第78話 ギンコ

 うん。イイ収穫でした。


 ウパ子の鼻だか直感だかわからんが、クエオルを見つけるのが的確で、ピータとビーダの土魔法で地中から放り出すと言う連携により、三〇分で一〇〇匹も捕まえることができたのだ。


「ウパ子。そのくらいにしておけ」


 さすがに捕まえすぎだ。収納鞄に入り切れんわ。


「じゃあ、食べるでち」


「まったく、お前の胃も底無しかよ」


 やっとアリザの胃が落ち着いたってのに、また底無しが現れるとか勘弁してくれ。食料は有限なんだからよ。


「別に大きくすればいいだけのことじゃない」


「オレは一〇〇年としないで死ぬ生き物なの。竜のような長命種じゃねーんだよ」


 オレが死んだあとのことまで面倒見切れねーが、だからってなにもしないでは子孫に申し訳ねー。せめて飢えない道筋くらいは立ててやらんとダメだろうよ。


「できれば帝国とは仲良くしたいんだがな」


 帝国の食料生産能力は侮れないくらい高い。イイ関係を結べれば食料問題は解決したも同然なんだが、そう簡単にいかないから悩ましいぜ……。


「ベーって、適当のようでしっかり考えてるんだね」


「テキトーでやってけるほど単純な世じゃねーからな」


 つーか、君にはテキトーにやっているように見えたのね。オレ、結構考えて生きてますから!


 ……まあ、その反動でなにも考えず行動するときがありますけどね……。


「一旦戻るか」


 市長代理殿をほっとくのもワリーしな。


 と言うことでキャンプ地に戻りお片付け。そして、飛行場へと向かう。


「ってか、当たり前のようにいるが、オレはお前を飼うつもりはねーぞ」


 突っ込むのメンドクセーのでサラリと流していたが、さすがに人を恨むもんを近くに置いてやるほどオレは酔狂じゃねー。害は速やかに排除が信条だ。


「え!?」


 いや、なに驚いちゃってんの? その驚きはこっちだわ。


「……プリがいいって……」


 元凶はお前か! なに勝手に許可出してんだよ! オレメルヘンや竜の巣じゃねーんだからな! 


「別にいいじゃない。今さら」


「ギンコは友達でし!」


「ぴー!」


「びー!」


 そうだそうだと騒ぐ竜ども。ってかギンコってなんだよ! 銀子ってことか? いつの間に名前がつけられてんだよ! オレも混ぜろよ! 寂しいじゃねーかよ!


「わたしが考えたの。いい名前でしょう」


 誇らしそうに胸を張るメルヘンさん。


 うん。見たまんまだね。ウパ子と名づけたオレが言うのもなんですが、もうちょっとこちらの世界にあった名前にしてやりなさいよ。まあ、覚えやすくてイイけどっ。


「大丈夫よ。ギンコも立場はわきまえてるから」


 立場をわきまえるって、メルヘンが言うことでもなければ竜に求めるもんでもないよね! なに言っちゃてくれてんだろうな!


「……人は嫌い! でも、一人は寂しいから我慢する……」


 うん、お前は竜な。一人とか言っちゃダメだろう。カイナーズのヤツらにアイデンティティーまで殺されたのか?


「別に人を恨むことを咎める気はねー。人は人同士で争うアホな種族だからな。お前に危害を加えようとするアホがいたら排除すればイイさ」


「そこで殺せとか言わないところがベーの怖いところよね。死ぬのも許さないって感じで」


「当たり前だ。そう簡単に殺してたまるか。生まれたことを後悔させ、毎日死を願うようにしてやるわ」


 オレの人生を潰そうと言うヤツに慈悲はなし。どこまでも冷徹に無慈悲を与えてやるわ。ククッ。


「ギンコ。あなたは慈悲深い復讐者になりなさい。ベーみたいな無慈悲な復讐者になったらお仕舞いよ」


「うん。そうする……」


 なんだろう。今、人生最大の否定を受けたような気がするんだけど。気のせいかな?


「──ベー様。市長代理殿から連絡で薪の補給をお願いしたいとのことです」


 確かめようとしたらメイドさんが割り込んで来た。


 モヤモヤした気持ちが残るが、優先させるべきは市長代理殿の立場と権力の向上。このモヤモヤはあとできっちりはっきり明確にしようではないか。覚えてろ、腐れメルヘンに腐れ竜め!


「船団にはないのか?」


 仕切っただろうメルヘンに尋ねる。


「どうかしら? メイドに任せたからわからないわ」


 うん。少しでも期待したオレがバカでした。メルヘンは自分に興味があることじゃないと役に立たないのでしたね。メンゴメンゴ。


「しょうがねー。オレの鞄から出すか」


 魔大陸で大量に消費したから余裕はねーんだが、一都市分ならなんとかなるだろう。この気候なら生木でもすぐに乾燥すんだろうしな。


 無限鞄から薪を出し、伸縮能力で大木に。結界刀であらよっこらよっどっこいしょーで薪の山ができました。


「って、なんでここでやった、オレよ!?」


 薪の集積場は城にあんだろうが。しかも運ぶことも考えてなかったわ!


「どうすっぺ?」


 まあ、無限鞄に入れるのが一番なんだが、大木を薪にするので疲れた。入れるのも億劫だぜ。


 コーヒーを飲みながら考えていると、シュードゥ族の一団が門から出て来た。


 なんや? と見てたらこちらへとやって来た。


「ベー様。薪をもらってもよろしいでしょうか? 街の薪がもうなくて、炊き出しができないのです」


 おっ、そりゃ渡りに船。ドンドン持っていきんしゃい。


「あ、それと人手が空いたらこの実を集めて、空いてる船に積んでくれ。薪と交換だ」


 援助はするが対価があるならもらいます。


「あと、もう一つ。コーヒーモドキは毎日飲めよ。まだ外に黒丹病の元凶がいるんでな」


 根絶やしにするには年単位でかかるだろう。それまではコーヒーモドキは飲み続けたほうがイイ。将来、本当のコーヒーを普及するためにも、な。


 薪はシュードゥ族に任せ、オレは街へと向かう。そろそろトータたちの様子を見にいかんとならんしな。


  ◆◆◆


 市長代理殿や隊長から街の様子は聞いてたが、あまり復旧は進んでないようだ。


 黒丹病が蔓延する前は、道に露店が並んでただろう。そんな跡がある。


「……飛行場のほうに人が流れてたってことだが、なんか流れるようなものあったっけ……?」


 飛行場は西にあり、正門は南だ。これと言って栄える理由が思い浮かばねー。なんなんだ?


「冒険者が出る門ではないですか? 武器屋が多く並んでますから」


 と、ミタさん。なるほど、よくよく見れば冒険者を相手にしそうな店が並び、冒険者ギルドがあった。


「冒険者は逃げたか?」


 沈む船から逃げるネズミのように行動が速いからな、冒険者ってのは。


 まあ、それが悪いとは言わねーし、非難されることでもねー。情に負けて残るヤツは冒険者として失格だわ。


「炊き出しはしてるから人はいるんだな」


 立ち上がる煙が何十と見える。ここら辺の住民は結構生き残ってるのか? 


「ギンコとカイナーズの戦い、結構えげつなかったんだな」


 スクラップになった車は片付けられてるが、壊れた建物はそのまま。復旧はまだ先の先か。


「シュードゥ族って、種族総出で来たのか?」


 飛行場に集まったシュードゥ族は二、三〇〇人いたが、飛空船の数と復旧する人数からすると一〇〇〇人はいるっぽいな。


「いえ、さすがに無理なので八〇〇名を選出したと聞いてます。残りはジオフロントと魔大陸に分かれているそうです」


 たぶん、ジオフロントは比較的マシなヤツらで、魔大陸のは保守派。ここに来たのは推進派、かな? まあ、オレからしたら誤差みたいなもんだがよ。


「……市長代理殿に苦労をかけそうだ……」


 まあ、崩壊手前の都市を立て直すなんて苦労しかねーんだけどな。上手くやってもらいたいもんだ。


「なあ、ミタさん。ゼルフィング家としてメイド派遣部門とか創れる?」


 今さらな気がしないではないが、メイドはサプルの管轄であり、どうなってるかオレはまったく知らねー。念のため聞いておかんと。


「派遣、ですか? 遠征部はありますが……それとは別、にと言うことでしょうか?」


「各都市にメイド派遣商会を置き、メイド業を基本として市場調査や買い出しをさせたい。もちろん、資金はゼルフィング家で出す」


 ゼルフィング商会とは別とし、うちだけの、まあ、正確に言うなら他から干渉されない組織が欲しいのだ。


 まあ、カイナーズが関与しないわけはないが、ご協力いただけるのなら喜んでご協力いただくまで。オレが欲しいのは各地に情報収集する拠点だからな。


「ベー様のご命令とあれば創りますが、レッセルさんとの協議や配置転換、各地に商会を置くとなると相当時間がかかりますが?」


「時間がかかるのは当然だ。急がしたりはしないよ。まずはこのハルメランに建てくれ。今なら空いてる店か土地はあるだろうからな」


 都市が所有する場所もあるだろうが、どうせなら冒険者ギルドの近くがイイ。いや、商業区がイイかな? メイドを雇うのはそれなりに儲けてないとならないからな。


「ベー様。トータ様たちです」


 どうしたもんかと考えてたら、ミタさんがそんなことを言った。トータ?


「あんちゃーん!」


 と、マイブラザーの声。どこや? と視線をさ迷わせていたら頭の上のメルヘンさんが強制的に向けやがる。だから手加減しろや!


 無限鞄からエルクセプルを出していっき飲み。結界を纏っておかないと殺されそうだな……。


「あんちゃん、やっと会えた!」


 うん。軽く放置しててごめんな。


「どうした?」


「どうしたじゃないよ! いったいどうなったの?」


 カクカクシカシカ丸描いてチョン的なことがあったワケよ。わかった?


「そうなんだ~」


 と納得顔のマイブラザー。理解力があってなによりだ。


「……サプルもそうだけど、トータまでこうとは。なんて非常識な兄弟なのかしら……」


「……ベーだけが特別じゃなくて、兄弟すべてが異常だったのね……」


 羽メルヘンと花メルヘンが失礼なこと言ってます。オレから言わせたらテメーらのほうが非常識だわ! 主に存在自体がな!


「で、トータたちはなにしてんだ?」


「街の様子を見にと、依頼の失敗を伝えに冒険者ギルドにいこうとしてた」


「依頼?」


 この都市で? お前らが失敗? ちょっとわかるように説明しろや。


 カクカクシカシカあーだこーだと説明してもらう。


「なるほど。謎は解けた」


 そう言うことだったのね。


「今のでなにがわかったのかしら?」


「見て来たあたしたちが言うのもなんだけど、あれでわかるとかあり得ないわ。兄弟で通じる信号でも出してるのかしら?」


 本当に失礼なメルヘンどもだな。以心伝心、それが兄弟と言うものだわ。


「ようやくしたら呪われた銀竜姫の退治を別な冒険者ギルドで受けて、このハルメランで追い詰めたが、黒丹病で見失ったってことだろう」


 別に難しい説明でもなかっただろうが。


「トータは、その二〇倍かけて要領を得ない説明したんだけど。それで要点だけ読み取るとか、ベーの中にはどんな暗号解読機が内蔵されてるのよ?」


 だったらトータに説明させんなや。お前がリーダーだろうが。


 前世の記憶があるクセにメルヘン脳に支配されてんじゃねーよ。それともそれが地か?


「そんなことより、その呪われた銀竜姫は退治されたよ。カイナーズにな」


「なにか証拠とかある? じゃないと冒険者ギルドは納得してくれないよ」


 まあ、そりゃそうだわな。


「なら、オレが説明してやるよ。ここの冒険者ギルドも見てみたいしな」


 せっかくだから冒険者ギルド見学といこうか。国外の冒険者ギルドってよー知らんからな。


「あれはイチャモンつける顔よ」


「むしり取ってやろうって顔じゃない?」 


 うっせーよ、この腐れメルヘンどもが!

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