第187話 サダコと秘密の部屋

 支店への帰り、キャンピングトレーラーを片付けた。


「どの辺に温室を創るの?」


「それは支店長さんと相談だな」


 小人系の飛空船は垂直離着陸ができるから飛空船場はそれほど広くはねー。だが、あまり周りに建物があると、降りるのに気をつかう。変な風が吹いて離着陸ができなくなるかもしれねー。


 まあ、墜落しても浮遊石と魔力炉での飛行なので爆発することはないが、落下の衝撃で破片が飛ぶことはある。その破片で温室が壊されることはなくても外に出ていた者が被害を受けるかもしらねー。


 だから、安全のためにも飛空船場から三〇〇メートルくらいは離す必要はあるだろうよ。


 支店長さんのところへ向かうと、婦人が来ていた。あ、お久しぶりです。


「あなたはまた大事にして」


「アリーの友達を拉致してくるほうがお好みだったか?」


 オレとしてはそのほうが楽で助かるんだがな。


「穏便に、と言う発想はないんですか?」


「だったら穏便な発想を示してから言ってくれ、だよ」


 オレは人に丸投げしたらその結果も受け入れて、失敗したのなら責任を取る覚悟もある。苦情だって言わねーよ。


「それに、バリアルの街のもんには害は出してねー。害が及ぶとしたらバリアル伯爵とその周辺だけ。さらに言うとバリアル領がこちらの手駒になればゼルフィング商会としても、ヤオヨロズ国に取っても利になる。なにより、アリーが望んだことだ。家族として受け入れたならオレは全力で応援する質なんだよ」


 サプルの我が儘を叶えるより楽ってものだ。


「はぁ~。そうでした。あなたはそう言う性格でしたね」


「婦人に理解されてなによりだ」


 オレの性格、なかなか理解してくれる人いないからな。


「諦められているとはお考えにならないので?」


 人とは都合のイイことしか受け入れない生き物なのだよ、レイコくん。


「支店長さん。飛空船場から離れたところを拓いて温室──建物を創るから面倒な手続きとか任せるよ」


 オレではバリアル伯爵も嫌がるだろうからな。


「わかりました。お任せください」


「できる支店長さんでなによりだ」


「この人の前で有能さを示すと夜も眠れないくらい仕事を押しつけられますよ」


「婦人、眠れてねーのかい?」


 肌艶がよろしいようにお見受け致しますが。


「……眠れています……」


「できるヤツは眠ることができるというイイ証明だな。支店長さんもよく眠りよく食べて大いに出世してくれ。なんならゼルフィング商会を乗っ取るくらいの野望を持ってもイイぜ。そのときは全力で媚びへつらうからよ」


 なんなら足にキスしてもイイぜ。


「傀儡になる未来しか見えませんな」


「それがわかる支店長さんはできる男だよ」


 よくこんなできる男が無名でいたものだ。そんな男を引き抜けたオレ、ラッキー!


「じゃあ、いろいろ頼むわ。婦人。支店長さんの給料上げておいてよ」


「わかりました。まあ、使う暇もないでしょうけど」


「商人なら金を使って経済を回せや」


 まあ、使う使わないは支店長さんの自由。好きにしたらイイさ。


 支店長さんや婦人の前から去り、温室に適した場所を探しに出かけた。


「どこにするんです?」


 なんだかんだとついて来る魔女っ娘三人組。ご苦労なこった。


「そうだな。可能なら川の近くがイイんだが、まあ、井戸を掘ればイイか」


 バリアルの街は盆地。四方に千メートル級の山に囲まれている。掘れば地下水脈にぶち当たんだろうよ。


 小川はいくつかあったが、水量がいまいち。引き込むより掘ったほうが楽だな。井戸掘りは何回もやったし。


「魔女の魔法に水脈を見つけるのってあるかい?」


「……あるとは、聞きました。でも、わたしたちは知らないです……」


 そばかすさんとツンツインテールが見詰め合って記憶を探っていたら、サダコがボソボソと答えた。ただの解剖狂ってわけじゃないらしい。


「まあ、見習いじゃしゃーねーか」


「あなたは知ってるの?」


「知らんな。だが、土魔法の応用で探すことはできるな」


「そんなことできるの!?」


 土魔法を嫌がる割にはグイグイ来るツンツインテールさん。


「慣れが必要だけどな」


 魔法は直感だから説明が難しいが、土を感じてるとたまに空白が感じるときがある。その空白は空洞だったり水脈だったりするのだ。


 ツンツインテールに土を移動させる魔法を使わせながら広域を広く、そして、地下へと向けさせる。


「土が移動する感覚はあるだろう?」


「え、ええ。感じるわ」


「いろいろ動かしていると空白、突然魔法が抜けるような感覚があれば、そこは空洞か水があることが多い。考えるな、感じろでやっていけばわかるようになっていくよ」


「──あった! 抜けたわ!」


 さっそくかい! 天才だな、ツンツインテールさんは!


「どう? 水かな?」


 オレも土魔法で探ると、水脈っぽい感じがした。


「水だな。それもかなり多い水脈っぽい」


 深さはざっと三〇メートルってところかな?


「じゃあ、この辺にするか」


 支店から四〇〇メートルほど離れてしまったが、道を整えれば馬車移動もできるだろうよ。


「ツンツインテール。土魔法で草木を排除してみろ」


 一応、手本を見せてやる。


「できるな?」


「え、ええ。なんとか」


 ツンツインテールさんはやはり直感の人っぽい。口で説明するよりやって見せたほうが理解できてるよ。


 さて。オレもキャンピングトレーラーを置ける場所を作りますかね。


   ◆◆◆◆


 陽の当たる場所にキャンピングトレーラーを設置する。


 中へと入り、新たなどこでも部屋を創り出す。


 一度創ればそれほど難しくはねー。あらよって感じで完成です。


「宿屋の部屋と繋いだの?」


「いや、ハブルームにする」


「ハブルーム? なんなの、それ?」


「まあ、どこにでも繋がる部屋って意味だよ」


 転移結界門を発展させたものだな。


「世界の流通を破壊しかねないものですよね」


 まあ、転移バッチやシュンパネ、飛空船がある時点で破壊してるようなもんだけどな。


 どこでも部屋──ではなく、ハブルームに入り、長方形にした空間を楕円形に変化させ、中央をすり鉢状にして噴水でも創ってみた。


 キャンピングトレーラーのすぐ横にドアを創り、ボブラ村の薬所へと繋いだ。


 一応、ノックしてからドアを開いた。驚かせたらワリーしな。


「いや、いきなりドアができた時点で驚いてますよ」


「オババなら大丈夫だ」


 でも、心臓発作を起こしてたらごめんなさい。


 ドアを開けて薬所へとお邪魔しま~す。


「やはりお前か」


「何日かぶり。って、まだいたんかい」


 叡知の魔女さん、薬所に入り浸りだな。大図書館はイイのか?


「そばかすさん。説明は任せるよ」


 魔女のことは魔女にお任せ。オレの管轄じゃございません。


「オババ、ニーブは?」


「お前さんちにいっとるよ」


 なんだ、タイミングワリーな。


 ハブルームに戻り、薬所の横に館へと繋ぐドアを創った。


 ドアを潜った先は二階へ上がる階段の横。なにもない壁がここしかなかったのだ。


「ベ、べー様!?」


 ちょうどそこにいたメイドさんがびっくらポン。ノックするの忘れてたわ。


「いやだから、突然ドアが現れた時点でびっくらポンですよ」


 とうとう幽霊がびっくらポンを使いこなしてます。


「ニーブが来てるそうだが、どこにいるか知ってるかい?」


「ニ、ニーブ様でしたら食堂にいるかと思います」


「食堂ね。あんがとさん」


 感謝して食堂に向かうと、サプルやプリッつあんたちとお茶していた。


「ニーブ。寛いでるとこワリーが、ちょっと来てくれ。重要なことだから」


 言うことだけ言って食堂を出ていく。下手にいると説明しろとうるさいからな。


「──ちょっと、なんなのよ?」


「イイから来い」


 ドアを潜ってハブルームにいく。


「なんなのよ、もー! ──ってなによ、ここ?!」


「ハブルームだ。こっちだ」


 薬所のドアを開けて潜る。


「そばかすさん、説明終わったか?」


「説明どころか状況の説明もできてませんよ!」


「説明下手か。しょうがねーな。まあ、イイ。ニーブ。薬所とバリアルを繋いだ。あ、館にもな。今度からはお前がバリアルへといけ。以上だ──」


「──以上だ、じゃないわよ!」


 と、なぜかプリッつあんからコークスクリューパンチを受けてしまった。


「なにすんだよ!」


 咄嗟に結界を纏わなければふっ飛んでだぞ!


「あんたが一番説明下手よ! あんなのでわかる人がいたら正気を疑うレベルだわ!」


「ったく。読解力がねーな」


「この世にべーを理解できる人なんていないわよ!」


 やれやれ。理解されないって悲しいわ~。


「じゃあ、レイコさん、よろしく」


 オレの説明でわからんと言うならレイコさんにしてもらいなさいよ。


 近くの椅子に座り、コーヒーを出して我かんせずじゃ。


「ったく、このアホは。レイコ、わかるように説明して」


「なにか、わたしまでとばっちり受けてるんですけど」


「そのために憑いてるんだから役目を果たしなさい」


 アハハ。怒られてやんの。


「他人事にしてんじゃないわよ!」


 額に飛び蹴りをかますメルヘン。狂暴だこと。


 同じ能力を共有できるのなら能力を相殺することも可能。なら、身体能力は元に戻るってこと。軽い蹴りなど効かぬわ!


「わたしがいない間にさらに傍若無人になって」


 今、傍若無人に責められ(攻められてか?)のはオレのほうと思うのですが?


 まあ、言っても賛同は得られないのだから黙るだけである。あーコーヒーうめ~。


    ◆◆◆◆


 なんつーか、こうして輪から外れてみると、魔女の上下関係が見えてくるな。


「お前はそうやって相手を量るのは止めろ。嫌われるぞ」


 長い付き合いなだけにオババにはお見通しのようだ。


「それで嫌われるなら本望さ」


 誰かの顔色を伺いながらの人生を送るくらいなら嫌われても自由気ままな人生を送るほうが何倍も楽しいってものだ。


「オババは楽しかったかい? 自分を殺して過ごしてきた魔女人生は?」


「そう言う過去を見抜くのも止めろ」


「ふふ。叡知の魔女さんのせいで本心がダダ漏れだぜ」


 きっと叡知の魔女さんとの再会で気持ちが昔に戻っているんだろう。娘にしか見えねーぜ。


「さっさと終わらせて帰れ」


「はいはい。わかったよ」


 説明も終わりそうだし、いつまでもツンツインテールを放置するのもワリーだろう。あ、ちなみにサダコはずっと横にいますよ。


「サダコって、なんで南の大陸に残らなかったんだ?」


 セーサラン解剖なんてサダコの喜びそうなものなのに。


「わ、わたしは、見習いだから。じゅ、重要なことには携われません」


 まあ、国家機密級の存在だしな。見習いには参加させられんか。


「サダコは人を解剖したことあるのか?」


「な、ないです。まだ見習いなので」


 あ、やっぱりあるんだ。おっかねーな、魔女って。


「今度、オーガを解剖するから付き合えや」


 南の大陸で回収した年老いたオーガを解剖したいと思っていた。解剖好きっ娘ならオレが見えないことも見えるだろうよ。


「はい! 是非!」


 解剖でこれほど喜ぶとか、頭のネジが一本狂ったヤツだよ。


「レイコさん。先にいってるぞ」


「え、ちょっ、ちょっと待ってくださいよ。あまり離れたら切れちゃいます!」


 なにがだよ? なにか繋ぐのはメルヘンだけにしてくれよな。


 構わずハブルームに向かい、また新たなドアを創り、秘密の部屋へと繋いだ。


 ここからはR18。スローライフから逸脱している秘密の部屋。なので、具体的な表現は致しませぬ。


 サダコだけを秘密の部屋に入れ、中を説明。あれやこれやと教え、サダコだけに鍵を渡した。


「うふ。うふふふふ」


 不気味に笑うサダコ。ネジ一本どころか二、三本はズレているようだな。


「ミ、ミランダ、どうしちゃったのよ?!」


「歓喜してるだけだ。気にするな」


「いや、ミランダが歓喜って、絶対碌でもないもの見せましたよね!?」


「一八歳になったら入室を許可してやるよ」


「ミランダ一五歳ですし、べーくんに至っては一六歳だよね!」


 あらやだ。口の回るそばかすさんだこと。


「叡知の魔女さん。魔女を一人追加してくれ。ただ、秘密の部屋はサダコにやったものだからサダコの許可を得ろ」


「バレッタもとんでもないものを弟子にしたものだ」


 オババ、とばっちり~。


「べー様もね」


 よし。次いこうか。


 また薬所に戻り、ニーブをバリアルへと連れていく。


「ちょっと! 人を放置しないでよ!」


「ワリーワリー。ちょっと手間取ってな。なかなか綺麗に均したじゃねーか」


 やはり土魔法の才能があるようで、ロードローラーをかけたかのように整地されていた。


「か、館長!?」


 叡知の魔女の出現にびっくらポンなツンツインテール。やはり見習いにとっては雲の上の存在なんだな。


「そんな存在と対等に接してるベー様も雲の上の存在ですよ」


「違う意味でね」


 久しぶりに突っ込みを入れるメルヘン。ついて来たんかい。


「ニーブ。ここはバリアルだ。ジャックのおっちゃんは知ってるな?」


「名前だけはね。ってか、もうバリアルに連れて来られたことに驚かない自分がいるわ」


「人はそうやって常識を増やしていくものさ」


「べーのやってることは非常識を増やしてるだけよ」


 ほんと、突っ込みしかしないメルヘンである。自分の心の中で収めてくださいませ。


「ツンツインテール。次は井戸を掘れ。整地したところに三ヶ所。整地の外に二ヶ所だ。ちゃんと崩れないよう補強しろよ」


 叡知の魔女さんがいるのでツンツインテールからの反論はなし。魔女の世界も上下関係は厳しそうだ。


 ニーブを支店へと連れていき、支店長さんと婦人に紹介。今後、ニーブがジャックのおっちゃんのところへいくので、その際の案内と護衛をお願いした。


「……わたしはしがない村娘なんだけどね……」


「オレもしがない村人なんですけど」


 なんて言ったら嘲笑が返ってきました。


「落ち着いたらジャックさんのところにいくわ。プリッシュ、帰りましょう」


「そうね。べー。レニスのところにもいってあげなさいよ」


 レニス? 誰だっけ?


「カイナのおじさまの娘よ」


 あ、ああ、あいつな。すっかり忘れてたわ。


「わかったよ」


 オレ、忙しいな。


 整地に戻ると、叡知の魔女さんに見守られながら井戸を掘っていた。


 ……地獄だな……。


 新入社員が社長に見守られながら仕事しているようなもの。さぞ生きた心地がしねーだろうよ。


「ミラが土魔法に励むとはな。お前さんは教育者としての才もあるのだな」


「教育者としての才があるかどうか知らんが、まあ、妹や弟に教えてきたからな」


 あの天才どもと比べるのは申し訳ねーが、ツンツインテールも天才の粋に入っている。きっかけさえ与えたら勝手に育つものさ、天才ってのはな。


「大図書館にも繋ぎてーんだが、許可もらえるかい?」


「許可しよう。できることなら南の大陸にも繋いでもらえると助かる」


「あいよ」


 シュンパネを叡知の魔女さんに渡し、大図書館へと飛んでもらった。

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村人転生2~最強のワンダフルライフ タカハシあん @antakahasi

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