第17話 一時帰宅

 これ以上、二人に負担をかけると精神が壊れかねないので、一旦お開きとした。


 気絶した第三夫人をお姫さま抱っこしながら部屋を出ていく公爵どのを見送り、残りのマスカットっぽいものを食した。


「……まだ、なにか隠してる顔ね……」


 目の前にプリッつあんが飛んで来て、ジト目でオレを見る。


「なんのことかな~」


 と明後日を見る。あ、明後日は雨か。潤ってなによりだ。うんうん。


「あからさますぎるわよ。言いなさい!」


 ドロップキックをかましてくるメルヘンをヒラリと回避。そう何度も食らうかよ!


 残りのマスカットっぽいものを三兄弟の次男に渡し、部屋を出た。


「公爵どのは?」


 部屋の外にいたお世話さんに尋ねる。


「お部屋でお休みになっております」


「さすがの公爵どのもこたえたか」


 まあ、当事者だし、無理もねーか。あれで野心があれば帝国を支配できるんだがな。イイ意味での自由人は扱い難いぜ。


「ちょっと自分ちに帰る。夜までには戻って来るから、公爵どのに訊かれたそう伝えてくれや」


「はい。そうお伝えします」


 お世話さんの一礼に片手を上げて応え、また部屋へと戻った。


「一旦うちに帰るぞ」


 来るなと言っても素直に従うメンバーではないので、全員帰る前提で口にした。


「はい。では先に戻って用意致します」


 なにを用意するかわからんが、先発としてミタさんとメイドさんズが転移していった。


「あ、お前らもだからな」


 酔い潰れた茶猫を介抱する三兄弟にも声をかけた。


「あ、あの、おれら、どうなるんですか?」


 しっかり者のご長男さん。この状況でちゃんと意見を言えるのは立派だよ。


「お前らはオレらの家族になるんだよ。嫌か?」


 嫌なら嫌でも構わんぞ。お前らを取り込むことは決定してんだからよ。


「……家族……?」


 意味がわからない顔をする三兄弟。


「そいつはお前らを家族だと言った。命を懸けて兄弟を守った。そんなカッコイイ男からお前らを救ってくれと頼まれて断ったら男が廃るわ。まあ、だからなぜ家族になるのかお前らには理解できんだろうが、別に理解する必要はねー。これは、オレの勝手でやってるまでなんだからよ」


 オレが決めた。他に理由など必要ねー。


「お前らが理解していればイイのは、こいつに恥じない家族でいることだ。もし、こいつに顔向けできねーことしてみろ。例えこいつが許してもオレが許さねー。肝に命じておけ」


 反省するまでお尻ペンペンしてやるわ。


「そんなことしないもん!」


 と、妹が涙を溜めながら叫んだ。


「おれもしない!」


「おれもだ!」


 次男と長男も叫んだ。強い意志を宿しながら。


 うん、イイ顔だ。そして、イイ兄弟だ。まあ、オレたち兄弟には負けるがな。


「おう。家族を大切にしろ」


 影ながらオレが手助けしてやるからよ。


「ほんじゃ帰るぞ」


 三兄弟+茶猫、プリッつあん、ドレミ、いろは、レイコさん……アレ? なんか足りねーと思いながらも皆を連れて家へと転移した。


 ちなみに、カバ子とルンタはエリナと先に帰りました。アリザと約束があるとかでな。ってか、アリザってなにやってんだっけ? 聞いたような気もするが……まあ、イイや。そのうちわかんだろうよ。


 で、玄関前に出現。たくさんのメイドさんに囲まれていた。怖っ!


「ビビるから止めろよ! 敵地に飛び込んだ思いだわ!」


 つーか、メイド何十人いんだよ!? ほんと、こんなにメイド雇ってなにしようって言うんだよ! いや、オレが無制限に雇い受けてるんでしたね。すんません……。


「申し訳ありません。サプル様が不在のため、メイドの配置が滞っております」


 あ! サプルとレディ・カレットか! すっかり存在を忘れったわ。なにしてんだ、あいつらは?


「何人余ってんだ?」


 ってか、あなた、誰? 人族とは珍しいな。 


 なにかリーダー的な感じはするが、初顔ですよね? 忘れてたら心の底からごめんなさいだけどよ。


「彼女はアリュエス。サプル様が直接雇い入れた方です」


 サプルが直接雇い入れた、だと? なにがあったのよ?


「初めまして、お目にかかります。サプル様より第六メイド隊を任されましたアリュエスと申します」


 なにか、堅い口調だな。それに、気配が鋭い。軍人か?


「アリュエスは、元騎士です」


「はい。落ちぶれて死にそうなところを救っていただきました」


 いつの間にそんなことが!? なんてどうでもイイか。サプルが雇ったのならサプルの管轄。オレが口出すことじゃねー。


「そうかい。サプルをよろしくな」


 兄のオレが言うのもなんだが、仕えるとなるとオレ以上に苦労するだろうな。サプル、感覚派だからよ。


「はい。この命に懸けて」


 まあ、それもサプルにお任せ。あいつは、素でこう言うのを流しちゃうヤツだからな。


「そう言えばメイド長さんは?」


 なんか最近、姿を見てねーが。


「シフォムでしたら結婚して退職しました」


「え、メイド長さん、シフォムって名前だったの!?」


「いや、驚くとこ、そこ? まずは結婚に驚きなさいよ」


 いやだって、メイド長さんの名前なんて気にしたことなかったからよ。しかし、名前、あったんだ。


 ……オレの中ではメイド長が名前になってたわ……。


「じゃあ、今仕切ってんの誰よ?」


「シフです」


 あ、うん。シフさんね。知ってる知ってる。あの方ね。大変だろうけどがんばっておくんなまし。


 あと、プリッつあんのジト目などガン無視です。


「え、えーと、んじゃ、シフさんにメイドを二〇人くらい貸してくれるように伝えてくれや。頼みたい仕事があるからよ」


 そうミタさんにお願いする。あ、いないよね、ここに? いたら心の底からごめんなさい!


「あたしの配下から出しますが?」


 あ、あなたも似たような立場でしたね。何人いて、どんな体制になっているかはまったく知らねーけどさ。


「いや、家のことだから家のメイドに頼むよ。それより、親父殿は昼に帰って来るかい?」


 確か親父殿にもなんか頼んだな。いや、オカンだっけ? なんだ? いろいろありすぎて完全に忘れたわ。


「はい。お昼には帰って参ります」


「わかった。オレらも昼はうちで食うんでよろしくな」


 もう自分の家と言う感覚がなくなりつつあるな。まあ、自業自得なんだけどさ~。


「とりあえず、昼までテキトーに過ごしてろ。オレは庭で作業があるからよ」


 言い捨てて、必要な道具を集めるために保存庫に向かった。


  ◆◆◆


 保存庫から道具を取り出してきて、村が一望できる庭に並べた。


「煉瓦に木材って、なにか作るの?」


「扉だよ」


「つまり、また変なものを作るのね」


 なんの決めつけだよ。オレはまともな物しか作らんわ。


 土魔法で大地を均し、煉瓦を正方形になるよう置いていく。


「花壇?」


「だから扉だって言ってんだろう」


 今はその土台作りだよ。


 煉瓦を並べ置くのを続けていると、なんだなんだといろんなヤツらが集まって来た。お前ら暇なの?


「しばらく見ないと思ったら、今度はなにをする気だ?」


 なにやら村人が板についてきた親父殿が失礼な問いを投げつけつ来た。


「昼食後に話すよ」


「それまで覚悟を決めておけってことか?」


 なんのだよ? 別に変な話じゃねーよ。気軽に待っとけや。


「よし。こんなものか」


 あとは煉瓦同士を土魔法で連結させれば強度は完璧。多少の揺れが起こっても歪みは出ねーだろうよ。


「ベー様。昼食の用意が整いました」


「あいよ~」


 ぱんぱんと汚れた手を叩き、館の裏にある泉へと向かって手を洗った。


「泉の掃除もしてんだ」


 つーか、立派になってんな。メイドの中にそんな技術を持ったヤツがいんのか?


「ベー様。タオルをどうぞ」


 うお! ミタさんいたのね。全然気がつかなかったわ。ってか、メイドさんズに囲まれてたよ。


「……仕事見つけてやらねーとな……」


 どこにいくのもメイド団がいるって拷問だわ。サプルのヤツ、よくやってたよな。尊敬するわ。


「しょうがねー。宿を増やすか」


 ヤオヨロズ国のヤツや金持ち相手に商売するのもイイかもな。


「なにかやるのならフィアラ様にお声をかけてからにしてください。もう限界以上に働いているんですから」


「これは、ゼルフィング家──いや、オレの勝手でやることだし、婦人には放り出さねーよ」


 まあ、纏め役には放り投げる気ではいるがよ。


 タオルをミタさんに返し、食堂へと向かった。


 食堂にはメイドさんで溢れ返り、家族の間には親父殿、オカン、サリネ、バリラ、リアム、ノノ、三兄弟+茶猫(復活したようだ)がいた。


「なんか少なくなったな」


「いない筆頭がなに言ってんだ」


 まったくもってその通りなので、苦笑で返した。


 知らないメイドさんが昼食を並べ、親父殿の音頭で食べ始めた。


 サプルが教えただけあって料理はどれも旨い。のだが、家の味ではなかった。


 ……なんだか他人の家って感じだな……。


 うちにいないオレのセリフではないし、そんな資格もねーが、まあ、そのときが来たってことだろうよ。


 昼食が終わり、メイドの入れ替えが始まる。


「……なんかメイドの数、増えてねーか……?」


 なんか一〇〇人規模で増えてね?


「数日前に三〇〇人を超えたよ」


 増えたことよりどこに住まわせてるほうが気になるわ。通いか?


「これだけのメイドにお給金を出せるパパさんっての凄いのね」


 尊敬な目を見せるメルヘンさん。その目をたまには宿主にも向けろや。


「いや、メイドの給金はベーの金から出してるよ。さすがにおれの資金では賄い切れん」


 A級まで登り詰め、並の貴族以上に稼いだとは言え、さすがに三〇〇人ものメイドさ養えないだろうよ。


「ベーがお金持ってるのはわかってたけど、どんな悪さしてるのよ?」


 悪さしてるの前提かよ。まあ、卑怯な方法なのは認めるけどよ。


「金山銀山を持ってるだけだ」


 土魔法で探せばあら簡単。保存庫の一室が金銀で溢れます、だ。


「それに、真珠も売れてるからな、あと千人増えても大丈夫だろうさ」


 まあ、さすがに千人も増えたら泣くがな。つーか、追い出すわ!


「まったく、金を増やすより仕事を作るほうが難しいぜ」


 業種がそれほどない時代。仕事一つ増やすのも一苦労だわ。


「どっちも大変だと知りやがれ、アホ息子が!」


 そんな突っ込みなんていらねーんだよ。欲しいのは仕事だ。なんかねーのかよ?


「そう言や売店の話、どうなってる?」


 囲炉裏間にいるミタさんに尋ねる。


 ちなみにミタさんは、テーブル派だが、食べるとオレの背後に来るのだよ。


「保存庫の一つをいただいて、サリネ様に改築をお願いしております。完成にはもうしばらくかかりそうです」


 そうなの? とサリネを見たらいなくなってました。働き者な木工職人だよ。


「まあ、売店ができたら知らせてくれ。そしたら駄菓子を渡すからよ」


 この人数だと、もっと買ってこないとすぐに売り切れそうだな。


「そんで、庭のあれはなんなんだ? 変なものは止めてくれよ。村の連中に説明するのも大変なんだから」


「そんな変なもの……ではあるが、そんな目立つものじゃねーから安心しろ。扉を設置するだけだ」


「お前がすることに目立たないってことがあったか?」


 ない、と言い切れないのが悲しいデス。


「地味なものにするから大丈夫だ」


 質実剛健。扉に派手さは求めてねーからな。


「扉の装飾を言ってんじゃねーよ。で、なんなんだ? 覚悟は決めてるから早く言え」


 だからなんの覚悟だよ。意味わからんわ。


「オレ、館から出て一人立ちするわ」


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