第10話 ココノ屋

「ベー様、おはようございます」


 ほどなくして三人のメイドを引き連れたミタさんがやって来た。


「あい、おはよーさん。ゆっくり寝れたかい?」


 どこで寝たかは知らんけど。


「はい。カイナ様によい部屋を用意していただきました」


 それはなにより。ってか、なにもこの部屋に泊まったらよかったじゃん。七つもあるんだからよ。


 とは思ったが、人外どもに巻き込まれるのも酷。それでよかったと流しておくか。


「朝食になさいますか?」


「そうだな。ちょっと早いがそうするか」


 まだ七時前だが、午前中に買い物を終わらせて領都にいきたい気分なのだ。


「わかりました。すぐに用意します」


 背後にいるメイドに振り向き、一つ頷くと、畏まりましたと一礼して動き出した。


「ところで、こいつらなんでいんの?」


 ちょうどイイところにあったナッシュの頭を踵で叩いた。


「……マーロー様の歓迎会だそうです」


 マーロー? 誰だっけ?


「こちらの方です」


 屈んだと思ったら、なんか茶色ものをつかんで掲げて見せた。なんだそれ?


「あ、茶猫か。ちょっと見ない間にボロボロになってんな」


 つーか、生きんのか、それ?


「ほどほどにしてくださいと注意はしたのですが……」


 それを素直に聞く人外ではねー、か。まあ、殺してないだけマシとしよう。って、ちゃんと生きてるよね?


 しっぽをつかむミタさん(扱い雑やね)から茶猫を受け取り、揺るがしてみると、微かに動いた。うん。生きてる生きてる。


 茶猫をミタさんに返し、風呂でサッパリさせるようお願いした。まだこいつに用があるんでな。


「ベー様。朝食の用意が調いました」


 と、メイドさんが言うのでそのあとに続くと、テラスへと出た。


 高さからして世界貿易ギルドを立ち上げたときのシーサイドテラスか。あ、だからシーサイドホテルにしたのか。律儀なやっちゃ。


 六人用のテーブルには、なんとも豪勢な料理が並んでいた。オレはお粥一杯で充分なんだがな……。


 残れば誰か食うだろうと勝手に解釈し、勧められた席へと座り、近くにあったクロワッサンへと手を伸ばした。


 外はカリカリ中はふんわり。よく聞いた文言だが、うん。その通りで旨いじゃん。


 無限鞄から蓋つきの籠を取り出し、たくさんあるクロワッサンを詰め込んだ。あとでオヤツにしようっと。


「ベー様。必要なら厨房に頼みますよ」


「こう言うのはこの場で摘まむからイイのさ」


 バナナや葡萄、リンゴと言った果物も詰め込んだ。あ、リンゴで思い出した。ナイスガイを放置したままだった。


「ミタさん。お玉さんところに誰かいる?」


「はい。四名在住させ、五日おきに物資を補給しております」


 上手く回しているミタさんに感謝です。


「ナイスガイって、まだそこにいるかな?」


 ってか、ナイスガイの名前、完全無欠に忘れましたわ~。ヘイ、いつものことだろうって突っ込みはサラリと流しまっせ。


「ナブア伯爵様でしたら帝都に戻りました。それと、伝言を預かっております。会えるときに会おう。とのことです」


 さすがナイスガイ。わかってらっしゃる。


「なら、会えるときに会うか。オレの出会い運ならなんの問題もねーしな」


 もうちょっと入るなと、ふんわりオムレツをいただいていると、サプルとレディ・カレットがやって来た。


「あんちゃん、あたしたちもういくね。カレットがヴィアンサプレシア号を見たいって言うから」


 思いのままに生きるのがオレたち兄弟。大いに楽しんで来な。


「あ、サプル! もう帰っちゃうの?」


 ルンタがニュルニュルと現れた。いや、顔だけ出した感じか。つーかお前、どっから入って来たのよ?


 ルンタの胴回りは一メートルちょい。ドアを潜れないこともないだろうが、長さは二〇メートルくらいはある。周りを傷つけずには入って来れんだろうに。


「うん。またね、ルンタ」


 あっさりとルンタの横を通りすぎるマイシスター。今は女友達が優先されるようだ。よきかなよきかな。


「ベー、おはよー」


「おはよう……」


 と、ルンタの陰からカバ子が現れた。不思議な国の娘さんに変身して。


「おう、おはよーさん。お前たちがいるなんてどうした?」


 まあ、普段、こいつらがなにしてるか知らんけどよ。


「あの変態に連れて来られたのよ」


「なんで?」


 説明するまでもないだろうが、わからない人のために言っておこう。変態とはカイナのことだからね。


「猫って生き物が仲間になるって言ってたわ。紹介する前に宴会になっちゃったけど」


 うん。アホですね。


 ミタさんに茶猫を連れて来てもらい、テーブルの上に置いた。いや、椅子におきなさいよ。ルンタがエサと勘違いしちゃうからさ~。


「そいつが猫って生き物だ。お前たちの仲間になるから仲良くしてやってくれ」


 どう仲良くするかは君たちに任せます。


「変な生き物ね」


「ほんとだね」


 君らも負けてないからね。特にカバ子は進化論に謝れ。


「お前ら、今日はなんか予定あるか?」


「ううん。ないよ」


「なんなのよ?」


 懐疑的な目を向けて来るカバ子。出会った頃より人間不信になってねーか? 


「まあ、ちょっとした社会見学だ」


 それと、実験だ。


 926◆◆◆


 朝食を済ませ、カイナーズホームに来ると、はっちゃけ店長とコンシェルジュさんが店先で待ち構えていた。ご苦労なこった。


「午後から予定があるからぱっぱと済ませるぞ」


「はい。今日はなにをご購入でしょうか?」


「とりあえず、鞄だ。あと、ちょっと遅れて人族の子どもが三人、うちのメイドに連れられてやって来るから、身の回りのものを揃えてくれ。ついでにこれもよろしく」


 ボロ雑巾のような茶猫をはっちゃけ店長に渡した。


 さすがに三兄弟から茶猫を離しすぎた。落ち着かせるためにも一度返しておこう。


「カバ子とルンタはテキトーに遊んでろ。店長。こいつらが壊したものはオレのカードから引いてくれ」


「はい。畏まりました~。あ、マルコバーガーはいかがなさいます? 四〇フィートコンテナで四三個になります」


 ほんと、容赦ねー店長だよ。いやまあ、一〇〇個だろうと買うんだけどさ。


「一ヶ所に集めておいてくれ。コンテナってまだあるかい?」


 ナイスガイのところにも置かなくちゃならんしな。


「はい。すぐにでしたら二〇〇個まで用意でします。七日ほどいただければ二千個はご用意できます」


「まあ、いずれ買うから用意しててくれや」


 南の大陸や東の大陸にもいく予定だし、なにを得られるかわからねー。前以て用意しておくに越したことはねーだろうよ。


「コンシェルジュさん、鞄コーナーに連れてってくれや」


「はい。畏まりました」


 と、コンシェルジュさんについていく。


 で、着いた鞄コーナーも他と同じで、呆れるくらいの鞄が棚に並んでいた。


「コンシェルジュさん。他のコンシェルジュさんを使って肩からかけられる鞄を中心に集めてくれ。ミタさんたちは布製の買い物に適したものを頼む」


 任せ、オレは大容量のスーツケースがあるコーナーへと向かった。


「贅沢を言えば同じ形のものがイイんだが、これと同じスーツケースはあるかい?」


 四、五日分の服が入るスーツケースを指差した。


「同種類となると、少々のお時間をいただければご用意できます」


「なら、バラバラでイイや。この棚にある分を買うよ。計算してくれ」


 電卓を出して計算するコンシェルジュさん。バーコードでピッとはできねーんだ。


 まあ、その店のやり方にいちゃもんつける気はないので、計算したのから無限鞄に詰め込んでいく。


 ミタさんたちが集めたのも無限鞄に仕舞い、掃除道具コーナーでブラシや箒など、下水道で使えそうなものを買っていく。


「こんなものか」


 今回はざっとな買い物。足りなきゃまた買いに来ればイイさ。


「カバ子とルンタはどこだ?」


 耳を澄ますが、二人が騒いでいる様子はない。微かなBGMが流れているだけだった。


「お二方でしたらゲームセンターにおりますよ」


「ゲームセンター?」


 そんなものあったんかい! 本当になんでもありやがるな!


 どんなもんかといってみると、意外と小さかった。何と言うか、町の寂れたゲームセンターって感じだな。


「……カイナならもっとデカくしそうなのにな……?」


 カイナの中でサバゲーとゲームは違う括りなのか?


 中に入ると、なんともレトロな感じで、町のゲームセンターってよりは、昭和の古びたホテルにあるゲームコーナーって言ったほうがイイくらい、レトロなゲーム機が並んでいた。


「客層どこよ?」


 あいつはなにを狙ってんだよ。ゲームを周知させたかったらボードゲームから始めろよ。


「インベーダーなんて久しぶりに見たわ」


 昔、駄菓子屋でやった以来だぜ。


 懐かしいとは思うが、それほどゲームに興味はねー。昔、デートで数回いったていどだ。


「ってか、カバ子とルンタはどこよ?」


 そう広くもねーのに、二人の姿がまったく見えねーぞ。


 店内をうろうろしてると、なにか奥に通じるドアを発見。なんぞや? とドアを開けると、駄菓子屋だった。


「あーん! また負けた!」


「次ボクにやらせてよー!」


 カバ子とルンタの声がした。どこだ?


「いらっしゃい」


 と、横から不意に声が上がった。


 うおっ!! びっくりしたー! なんだよ、いったい!?


「え? タヌキ?」


 飛び退きながらも声がしたほうを見たら、なんか服を着たタヌキっぽいものが座布団に座っていた。


「ここの店主だよ」


 タヌキにしか見えないが、声からして老婆。雰囲気は人外……いや、人じゃねーけどっ、人外級の魔力を放っていた。


「……そりゃ、物好きなことしてんな……」


 なにが楽しくて駄菓子屋(?)の店主なんてしてんだよ? 妙に気になるわ。


「まあ、年寄りだしね、派手な売り場には立てんよ」


 いや、立ってるほうが需要があんじゃね? ゆるキャラ的な感じでよ。


 まあ、年寄りに無茶させるのもどうかと思うので、口にはしない。本人がそれでイイのなら構うな、だ。


「え、えーと、カバとヘビ、来なかったかい?」


 外から声がするので尋ねるほどではないが、なんかそのまま立ち去るのもどうかと思い、世間話のように声をかけたのだ。


「外でゲームしとるよ」


「あ、うん、そりゃどうも」


 話しかけてはみたが、タヌキっぽいものとなにを会話してイイかわからんので、そそくさと駄菓子屋を出た。


「カバ子、ルンタ、なにしてんだ?」


 声をかけるが、ゲームに夢中でこちらを見やしねー。なに、そんなに夢中になってんだよ。


「ジャンケンポン。グー!」


「パー」


「負けた~!」


 ん? このゲーム機、見覚えあるな? 


 ジャケンをするゲームのようだが……あ! ズコーか! 学生の頃、あいつがアホみたいに嵌まってたっけ。


 やり方は忘れたが、なぜか人の勝負魂に火をつけるゲーム機で、子どもがよく嵌まっていたものだ。いや、あいつは二十歳越えてたけどさ。


 二人も勝負魂に火をつけられたようで、夢中でジャケンをしていた。


 まあ、引き剥がすのも野暮なので、駄菓子屋の中に戻り、椅子を借りてマ○ダムタイムとシャレ込んだ。


「あ、キビダンゴちょうだい」


「はい、五億円ね」


 昭和か! と心の中で突っ込みながら乗りで五億円を支払った。


「毎度あり」


 いや、そこはシャレで返せよ! なに儲けたって雰囲気受け取ってんだよ! ぼったくりにもほどがあんだろうがっ! 


 ◆◆◆


 まあ、なんですか。ばーさんタヌキと会話らしい会話もなく、オレはえびみりん焼きをパリポリパリ。ラムネをゴクゴク。かー旨めー!


「げぷっ。昼前に食いすぎた」


 まだ腹七分だが、昼食は食いたいとは思わねーくらいには腹が満ちている。昼はイイや。


 口の中からまだラムネが消えてないので、コーヒーはちょっとお預け。なんか冷たいもの食いてーな。


「ばーさん。アイスある?」


「店先にあるよ。どれでも八メダルね」


 アイスはちょっと高いんだと思いながら、店の外を出ると、懐かしい冷凍ケースが置いてあった。


「ガ○ガ○くんか。懐かしいな」


 でも、オレはオレはパ○コ派。チョココーヒが安定の定番だ。


「あ、わたしも食べる」


 忽然と現れた(オレの中ではね)プリッつあんが、冷凍ケースの中に飛び込んだ。


 そのまま冷凍メルヘンにしちゃろかとは思ったが、あとが怖いから止めておこう。仕返しされそうだし。


 なぜかカップアイスを三個担いで冷凍ケースから出るプリッつあん。どうすんのよ? と見てたらカバ子とルンタのもとへ。もうギャンブル依存性になってそうな二人をカップアイスで引き剥がした。


 ……なんであれで引き剥がせるんだ……?


 世の理不尽に怒りが湧いて来るが、まあ、四天王の纏め役。精神的支えなんだから可能なんだろうと勝手に納得しておく。うん。


「おら、お前ら。帰るぞ~」


 カップアイスに満足したようで、ズコーに再戦することもない。お前らの勝負魂、やっすいな。


「ばーさん、また来るわ」


「またお出で」


 なんか素直なばーさんタヌキに別れを言ってフードコートへと移動した。


「コンシェルジュさん。ここに集合って伝えてくれや」


 イイ感じに溶けた(半溶けがオレの好みなんです)パ○コをチュウチュウ。あーパピ○うめ~。


「ベー様。お待たせしました」


 食い終わる頃、ミタさんたちがやって来た。あい、お帰んなさい。


「昼食はどうする? 食うならフードコートで済ませちゃいな」


「さきほど軽く済ませたので大丈夫です」


 ん? フードコート以外にも食うところはあるのか? まあ、あるか。カイナーズホームだし(勝手な決めつけ)。


「んじゃ、いくか」


 席から立ち上がり、パピ○の容器をゴミ箱に――と思ったら、ミタさんに腕をガシッとつかまれた。な、なによ!?


「なんですか、それは?」


 万引きを現行犯逮捕したかのようなミタさん。ちょっと怖いんですけど。


「いや、アイスだが?」


 カイナーズに何度も通ってるミタさんならわかるだろうが。まあ、アイス売り場があるかどうかは知らんけどよ。


「あたし、初めて見ます」


 本気と書いてマジと読むような目を向けて来る万能メイド。超と書いてスーパーと読むくらい怖いって!


「コンシェルジュさん、ミタさんにアイスをお願い!」


 この際、何千億って使ってイイからさ!


「申し訳ありません。ミタレッティー様の要望には答えられません」


「はぁ? なんでよ? アイスくらいあるだろうが!」


「もちろん、数千種取り揃えております。が、ベー様がお食べになられたものはココノ様のところでしか扱ってないのです」


「え? これが?」


 昔すぎて忘れたが、パピ○ってこんな袋に入って……とよくよく見たら製造やなんやら書いてある表示がない。なんだこれ!?


「ココノ屋の商品はすべてココノ様が作ったものなんです」


 あ、創造具現化とか言ってたな。でも、なんか違和感を感じる。天の邪鬼がそう正直に自分の能力を教えるか? 真実のようで正しくはないことを言うのが天の邪鬼だろう。


「だったら買って来たらイイじゃんかよ」


 好きなだけ大人買いしてこいや。安いんだからよ。


「それが、ココノ様は気に入った方しか自分の領域に入れないのです。気分が乗らないとカイナ様ですら閉め出ししますから……」


 アレを閉め出すとか、スゲーな。どんだけなばーさんなんだよ!?


「ココノ様は表には出ませんが、カイナ様の相談役的立場で、裏からカイナーズを支えているお方なのです」


 あのばーさんに支えられんのかい? とは思ったが、あれは裏で暗躍するタイプだ。天の邪鬼も一種のフェイクだろう。たぶん、目的のためなら最良の手段を選ぶタイプとオレは見た。


 手段は選ばないや問わないとか、なんか凄いように聞こえるが、本当に凄い(厄介な)ヤツはちゃんと手段を選ぶし、まっとうな答えを求めるものなのだ。


 でなきゃ裏から支えるなんてできないし、表に出ているヤツより目立ってしまうからな。


「オレ、よく入れたな」


 裏方は裏方を嫌う──とまでは言わないが、オレの感覚ではあまり付き合いたくはない相手だ。


「同族嫌悪ね」


 あらヤダ。メルヘンさんが難しいこと言ってますわよ。ってか、心の声に突っ込まないで!


「失礼ながら、同意します。あんな素直なココノ様は初めて見ました」


「ベーだしね」


「そう、ですね」


 メルヘンの答えに納得するコンシェルジュさん。なんでだよ!


「そんなことよりベー様! ココノ屋にいきましょう! あたし、何度いっても入れなかったんです! いきたいんです!」


 なんか、甘いものが関わると自己主張が強くなるよね、あなた……。


「気が向いたらな」


 そう行きたいところではないし、しばらくいかなくてもイイくらい買い込んだ。なにより、楽しくやっているばーさんタヌキに迷惑だろう。たまにいくのがああ言うタイプと長く付き合えるコツさ。


「……そんな……」


 崩れ落ちる万能メイド。どんだけショックなんだよ。


「なら、館に売店でも作れや。いくらか分けてやるからよ」


 店をやるのかってくらい買い込んだ。半分渡したって一月はいかなくても大丈夫だ。


「はい! すぐに作りますからすぐに分けてくださいね!」


 サプルの許可が下りるかはわからんが、まあ、ガンバれ、だ。


 駄菓子やアイスをいくつか渡して落ち着かせ、領都へと転移した。

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