかるかな~?」


 魔物に襲われたなら薬は少なくなってるだろうし、食料も不足していると青オニーサンが言っていた。塩とかも混ぜれば歓迎されんだろう。


「どうかしたのか?」


 ついて来たいときは来るなと言ってもついて来るだろうに。


「レニスねーちゃん、そろそろお腹が大きくなって来たから……」


 サプルの目を追ってオレもレニスの腹を見た。


「何ヶ月なんだ?」


「ん~? たぶん、五ヶ月くらいかな~?」


 恐ろしく雑なやっちゃ。妊婦って自覚あるんか、こいつは?


「安定期かも知れんが、生まれるまで大人しくしてろよ」


 オカンもそうだったが、この時代の女は頑丈で腹が膨らんでも仕事しちゃったりする。


 薬師の知識だと妊娠者に啓蒙して回ったが、誰も聞きやしねーでやんの。あのときは教育の大事さを知ったときだったぜ。


「大丈夫大丈夫。無茶はしないよ。サプルがこうして監視してるし」


 九歳ながら出産には立ち合っちゃってたりするマイシスター。オババの話では結構優れた助手らしいよ。どう助手してるかはわからんけど。


 ……出産は女の仕事と、薬師のオレでも立ち合わせてくれないんだよ……。


「まあ、サプルがいるなら問題ねーと思うが、自分の中に命がいるってことを忘れんなよ」


 男のオレがどこまで言っても子を宿している女には勝てねーが、薬師としての矜持がある。無茶してやるヤツはほっとけねーんだよ。


「わかってるって。死なせたらタカオサに悪いからね」


 ふ~ん。まだ相手の男を思ってんだ。


「今からいってかっさらって来たらどうだ?」


 仲間のために残ったらしいが、オレだったら仲間に恨まれようがさらって来るがな。


「タカオサなら死なないだろうし、子どもが会いたいと言ったときに会いにいけばいいよ。わたしも会いたくなったときに会いにいくしね」


 なんともサバサバした女だこと。


「そう言うところはカイナに似てんだな」


 あのアホは情に厚いが、妙に割り切ったところがある。それならしょうがないって感じでな。


「よく言われる」


 なぜか嬉しそうなレニス。あいつに似て喜べる理由がまったく理解できんわ……。


「まあ、無理だけはするなよ。メイドさんたちも頼むな」


 サプルについてるかレニスについてるかわからんが、メイドが二人、常についている。あと、ドレミから分裂した茶色い猫も。あ、茶色い猫で思い出した。ぺ○シ好きの茶猫(名前は完全に忘れました)、なにしてるんだろうな?


「「お任せくださいませ」」


「二人はシフが選んだのでご安心ください」


 二代目メイド長さんが選んだってだけで得られるこの安心感。末長くうちを支えて欲しいものです。


「じゃあ、ジャッド村に戻るか」


「あ、あんちゃん。あたしたちは一旦館に戻るね。サラニラさんに診察してもらわなくちゃならないからさ」 


「サラニラに診てもらってんだ」


 あ、あんちゃんの嫁さんで医師ね。覚えてる?


 ってか、医師としてやってけてんだろうか? それともゼルフィング家のお抱えになってんのか?


「うん。集落にも診にいってるよ」


 そっか。ちゃんとやっててなによりだ。


「じゃあ、またな」


 自由気ままなオレたち。離れていても心は繋がっている。会えるべきときに会えば充分さ。


 サプルらと別れ、オレらはジャッド村へ転移した。


「村長とザイライヤー族の長を呼んでくれ」


 ミタさんにお願いして、二人をカイナーズのキャンプ地に呼んでもらった。


「村長。すまないが二〇人ほど借りたい。隊商として町に連れていきたいんだよ」


「……あ、え? ど、どう言うことだ……?」


 あれ? 今の説明でわからなかった? 簡素に纏めたのに。


「町──バルザイドって知ってるかい?」


「あ、ああ。サイルアン党の本拠地だ」


 サイルアン党? あ、ああ。この村もサイルアン党の所属? だったっけな。


「ってことは、勇者ちゃんは、あっち方面にいったってことか」


 まだ頭の中に地図を描くことはできねーが、距離や東西南北がわかればなんとなくは理解できる。


「そのバルザイドの町に入りたいんだよ。オレらじゃ目立つだろう? だからそのカモ──擬態として村の者を借りたいわけよ。あと、ザイライヤー族には護衛としてついてきてもらいたい。もちろん、報酬は出すぜ」


 うちが支援しているとは言え、いつまでもオレらがいるとは思ってねーだろう。立て直しは考えているはず。なら、オレの誘いは渡りに船のはずだ。


「村の者と話し合っていいだろうか?」


「ああ、構わんよ。こちらも用意することがあるからな」


「ザイライヤーは受けさせてもらう。バルザイドにはいきたいと思っていたからな」


 それはなにより。


「じゃあ、準備を進めておいてくれや」


 さあ、オレもやったりますかね。


 隊商と言ったら馬車。竜はともかく荷車を用意しなくちゃならねー。フフ。久々に工作を勤しむとしようじゃねーか。

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