第68話 助けて!

 では、皆さんの活躍に乞うご期待です!


 ってな感じで解散。夕食をいただくべく離れへと向かいました。


 ついて来るのは孫二人。後、ピータとビーダ、そして、ウパ子の巨大生物。なんの行進、これ?


「……町でやったら大騒ぎでしょうね……」


 頭の上の珍生物が呆れ果ててます。ちょっと誰かなんとか言ってやってよ! お前が言うなって。


 まあ、言ってくれるだろう人はいないので、心の中だけで叫んでおきますけどね。


「べー。お腹空いた~」


 ドシドシと地面を揺らしながらウパ子がオレを追い越し、いくてを遮った。あぶねーな、まったく。


「海で食わなかったのか」


「あんな小さいのじゃお腹いっぱいにならない」


 まあ、今は二〇メートルだしな。数千匹も食わないと腹いっぱいにはならんか。


「ミタさん、魚ある?」


「はい。いろいろ仕入れておきました」


 できるメイドは頼もしいよ。


「上にいったらいっぱい食わしてやるよ」


 つーか、邪魔だから二メートルくらいにしておくか。ほらよっと。


「ぴー」


「びー」


 はいはい、君らもお腹空いたのね。わかったわかった。もうちょっと待ってね。


 二匹も二メートルくらいにする。騒がれてもうるさいからな。


 離れへとつき、無限鞄からテキトーな皿を三枚取り出し、テキトーに大きくさせた。


「ミタさん、これにテキトーな魚三匹入れて」


「三匹でよろしいのですか?」


「デカくするから問題ねーよ」


 こいつらの腹に合わせていたら世界が食いつくされるわ。


「では、これでよろしいでしょうか? ウパ子様の好みかはわかりませんが」


 大丈夫だろう。基本、雑食っぽいし。


 無限鞄から三匹の魚を出して皿へと入れた──瞬間、ウパ子が大口を開けて皿へと飛びかかった。


「猫まっしぐらか」


 直前で結界を纏わせて停止させる。人の世で暮らすなら躾は大切だからな。


「イイか、ウパ子。ここでは餌をくれる者の命令は絶対だ。逆らえば死ぬと思え」


 食事に関してはオレはサプルに絶対服従である。決して逆らったりは致しません。食事抜きは辛いからな……。


「ピータもビーダもだぞ」


「わかったわ」


 なぜかプリッつあんが答える。なぜかとても真剣に。


 ……君もサプルに食事抜きにされたのかい……?


「……わかった……」


 話がわかる両生類……ではなく竜で助かるよ。


 皿に入れられた二〇センチくらいの魚を二メートルくらいに──した皿から溢れてしまった。


 失敗と皿を大きくさせ、ウパ子が食い散らかしても大丈夫なように六メートル四方に結界を敷いた。


 次はピータとビーダの皿には薪を盛った。


 基本、草を食べる二匹だが、最近では木(小さい体のときは小枝ね)を食べるようになってきたのだ。


 三つの皿にそれぞれの餌を見て、三匹に目を向ける。


 ウズウズするウパ子。大人しく待つピータとビーダ。そして、竜を躾てるオレってなんなのよ? とか自問自答したくなるのを抑え、待てを教える。


「よし、食え」


 ウパ子を押さえている結界を解除すると、腐っても竜だなぁ~って感じでデカくした魚にかぶりついた。


 地竜の二匹も竜だけあって薪をスナック菓子のように食っている。


「ミタさん、食事を頼む」


 三匹の食いっぷりを見てたらオレも腹が減ったわ。ってか、今日、朝食ってからフ○ーチェとコーヒーしか胃に入れてなかったわ。


「はい。中でお召し上がりますか? 外にしますか?」


「中で頼む」


「はい。ではすぐに用意致します」


 ってことで中に入ると、よく見るメイドさんが厨房から料理を運んでいた。


 ……いたんかい。まったく気がつかんかったわ……。


 外から見たら二階建ての小さな家だが、中は結界により拡張しているので、見た目より三倍は広くなっている。


 それに厨房はサプルの注文により、家くらいの結界倉庫を創り、なにか自分色に染めたと言うか、秘密基地に改造したと言うか、入った者から流れて来るウワサから心地よい空間となっているらしい。


 創ってからオレは入ってないし、厨房で火事を起こして出入り禁止を受けてからは一種、アンタッチャブルなところ。完全無欠に意識から外しているので、どうなっているか、どうしてるかは知りませんのデス。


「まあ、好きなところに座ってくれ」


 孫二人に席を勧めて座らせた。


「酒は飲めるかい?」


「え、あ、はい。飲めます」


「わ、わたしも飲めます」


 なにやら畏まる孫二人。そんな萎縮させることしたか?


「竜を従える者に強気に出れるのは頭がおかしい者だけよ。さあ、どうぞ」


 自分の身長より高いビール瓶を抱えて孫二人のコップに注ぐメルヘン。ホステスならナンバーワンになれたことだろうよ。


「まあ、口に合うか知らんが、好きなだけ飲みな。部屋は用意してあるからよ」


 荷車の件もまだだし、魚の買い付けは二日後らしい。シャンリアル領のために働いてくれる者らをもてなす意味で泊まるよう勧めたのだ。


「ミミッチー、今日はお客さんがいるからお酒を飲むのを許してあげるわ」


 酢でも飲んでろや、穀潰し鳥が。


「しょうがないわね。今日だけよ」


 どんな食卓やねん! とか今さらなんで突っ込まないでね。うちでは珍しくないんで。


 酒と料理に孫二人、いや、メルヘンと穀潰し鳥がワイワイと楽しんでいるのを見ながらオレは静かに夕食をいただく。もう、メルヘンに任せたわってな。


 夕食が終わり、メルヘンの謎のコミュニケーション能力に任せて暖炉の前に移動。ミタさんが淹れてくれたコーヒーを飲んでると、離れのドアが開き、久しぶりのマイブラザーが現れた。なんか涙目で。


「あんちゃん助けて!」


 と叫びました。


  ◆◆◆


 どうした? と言いかける前にオレの目がトータの首筋に向けられた。


「あんちゃん! 皆が死んじゃう! 助けて!」


 必死に叫びながら駆けて来るトータを結界で捕縛し、動けないようにした。


 空中に浮かし、首筋の黒い点を凝視する。


「……マジかよ……」


 いや、マジなんだから否定してもしかたがねー。


「……あ、あんちゃん……?」


「重要なことだ。館の前に転移して来て館に入ったか?」


 マジな目でトータに問う。マジで答えろ。


「う、うん」


 よし。それならまだ救いはある。


「ミタさん。ブルー島にいるヤツを全員離れの前に集めろ。絶対に外に出すな。厨房にいるヤツはオレがよしと言うまで出るな。そして、誰も入るな。急げ!」


「畏まりました!」


「ドレミ。館にお前の分離体はいるか?」


「はい。ソラシ隊がいます」


「館にいる者は絶対に外に出るな! 外にいるヤツは入るな。村には下りてもダメだし、来た者は宿屋に誘え。あと、カイナに噴霧器を大量に持って来てくれと伝えてくれ。ただし、絶対にブルー島には入るなと伝えろ」


「畏まりました」


「プリッつあんは、お湯を沸かしてくれ」


 そう言ってトータを風呂場へと運ぶ。


 ここに移しても風呂は二四時間入れるようにしてある。ミタさんの部下が二十四時間体制で働いているからな。


 無限鞄から収納鞄を取り出し、中からタンポポモドキの花を乾燥させて粉にしたものを湯に放り込んだ。


「……あんちゃん……」


「堪えろ。今はお前の命が先だ」


 粉が溶けるようにかき混ぜ、服のままトータを湯に浸けた。


「クソ! こんなことならちゃんとバージョンアップさせておくんだったぜ!」


 タケルたちに纏わせている結界ならこんなことにはならなかったのだが、トータに纏わせている結界は物理防御結界だけ。命にかかわるような衝撃を受けたときに発動するものだ。


 冒険者になりたいと言うトータに過度な守りは感覚や勘を鈍らせ、知識を狂わせるからだ。


 チャコがいるからってのも判断を鈍らした。いくらチャコが賢くて図太くても種の違いからくる危険や世界の知識が不足している。強いだけでこのファンタジーな世界は生きていけないだろうによ!


 ──いや、そんな無駄な後悔している場合じゃねーだろう、オレ! 


 風呂場を出て居間に戻る。


「ベー! いったいなんなのよ!?」


「黒丹病だ。いや、まだ断言はできねーか。トータの容態次第だ」


 三〇〇年前に起きたもので、伝聞でしか知らねー。だが、治療法はある。まあ、症状が悪化していたら無理だがよ。


「危険なの?」


「病原菌たるトータの進行具合だな」


 オハバから聞いた話からして、被害が拡大したのは死体が腐敗して空気感染で広まったのだろう。だが、そう詳しい症状や経緯は伝わってねー。タンポポモドキが効くってことと、その処方だ。


 万能薬たるエルクセプルをと、一瞬頭がよぎったが、すべてに効くかはわからねー。ましてや菌やウイルスだけを死滅させるかなんてわからねー。増殖しました、なんてなったら笑い話にもならねーわ。それを弟で試すとか鬼畜だわ。


「昔の病気だが、その治し方はある。今は初期の初期だから恐れる必要はねー。だが、油断してイイもんでもねー。黒丹病は何万人も殺した病気だからな。ましてや魔族や妖精にどんな影響を及ぼすかわからねー。だから、しばらくはブルー島から出るのを禁ずる」


 念には念を。少なくても二〇日は様子を見る。


「館は大丈夫なの?」


 不安そうなプリッつあんに笑ってみせる。




「絶対とは言えねーが、まあ、館は大丈夫だろう。二十四時間空気浄化させてるし、体についた病原菌は弾くようにしてある。タンポポモドキを煎じた湯に浸かってコーヒー(モドキ)を飲めば黒丹病の症状は消せるはずだ」


 前世の記憶があるだけに納得できねーが、ファンタジーだからと受け入れるしかねー。オレはそこまで賢くねーし、一六年しか生きてねー。真実の爪先も触れられねーよ。


「ベーの結界ではダメなの?」


「ダメではねーが、治せる方法があるなら使うに越したことはねーよ。それに、オレの力は邪道だ。それしかねーと言うなら容赦なく使うが、正道があるなら正道で治す。正道を次に受け継がせるほうがイイ」


 技術は受け継いでこそ。受け継げない力は害悪だ。いやまあ、容赦なく使ってるオレのセリフではねーけどよ。


「人から人に伝染するならそう怖くはねー。人から他種族に伝染し、その体で病原菌が変化するのが怖いんだよ。治療法が違ってくるからな」


 症状の現れ方も違うかも知れねー。だが、知れたら知れたで次に渡せる。オレでは無理でも次のヤツなら見つけてくれるかも知れねー。なら、今を生きる者として今知れることはすべて記録に残すまでだ。


「オレが帰って来るまではブルー島はプリッつあんが仕切れ。ドレミを通じて指示は出すからよ」


「え、ちょっ、オレがって、ベーは外に出るの!?」


「黒丹病とわかった瞬間に結界は纏ったし、常々、黒丹病の特効薬とも言えるものは飲んでいる。まず感染はしてねーよ」


 仮に感染してたとしても結界から漏れることはないので問題ナッシングだ。


「ドレミ。外のでも大丈夫だよな?」


 訊くまでもないだろうが、訊いてこその意義がある。


「問題ありません」


 平坦な声ではあるが、そこに籠った感情は強く感じ取れた。


「なに、大丈夫。すぐに戻って来るよ」


 不敵に笑って見せる。


 そう笑えるだけの味方がオレにはたくさんいるんだからよ。


  ◆◆◆


 風呂場へと戻り、トータの状態を確認する。


「……効くとは聞いてたが、いくらなんでも即効性あり過ぎだろう……」


 何万人も殺した黒丹病を数分で治すとか、ファンタジーはほんと理不尽だぜ。


 とは言え、黒丹病に効くってことを見つけるまで何万人も死に、試行錯誤が行われたのだから先人に感謝である。


「皮膚上のは消えたが、体の中は大丈夫なのか?」


 黒丹病は空気感染で皮膚につくと言われている。


 皮膚から徐々に体の中へ入っていき、まず、手足の肉を腐らせ、やがて内臓へと至るとか。だから、手足に異常がなく皮膚に黒い点がある場合は初期段階で、タンポポモドキの粉を湯に混ぜて浸からせれば完治するんだと。


「トータ、体の具合はどうだ? 体が熱いとかダルいとかねーか?」


 結界を解き、尋ねる。


「……ダルくて寒いのがなくなった……」


 ダルくて寒い、か。増殖するのに体の熱を奪うのかな?


「──そんなことより皆が死んじゃうんだよ!」


「落ち着け。お前は皆を助けるために家族を殺しかけたんだぞ」


 一〇歳児──いや、もう一一歳か。じゃなくて、まだ幼いトータにわかれと言うほうが悪いが、それでも冒険者として旅立ったのなら一人前として扱い、ちゃんと責任は取らせる。都合のイイ立場にはオレがさせん。


「お前は黒丹病と言う何万人も殺せるだけの病気にかかっていた。そして、お前の口ぶりからして大量に感染したところから来たってことだ。病気には移るものがあると教えていたのに、お前はそれを忘れていきなり帰って来たんだ、家族に移るとも考えずに、な」


 病気にかかった者に近づくときは口を覆え。自らかかったら人に近づくな。まあ、風邪を引いたときの対処だが、黒丹病の惨さを見たのならもっと冷静に動いて欲しかったぜ。


 まあ、それを一一歳児に、ってのも無茶だけどよ……。


「それは後だ。館にいくぞ」


 風呂から出し、結界で乾かした。


「一応、これを飲んでおけ」


 無限鞄からエルクセプルを出して飲ませた。


 一秒二秒と時間が過ぎるが、これと言った反応はなし。エルクセプルは黒丹病にも効く、ってことかな?


「それも現地でだ」


 風呂場を出て居間にいくと、全員がコーヒー(モドキ)を飲んでいた。


「タンポポモドキのストックは充分にある。湯に溶かして身を浄め、でコーヒー(モドキ)を二日くらい飲み続けろ。一時間間隔で無理しない量でイイからよ」


 そう言って離れを出る。


 転移バッチを使い、転移結界門前へ。扉を開けて外に出る。


「ベー! いったいなにが起こったんだ!?」


 外が暗くなっているのになぜか親父殿がいた。暗くなるまで働いてんのか? 


「寄合で帰って来たら家に入れんし、敷地からも出れないとか、本当になんなんだよ!」


「トータが黒丹病にかかって帰って来た」


 アーベリアン王国の生まれではねーが、黒丹病のことは知っている。その短い説明で理解してくれた。


「……大丈夫なのか……?」


「人は大丈夫だ。トータで試した。だが、魔族や他の種族ははっきりとは言えねー。が、まあ、そう心配することはねーだろうよ」


 意外と外に出ているメイドが多く、こちらに集中しているので、安心させるためにそう言っておく。


「ベー! なんなのさいったい!?」


 と、カイナが転移して来た。


「お前が来てどうすんだよ。下っぱに来させろや」


 トップが最前線に出てどうすんだよ。安全な場所から指示しろよ。


「おれは戦う指揮官なの」


 それ、指揮官としてダメだろう。いや、なんでもイイわ。どうせ簡単に死ぬヤツじゃないんだしよ。


「黒丹病って言う、まあ、ペストみたいなもんにかかったトータが病原菌をばら蒔いた恐れがある。薬があるが、それが魔族にも効くかはわからんし、感染するかわからん。タンポポモドキの粉を水に溶かして噴霧器で近辺に撒け。それで黒丹病は死滅するからよ」


 まあ、念のため。いや、気休め程度だが、やらないよりはやったほうが心理的にイイだろう。


「魔族はカイナーズに任せる。もし、ダメなら隔離しておけ。オレの力で死滅させるからよ」


 将来のための予行演習だと思っていろいろ考えておけ。


「ベー! シャニラは大丈夫なんだな!?」


「オカンは誰よりも大丈夫だ。呪いだろうと弾く結界を纏わせてるからな」


 タケルたちに纏わせたものより古いが、威力と性能は段違い。カイナの攻撃だろうが二発は防げるはずだ。


「……あ、ああ、だからか。お前の母親だし、岩を持ち上げても不思議じゃないと思ってたが、お前の力か……」


 いや、不思議に思えよ。素直に受け入れすぎだわ。


「とにかく、館内に収めるためにも三日は中に入るな。館にも黒丹病の薬は常備してあるし、トータも初期段階だったからな。問題は村の対応だ。さすがに内緒にはできんからな」


 村に流れた可能性は少ないだろうが、だからって話さないわけにはいかねー。不審は村社会を簡単に壊すからな。


「対応はおれがやる。それだけの信用は築いているからな」


 さすが親父殿。任せるよ。


 ……ただ、オレの存在意義が危ういので、落ち着いたらボブラ村にオレありを示さんとな……。


「なにかあればドレミを通じて連絡してくれ」


 メイド型ドレミ隊が勢揃い。ってか、同じ顔で同じ体型のが三十もいるとおっかねーな。


「マイロード。青がお側に仕えます」


 青い髪のメイド型ドレミが現れ、一礼した。


「いろはの分離体もいるのか?」


「いろは三式、ここに」


 と、いろはと姿型まったく同じのが現れた。あと、三式とかはスルーさせてもらいます。


「ベー様。ミタレッティー様の代わりにわたしたちがお側につきます」


 アダガさんと同じ青い肌を持つセイワ族のメイド三人が出て来た。


「好きにしな」


 ミタさんの心情を考えたら無下にもできんしな。


「トータ。これの使い方は知ってるな」


 シュンパネはチャコからもらったもの。知ってはいるはずだ。


「うん! それで帰って来たから」


 なら、問題なしとシュンパネをトータに渡す。


「アドアーリへ!」


 トータがシュンパネを掲げ、アドアーリなるところへ向かった。 

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