第40話 いろいろ忘れてる

「あ、ベー様。館から直通エレベーターでカイナーズホームにいけますよ」


 保存庫に向かおうとしたらミタさんがそんなことをおっしゃいました。はい?


「カイナ様が設置してくれました」


 またあのアホか! うちをどんだけ魔改装すれば気が済むんだよ! 田舎を近未来都市にしてんじゃねーよ!


 いや、オレもファンタジー全開に魔改装してるけどね!


「直通にしたらファミリーセブンいらねーじゃねーか」


 食堂での件はなんだったのよ!


「いえ、ベー様が利用しやすいように造ったようですよ」


 そう言われたらなにも言えなくなるじゃねーか。ったくよ。


 ミタさんの案内で、その直通エレベーターとやらの場所にやって来た訳だが、玄関ホールにあったとは夢にも思わんかった。ってのか、まったく気がつかんかったわ。


「どっかいくのか?」


 と、男の声がして振り返ると、誰もいなかった。幽霊!?


「下だよ」


 下? と見れば茶色い猫がいた。


「あ、お前か。久しぶりだな。ってか、お前なんだっけ?」


 いろいろありすぎてこいつがなんなのか忘れたわ。


「……こいつ、いつもこんな感じなのか……?」


「概ねこんな感じね」


 猫くんの問いに、なぜかメルヘンさんが答えた。


 お前にオレのなにがわかる! とか言ったら鼻で笑われそうなので黙っておきます。はい……。


「んなことより、散歩か?」


「ああ。あいつら勉強してるからよ」


 オレがいない間にちゃんと仕切っている誰かさんに感謝の敬礼を!


「んで、どこいくんだ? 暇だからおれもいきたい」


「カイナーズホームにいくんだよ。来たきゃ勝手にしな」


 猫一匹増えたところで手間はかからんしよ。


「ここからいくのか?」


「らしいな」


 つーか、この直通エレベーター、デカくね? 業務用くらいあんじゃね?


「このうちにいると、どこの世界の何時代にいるかわからなくなるな」


 しゃべる猫が言うセリフではないと思うのはオレだけかな?


 ミタさんが一つだけある丸ボタンを押した。それだけ?


「はい。カイナ様がインクライン方式にしたと言ってました」


 高校生でこっちの世界に来たってのに、コアな情報を知ってんな。インクラインなんて工事業者か専門職しかわかんねーだろうに。


「カイナーズにはスーパーコンピューターがありますから」


 あ、そう言や、前にそんなこと言ってたな。マスドライバーんとき──あ、岩さんのことも忘れてた! けど、まあ、岩さんのことはゆっくりでイイっか。今すぐどうこうできねーんだからよ。


「開かねーな」


 故障か? つーか、扉に描かれている戦車はなに? なぜにこれをチョイスした? 意味わからんわ!


「戦車じゃなくキャプテンヒーローにすればいいのに」


 お前のチョイスもどうかと思うぞ。普通は植物だったりしねーか? 変な感性したヤツばっかだな。


「誰かカイナーズホームにいったみたいですね」


「なにしにいってんだ?」


 益々ファミリーセブンの存在が危ぶまれねーか?


「たぶん、弾薬の補給だと思いますよ。消費が激しいですから」


「お前んち、なにと戦ってんの?」


 理不尽って言う強大な敵とさ。詳しくは知らん。


「あ、来たようです」


 丸ボタンが点滅してるのが来た合図なのか? このエレベーター、どこの何製よ?


 チーンと鳴って扉が開いた。


「結構広いんだな」


 扉より三回りくらい広いんじゃねーの?


「リフトが入るように造ってありますから。地下四階がメイン倉庫になってます」


 もうオレの知る保存庫ではないってことね。了解了解。


 直通エレベーターに乗り込み、操作ボタンを探す。どこよ?


「こちらで操作します」


 と、ミタさんがエレベーターの端にあるドアへと向かった。


 その後に続くと、そこはエレベーターの外で操作盤があった。


「外に作る意味があんのか?」


「万が一のときのためです」


 猫くん。知りたければオレを見るのではなくミタさんに問いなさい。オレは早々に流させていただきましたから。


「揺れはないとは思いますが、セーフティバーにつかまっててください」


 ミタさんの指示に従い壁についたセーフティーバーをつかんだ。猫くんは、メイド型になったドレミに抱いててもらいなさい。


「では、カイナーズホームに参ります」


 ガコンとなにかが外れる音がして、直通エレベーターが斜めに降下し始めた。


 ほんと、猫くんの言葉じゃないが、ここはどこの世界の何時代なんだろうな……。


  ◆◆◆


 直通エレベーターは、意外にもスムーズで、揺れ一つなく、カイナーズホームに到着した。


「技術的におかしくね?」


 猫くんがなにか訝んでいた。なにがよ?


「どこぞの高層ビルならわかるが、これだけデカいものが揺れもせず動くなんてあり得ねーよ!」


「技術進化してんだろう」


 オレ的にはどうでもイイこと。あ、そう、で終わりだ。


 直通エレベーターの扉が開き、店長と白いコンシェルジュさんが立っていた。


「いらっしゃいませ~。高級ホテル、お買上ありがとうございま~す」


「買わねーよ」


 バッサリと切り捨てる。もうあんたのノリに慣れたわ。


「プリッつあん、頼むわ」


「任せて~」


 頭から離脱して、喫茶店を売っているだろう方向に飛んでいった。コンシェルジュさん、よろしく。


「他になにかご必要なものはありますか? 今なら高級ホテルが二割引きですよ」


 まったくめげない店長。そのアイアンハートはどこから来んだよ? もうちょっと人の役に立つようなことに使えよな。


「高級ホテルはカイナがやってんだろうが」


「それがいまいち集客がなくて赤字なんです」


 だからオレに高級ホテルを買って補填しろって言うのか? と訊いたら満面の笑みで「はい!」と答えたそうだから流しておく。


「だったら酒とかお茶でも輸出でもしろよ。お玉さんところで売ればそれなりの売上になんだろう」


 あそこなら貴族も多いし、金払いもイイ。徐々に広めていって、あとはゼルフィング商会で委託販売してもらえば、カイナーズホームの維持費くらいにはなんだろう。


「なるほど。それはいいですね。ミタレッティ様、繋ぎ、よろしいでしょうか」


 様って、カイナーズホームでミタさんの位置ってどこよ? うちのメイドだよね? カイナーズホームでなんかアルバイトでもしてんのか?


「はい。わかりました」


 まあ、ミタさんの人生。オレが口出すことじゃねーか。


「それよりココノ屋ってどっちよ?」


 カイナーズホーム、無駄にデカいから、入ったところが違うとまったくわかんねーんだよ。


「ミレイ。ベー様をご案内して」


 白いコンシェルジュさんと同じ服を着ていることからして、このミレイさんとやらもコンシェルジュなんだろう。ってか、何人もいて採算合うのか? それとも結構需要があんのか?


「ミレイと申します。どうぞお見知り置きを」


 たぶん、店長と同じサキュバスなんだろうが、角が生えたヤツもいるんだ。


 ……なんでそう思ったかはご想像にお任せします……。


「あい、よろしく」


 顔は覚えました。名前は、カイナーズホームを出るまでは覚えておきます。


「では、こちらです」


 コンシェルジュのミレイさんを先頭にココノ屋へと向かった。


「ミレイさん。カイナーズホーム、そんなに売上がねーのかい?」


「お恥ずかしいことですが、ギリギリやっております」


 なんでよ? 人から何百億とかっさらっていったでしょうに。


「実はカイナ様が喪服の方からバルキリアアクティーを数十機買いまして、予算が圧迫しております」


「どっちもバカだからな」


 方向性は違うが、突き抜け方は同じ。もう処置なしだ。


「カイナを止めるヤツはいねーのかよ」


 そのうち破産するぞ。


「宇宙軍を組織すると言われたら反論できません」


「お前よりバカがいんの?」


 猫くん、ちょっと黙ってなさい。あと、オレを一番にしてんじゃない。オレはバカ野郎であってバカじゃねーわ。


「ま、まあ、カイナが決めたんなら好きにしろだ」


 岩さんを宇宙に上げなくちゃならんのだし、頼んだオレがどうこう言う資格はねーさ。


「おや、ベー様ではありませんか」


 と、後ろから声をかけられ、振り返ったら怨霊がいました。ヒィ~!


 コンシェルジュさんを盾にして、バーザさんの娘さんから距離を取った。


「クフフ。相変わらずですね。わたし、怖くないですよ」


 口をニタリと歪ませる不気味ガール。夜道では絶対に声をかけないでね!


「なんだ、このサダコ似のねーちゃんは? 幽霊か?


 まったく恐れない猫くんは、興味深そうに不気味ガールへと寄っていく。


「あら、猫さんですか。可愛いですね。クフ」


 しゃがみ込んで猫くんの喉を指で転がした。いや、しゃべったことにコメントないの!?


「わたしは、コンゴウジアヤネと申します。よろしくお願いしますね」


「おれはマーローだ。そこで怯えているヤツの家で厄介になってる」


 なに、この猫くん。なんで普通に会話できんの? 不気味じゃねーのかよ。


「まあ、そうですの。仲良くしてくださいね。クフフ」


「ふ~ん。見た目は不気味だけど、中身は普通なんだな。なんで怯えられてんだ?」


「見た目が見た目ですからしかたがありません」


 なぜニヤニヤ笑う、不気味ガールよ!


「マーローさん、抱いてもよろしいでしょうか? わたし、猫大好きなんです」


「構わんよ。なんなら、運んでくれ。疲れたからよ」


 猫! お前の野性はどこにいった! あと、なに言っちゃってくれてんのよ!


「ご一緒してもよろしいのですか?」


「いいか?」


 ダメだわ、このクソ猫がっ! と、あらんばかりの念を送った。


「いいってよ」


「クフフ。ではお供させていただきますね」


 オレの念、届かず! こん畜生め!


  ◆◆◆


 ミタさんを盾にしながらやっとココノ屋へと到着した。


「おー! なんか雰囲気のある場所だな!」


 猫くんが町にありそうなゲームセンターを見て懐かしそうに声を上げた。


「クフフ。カイナーズホームにこんな場所があったのですね」


 不気味ガールは……不気味に笑ってます。


「……ベー様。歩き難いのですが……」


 盾にするミタさんが抗議の声を上げるが、あなたはオレのイージス。そんなこと言っちゃイヤン。


「クフフ。怯えるベー様も可愛いですね」


「アヤネ。ちょっと近づいてビビらせてやれよ」


 なに言ってんじゃクソ猫がっ! ふざけたこと言ってっと長靴履かすぞ! いや、いつかやるけどよ!


「クフ。そうしたいですが、嫌われているので止めおきます」


 そんな呪うような笑みを浮かばないでください。


「なに、お前、こいつ嫌ってんの? いい子じゃねーか。最悪だな!」


 なんだろう。人と猫の視点が違うからか? 猫には不気味ガールがどう見えてんだ? 知らぬファンタジー理論が働いたからか?


「クフフ。マーローさんは優しいですね」


「ちょっと会話すればわかんだろう。なぜわからないあのアホがアホなだけだ」


 枯れ井戸で見たらおっしっこちびりそうなガールと猫の和気藹々。もっとファンシーなもので心を満たしたいです……。


「ベー様。どうぞ」


 と、ミレイさんがなぜか促して来た。


「ココノ様は気に入った方しか自分の領域に入れませんので」


 そうなの? 白いコンシェルジュさんも入っていたじゃん。


「それはベー様が特別だからです」


 オレ、特別なことした……記憶はあるな。駄菓子屋で五億円使ったの前世を含めてオレだけだろうよ。


 まあ、よくわからんが、入れるなら入るし、ダメだって言うなら諦めるだけだ。


 ココノ屋、と言うか、ゲームセンターに入った。なんの抵抗もなくな。


「お、中も渋いチョイスしてんな。テーブルテニスなんて初めて見たぜ」


「クフ。おもしろそうなのがいっぱいありますね」


 振り返れば猫を抱えた不気味ガールとミタさん、ミレイさんが入って来た。


 ……ちなみに、ドレミといろははどこかにいますよ。ただ、オレの意識から外れてるだけですから……。


「あ、わたしもお忘れなく」


 つーか、思い出させないでください。必要なときに呼びますから。


「ミレイさん。バケツある?」


「はい、こちらに」


 五段重ねのバケツを差し出して来るミレイさん。わかってるぅ~。


 一万円札を一〇円玉にしてもらい、両替機へと放り込んでコインへと両替する。


「なに気に手間だよな」


 安いのはありがたいが、いちいち両替しなくちゃならんのがメンドクセーわ。ってか、入れるほうも手間じゃねーのかな?


 いっぱいになったバケツを持ち、あとはミタさんに任せる。ちゃんとあなたの分も買うからそんな顔しないの。


 ゲームセンターから駄菓子屋へと向かう。


「いらっしゃい」


 座布団に座るばーさんタヌキ。暇してる?


「おう。買いに来た」


「好きなの買いな」


 バケツをばーさんタヌキの前に置き、棚の駄菓子を無限鞄へと放り込む。


 前と同じくまったく減らない駄菓子たち。ここは、手間がかかる場所だぜ。


 飽きたので、レジの横にある箱椅子に座り、ラムネをいただく。ラムネうめ~。


「儲かってるかい?」


「今、儲けさせてもらってるよ」


 うん、ですね。


 ベビーカステラをツマミにラムネをゴクゴク。かー! 五臓六腑に染み渡るぜっ! って昔は照れもなくできたけど、今は風情を楽しむことができる今最高~!


「ベー様。両替しました」


「じゃあ、オレの代わりに買ってくれや。ミタさんの基準でイイからよ。あと、保存は任せるし、自分用も買いな」


「はい! お任せください!」


 ハイ、メンドクセーことは君に任せます!


「ラムネ飲むとスイカ食いたくなるな」


「ああ。酒はいいね。特に甘い酒がいい」


「そう言えば今年、ルコの実食ってねーな」


「ここのは度の低いのが少ないからね」


 無限鞄を漁り、瓶に入れたルコ酒を出し、一升瓶サイズまでデカくする。


「ほれ、甘い酒だ」


「すまないね」


 器用に湯飲み茶碗に注ぎ、これまた器用に飲むばーさんタヌキ。この世界の猫と言いタヌキと言い器用なことできるよな。


「……あの会話でなぜ成立するんだ? この世界はバカばっかりなのか?」


「クフフ。さすがベー様です」


 不気味ガールと猫がなんか言ってます。こっち来んな!


「あ、おれも駄菓子買っていいか? あいつらに土産にしたいからよ」


「わたしもお姉様にお土産買います」


 好きにしてください。オレはのんびりするからよ。


「なんかここ、落ち着くよな」


「好きなだけいたらいいさ」


 では、遠慮なく。はぁ~。イイ感じぃ~。




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