第102話 約束
次の朝、久しぶりに気持ちよく目覚めた。
「ん~~~ん。よく寝た」
ここ最近、生活が乱れ巻くってたからな、普通に夜寝て普通に朝起きる。健康的でイイもんだ。
まあ、また乱れる予感しかねーが、今は健やかな目覚めに幸せを感じようではないか。
「おはようございます、マイロード」
「おはよーさん」
抱き枕となるドレミに挨拶を返す。
自分の部屋なら洗面所があるのだが、プリトラスで借りている部屋にはついていない。なので、着替えてから洗面所に向かいます。
洗面所(男性用)を誰がどうリフォーム(?)したかわからんが、なかなか造りはしっかりしており、水回りも普通に使えた。
「不思議なもんだ」
まあ、それも今さらで、カイナが造った(?)もんに突っ込み入れたところで無駄。ファンタスティッ~クで流しておけ、だ。
サッパリスッキリ身嗜み。今日も元気に生きますか。
食堂に来ると、赤毛のねーちゃんたちがいた。
「おはよーさん。早いんだな」
「船乗りにしたら遅い時間だよ」
漁師なら早いのもわかるが、なんで船乗りも早いんだ?
「海は夜に動くと危険なんだよ。凶暴なのは夜に動くんでね」
ファンタジーの海は大変だね~と思いながら席につくと、メイドさんがコーヒーを持って来てくれた。サンキューです。
「ミタさんは?」
いないけど、どったの?
「館に戻って交換留学の人選をしています」
あ、そうでした。すっかり忘れましたわ~。と、顔には出さず、あんがとさんで流しておいた。
「なあ、あたいたち、いつまでここにいなくちゃならないんだ?」
「うん? ああ、船もできたからいつ帰ってもイイが、できれば仕事を頼みたい。どうする?」
帰りたいってんなら無理に引き止めたりはしねーよ。どうしてもってわけじゃねーしな。
「仕事ってなんだよ?」
「南の大陸にいくからそんときの足になってもらおうと思ってな」
ラーシュの国には諸島があり、珊瑚が綺麗だとか。それを見るために赤毛のねーちゃんらに船を出してもらいてーのだ。
「あんた、自分の船持ってんだろう。プリッシュから聞いたぞ」
「オレが持ってる船は娯楽用で武装はしてねーんだよ」
モコモコ兵器は外したし、乗ってるメイドが完全武装だけど、船自体に攻撃力や防御力はねー。どうせなら武装船のほうがイイと思ったまでだ。
「……その言い方だと、サリエラー号が武装してるように聞こえるんだけど……」
あれ? 言ってなかったっけ?
「言ってねーよ! サリエラー号になにしてくれてんだい!」
「どんな海でも航海できるようにした」
赤毛のねーちゃんに貨客船を任せるが、いざってときのために最高にして最強の船に仕上げるようシュードゥ族の親方連中に申し上げそうろう。
「……あんたを信じた自分が憎らしいよ……」
「そうしょげんなって。武装ないよりはイイだろう」
「そ、そりゃそうだけど……」
ならテンョン上げていけや。最高にして最強の船の船長になったんだからよ。
「ん? ちょっと待って」
なによ? あ、メイドさん。コーヒーお代わり。
「いやいや、そんなわけないよね」
なにを妄想してんのよ? 他のおっさんたちが戸惑ってますよ。
「……もしかして、だけど、南の大陸には海賊がいたりするの……?」
お、さすが親父さんの娘だ。勘がイイじゃねーか。
「手紙でいるって話だが、どの程度かは知らんのよ。まあ、乗り込む系の海賊なら体当たりして沈めたらイイさ」
そう言う海賊なら木造船だし、アタックして沈めたれ。
「……どっちが海賊だかわかんないよ……」
襲って来るのが海賊。反撃するのが冒険商人。それでイイじゃん。深く考えんなって。気楽にアタックしろや。
「進水式ってやったのか?」
「シンスイシキ? なんだいそれ?」
あれ? ねーの、そう言う儀式。
「まあ、船を水に入れる儀式だな。船の安全と航海の無事を祈ってな」
ハイ、いつものようにテキトーです。ゴメンナサイ!
「って、もう水に浮かんでたりするのか?」
「え、ああ。浮いてるね……」
あらら。浮いてたのね……。
「ま、まあ、あの船は海を走る船だ。河はノーカンだ」
河船ではなく海船。区別はちゃんとしないとな。
「ノーカンがなんだか知らないけど、そうだね。サリエラー号は海の船だ。海に下ろしたらシンスイシキをやってくれよ!」
「ああ。わかった。約束する」
どこの海かは約束できんけどね。
◆◆◆
のんびりゆったり朝食をいただいていると、プリッつあんがやって来た。
おはよーさん。そして、久しぶり。元気してた? オレはチョー元気にしてましたぜ。
「……まったく、本当に自由なんだから……」
なに急に褒めてんだよ。照れるじゃねーか。
「呆れてんのよ!」
あ、そうなの。デレ期が来たのかと思ったよ。紛らわしいメルヘンやな。
「まったく、わたしの苦労も知らないで。呑気なんだから!」
生憎、第三の眼を持ってるわけじゃーんだ、プリッつあんがなにしてるなんてわかるわけねーじゃん。あと、オレはのんびりゆったりすることはあっても呑気……になることもありますね。すんません。で、でも、プリッつあんがいない間は一生懸命生きてたんだからね! 勘違いしないでよね!
「はぁ~。もうなんでもいいから双子ちゃんの周りを静かにさせてよ」
静かにと申されても高貴なところのお嬢さんの周りなんてそんなもんよ。変えようとするほうが間違ってる。
「やるんならぶっ壊す勢いでやらんとな」
どんな社会でも組織でも変えるより壊すが一番の早道。そして、新しく築くほうが楽でイイのさ。
……まあ、やれって言われたら文句は言うし、他人に押しつけるがな……。
「周りはともかく、双子ちゃんとは仲良くできたんだろう?」
「まーね。根はいい子だし」
さすが調和の将。ヤオヨロズ国は安泰だな。
「仲良くなったらそれでイイさ。ドレミ、変身ステッキって、どうしたかわかるか?」
オバチャンに渡したまま、出かけたのは覚えてるがよ。
「こちらに」
と、なんかオレが作ったデザインと明らかに違うのだが……。
「創造主様がデザインがよくないと変更したようです」
あいつがかかわった時点でもう別もんに変わってること決定だな。
「プリッつあん。頼まれてた変身ステッキだ。たぶん、魔改造されてるだろうからドレミから説明を聞きな」
ドレミに任せ、朝食を再開する。ムシャムシャあー美味しい。
食後のコーヒーを飲み終わった頃、ドレミの説明が終わった。ご苦労さまでした。
「変身ステッキ、おもしろいわね。ベーが考えた中で一番まともじゃない」
その言い方だと、ほとんどがまともじゃないのばかりじゃねーか。いや、趣味全開で作ったもんばかりだけどね!
「服は何着まで大丈夫なの?」
「たぶん、三〇〇着は余裕なんじゃね? プリッつあんの能力で小さくしてるからよ」
容量的には荷車一台分だが、伸縮能力を使えば三〇〇は入るだろう。気になるなら調べてくださいな。
「へ~。たくさん入るんだ。なら、バックとかも入れられる?」
「まあ、入れられるとは思うが、入れすぎて管理できなくなるからな」
思った服を自由自在に~とか無理なので、番号で管理している。「一番、チェンジアップ」で着用できるようにしてあるからよ。
……さすがに魔法少女的変身は難易度高いんだよ……。
「大丈夫。女の子は覚えられるから」
君を女の子に含めてイイのか悩むところだが、まあ、女子力の高い子なら大丈夫、と納得しておこう。男の子だって好きなことには記憶力が異様に働くんだからな。
「ちょっと服を入れてみるわ」
ハイハイ。お好きにどうぞ。
お玉さんのところやシュードゥ族に挨拶にいく必要もあるが、今はメルヘンに付き合うことを優先させようではないか。今後の関係を守るためにな。
本を読みながら待つかと、無限鞄から本を出すと、赤毛のねーちゃんたちが集まって来た。どったの?
「一度、親父のところに帰るよ。南の大陸にいくことも伝えないとならないしさ」
「そうだな。久しぶりに親父さんに顔を見せてやりな」
もう一人前だろうが、親父さんにしたら娘は娘。可愛いし心配でもあるだろう。親孝行だと思って甘えて来いや。
「って、シュンパネ渡したっけ?」
ここに拉致って来てからずっとここに……いたよね? ゴメン。放置しすぎて記憶にねーわ。
「そこのスライムメイドからもらったよ」
あ、ソウデスカ。いたらぬ拉致者で申し訳ありません。
「親父さんに土産は買ったのかい?」
買ってないのなら酒でも出すぜ。
「たくさん買ったよ。あんたの金でな」
あなたの心が健やかでいられるのなら金などいくら使っても構いませんがな。さらにお小遣い上げようか?
「いらないよ。あと、南の大陸にいくときは三日前くらいに来てくれよ。今度拉致ったら殴るからね」
殴られても痛くはねーが、心は痛いので三日前にはお邪魔させていただきます。
「んじゃ」
と、食堂を出ていく赤毛のねーちゃんたち。またね~。
静かになった食堂で読書を開始。
「こんな優雅な朝もイイもんだ」
「…………」
レイコさんや。なにか突っ込みたいのなら遠慮なく突っ込んでくださいな。そんなため息ノーサンキューだよ。
◆◆◆
プリッつあんのファッションショー! イエーイ!
とかノリノリで言ってみたが、ファッションになんら興味のねーオレにはまったくもってテンションは上がらねー。ふ~ん。くらいだ。
テーブルの上をモデルがあるく道? 台? なんかそんなもんに見立てて歩いている。
「プリッシュ様、可愛いですよ~」
「こっち向いてくださ~い」
「可愛い~」
なんかメイドさんたちには大好評。もうそっちのテーブルで好き勝手やってよ。
そう言って席を立ちたいが、周りをメイドさんに囲まれては無理。大人しくプリッつあんのファッションショーを見てるしかなかった……。
こんなときこそスルー拳、なのだが、女のニオイで集中できないのだ。
オレが三〇年若ければ……って、生まれてもねーか。いや、前世で死んだ年齢から三〇年ね。一〇代だったら若い女(種族はあえて目を瞑ります)に囲まれてラッキーと思っただろうが、前世の年齢+今生の年齢を足した今ではニオイで参ってしまうわ。
別に嫌と言うわけじゃないし、臭いと言ってるわけでもないよ。そこは勘違いしないでね。
なんて言うのだろう、どう表現してイイか困るのだが、脳のどこかが疼くと言うか、居心地が悪いと言うか、本当になんなんだ、これは?
……これなら素直に欲情してくれたほうが楽だわ……。
前世の記憶と経験のせいで、いまいち欲情が働かなくなってるぜ。しかも死んだことで精神がちょっとねじ曲が……いや、止めておこう。なんか深みに入りそうだ。
無心無心と念じること一時間くらい。救世主が現れ、ファッションショーは終わりとなった。
「じゃあ、わたし、双子ちゃんに渡してくるね」
はい、いってらっしゃい。
プリッつあんが消え、周りにいたメイドさんも散開した。
このまま気を失ってしまいたいが、そうもいかないこの状況。ガンバって今を乗り切れ、だ。
「……なにか、疲れたような顔をしておるな……」
「いや、ちょっと酔っただけですよ」
大図書館の魔女さんの訝しげな問いに力なく答えた。
「そうか」
とだけ。空気を読んで流してくれたようだ。
「交換留学者を連れて来た」
メイドさんが出したお茶を一口飲んだあと、そう切り出した。
「随分と力を入れてるんですね」
そこまでする理由はなんなんだい? 帝国以上の知識がこちらにあるとは思えねーんだがな。
「当たり前だ。帝国にない知識を持つ者が現れたのだからな」
あれ? 知識なの? マジか?
「大図書館の魔女からそう言われるとは誇らしいですね」
「これまで誇らないでいたほうがおかしいくらいだ」
「別に知識を振りかざす趣味はありませんから」
広めたいわけじゃなく、自分の好奇心を満たすために求めてたからな。
「振りかざす必要はないが、広めることを怠るな。知識は世の宝ぞ」
「まさに至言ですな。そう言える方が帝国にいて羨ましいです」
バリラにはそうなって欲しいもんだ。ヤオヨロズの知識の母に、な。
「それを理解してくれる者が帝国に増えてくれるとよいのだがな」
愚痴を言うところを見ると、いろいろ苦労があるようだ。
「一〇人は連れて来たんですか?」
「ああ。通してもよいか?」
まあ、誰かに丸投げするとしても顔合わせはしておくべきか。
「はい、お願いします」
お供の魔女さんに連れて来るように言うと、お供さんは一礼してから食堂から出ていった。
「すみません。こちらはまだのようで、揃ってないんですよ」
「構わん。こちらが急ぎすぎたのだ」
大図書館の魔女さん、意外とせっかち?
少しして、お供さんが一〇人を連れて来た。
薬を作っているときは年配の魔女が多く、若いのはいなかったが、現れた十人は少女と言ってもイイくらいの年齢だった。若すぎね?
「皆さん、魔女なんですか?」
なんか白い法衣? に白いマント? 肩掛け? をしている。
「見習いだが、学ぶことに意欲ある者らだ」
大図書館の魔女さんが選んだのならそうなのだろうが、なんかマジメちゃんばかりだな。個性ってもんがねーぜ。
いや、変に望むと飛び抜けたヤツが集まりそうだから、これでよしとしとこう。これ以上、個性豊かなヤツはお腹いっぱいだわ。
「わかりました。ヴィベルファクフィニー・ゼルフィングが責任を持って預かりましょう。あなたの元へ返すときは帝国にない知識と経験をたくさん抱えた魔女といたしましょう」
まあ、どんな知識と経験を抱くかはこの一〇人次第。オレは導くまでだ。
「……お主は、涼しい顔で難題をふっかけおるわ……」
まあ、そりゃそうだろう。同じことを要求してるんだからな。それが対等ってもんだ。
「よかろう。大図書館の魔女の名に誓い、お主の元へ返すときはそちらにない知識と経験を与えよう」
コーヒーカップを掲げると、理解した大図書館の魔女さんもカップを掲げた。
「乾杯」
「乾杯」
ここに、オレと大図書館の魔女さんとの聖なる約束は結ばれた。お互い、違えないようにガンバろうや。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます