第83話 ダイン買取り店

「……いやね。何人までとは言わなかったのはオレの落ち度だよ。でもだからって連れて来すぎだろう……」


 翌朝、買取りの店の前には、一〇〇人は確実に超えている。いや、見えないだけで下手したら二〇〇人とかいそうだな。


「す、すまねぇ。これでも絞ったんだがな……」


「もう最初は全員でいくとか言って、なんとかこの人数にしたんだわ……」


「なんとかならねぇか?」


 昨日の三人が申し訳なさそうに頭を下げて来た。


「まあ、来たなら仕事はしてもらうし、酒も出すが、復興のほうは大丈夫なんだろうな? 後回しにしたら追い出すぞ」


 まずは都市機能を回復させねば他の都市に太刀打ちできねー。テメーらの未来のためでもあるんだぞ。


「そこは安心してくれ。昨日言ったように酒が飲めるなら二倍でも三倍でも働くからよ」


「おう! 手は抜かねーぜ」


「任せてくれ」


 職人気質の三人が言うのだから信じはするが、本当に頼むぜ。


「ってか、女までいんのかよ」


 シュードゥ族は女も建築に勤しむのか? クルフ族とは違うのか?


「いや、さすがにこの人数で食事をもらうのは悪いと思ってな、炊き出しを頼んだんだよ」


 そんな申し訳なさがあるんなら酒を遠慮しやがれ。って言うのも無駄か。酒が主食ってような連中には……。


「シュードゥ族はクルフ族のように女は家のことしかさせねーのか?」


「クルフ族と一緒にするな! シュードゥ族の女はなんでもやるぞ!」


「クルフ族の堅物とは違うわ!」


「そうだ! クルフ族なんかよりシュードゥ族が上だ!」


 顔を真っ赤にさせて怒る三人。こりゃ相当の確執があるようだ。


「バカなことを聞いた。すまん」


 ここは素直に頭を下げておこう。周りに飛び火したらメンドクセーからな。


「あ、いや、こっちこすまねぇ。クルフ族とはいろいろあったんでよ」


「生きてりゃそう言うこともあるさ。ましてや魔大陸ではな」


 戦いを何千年と繰り返している地だ。敵になることもあれば負けることもあっただろう。皆仲良く、なんて無理な話さ。


 ……それを押しつけられるオレはたまったもんじゃねーがな……。


「働き者の女がいるなら酒場をやってみてーと思うヤツを探してみてくれ。さすがに配るのも大変だし、そう言う騒ぐところがあってもイイだろう」


 息抜きできる場所は大切だ。苦労ばかりじゃ人生つまんねーからな。


「酒場か。そりゃいいな!」


「ああ、いいぞそれ。酒場で酒が飲めるとか最高だぜ!」


 なにやら魔大陸には酒場なるものがなかったのか? やたらテンションが高いようだが。


「なら、三軒ほど酒場を造れ。次に食料倉庫。そして、三階建ての集合住宅だ。造りは任せる」


 シュードゥ族も土魔法は使えるし、建築技術もある。魔道船だって造るんだから任せても大丈夫だろう。多少の違いは許容内ってことで美魔女さんに許してもらうさ。


「わかった! 任せろ! 野郎ども、やるぞ!」


 おおっ! 大地を揺るがすほどの声が上がり、そこにいたシュードゥ族が辺りへと散っていった。


「頼もしいのかメンドクセーのかわからん種族だよ」


 それがおもしろいと言えばおもしろいのだが、理解できるまで付き合わなくちゃならねーから大変だぜ。


「また、変なことになっているようだね」


 と、ばーさんがやって来た。


 衣服からして昨日のばーさんだろう。だよね? とプリッつあんに目で問う。


「おはよう、サラトネーラ。こんなのはいつものことよ。気にしてたら胃が痛くなるわ」


 なにか失礼な言い種ではあるが、昨日と同じばーさんなのは間違いないようだ。名前は忘れたけど。


「働きたい者を連れて来たよ」


 と、四〇歳前後の髭面の男と三〇歳くらいの女、あと、一五歳くらいの娘と一〇歳くらいの男児をオレの前に出させた。親子か?


「ダインと嫁のサンラ、娘のハリンと息子のヤタカだ」


 それで紹介終わりか? まあ、あとはお前が判断しろってことなんだろう。


「オレはべー。見た目はこんなだが、結構デカい商会をやってるもんだ」


「はい。リクオウ様から聞いております。見た目は気にするな、働きたければ受け入れよと」


 雑な説明ありがとう。そして、それで受け入れたあんたらがスゲーよ。


「そうしてくれると助かる。なに、ちゃんと働いてくれんなら悪いようにはしねーし、給金も弾む。で、改めて聞くが、ここで働きてーんだな?」


「はい。ご期待に添えるよう努力します」


 旦那が頭を下げると、嫁や子どもたちもそれに続いた。


「わかった。今日からあんたらはゼルフィング商会の一員でオレが庇護すべき従業員だ。しっかり働いてくれ」


「ありがとうございます!」


 まあ、しばらくはゼルフィング商会から外れて商ってもらうが、いずれはゼルフィング商会として受け入れる。婦人らの機嫌と急がし具合によりますけど。


「そんで、通いで来るのかい? オレとしては住み込みで働いて欲しいんだがよ」


 いちいち閉めて帰るより住み込んでもらったほうが買取り時間が増えるってものだしな。


「住み込みしてもよろしいのですか? こんな立派なところに……」


「格を示すのも立派な商会の仕事だ。あんたらにもそれに見合うだけの格好や態度を取ってもらうぞ」


 会長のお前はどうなのよ? とかの突っ込みに答えよう。オレは裏方。目立ってはダメな存在だからイイのです!


「とは言っても、そう気張る必要はねーよ。徐々にでイイ。この買取り店──って、名前がねーのも不便だな。なにがイイ?」


 ハルメラン支店は使うからダメだし、二号店とかだとわからなくなる。酒場もうちでやるんだしよ。


「普通にダイン買取り店でいいんじゃないの? どうせ丸投げするんだから」


 ハイ、まったくその通りなのでダイン買取り店に決定です!


  ◆◆◆


 店もでき、そこで働く者も来た。では、さっそくオープン──とはならず、ダイン買取り店ができたことを知らせるためにダイン親子には近所を回ってもらうことにしたのだ。


 その間オレらは酒場の建設現場へと向かい、監督することにした……んだが、なんとたった数時間で三階建ての酒場ができていた。マジか!?


「……シュードゥ族、スゲーな……」


 酒の力がさせてるのか種族特性なのかはわからんが、数時間で造るとか非常識すぎんだろう。おっとそこ。突っ込みはノーサンキューだぜ。


「へっ! これで驚かれちゃ困るぜ。おれらの本領はこれからだ」


 と、一人のシュードゥ族がオレの呟きを聞いて鼻を鳴らした。どーゆーことよ?


「おれらシュードゥ族は魔道具を何百年と作って来た種族。そのノウハウはクルフ族以上さ!」


 そこをもうちょっと詳しく聞きたいんだが、親方らしき者に怒鳴られ、仕事へと戻っていってしまった。


「レイコさん、出番ですよ!」


 ごはんですよ的な感じで言ってみた。


「……その呼び方に釈然としないものがありますが、まあいいです。付き合うのは疲れそうなので」


 そこは付き合ってよ! それがコミュニケーションなんだからさ! あと、幽霊のなにが疲れんのよ? 魂か? 存在力か? チョー気になるわ!


「シュードゥ族は魔道具を作るのに長けた種族で、魔道剣を主に作ってました。今はどうかは知りませんが、ご主人様は実験道具をシュードゥ族に頼んでましたから技術は一級品だと思いますよ」


 魔道具に魔道剣か。思わぬところで出会ったもんだ。


「ミタさん。老シュードゥか主長に連絡を入れてくれ。オレが会いたいと。場所はここな。もし来ないのならこちらからいく」


 酒場と聞けば来るだろうが、頼むのはこちら側。出向くことに否やはねーさ。


「畏まりました。すぐに渡りをつけます」


 よろしこ。


 酒場へと入ると、大工らしき男たちが棚やカウンターを作っていた。木材、どっから仕入れて来た?


「親方」


 と呼んだら三人がこちらを見た。うん、こんだけいたら親方も複数いるよね。メンゴメンゴ。


「頬傷の親方」


 最初、オレのところに来た三人のうちの一人ね。名前は聞いた……ような聞かなかったような、まあ、頬傷の親方でイイやろう。残り二人は片目と白髪だったし。


「なんだ? 急ぎか?」


「急ぎってわけでもねーんだが、あんたらの種族長か代表かと話があるんでここを使わせてもらいてーんだわ」


 あちらから何人来るかわからんし、広いほうがイイだろう。


「そりゃ急ぎじゃねぇか。テメェら、すぐに終わらすぞ」


 オレの言い方か口調になにかを感じたのか、そこにいるヤツらに発破をかけた。いや、あなたら、二、三倍どころか五倍速で動いてるからね。


「あと、ここで働きたい者ってどうなってる?」


「まだ選別中だ。なにせ高待遇だからな。一歩間違えたら刃傷騒ぎになりかねん勢いだわ」


 なにやら大変なことになってそうです。


「そうかい。まあ、決まったらここに寄越してくれや。指導とかあるからよ」


 やるのはミタさんたちだけど。


「おう。伝えておくよ」


 また少ししたら来ると言い残して酒場を出た。


「ミタさん。カイナーズホームに頼んでおいた酒、用意できてるかい?」


 あれだけの人数の腹(喉か?)を満足させる酒などこのハルメランにはねーし、他の大都市でも用意はできねーだろう。


 仮に用意できたとしても味も悪くアルコール度数も低いエールくらい。とてもシュードゥ族を満足できるものではねーはずだ。


「はい。ビールと芋焼酎はいつでも出荷可能です。一部でしたらあたしの無限鞄に入っておりますのでいつでもお出しできます」


「そいつはありがとさん。昼にでもビールを出してやってくれ」


 この気温ならイイ感じの冷たさになんだろう。働いている者は汗を流しながら仕事してんだからな。


「では、用意します」


 と、酒場の向かいにある広場(住んでた人を立ち退かせたそうだ。家一件建てられるくらいの金を払って)に移動すると、無限鞄から工事用の発電機を出した。


 え、なにしてんの? と茫然と見てると、ボンベをいくつも出し、続いてビール樽? を出し始め、どこからか現れたメイドが発電機やボンベ、ビール樽? 変換器やらを線をセットしていく。


 ……もしかして、ビールサーバーか……?


「こんなものまで売ってんだ、カイナーズホームは」


 なんでもありとは知っていてもこんなものまで出されたら驚きもするわ。


「魔大陸ではお酒が一番の娯楽ですからね。キャンプ地や宿泊所には大抵設置されてるそうです」


 一番の娯楽が酒ってのも可哀想な気がしないでもないが、だったら酒文化が発展しねーのはなぜだ?


「材料となるものがありませんし、あったとしても魔王が独占しています。お酒欲しさに戦いをする魔王なんてざらですから」


 なんとも殺伐とした話だ。飲めないオレでもそんな地には住みたくねーぜ。


「べー様。炊き出しの女性が来ました」


 ミタさんの配下の者が教えてくれ、見れば逃げ出したくなるようなご婦人方がやって来るのか見えた。


 どこの戦場へ向かうの?


 とか思わず言いたくなるくらいの覇気を纏っていた。


「ミタさぁ~ん! あとよろしくねぇ~!」


 村人忍法、三六計逃げるに如かず。夕方までには戻って来まぁ~す!


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