第42話 黄金の島

 姉御はどこですか~?


 と、なんか村になった場所のメインストリートに立ち、辺りを見回した。


「つーか、水とかトイレとかどうしてんだ?」


 建物は立派だが、このブルー島とうに川なんてないし、排水口も見て取れない。かと言って、汚物の臭いはまったくしない。どうなってんの?


「水や食料は外から運んでます。トイレやお風呂は館を参考に魔道具を使用しております」


「クルフ族がやってんのかい?」


「はい。あと、魔道具開発部で造っております」


 カイナんとこは優秀のが揃ってんな。


「そんだけの力があんなら魔大陸で発展すりゃイイじゃねーか」


 わざわざこの大陸に来る必要なかったんじゃね?


「それはベー様が庇護してくださったからできた発展です。もちろん、カイナ様のお力もありますが、争いもなく、食べるものにも困らず、安全に眠れる地は魔大陸にありませんでした」


 別にオレが庇護しているつもりはないし、恵んでいるつもりはねー。だが、生きる環境は与えたつもりだ。その礼はありがたくもらうが、発展したのは生きようとしたヤツらの努力。オレの成果ではねーよ。


「しかし、こんなところに住んでどうすんだ? 外に出るのも大変だろう」


 一直線でも四キロはある。毎日となればオレでも萎えるぞ。


「そのうち電気自動車を走らせます」


「転移結界門のサイズじゃ入らんだろう」


 大きめには作ったが、車が入るサイズではねー。専用の転移結界門を設置するか?


「カイナーズホームには輸送部門があるので大丈夫ですよ。無限鞄ほどではありませんが、大型コンテナサイズの収納力を持つ魔道具がありますから」


 本当にカイナーズホームは優秀だよな。でも、オレが住むところまでは侵食して来ないでね。この世界のこの時代に生きてるのを忘れたくないからさ。


「ネラフィラ、海のほうにいったみたいよ」


 メルヘンアイは高性能。でも、強制的に頭を動かすのは止めてください。オレの首は動かないってわけじゃないんだからさ……。


 体は自由意思で動かし、姉御の後を追った。


 姉御が向かったのは海に突き出した半島で、先は崖となっているところのはずだ。


「クライマックスかな?」


「なんのよ?」


 犯人は姉御でオレが刑事。プリッつあんは、賑やか要員だな。


 なんて脳内サスペンス劇場を繰り広げながら進むと、途中で姉御に追いついた。


「随分とゆっくり歩いてんだな? なんか珍しいものでも見えんのかい?」


 景色はイイが、そんな楽しむほど変化に富んでいるわけじゃねー。海と空。センチメンタルになる風情でもねーだろう。


「君と違ってわたしの目は普通にできてるの」


 失敬な。オレの目だって普通にできてますー!


「先にいっても海しかねーよ」


「その海を見に向かってるの」


「乙女だな姉御は」


 もうちょっとバイオレンスを控えてもらえると助かります。あなたの殺気、軽く人を殺せるレベルなんで。


「ネラフィラ、可愛いよね」


「……あなたたちは……」


 殴るものがなく、頭にプリッつあんがいるので拳をプルプルさせるだけ。さすがオレのイージス。オレの頭は君に任せた。でも、暴走してオレの首を痛めちゃダメよ。


「それより、喫茶店の場所は決めたのかい?」


「いくつか候補は決めたけど、この先を見てから決めるわ」


 なにか遠いところを見ながら岬に向かって歩き出した。


 まあ、なにか思うところがあるのだろうと、なにも声をかけず姉御の後に続いた。


 半島と言っても二〇〇メートルほどの小さいもの。すぐに到達してしまった。


 岬の先に立ち、彼方を見詰める姉御。過去に思いを馳せているのか、まったく動こうとしない。


 ブルー島とうの時刻は、まあ、お昼くらい。日が沈むまで好きにしたらイイさと、ミタさんにテーブルや椅子を出してもらい、マンダ○タイムと洒落込んだ。


 岬で飲むコーヒーも格別。もうここで喫茶店やりなよ。


 と、押しつけてもしょうがないので、佇む姉御を肴にコーヒーうめ~。でも、この気温ならアイスコーヒーがよかったかも。


「決めたわ!」


 と、なにかを決意した姉御。どうしたよ?


「ここで喫茶店をするわ」


「まあ、やるってんならオレは構わんけど、客が来る見込みは少ねーぜ」


 さっきのところと大して代わり映えしない風景だ。よほど茶が美味しくなければ来んだろうよ。


「構わないわ。どうせ趣味でやるんだから」


 姉御がそう言うなら好きにしな、だ。


「ミタさん。そう言うことだから頼むわ」


 オレもたまには来るところ。快適に頼んますわ。


「はい。最優先で行います」


 んじゃ、チャッチャとやりますかね!


  ◆◆◆


 よっ! ほっ! たぁー! と喫茶店、設置完~了~! お疲れさんでした!


「……もうこのくらいで驚かない自分にびっくりだわ……」


 おいおい姉御。驚かそうとガンバったんだから驚いてくれよ。それが作り手へ最大の賛辞だぜ。


「でも、建物は素敵ね。ありがとう、プリッシュ」


「えへへ。どういたしまして」


 なにそのメルヘンとの差は? あなたとの絆はパッと出のメルヘンより低いの? キィー! 妬けたゃうわ!


 とか、そんな感情もナッシング。姉御がご満足ならそれでオッケーよ。


「姉御。台所とトイレと風呂は簡易だから水と廃棄物の交換は忘れんなよ」


 循環型にしようとは思ったが、そうすると改造しなくちゃならないし、いずれはカイナーズホームがライフラインを設置する。なら、そのままの造りで水を流し、廃棄物を取り払ったほうが楽であろう。


「ありがとう」


 まあ、その笑顔と言葉で報われたよ。


「不備はないと思うが、一応確認してくれや。あったらすぐ直すからさ」


「ええ、わかったわ」


「プリッつあん。オレは外をやってるから中は任すな」


 内装は管轄外。お洒落に決めちゃってくださいな。


「わかった~。やっとく~」


 ではよろしこと、外に出た。


 プリッつあんが選んだ喫茶店は、一階が店で二階がプライベートスペースとなっており、一人で暮らすにはちっとばかりデカい造りとなっていた。


「姉御一人にすんの心配だな」


 別に、これまでも一人で生きて来たし、いらぬお節介なのは承知してるが、姉御は爆発するまでうちに込めるタイプ。たまにガス抜きしてやらんとダメなのだ。


「様子見に一日複数人通わせますので、それとなく要望を聞き出します」


 ミタさん、そう言うこともできちゃうのね。最初に会った頃はぽやぽやした田舎のねーちゃんって感じだったのに……。


 なにがミタさんを成長させたのかは知らんが、万能メイドに感謝です。


「まあ、バレない程度に頼むわ」


 姉御もそこまでバカでも鈍感でもない。なんで、押しつけにならん程度でやってちょうだいな。


「さて。玄関前は姉御の趣味に任せるとして、庭はオレがやっちゃっても構わんだろう」


 と、その前に、海に落ちないように柵を創っておきますか。ホイッとな。


 土魔法で一メートルくらいの柵を創り、結界で透明の落下防止の網を設置した。外観は大切だからな。


 裏庭、と呼んでイイのかわからんが、まあ、便宜上そう呼ぶとして、軽く整地してお洒落なテーブルと椅子を適当に配置。バーベキューできるコンロとピザ窯、あとは、デッキチェアを並べる。


 ちょっとばっかしオレの趣味になっちゃいましたが、まあ、気に入らないのなら変えてください、だ。


「中は終わったかな?」


「まだのようですよ。プリッシュ様が飛び回っているようですから」


 オレといるときは動かないクセに、頭から離れると活動的になるってか? オレは充電器か!


 クソ。やっぱオレからなんか吸ってるだろう、あの寄生メルヘン。宿主にも還元しろや! あ、いや、なんか変なもの返されそうだからそのままでイイです。そのままでいてくださいませ。


「入っても邪魔にされるだけだし、なんか造るか」


 山か? ジャングルジムか? いや、空中へいっちゃうか?


 あーでもない、こーでもないと考えていると、ミタさんが柵から体を出して下を覗いた。どったの?


「いえ、なにか海から出たものですから」


「たぶん、イルカだろう」


 この箱庭に植物以外いなかったので、小魚数種と二メートルくらいのイルカを捕まえてブルー島に放したのだ。


「食べれるんですか?」


「いや、観賞用に放ったまでさ」


 食べれば食べられるだろうが、そこまで食いたいとは思わない。言ったように観賞用だし、なにもいない海ってのも寂しいもの。そのていどの話だ。


「下にいってみるか」


 ここから海にいけるのもイイだろうと、岬の先から崖の下へと向けて階段を創っていったが、そう高低差がある崖でもないのですぐに海に到達してしまった。


「桟橋を創って、クルーザーを接岸できるようにするか」


 土魔法で崖の下を整地し、桟橋へと取りかかろうとしたら、なんか金色の小石が出て来た。


 それをつかみ取り、手のひらで転がす。


「……金、だな、こりゃ……」


 なんで金が? と辺りを探ると、そこら辺に金が埋まっているのがわかった。


「……この箱庭だけ生き物がいないと思ったら、そう言うことか……」


 つまり、ここは、鉱山の箱庭ってことだったんだな。


  ◆◆◆


「あ、聖銀だ。わぁーい!」


 ………………。


 …………。


 ……。


 じゃねーよ! なんだよ聖銀って? なんで金と一緒に出て来んだよ! おかしいだろうっ! 地質学者がブチ切れんぞ!


 半島の下を掘り進めること四メートル。出て来た金は百キロ近く。聖銀に至っては三百キロ近く。鉱脈ってレベルじゃねーわ! ここに塊を埋めましたってレベルだよ!


「ここを創ったヤツ、バカだろう」


 いや、バカだとはとっくの昔に確信してだが、ここまでバカとは思わなかったよ! 世界が大混乱するわ!


「……とりあえず、必要な分はもらって、あとは埋めなおしておこう……」


 カイナーズホームに入金しないといかんし、使える金も補充しておきたい。バカに感謝して、ありがたく使わせていた抱きます。


 一〇〇キロ近い金を二〇キロくらいの棒にしてミタさんに預ける。


「ミタさん。カイナーズホームで換金してくれ。あと、このことは秘密だぞ」


 秘密は守られるだろうが、わざわざ広げることもねー。オレとミタさんが知ってればイイことだ。


「はい、わかりました」


 聖銀もと、棒化しようと試みるが、以前と同じく……ではねーが、やはり土魔法の効きが悪い。ほんと、謎の金属だわ。


 それでも土魔法のレベルが上がってるのか、三〇分で棒状にできた。


「公爵どのに売るか」


 聖銀は常に不足していて、貴族や冒険者に人気がある。前に会長さんに頼んだ聖銀の剣と槍はS級の冒険者とどっかの貴族がイイ値で買ったそうだ。


 ……まあ、その売上はゼルフィング商会に流れて行きましたけどね……。


 聖銀を無限鞄へとしまう。


「ここは、倉庫にするか」


 なにを入れるかは姉御次第。イイように使ってくださんしぇ。


「戻るか」


「そうですね」


 もうこれと言ってすることもなし。コーヒーでも飲みながらプリッつあんが終わるのを待ちますか。


 裏庭に上がると、サプルとレディ・カレット、あと、見知らぬ女の子が四人いた。誰?


「友達だよ!」


 あ、うん。妹よ、それは見てわかる。仲よさげだし。オレはどこのお嬢さんたちかを知りたいんです。


 まあ、身なりからして貴族のご令嬢かイイところのお嬢さんって感じだがよ。


「わたしの姉妹と帝都の友達だよ」


 と、説明してくれるレディ・カレット。兄のオレが言うのもなんだが、よくサプルと友達やってるね。公爵どのの血がそうさせるのか?


「そうか。まあ、仲良くやってくれや」


 妹の友達の中に入る勇気もないので、女同士でやってください。お邪魔な野郎は席を外しますんで。


 と、去ろうとしたらサプルに腕をつかまれた。なんだい、いったい?


「あんちゃん。ヴィアンサプレシア号で帝都にいってイイ?」


 ってなことをおっしゃるマイシスター。サプルつきのメイドさん。説明プリーズだよ。


「サプル様がヴィアンサプレシア号のお話をなさいまして、皆様方が乗ってみたいとのことです」


「帝都の姉妹や従姉妹にも見せたいの」


 なるほど。そう言うことね。


「まあ、それは構わんが、帝都に入る許可は取れてんのか? さすがに公爵の紋章をつけても入れてくれんだろう」


 規制もないオールフリーのここら辺とは違い、帝都の空はがんじがらめの規制で縛られていると聞く。そう簡単には入れないはずだ。


「そこは父様がなんとかしてくれるって」


 公爵どのが? なに考えてんだ?


「あんちゃん、ダメ……?」


 と妹に問われてダメと言うようでは兄失格。そして、できる兄に不可能はない。


「おう、いって来い」


「やったー!」


 喜び妹の頭を撫でてやる。うん、そんなに喜んでもらえるなら兄冥利に尽きるってもんだ。


「あ、そのヴィアンサプレシア号ってどこにいるの? クレインの湖にいなかったけど」


 物知りミタさん、どこですか?


「ヴィアンサプレシア号でしたら近海を航行中です。乗組員やメイドの訓練のために」


 さ、さようですか。言い出しっぺが放置とか、マジすんません。


「すぐに戻るよう連絡を入れます」


「ミタレッティーさん、すぐ出発できるの?」


 今すぐにでも出発したいマイシスターがミタさんにしがみつく。


「さすがに準備に一日は必要かと。その間、皆様方に歌姫の海を案内されてはいかがですか? 人魚を見るのも初めてでしょうし」


 よっ、説得上手。そのまま畳み込め!


「それに、帝都を訪れるなら服も用意しなくてはなりません。郷に入れば郷に従えと申されます。帝国の服を揃えなければ相手に失礼ですよ」


 この万能メイドの進化がハンパない。もうメイド国の女王になっちゃいなよ!


「ベー様。コーリン様かザニーノ様にご同行をお願いされてはどうでしょうか? さすがにゼルフィング家のメイドがお側に仕えるのは問題がありますので」


 確かに魔族を出すのは時期尚早。もっと友好を深めてからか。


「細かいことや調整はミタさんに任せる。必要なものはオレの名を使って用意してくれ。ドレミ。二隊ばかりサプルにつけてくれ。ちゃんと差は出せよ」


 同じ顔が揃ってたら不味いからな。


「畏まりました。ミファソ隊とラシド隊をつけます」


 まあ、これでサプルの世話は大丈夫だろう。


「ミタさん。わかってるな?」


「もちろんです」


 恭しく一礼するミタさん。


 優先されるはサプルの命。守るためなら帝国を敵にしても構わない。万が一の用意はしっかり頼むぜ。

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