第52話 共同開発

「海賊どもは、適当に島に上げておいてくれ。二日ばかりシェイプアップしてもらうからよ」


 身も心もイイ感じに細くなるだろう。


「……人権がないところって大変だよね……」


「人としての権利を主張したいのなら、まず人であることを学べ、だ」


 人を認めない者に人を語る資格はねー。そんなアホは獣以下の扱いで充分だわ。


「ベーのことだからいいように使うんだろうけど、さすがのベーでも扱い難いんじゃないの?」


「餅は餅屋に任せるさ」


「餅屋?」


 カイナにしては鈍いな。


「いるだろう。長いこと港を仕切り、荒くれどもを手なずけるヤツらがよ」


「あ、ご隠居さんとこね。確かに餅屋だわ」


 マフィアと海賊、どちらが荒くれかはわからんが、組織力と言えばマフィアが勝つ。きっと素晴らしい組織を築いてくれるだろうよ。


「ご隠居さん、話に乗るかな?」


「乗らないときは会長さんに持ちかけるさ。東大陸とを結ぶ場所に宿場町ができるようなもの。独占だ」


 自分で言うのもなんだが、そのバックにはオレがいる。それを知って断るなんてアホのすること。少なくとも会長さんは話に乗ってくるだろうよ。


「うちも話に乗っていいかな?」


 なにか、真剣な顔で言ってきた。なんでだよ?


「魔族のイメージアップのためさ」


 イメージアップ?


「ベーのお陰で魔族に新天地を与えられたし、魔大陸も徐々に発展している。でも、どこかで他の種族とかかわらないと魔族のイメージは悪のままだ。魔族も他の種族を悪と見兼ねない」


 まあ、昔から魔族のイメージは悪いし、魔王が生まれるのは魔族が多い。しかも、中途半端なのがこちらの大陸に来て悪さするから余計にイメージはただ下がりだ。


「どこの国でもなく荒くれ者が集う場所は、たぶん、ベーが創ろうとしているこの島しかない」


 ないってこともないだろうが、上手く回っているところは皆無と言ってイイだろうな。そんなところは無法地帯。暴力で従えさせるしかないんだからよ。


「まず、ご隠居さんは絶対にベーの敵には回らない。なにより、ベーがご隠居さんを敵にしない。どうせ、マフィアたちの将来も考えての発言でしょ。おれでさえあそこがいき詰まってるのがわかるもん」


 堅気だろうがマフィアだろうが仕事がなければ衰退する。あそこは人外による統制がいきすぎて、逆に発展を殺している。


「ご隠居さんとの仲とは言え、なぜベーはあの街を、いや、あそこに住む人たちを大事にするの?」


「……そう、見えたか……?」


 そんな感じ、出した覚えはねーんだがな。


「長い付き合いじゃないけど、近くで見てればわかるさ。大事にしてるな~ってくらいにはさ」


 まったく、無駄に生きてないヤツは厄介だぜ。隠し事もできねーよ。


「まあ、グレン婆が守ってきたところが腐っていくのは忍びねーからな」


 カイナがそう思ったように、グレン婆やご隠居さんを見てればわかる。王都を大切にしてるんだな~って。


 ……王都ってよりは、自分の居場所を守るっての感じかな……?


「あ、ああ。あのお婆さんか。最近見てないね?」


「そろそろ死ぬと言ってたから、どっかで人生を振り返ってんじゃねーの?」


 ご隠居さんも居候さんもなにも言わないところからして、まだ死んではいないはずだ。あの人外になにも言わずに死ぬとは思えんし。


「淡白だね」


「満足して死ぬんだ、悲しむ必要なんてねーだろうが」


 そんなケチをつけるなんて、イイ人生を送るオレの流儀に反するわ。


「まあ、ベーが納得してるならいいけど」


 理解はできないけど、ってな顔を見せていた。


「話に乗るなら好きにしな。いろいろあったほうが多様性が出るしよ」


 どんな多様性になるかは、ここで働く者次第だがよ。


「ご隠居さんのところはすぐに?」


「いや、タケルが目覚めてからにするよ」


 優先するべきは家族。友達は二番だ。


「タケル、本当に起きるんだよね?」


「起きるさ。なに一つ心配すんな」


 できない約束はしないが、できる約束は笑顔で約束するさ。


「とりあえず、今日は終わり。明日だ」


 さすがにオレも疲れた。明日のためにぐっすり眠ると、しよう。


  ◆◆◆


 炬燵で寝てたら体が温かくなってきた。


 なんだろうと、霞む意識で考える。


 不快な感じはない。朝日を浴びるような温かさ……あ、朝日か。この温かさは……。


 瞼を開けると、眩しい光にまた瞼を閉じた。


 いつもならスッキリ起きるのに、今日は体が重い。すぐに体が動かねーや。


「ベー様。おはようごさいます」


 オレが起きたのがわかったのか、ミタさんが現れた。


「眩しいからクルーザーの位置変えて」


「はい。コーヒーをお持ちしますか?」


 よろしくと頷く。


 すぐにクルーザーが動き、太陽の光を遮ってくれた。サンキューです。


「ベー様。コーヒーです」


 瞼を閉じたまま、コーヒーに手を伸ばし、ありがたくいただいた。うん、旨い。


 座椅子に背を預け、体が目覚めるまでぼんやりする。


「ベー。おはようごさいます」


 早起きなエルフが起きて来た。


 まだ瞼を閉じたまま、コーヒーカップを掲げて答えた。


「徹夜したんですか?」


 たぶん、結界を使いすぎた反動だろう。自由自在のクセに使い過ぎると疲労するからよ。


「カーチェ様。なにかお飲みしますか?」


 動こうとしないオレの代わりにミタさんがカーチェの相手をしてくれる。サンキューです。


「では、コーヒーを。あと、なにか食べるものを頼みます」


 食欲があるのはなにより。いっぱい食って今日を生きろ。オレは今を生きるので精一杯だからよ。


「はい。すぐに用意します」


 オレは後でイイからね、と言わなくてもミタさんならわかってくれると、そのままぼんやりする。


 カーチェの朝食が用意され、食べる気配がする。


 元冒険者なだけあって、外では食うときは早いこと。ゆっくり食べるオレにはできん商売だ。


「ベー。タケルのところへいきます」


 うんと頷く。いってらっしゃい。


 また、ぼんやりと過ごしていると、なんとか瞼が開くようになった。が、食欲は湧かん。栄養剤でも飲んでおくか。


 無限鞄から特製の栄養剤を出して一気に飲む。あー不味い。


 じんわりと体が温かくなり、だるさがなくなってきた。


 炬燵にアゴを乗せ、海を眺めていたら、突然、空気が変わった──と言うか、結界が張られた感じに似てるな。


 悪意も殺意も感じないので、そのままの姿勢でいる。


 と、横に濃い魔力が発生し、視線を向けたらご隠居さんがいた。ちわっす。


「……本当にできるとは、お前さん、死ぬのか?」


「なんでだよ!」


 どう言う理屈が働いたらオレが死ぬことになるんだよ。


「お前さんは、無駄に警戒し過ぎて近寄るのも大変なんさね! 年寄りを殺す気か!」


 なんの逆ギレだよ。つーか、ご隠居さんはそう簡単には死なないよ。死んだほうが楽な未来しか見えないけど。


「……はぁ~。本当にどうしたさね? らしくないほど存在が薄いが」


「全力を出したから消耗しただけさ。もう少ししたら動けるよ」


 もうちょっと過ぎてから栄養剤を飲めば、動けるまでには回復するさ。


「まあ、お前さんがそう簡単には死なんか」


 そう簡単には死なないようにはするけど、オレ、簡単に死んじゃう生き物だからね。


「魔神殿から話があると聞いたんだが、なんのようさね?」


「──ここを共同開発しようって話さ」


 忽然と現れるカイナ。その話はタケルが目覚めてからって言っただろうが。なに急速に話を進めんだよ?


「いや、調べたら、ここって本当に東大陸との真ん中にあるんだよね。しかも、近くの島は滑走路も造れるから早目に開発したいんだ。あの戦艦も調べたいし」


「なら、ご隠居さんと話を進めろよ。オレは別に利用できれば充分なんだからよ」


「いったいなんの話さね? わかるように言わんか!」


「ご隠居さんとこの若いのに、ここを仕切って欲しいんだ。おれんところで捕まえた海賊を使ってさ」


「いや、わかるように最初から説明するさね!」


 それをオレに向かって言われても困るがな。まだ、ご隠居さんを説得できる考えが纏まってねーんだからよ。


「カイナに任せるし、嫌なら断ってくれても構わないよ」


 元気が出て来たとは言え、説明する気力はねー。一緒にやるなら二人で話し合え。


 オレは知らんと、座椅子に背を預けた。


  ◆◆◆


「……はぁ~。わかった。やるさね……」


「それはなにより。よろしくね」


 長い説明が終わり、ご隠居さんがカイナの提案を了承した。ご苦労さんです。


「わしもベーが王都に手を出さないのは不思議に思っていたが、グレンを気づかってとは。考えもしなかったさね」


 やはり、わかるヤツにはわかるらしい。解せぬ。


「ご隠居さんは、船とか持ってるの?」


「一家に一隻はあるさね。稼がんと纏めることもできんからな」


「人外さんも世間の営みからは外れられないんだ」


「お前さんらから人外扱いされるのは納得できんが、食わなきゃ生きられんのだから働くしかないさね」


 あの人外五人組が働いているところなんて想像できんのだが……。


「うちはすぐにでもやれるけど、ご隠居さんのところはいつできる?」


「お前さんのところと一緒にされても困るさね。人の世は兼ね合いや話し合い、用意といろいろあるさね」


「ベー。どうしよう?」


 なんでこっちに振るんだよ。そっちでなんとかしろや。


「どうするさね?」


 ご隠居さんまでこっちに振るなや。ったく。


「四つの組から先発隊を出させればイイだろう。儲けは早い者勝ちだ」


 一つの街で四つの組織が活動できてるのなら住み分けができてるってことだろうが、ここはまだ、なにも住み分けされてないし、同じスタートラインに立って、一斉によーいドンなわけではない。


 兼ね合いも話し合いも大事だろうが、先に動いたヤツがイニシアチブを握る。それがわからないのなら時代に取り残されるか、消滅するかだ。


「昔気質もイイが、時の流れは残酷ってことを知れ」


 前世でそうだった。気がついたときは携帯電話すら扱えなくなっていたっけ。まあ、一例ではあるけどよ。


「……お前さんが言うと変な真実味があるさね……」


「だね。この数ヶ月で国とか創っちゃうんだから」


 それは働いたヤツが偉大なだけ。口だけのヤツに手柄はねー。


「まあ、なるべく早くは動くが、それでも一〇日はかかると思って欲しいさね。ここまで来るのも三日はかかる」


 どのくらい離れてるかは知らんが、チャンターさんの話では二〇日ほどかかるらしい。その真ん中なんだから五日はかかんじゃねーの?


「うちの魔道船は他の魔道船より優秀さね」


 なにやら自慢気におっしゃるご隠居さん。そんな技術があったのか、うちの国って?


「そう言えば、さ。あの国の船って、他の国の船と形がまったく違うよね? なんと言うか……」


 前世の船に似ている、とカイナの目が語っていた。


 それはオレも感じていた。会長さんの船とか、前世に持っていってもなんら違和感はないだろう。ってのは言いすぎか。魔道船って言っても木造だし。


「あれはグレンが考えたものさね」


 あ、ああ。だからか。なんか素人が考えたような形してるな~とも感じていたのだ。


「なるほど。だからなんだね~」


 カイナもオレと似たような感じを持っていたのだろう。グレン婆と聞いてスゴく納得した顔をしていた。


「なんさね?」


 どうやらグレン婆が転生者とは知らないようだ。なら、オレたちは口を結ぶだけ。グレン婆の考えを尊重するまで、だ。


「なんでもないよ」


 そう、なんでもない。それ以上訊くな、だぜ、ご隠居さん。


「まあ、いいさね。一〇日後に来るよ」


「うん。よろしく。こっちもご隠居さんに合わせるよ」


 肩を竦めて、ご隠居さんが消えた。


「いいのか?」


 一〇日も無駄にするが。


「違う島を改造してるよ。あと、相談なんだけどさ、魔族の連中になんの仕事をさせたらいいかな?」


 はあ? なんだって?


「いやさ。ご隠居さんたちは、港を仕切るプロじゃん。そうすると宿屋とかもできなそうだし、なんかないかな?」


「……つまり、なんも考えてねー、ってことか……?」


「端的に言えば、そうだね」


 ドヤ顔で言うな、アホが! 


「だったら用心棒でもやればイイだろう。文字通り、ここはオレらの島だってな」


 仕切るには武力はいる。ご隠居さんもカイナが用心棒なら文句はあるまい。


「儲け出るの?」


「ご隠居さんからもらうなり、なんか旗でも売って、それを掲げていれば守ってやるとか、いくらでも儲けられるさ。あと、将来に備えて海運保険とか勉強させておけ。お前にはスーパーコンピューターがあんだからよ」


 保険の仕組みとか知らんけど、スーパーコンピューターなら、その辺の知識はあんだろう。何年か勉強させて、身近なところから売り出せば儲けられんだろうさ。


「生き残りたければ力をつけろ。金を蓄えろ。そして、頭を使え、だ」


 オレはその下で、おもしろおかしく生きさせてもらうからよ。

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