第26話 新しい家

「うん。美味しかった」


 食いも食って百四十七個。なんか微妙やな~。


 その体格から言って大食漢なのはわかるし、胃が丈夫なのもわかった。だが、一四七個は微妙やろ。大食いでもそれくらいはいけんだろう。いや、無理か?


 一個で充分なオレにはわからん世界だわ。


「満足したのか?」


「うん。満足。久しぶりに美味しいの食べた」


 美食な梟なのか?


「んじゃ、引き継ぎをしろや」


 カーレント嬢の笑顔が六割ほど消失してるからな。まあ、それでも笑顔を崩さない根性には頭が下がるぜ。


「わかった」


 ススッと動き出すと、最初にいたドーム状の建物に入った。寝るのか?


「こっち。まず、住み処を案内する」


「住み処?」


 首を傾げてカーレント嬢を見ると、困り笑顔と美味しい高度な芸当を見せた。


「この空間は、創成の間と言って、クリエイトマスターは、この下に部屋があるそうです」


「クリエイト、ね」


 なんとなく見えて来たわ。


「ベー様はクリエイトの意味がわかるのですか?」


「正しい意味は忘れたが、創造とか創成とか言った意味だったと思う。漫画や物を書くヤツはクリエイターとか言うから、カーレント嬢にはふさわしいかもな。詳しくはあいつに訊け。ある意味、あいつもクリエイトマスターだからな」


 ダンジョン製作を放棄したようなヤツだ。ダンジョンマスターよりクリエイトマスターのほうが似合ってんだろう。


「ちょっと興味が出て来た。カーレント嬢、いくぞ」


 ミミッチーの後を追って、ドーム状の建物に入った。


 ここで寝ているわけじゃなく、どうやら下へと続く通路のようだ。


 螺旋状になっているのか、右回りな感じで下へと向かっていた。


 下りること数百メートル。意外と深いなと思ってたら、突然、外に出た。


「いや、人工の空か」


 広さは野球場ほどで、ここもドーム状になっているようだ。


「こっち」


 ミミッチーが中心部にいて、翼でオレたちを招いている。この梟も器用な動きをするよな。


「ここは、ミニクリエイトルーム。新しいマスターの住み処。好きにクリエイトして」


 どう言う意味でしょうかとオレを見るカーレント嬢。いや、見る相手が違うわ。


「もう、カーレント嬢に権限は移ったってことか?」


「うん。ミミッチーが受け継いだ力強いを新しいマスターに渡した」


「なにを渡されたんだ?」


「これです」


 と、手の甲を出すカーレント嬢。オレには見えない紋章でも刻まれたのか?


「あ、指輪をいただきました」


 指輪? あ、ああ。してるな。なんか飛行石っぽいものが嵌め込まれた指輪を……。


「ミミッチー。これがクリエイトマスターの証しで、この空間を自由にできるってことか?」


「そんな感じ」


 なるほど。そう言うことか。


「ベー。あの説明でわかったのか? おれにはまったくわからんのだが?」


 まあ、これは前世の記憶があり、箱庭を知っているから理解できたようなもの。なかったら暴れているところだわ。


「口で説明するよりやってみたほうが早いだろう。カーレント嬢。まずは椅子を思い浮かべて、出ろと念じてみろ」


「椅子ですか? やってみます」


 エリナと付き合いがあるなら、なにもないところから物を出すところを見ているはずだ。それなら想像して創造できるはずだ。


「……椅子よ、出ろ!」


 と、さっき上で使っていた椅子と同じものが現れた。


「ど、どう言うことだ!?」


「つまり、この空間内ではカーレント嬢は神も同然。どんなものでも創造できて、目の前に出せるってことだ。まあ、どこまで創造できるかは知らんがよ」


 すべてを創造できる、ってことはねーはずだ。そんなこと、この世界の神(?)が許すはずがねー。許したらオレたちの能力に介入なんてしねーよ。あのカイナですら介入された感じがあるからな。


「……滅茶苦茶にもほどがあるだろうがよ……」


「だな。ここならなんでも創造し放題。食料でも金でもな」


 オレの言葉で滅茶苦茶度がさらに上がり、まるで心臓を握られたかのように苦しそうな顔になった。


「ここは奥の手。どうしようもなくなったら利用するつもりでいれはイイんだよ。それまでは表の力で乗りきればイイのさ」


 あるからと言って無理矢理使う必要もねー。それは無駄遣い。賢い領主なら賢く使え、だ。


「お前の欲のなさが羨ましいよ」


「オレの鞄には大きすぎるだけさ」


 とかなんとか言っちゃって~。まさかそんな一度は言ってみたいセリフを口にするとは。なんかメッチャ恥ずかしぃ~!


「カーレント嬢。いろいろやってみろ。今日からここがカーレント嬢の新しい家になんだからよ」


「はい。よい家にします!」


 おう。ガンバレや。


 お友達とどんな家にするか楽しく相談しているのを見てると、オレも自分の住み処を整えたくなって来たぜ。しばらく活動を休みにしてオレも新しい家を整えるか。フフ。楽しみだぜ。


  ◆◆◆


 カーレント嬢とお友達が家をどうするか話し合っているので、ミニクリエイトルームを見て回ることにした。


「……なんだよ……?」


 なぜかオレの後をついて来る公爵どの。そして、ミミッチー。君たちはあっちでしょう。


「いや、なんとなく」


「ホー」


 お前は、都合のイイときだけ梟になってんじゃないよ。


「ホケキョ」


 それはなんの時間差なんだよ? 意味があるように鳴けや。


「別に見て回ってるだけだ。娘についててやれよ。お前は引き継ぎをしろ」


「カーレントにはあとで聞けばよいが、お前は目を離したら説明されてもわからんことをしてるからな、おれの目が届くときは目を離さないようにしてんだよ」


「ホー」


 それはイイ。無理に鳴くな。答えがないなら黙ってろ。


「勝手にしろ」


 ただ見て回るだけなんだからよ。


 背後は気にしないことにして、ミニクリエイトルームの端へといってみる。


「……隙間?」


 壁と床の間に十センチほどの隙間があった。


 なんだこれと隙間を覗くと、下に空間があるのがわかった。どうなってんだこりゃ?


「ミミッチー、下に空間があるのか?」


 尋ねたのは公爵どのね。オレはそこまで興味がないので軽く流しました。


「下は廃棄場。これまでのクリエイトマスターが使ってたものがある」


 そう言や、骸骨嬢がテーブルとか椅子を上から持って来たとか言ってたな。これのことか?


「ん? ちょっと待て。今、これまでのクリエイトマスターが使ってたものって言ったか?」


「言った」


 クソ! そう来たか。やっぱ神に介入されてんな、これは!


「どうした? なにか不味いことか?」


「下を見ないことにはなんとも言えんが、オレは不味いと思う。クリエイト、厄介な力だぜ……」


「一人で納得してないでわかるように説明しろ!」


「カーレント嬢! 中止だ! なにも創るなよ!」


 大声を出して促し、カーレント嬢のもとに向かった。


「いかがなされたのです?」


「カーレント嬢。ミミッチーに下にいけるか訊いてくれ」


 疑問に思いながらもミミッチーに尋ねてくれるカーレント嬢。その純真さがありながらなぜ腐の世界に落ちたのよ? 親が泣いてるよ。


 ……お前が泣かしてんだろうと言う誤解はノーサンキューです……。


「廃棄場なら床を反転させたらいけるよ」


「──止めろ!」


 言葉にしようとするカーレント嬢の口を慌てて塞いだ。


「ミミッチー! 引き継ぎはしっかりとやりやがれ! 焼き鳥にすんぞ!」


 クソ! 誰だよ、このアホ梟を盟約者としたヤツは!? 危うく阿鼻叫喚になるところだったわ!


 カーレント嬢の口から手を離し、安堵のため息を吐いた。


「……厄介この上ねーな、畜生が……」


 箱庭より厄介じゃねーか、ここはよ。


「ベー。本当になんなのだ? 説明しろ」


 ちょっと待てとコーヒーを一杯。少し落ち着かせてくださいな。あー、この世界にコーヒーがあることに感謝です。


「……はぁ~。来るんじゃなかった……」 


 いや、行こうと言ったのオレだけどよ。


「ミミッチー。オレがミニクリエイトルームのことを訊いても問題ねーか?」


「新しいクリエイトマスターが許可すれば大丈夫」


「なら、カーレント嬢。オレに尋ねる許可をくれ。あ、クリエイトマスターの代理人にも任命してくれ。いちいちカーレント嬢に伝えるのもメンドクセーからよ」


「は、はぁ。 わかりました。ベー様を代理人に命じます。ミミッチーさん。ベーの質問に答えてください」


「うん、わかった」


 あっさりとしてんな。まあ、楽でイイけどよ。


「はぁ~。ミミッチー。質問だ。廃棄場へいくには、もしかして、この床が反転するのか?」


「うん、そう」


「なぜに?」


「そう言う創りだから」


 やっぱりか。そうじゃねーかと思ったよ。


「前のクリエイトマスターは、生ゴミとかどうしてたんだ?」


「ゴミ箱に捨ててた」


 消去できるゴミ箱だったってことか? まあ、そう言うゴミ箱を創ればイイってことだ。


 となると、なぜゴミが下にあるんだ? いや、下を見ればわかるか。


「カーレント嬢。ここにこれこれくらいの穴を開けてくれ。いや、扉を創ってくれ。内開きで」


 結界でマンホールくらいの扉を創ってみせ、見本とさせた。


「こんなものでしょうか?」


 あっさり創られた扉に手をかける。


「そんなものでイイ。皆、ちょっと離れてろ。オレがイイと言うまで近づくなよ」


 結界を纏い、扉を開けた。


 吸い込まれると言うことはなし。なら、飛び込むまでだと、扉を潜った。

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