第149話 物体X

 昼食になる前に薪を確保できたぜ。


 あとは、草木が生えないよう結界で覆っておくか。


「ミタさん。カイナーズに整備しておいてくれと伝えておいてくれ」


「畏まりました。第一陣にそう伝えます」


 侵略速度が速いこと。


 生乾きのまま無限鞄へと放り込み、用意してくれた昼食をいただいた。


 食後のコーヒーを飲んでいると、山岳隊が戻って来た。どうでした?


「獣の気配がまったくありませんでした」


「つまり、獣も逃げ出すことがあるってことか。噴火でもするのかな?」


 まだ火山帯にいったことはねーし、専門家でもねーが、眼前にある山脈は、なんか火山でできた山脈っぽい。活火山だったりしたらいつ噴火しても不思議じゃねーだろうよ。


「噴火ってわかるものなんですか?」


「いや、はっきりとわかるわけじゃねーよ。地揺れが多くなったり湖が沸騰したり噴火直前に獣が逃げ出すって話もあるな」


 まさか地下にナマズでもいるわけでもねーしな。なにかしらの前兆は現れるはずだ。


「少し休憩したら出発しようか」


 体力オバケな感じだが、オレは働く者に優しい男。ホワイトベーとはオレのことだ。


「じゃあ、フィアラさんの前で言ってみてくださいよ」


「ごめんなさい。調子づきました」


 誠心誠意、全力で謝りますので婦人には黙っててくださいませ。


「……その変わり身が早さが見事ですよ……」


 オレのプライドは七色七変化。強いものに染まるんだよ! 文句あっか!


 周りの怪訝な目などなんのその。休憩を終え、出発する。


 山岳隊の……なに中尉だっけ?


「ダオさんですよ」


 あ、そうそうダオだったっけ。まったく記憶にないけど。


 ダオ中尉を先頭に、ゴルザ族が左右を固め、オレの後ろにはミタさん率いる武装メイド隊。そして、委員長さんと勝ち気な感じの魔女さん。敵性勢力がいたら確実に襲われる面子だな……。


「意外と道幅はあるんだな」


 三メートルくらいはあるだろうか、竜車二台が余裕ですれ違える。そんなに物流が激しかったのか?


 土魔法で道を均しながら歩いていると、竜車の残骸が道端に転がっていた。


「襲われたみたいだな?」


 エボー(荷車を引っ張る竜のことね)の死体はないが、引きずっていた形跡はある。


「蟲かな?」


 獣の足ではない。なにか鋭い爪で作られた穴がいくつもある。


「かも、しれませんな。穴の様子から一メートルくらいのサイズで、数十匹いる感じですね」


 とは、ダオ中尉。


「大暴走、って感じじゃねーな」


「はい。これは狩りですな」


 やはりか。


「気配は?」


「ありません。静かなものです」


 俗に言う嫌な静けさってやつだ。


 さらに進むと標高が上がって来て、植生も変わって来た。


「さっきのが増えてねーか?」


 穴の数がハンパなくなって来やがったぜ。


「なあ、なんか不味い状況じゃね?」


「そうだな。不味いかもな」


 これで不味くなかったらなにが不味いんだって状況だろうが、オレの考えるな、感じろは凪のまま。危険はないと言っている。


「ベー様基準でそうかもしれませんが、世間一般の常識から言えば危機的状況ですからね」


 大暴走も四度も五度も経験したら驚きもしないよ。まあ、さすがに飛竜が百匹も襲って来たら『ヤベーかな?』とは思うがよ。


「ヤベーで済まされるからベー様は非常識と言われるんです」


 そりゃなんの力もなく、一人だったらおしっこチビるくらいビビるだろうが、オレには三つの能力があり、一騎当千のミタさんがいて、カイナーズや魔女さんたちがいる。あ、茶猫も入れておくか。


「大多数が非常識なら、もはや非常識が常識。皆、常識人さ」


「なんの屁理屈ですか?」


「偉人は言いました。屁理屈も理屈のうちだ、ってな」


「そんなこと言う偉人が本当にいたら歴史から抹消したほうが未来のためですよ」


 幽霊は偉人(架空の、だけど)に厳しいこと。


「まあ、なんであれ、だ。なにが現れようとこのメンバーで事足りるってことだよ」


「それ、フラグな」


 考えるな、感じろが凪の状態なら慌てる必要ナッシング。百や二百の大暴走くらい瞬殺よ!


 なんてフラグを立てたのが悪かったのか、なんか遊星のほうから来ちゃったような物体Xが現れました。


「……ベ、ベー様、なんですか、あの化け物は……?」


 幽霊に化け物呼ばわれするも物体X……群。


「宇宙からの侵略者、って感じかな?」


 岩さんや人魚が宇宙から来たんだから物体Xも宇宙から来てたってなんら不思議じゃねーよ。


「誰も手を出すな。オレがやる」


「ベー様、危険です!」


「問題ない」


 久しぶりに殺戮阿吽を抜いた。


「最強の村人がどんなものか、見せてやるよ」


 もし、村人バトル・ロワイアルがあったら。オレがぶっちぎりで勝者だぜ!


  ◆◆◆◆


 ハイ、終~了~! お疲れしやした!


「見せ場は!?」


 叫ぶ茶猫。どうしたよ?


「いや、散々意気っておいて見せ場はなしかよ! 全世界の村人に謝れ!」


「お前、なに言ってんの?」


「おれがおかしいみたいに言うな! お前がおかしいんだからな!」


「しゃべり猫に言われてもなぁ~」


「お前ほんと、いい加減にしろよな!」


 猫とは思えない力で頭を齧られるが、メルヘンと比べたら甘噛みだ。気にもならんよ。


「レイコさん、こいつら見たことある?」


「ありません。と言うか、物体えっくすってなんなんですか?」


 オレも物体Xは知らんのよね。映画タイトルとエイリアンってことぐらいは辛うじて知ってるくらいだ。


「まあ、宇宙から来た生命体、ってことだよ」


「……宇宙、ですか……」


 幽霊にはピンとこんのか? 


「本当に宇宙から来た生命体なんですか、これ?」


「そこまではわからんよ。だが、こんな気持ち悪いものは宇宙から来たとしか思えんよ」


 この世界にもグロテスクな生き物はいるが、体毛もなく蟲とも魔物とも違う生き物がこの星で生まれたとは思えねー。


「中尉。増援を呼べるか?」


 山岳隊の中に無線機っぽいものを背負ったヤツがいる。たぶん、通信員だろうよ。


「それが、先ほどから通信ができなくなりました」


「ミタさん、スマッグは?」


「問題ありません」


 この辺の磁気が乱れてるだけならイイが、意図的に妨害されたら相手は知的生命体となり、それなりの技術力があるってことになるな……。


「ベー様たちと同じ転生者と言うことはありませんか?」


「それはない。とも言い切れねーが、オレはないと思う」


 宇宙生命体を呼び出せる能力を願わない限りはな。


「……なんか嫌な流れになってんな……」


 どんよりしたものが渦巻いてる感じがする。これは、オレに、ではなく世界規模で関係している感じだ。


「まあ、成るように成るか」


 土魔法で封じ込めた物体X群を結界でモザイク処理。R18な表現法で消去させた。


「解剖とかしなくてよかったんですか?」


「二匹は生かして捕獲してあるよ」


 結界で捕獲した物体Xを引き寄せる。


「二匹だけですか? もっと捕まえたほうがいいのでは?」


「これがどんなもんかわからんうちは少ないほうがイイ。増殖されたら対処しきれんからな」


 どこぞのエイリアンみたいだったら大変だからな。


「一匹はカイナーズに。もう一匹は帝国に送る」


「なぜよ?」


 と、大人しくしていた委員長さんが前に出て来た。


「世界の流れ、時代の流れ、常に変化している。昨日まで非常識だったことが今日常識になったりもする。それらに取り残されたくないのなら常に最前線にいろ」


 帝国は転生者の影がちらほらと見えている。なら、世界情勢には嫌でも付き合ってもらう。いろいろ問題を放り投げられる国は必要だからな。クク。


「……悪いこと考えているでしょう……?」


「嫌なら断ればイイさ。帝国がなくても世界は常に変化していくんだからな」


 まあ、委員長さんに拒否権はねー。いや、叡知の魔女さんには、ってのが正しいか。オレのほうが世界の謎を握っている量が多いんだからな。溢れたものを見逃すなんてできんだろうよ。


「……わかったわ……」


 物体Xを厳重に結界でくるめ、収納鞄に入れる。


「それは、叡知の魔女さんにだけ開放できるようにした。外から隔離した場所でやれな」


 叡知の魔女さんならそんな場所を用意できるだろう。なんか不味そうなこともやっているだろうからな。


「……そんなに危険な生き物なの……?」


「わからん。だが、星の彼方から来た生き物に注意するに越したことはねー。常識外の生き物だからな」


 まあ、この世界にも常識外の生き物がたくさんいるけどね!


「そうですね。ここにも常識外の村人がいますし」


 オレ、血も涙も出る普通の人間なんですが……。


「ベー様。カイナーズの増援が来ます」


 と、なぜか空を指差すミタさん。


 なにが来んの? と見てたらなんか光った。なに?


「特別仕様のC−17です。二万キロは余裕で飛べるそうですよ」


 C−17? 飛行機か?


「まあ、使い捨てのようですけど」


 そのC−17とやらが山沿いに進路を取ると、なんか粒っぽいものがたくさん吐き出された。


「カイナーズの空挺部隊です。昔、パラシュートの使い方を知らないまま落とされましたっけ……」


 なんか遠い目をするミタさん。つーか、使い方知らないで落とされてよく生きてるね、あなた……。


 複雑な思いで見てたら爆音が轟き、振り返ったらC−17とやらが爆発していた。


 ……使い捨てにもほどがあんだろう……。


「空挺部隊一三〇名がベー様の下につくそうです」


「……カイナーズのスケールについていけんよ……」


 やることなすこと非常識すぎんだよ。


「ベー様と義兄弟となるだけありますよね」


「オレ、あいつより常識的だよ」


「ベー様の言葉を借りれば、目くそ鼻くそですよ」


 できれば五十歩百歩と称して欲しかったです……。


   ◆◆◆◆


「カイナーズ空挺大隊を預かるシュースケー少佐であります!」


 右目にアイパッチをした赤鬼さん。出て来る場所ゲームを間違えてんじゃね? ってくらい潜入脱出が得意そうな雰囲気だ。


「スネークだな」


「あ、おれも思った」


 茶猫も同じ感想のようだ。


「スネークとはなんでしょうか?」


 茶猫くん、君に任せた。大人の事情に引っかからないよう説明してあげなさい。


「まあ、蛇って意味だが、誰にも気がつかれず潜入し、見事に作戦を遂行して、生きて還る超一流の兵士を讃えてスネークって呼ばれるんだよ」


 うむ。それなら大人の事情には引っかからないだろう。見事だ、茶猫くん。


「……スネーク、ですか……」


 こちらの世界の者にどうとらえられるかわからんが、そう迷惑そうな表情ではなさそうだ。


「まあ、気に入ったら勝手に使いな」


 スネークは英名。大人の事情には引っかからない、はず。


「はい。では、これから空挺大隊の通称をスネーク大隊にします」


「好きにしたらイイが、勝手につけて大丈夫なのか?」


「問題ありません。カイナ様はそう言うことに寛大ですので」


 まあ、確かに寛大か。趣味でカイナーズを創ったようなバカだからな。


「少佐たちは山の探索を頼む。カイナーズの先遣隊がいるはずだからよ。あ、ああ言うのが出たら殺してイイから。ただ、触ったり血を浴びたりするなよ。どんな害があるかわからんからよ」


「了解しました」


 空挺──じゃなく、スネーク大隊が散開していった。


「オレたちは先を進むぞ」


 この道はグランドバルへと続く。なら、勇者ちゃんたちも通ったはずだ。


「勇者ちゃんの性格なら脇道に逸れることもあるのでは?」


 そう言われると不安になって来るな。勇者ちゃん、よく言えば天真爛漫。悪く言えばアッパラパーだ。予想がつかないところがあるからな~。


 ま、まあ、大丈夫。オレの出会い運は勇者ちゃんより勝ってるはずだ。たぶん……。


「マイロード」


 久しぶりにいろはが現れた。


 ……このスライム、異空間にでも隠れてるのかな……?


 次々といろはに似たヤツらが現れる。


「奇妙な音がします」


「奇妙な音? 聞こえる人?」


 他の者を見て尋ねるが、誰も聞こえないと首を振った。


「……聞こえる……」


 と、茶猫。それは猫の特性からか?


「どんな音だ?」


「ジジッ、ジジッって感じだ。ネズミの鳴き声に似てるな」


 ネズミはチューチューじゃないのか? 


「いや、音ってよりノイズか? 耳ってより頭に直接響いて来る感じだ」


 謎の電波を受信してる、ってことか?


「……近づいてくる……」


「の、ようだな」


 土から振動が伝わって来た。


「ダオ中尉!」


「わかっている!」


 オレはなにもわかってないので説明していただけると幸いです。


「ベー様、お下がりください」


 ミタさんの指示に素直に従い、後方へと下がる。オレだと見せ場は作れないからな。


 土から伝わって来る振動は徐々に大きくなっている。


「……デカいな……」


 さっきの物体Xとは違うな。それに、群れがいない。


「ミタさん。スネーク大隊に注意喚起しろ。敵は知恵があるぞ」


 たぶん、スネーク大隊とオレらを分断するつもりだ。親友(年齢不詳で器用貧乏な酒好きだった男だ)がよくやっていた作戦だ。


「畏まりました」


 茶猫の首をつかみ、オレの肩に乗せる。潰されたら三兄弟に申し訳ねーからな。


「来るぞ!」


 右から……触手? がたくさん現れた。


 山岳隊やミタさんが即座に銃をぶっ放す。


 カイナが生み出した銃は元のより威力があるらしいが、現れた触手はワイヤーかと思うくらい強靭で、弾くのが精一杯のようだ。


「中尉! 対物ライフルへ!」


 ミタさんが無限鞄から対物ライフルとやらを大量に出して山岳隊へと配った。


 いろは隊も対物ライフル……じゃなく、レールガンだっけ? まあ、腐から生まれたもの。非常識な威力を見せてるよ。


「血が緑色とか、完全に宇宙産だな」


「硫酸の血じゃないんだな」

「そうだな。あの硫酸、いろいろ使い道があるのによ」


「……転生者って、ほんと非常識ですよね……」


 それはエイリアンを知ってるか知らないかの差ですぅ。


「どんだけ触手があるんだ?」


 対物ライフルには勝てないようで、触手は次々と撃ち落とされているが、触手は次から次へと現れる。どうなってるんだ?


「RPG−7、いきます!」


 戦争映画でよく見るロケットランチャーをぶっ放す我が家のメイドさんズ。もはや突っ込むのも面倒である。


 対戦車と言われるだけあって威力がスゴい。つーか、次々と発射させるメイドさんズがもっとスゴいわな……。


「容赦ねーな、お前んとこのメイドって」


「そうだな。メイドは大切にしなくちゃダメだと思い知らされてるよ」


 次から次へとロケットランチャーを発射し、無限触手を無限に吹き飛ばしていく光景を見たら強く思うし、何度でも思うよ。


「SFな物体Xもファンタジーなメイドにかかれば雑魚でしかねーか」


 とりあえず、出番がないのでペ○シを出して終わるのを待つことにした。


「おれにもくれよ」


 茶猫にも出してやり、二人で乾杯した。なんの乾杯かはそれぞれで考えてくださいませ。


「……転生者ってヤツは……」


 レイコさんがなにか言ってるが、気にせずペ○シをいただいた。ゲフ。

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