第166話 1349 やれやれ
「まさか、すき焼きが食えると思わなかったよ」
ステーキパーティーにしようとしたが、換気扇つけるの忘れたのですき焼きにチェンジしたのだ。
「このお肉、スッゴく美味しいぃ~!」
「なんなのこの肉? 口の中で溶けるぞ!?」
勇者ちゃんもララちゃんもA5ランクの牛肉に驚きながらも箸──ではなくフォークが止まらない。
「卵があればもっと旨くなるんだがな」
砂糖や味醂とかの調味料は買ったんだが、すき焼きなんて頭になかったから卵は買ってなかったんだよな。
……A5ランクの牛肉とは言え、食い慣れてないとそんなに食えんな……。
オレはいつもの量だったが、勇者ちゃんとララちゃんは倍は食っている。まあ、ララちゃんはともかくとして、勇者ちゃんはいつも大食い大会かってくらい食うんだが、今回は底がぶっ壊れたバケツのように胃に送り込んでいるな。
女騎士さんは、不思議と食事量は一般的だ。いや、食後のデザートが本番だと思っているのか?
二番手にいたララちゃんも腹一杯となり脱落。勇者ちゃんの独壇場となった。
「タケルもそうだが、コスパ悪すぎね?」
どこぞの戦闘民族みたいだよって話だ。
「そう言うお前は少食だよな。あれだけの力を出してんのに」
「オレの場合はおそらく魔力を使ってないだろうからな。神聖魔法は魔力とは違う別次元の力っぽいしな。ララちゃん、なんか知ってる?」
と尋ねるが、腹一杯すぎて答える力はなさそうだ。そんなにA5ランクの牛肉は旨かったのか?
「体は生まれつきで鍛えているから、よほど動かないと食ったりはしないな。そう言うお前も少食だよな」
まあ、その体の倍は食ってたけどよ。
「そうだな。食えない状況が多すぎて胃が小さいままなのかもな? お前んとこ来てからは倍は食うようになったがな」
茶猫にも魔力はあるが、それほど強大でもねー。きっと肉体にパラメーターを振られたのかもしれんな。
「ごちそうさまー!」
勝者、勇者ちゃんが食い終わった。
「お腹いっぱーい! ケーキ食べたい!」
「!!!!」
同じくとばかりに女騎士さんが連打挙手をする。あなたの血はお菓子が流れてんのか?
「ケーキって言われてもなー。甘いもんはミタさんに任せてるからな~」
まんじゅうならあるんだがな。と、出したら女騎士さんは満足して食べ始めた。
「ケーキがないならアイスが食べたい」
だからそーゆーもんは……あったな。ココノ屋でパ○コが。アイスだから分けて置いてたんだっけ。
無限鞄からパピ○を出す。
「あ、○ピコだ!」
「え? 知ってんのか?」
前世の記憶でも蘇ったのか?
「村人さんちで食べた」
うちで? 勇者ちゃんがいるときパ○コなんてあったっけ? 勇者ちゃんが旅立ったのは去年の秋。その頃はまだファミリーセブンとかなかったと思うだが?
「ま、まあ、食ったんなら食い方は知ってるな?」
「うん。知ってる」
袋から出し、手慣れた感じでチューチューし始めた。
「女騎士さんも腹を壊さないていどに食いな」
ゲリピッピになっても知らんからな。
「お前らも食え」
ガキどもにも渡し、勇者ちゃんを見ながらチューチューし始めた。
「オレはちょっと外でコーヒーを飲んでくるよ」
チューチュー族を眺めていたら、外に仕掛けた結界に誰かが触れた。
大きく伸びをしてから立ち上がり、首をボキボキさせながら外へと出た。
「もう夕方か」
太陽は陰っており、辺りが薄暗くなっていた。
土魔法で階段を創りながら下ると、迷彩服を着たヤツらがわらわらと現れた。
「くるんなら堂々とやって来いよ。返り討ちにされても文句は言われんぞ」
「申し訳ありません。なるべく邪魔をしないように静かにしていたもので」
この集団の隊長なのか、草の被り物を取って敬礼をした。
「もうイイよ。できるならもう少し離れていろ。勇者ちゃんに攻撃されるぞ」
勇者ちゃんは考えるより先に攻撃する。確実に殺す勢いでな。
「はい。そうします」
隊長らしき男が手を挙げると、迷彩服集団が下がっていった。
「ミタレッティー様より伝言です。二月後までは帰って来てくださいとのことです。シャニラ様の出産予定なので」
あ、オカン、妊娠してたっけ。忘れてたわ。
「了解」
レイコさんが覚えておくよ。
「……自分で覚えておいてくださいよ……」
できないからレイコさんにお願いしてるんだろうが。
「それと、ミタレッティー様よりこれを預かってきました」
と、収納鞄を渡された。
「プリッシュ様の力で食料を入れているそうです」
さすがミタさん。見抜いてらっしゃる。
「ミタさんにありがとうと伝えておいてくれや」
オレがいない間に休んで欲しいが、ミタさんはしないだろう。帰ったらココノ屋の駄菓子でも上納しておこう。
「はっ、伝えます」
また敬礼して下がっていった。
「……オカンと親父殿の子か……」
めでたいとは思うが、一〇以上離れた兄弟ができると言うのは複雑なものだな。
土魔法で椅子を創り、無限鞄からコーヒーを出して一息つく。
「まっ、家族が増えるのは喜ばしいことだ」
もう少しで産まれてくる新たな家族に乾杯をした。
◆◆◆◆
朝になり、改めてグランドバルへ向けて出発した。
「あそこ、一晩の宿として捨てるのはもったいなくないか?」
ワンダーワンドの柄に乗る茶猫が惜しそうに口にした。
「あそこにある。そう覚えておけばイイさ。ここにいる者は入れるようにしておくからよ」
秘密基地は秘密だから価値があるし、いざと言うときに備えておくもの。この先、必要になれば使えばイイさ。
「お前は未来視でもできんのか?」
そんなこと、前にも言われた記憶があるな。
「先が見えないから備えるんだよ」
これも言った記憶があるな。
「備えが必要にならないことが一番さ」
まあ、あのくらい失っても惜しくはねー。ならないならならないで問題ねーさ。
「ってか、どっちにいってるのか、わかってんのか?」
先頭は勇者ちゃん。風の魔法で枝葉を斬り落としながら元気よく進んでいる。
「不思議とわかってるみたいだな」
廃村からオーガの住み家まで結界を仕掛けてきた。オレにしかわからないのに、勇者ちゃんは空を飛んできた航路から外れてない。まあ、川があろうと崖があろうとお構いなし、だけどよ。
昼には廃村に到着し、昼を食べてからグランドバルへと出発する。
旅は順調で、なににも襲われることもなし。ただ、街道沿いの村はどこも廃れており、少し滅入ってくる。
「……金目蜘蛛の被害は酷かったんだな……」
獣人のガキと出会ってから五日。廃れた村は数知れず。ララちゃんが嘆くのもわかると言うものだ。
「今日はここで野宿するか」
大都市が近づいているのか、村と村の間隔が狭くなり、被害が生々しくなっている。これは金目蜘蛛の成虫なり、別の女王が生まれたっぽい。村で野宿は危険だと判断して川の近くで野宿することに決めたのだ。
「お前がいると野宿してる気分にならんな」
土魔法で創った土のドームに茶猫が呆れている。
まあ、なにもなければ焚き火を囲んでの野宿でもイイんだが、金目蜘蛛がいそうな雰囲気がある状況でのんきに野宿はしてらんねーよ。
ミタさんが用意してくれた材料を鍋に放り込み、煮立たせる。
「芋煮か。子どもの頃、よく芋煮会をやったな~」
芋煮会なんて言葉、久しぶりに聞いたな。こいつ、東北地方の出身だったのか?
「でも最近、肉が少なすぎないか?」
「ちゃんと昼には肉を出してるだろう」
まあ、肉が少なくなったのは本当だな。収納鞄には勇者ちゃんに肉ばかり食べさせないで、野菜や魚も食べさせるようにと注意書きが入っていたのだ。
「肉食いたい! ハンバーガーが食いたいでござる!」
うるさい猫だ。
「わたしもハンバーガーが食いたい! ペ○シ飲みたい!」
ララちゃんも加わり、ハンバーガー食わせろコールを上げている。子どもか!
「村人さん、ボクもー!」
勇者ちゃんまで加わってしまった。
「オレは母親か!」
と言いながらもハンバーガーやペ○シを出してやるオレ、甘いな……。
今日も今日とて大食いな食事をしていると、周囲に張った結界に衝撃が生まれた。
……今の感じ、銃弾だな……。
「どうかしたのか?」
茶猫は感知してないのか?
「いや、なにかを感じたみたいだからちょっと外の様子を見てくる」
「おれもいくか?」
「イイよ。休んでろ」
皆を残して土のドームから出る。
「カイナーズがなにかと戦ってるな」
銃撃の音はしないが、サイレンサー的なものをつけて戦っているんだろうよ。
「あっちか」
空飛ぶ結界を創り出し、音がするほうへと飛んでみる。
やはり銃弾を放っているようで火花みたいなものが見えた。なにやら全方位に向けて放ってる感じだな。
「殲滅技が一つ、蜘蛛は外!」
無限鞄から石の玉をつかみとり、銃弾が消える辺りへと放ってやる。
纏わせた結界に金目蜘蛛に当たった感触がオレに伝わってくる。やはりいたか。
結界灯をいくつも創り出して周辺へと撒いてやる。
「カイナーズ! 一ヶ所に集まれ! 二〇秒後に絨毯爆撃をする!」
返事は聞かず、空に結界を創り出す。
結界に触れた金目蜘蛛の感じを思い浮かべながらを二十を数える。
「殲滅技が一つ、結界流星群!」
結界を幾万もの礫に変え、地上へと降り注いでやった。
雨のように降る結界の礫が金目蜘蛛を貫くのが感じ取れる。
「……えげつないですね……」
練習で何度かやったが、実戦で使ったのはこれが初めて。もう感じられないくらい金目蜘蛛を殲滅していた。
「使いどころを選ぶ殲滅技だな」
「使いどころがある殲滅技ってのもどうかと思いますけどね」
ご、ごもっともです。
地上へと降り、カイナーズの元へと向かう。
「大丈夫か?」
収納鞄を渡してくれたカイナーズかはわからんが、そこに三〇人くらいいた。
「は、はい。大丈夫です。お手数をおかけしました」
「構わんよ。お前らだけか?」
誰が指示を出してるかわからんが、やけに少ないな。いつもなら軍団で押し寄せるのによ。
「はい。べー様の邪魔にならないよう少人数でついてました」
「そうか。近づくのは困るが、自分たちの命も大切にしろよ。どうも金目蜘蛛の女王がいるっぽい。三〇キロくらい離れているならもっと数を増やしてもイイからよ」
「了解しました」
怪我人はいないようなので、皆の元へと戻った。
「明日からまた金目蜘蛛との戦いが始まりそうだな」
まったく、やれやれだぜ。
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