第168話 猫突猛進と書いてまっしぐらと読む
「モーダル英雄化計画を発動する!」
客室に集まり、そう宣言したら茶猫とララちゃんから冷たい目で見られた。
勇者ちゃんと女騎士さんはお菓子とお茶を堪能中でオレの話なんか聞いちゃいねー。ちなみに獣人のガキどもは他の部屋で休んでます。
「纏まり皆無の集団ですよね」
「こんな異色なチームで纏まりあるほうが異常だろう」
「まあ、自称村人が仕切ってるしな」
「よし。お前らの言いたいことはどうでもイイ。まずはオレの話を聞きやがれ」
「なんの独裁政権だよ!」
「じゃあ、お前がリーダーやれよ! キャットマンが!」
「変なあだ名つけんなや! つーか、おれはお前に無理矢理連れてこられたんだがな!」
「そう言う流される性格は止めたほうがイイぞ」
「お前が問答無用で流してんだろうが!」
なんて和気藹々がありましたが、話を元に戻しました。
「モーダル英雄化計画を始めたいと思います。皆様のご協力をいただけると助かりますです」
切にお願い申し上げ奉りまする。
「……お前は、我が強いのか卑屈なのかはっきりしろや……」
「オレは必要なら唯我独尊にもなれば媚びへつらうことも厭わない男だ」
キラン。と歯を光らせてみる。特に意味はなし。
「で、だ。モーダルに金目蜘蛛の女王を退治させるわけだが、それには金目蜘蛛をこの要塞に引きつける必要があるわけだ」
場が冷たくなる前に話を進める。
「嫌だって言ってもやるんだろうな」
モチのロンよ。
「勇者ちゃんと女騎士さんは、要塞に残って非常事態の備えとして、オレ、猫、ララちゃん、ガキどもで金目蜘蛛をここに集める」
「そんな単純にいくのか?」
「相手は腹を空かせているはず。目の前にご馳走が現れたら蜘蛛まっしぐらさ」
「猫まっしぐらみたいに言うなや。ってか、猫にまっしぐらとか笑えんわ」
「猪突猛進ならぬ
「蜘蛛を集めるのに猫はおかしいだろう!」
「計画名なんてなんでもイイんだよ!」
「……身も蓋もねーな……」
実のある話をすんだから問題ナッシング。だからオレの言うことを聞けー!
「またガキども囮にするから各自面倒みろよ。一匹でも多く要塞に引き連れてこい」
「子どもを囮にすることに一切の躊躇いも罪悪感もないよな」
どうもこいつは子どものことになるとナーバスになるよな。この世界の十歳は守ってやるほど子どもではねーぞ。
「あいつらは傭兵の子として生きてきて、親の教えがあったから金目蜘蛛やオーガに追い詰められても生き抜いた。しかも、自分たちは傭兵の子としての誇りを持っている。そんなヤツらにはちゃんと一人前に扱ってやるのが大人の役目だ」
半人前以上一人前以下。微妙なお年頃だが、仕事して任せるなら一人前として扱う。扱う以上、甘えたことは言わせねーし、ちゃんと報酬も渡す。それが礼儀であり責務でもある。
「……わかったよ……」
まったく、こいつもこいつで扱い難いぜ。
「村人さん。お腹空いたよ」
こっちはこっちで扱いやすかったり難かったりと、育てるのが大変だぜ。
「傭兵のヤツらと親睦会を兼ねてバーベキューでもするか」
プリッつあんもかかわっているのか、食料品を小さくして入ってあった。どのくらいかはわからんが、ミタさんなら数年分は入れてるはずだ。
外にいる見張りに広場を使えないかと声をかけ、モーダルに伝えてもらった。
しばらくしてモーダル自らやって来た。
「御大自らとは畏れ入る。それとも監視でもおるのかな?」
なんて冗談を言ったらなんか冗談じゃなかった。
「ふふ。誰かわかっているならなんとかしてもよいぞ?」
金目蜘蛛を倒すまでは静かにしててもらいたい。邪魔なら手を貸すぜ。
「……誰かはわかってはいないが、ジバールと呼ばれる影の一族が忍び込んでいる……」
「何人かもわかってないのかのぉ?」
「ここは田舎だからな、そう数は多くはないはずだ」
要塞規模からして二人以上五人以下、って感じかな?
「排除してもよいのか? 恨まれたりはせんかの?」
「それは今さらだ。我が一族は危険視されているからな」
どうやらラーシュの害になりそうな一族っぽいな。
「その影の一族、わしが使ってもよいか?」
「……使う、とは?」
「影の一族がどんなものか調べようと思ってな」
ニヤリと笑ってみせた。
「なに、心配めさるな。こう言うことには慣れておる。影の炙り出しはお手の物よ」
力を隠さずやっていれば権力者から睨まれるし、警戒もされる。オレを調べようとスパイとかやってくる。
そんなのを相手にしてたらなんとなくわかるようになってくるものだ。
「いや、なりませんから!」
オレはなったんだからしょうがねーだろう。
「よろしいかのぉ?」
「……あ、ああ。好きにやってくれ……」
ハーイ! 許可をいただきましたー!
では、親睦会が終わったら影の一族とやらを炙り出しましょうかね。ククッ。
モーダルのあとに続き、皆で広場へと向かった。
◆◆◆◆
シュタタタター。
夜中の要塞内を駆ける影三つ。村人、猫、魔女と言う異色の集団。その名は村人団である。
「……村人団って、まだ青年団のほうが救いはあると思いますよ……」
では、村人団改めて青年団と改名させていただきます。
「……なんでおれらまで……」
「……もう諦めなよ……」
そこ! 作戦中はおしゃべり厳禁ですよ!
我ら青年団駆けた先は要塞の監視搭(櫓に毛が生えたようなもんだけどね)。見張りの方に首トンでしばらく眠ってていただこう。
「手慣れすぎだろう、お前」
「なんでそれで気絶するんだ?」
オレの結界なら可能なんだよ。
まあ、オレが本当に首トンやったら斬首になっちゃうけどな!
「……つまり、やったことあるんですね……」
犠牲になっていったゴブリンに哀悼の意を表します。君たちの死は無駄じゃなかったよ……。
「それで、スパイを捕まえるってどうするんだ?」
「そもそも、そのスパイ? がいるのか?」
「昼間の親睦会で大まかなヤツは印をつけておいたよ」
それらしいのは六人。人数が多いのは派閥なり出所が違うのだろう。とんだ監視社会だぜ。
「印って、なんでわかるんだよ?」
「お前も何人か怪訝な目を向けてただろうが」
スラム育ちなせいか、不審者を見分けられる目を持っている。そうでなければ情報部なんとかかんとかになれるはずもないわ。
「四人はわかったが、六人もいたか?」
「オレの目では六人いたな。ただ、オレの勘はもっといると言ってるな」
親睦会にいたのは六人だが、外にいた者もいるそうだし、連絡役や協力者がいても不思議ではねー。いや、むしろいると見るべきだろう。
「あのモーダルって男、それほどの人物なのか? 体格は立派なもんだったけど」
うん。ララちゃんにはもっと男を見る目を養わせるべきだな。変な男に騙されそうだ。
「そうですね。今まさに変な男に騙されてますし」
幽霊は黙っててください。男は誠実でナイスなガイです。
「モーダルはできる男だよ。ただ、派閥争いとか人間関係を築くのは苦手そうだがな」
アレは、一人の戦士としては優秀なんだろうが、集団になるとダメになるタイプだ。なのにカリスマ性があるから本人も周りも幸せにならないんだろうよ。
「よくわかるな? お前、メンタリストかなんかなのか?」
「経験からの判断だよ。うちの親父殿がそれだ」
あと、暴虐さんもだな。
まあ、親父殿の場合、コミュニケーション能力があり、気心の知れた仲間がいたからA級冒険者として成功できた。あの手のタイプは宮仕えは不向きだ。無理してやっても挫折する未来しかねーよ。今のモーダルのように、な。
「モーダルも冒険者なら成功したかもな」
下手に身分があり、能力があるせいで上手くいかないとか、哀れでしかねーよ。
「お前は、冒険者にさせるつもりはないんだろう?」
「当たり前だ。ここでトレニード山脈を守ってもらわんとならんからな」
あと数十年、ヤオヨロズ国の属州が形になるまでは手を出されては困る。モーダルにはここでガンバってもらわないとな。クク。
「モーダルによる領地改革。精々、発展してもらわないとな」
それまでオレがプロデュースしてやるよ。
「そのためにもスパイは排除しておかないとな」
親睦会のとき要塞をヘキサゴン結界で覆っておいた。あれから外に出た怪しい人物は二人。伝令用の鳥は二匹。入ったのは数人。四人は動かなかった。
「お、動いた動いた」
四人のうち二人が要塞から出ようとしている。
「ドレミ。周辺にいるカイナーズと連絡は取れるか?」
背中にしがみつく猫型ドレミに尋ねる。
「可能です。もちろん、ゼルフィング家情報部にも可能です」
まったく、段々と出し抜くのが難しくなってるぜ。
「猫。お前は情報部のヤツらと北口から出るヤツを追え。そして、捕獲しろ」
「はいはい。わかったよ」
見張りの搭から飛び降りた。ここ、二〇メートルはあったぞ?
「ララちゃんはオレと南口から出た者を追うぞ」
「わたし、必要か?」
「社会勉強だ」
身になるかはわからんが、経験させておくに越したことはねーだろう。
「勉強なら魔力操作を教えてもらいたいんだがな」
ったく。脳筋魔女め。
「ララちゃんはもっと柔軟性を身につけろ。魔女の世界で生き難くなるぞ」
この脳筋魔女もモーダルと同じだ。個としては超優秀だが、集団なるとお荷物になる。ここで脳筋を去勢しておかなければ将来は孤立確定だわ。
「…………」
「ララちゃんみたいのは多くのことを経験して、今ある価値観を崩すか足していくしかねーぞ」
本当に叡知の魔女さんは、問題児ばかり預けてくれたぜ。
「べー様の性格、見抜かれてますね」
そう。あの叡知の魔女さんは、次世代を背負う魔女をオレに押しつけた。オレの思惑を理解し、問題児や状況を考え、今後の関係を考えて行動している。
……まったく、これだから人外は厄介なんだよな……。
「まあ、あちらも舌打ちしてるでしょうね。異形の魔族ばかりを送り込むんですから。きっと大変なことになってますよ」
だろうな。人間しかいないところに他種族を入れるんだから。混乱しないわけがねー。大図書館総力を上げて事に当たっていることだろうよ。
「おっと。スパイを追わんとな。ララちゃん、いくぞ」
オレも見張り搭から飛び降りてスパイのあとを追った。
◆◆◆◆
要塞から四キロくらい離れたところに町があった。
規模はそれほど大きくはなく、戸数も百はない感じだ。
「ってか、あの要塞はなんのためにあるんだ?」
要塞があるってことは敵対するなにかがいるってこと。だが、ここは皇国内。敵対国はない。もしかして魔物用か?
「まあ、ほんの前まで竜王と戦ってましたから、その名残では?」
そう考えると、竜王の被害は皇国全土にあったってことか。オレが想像するより被害がスゴかったんだな……。
スパイは町へ入り、とある木造の一軒家に入った。隠れ家かな?
とりあえず家を結界で覆い、逃亡されないようにする。
家の中にはスパイの他に男女がいて、子どももいる。家族を形成して地元に馴染むタイプか。昔風に言うなら草ってやつだな。
会話はオレらのことを話している。
「カイナーズ、いるか?」
闇に向かって問うと、黒ずくめの連中が現れた。
「スパイは捕獲。この家の者は丁重に連れ出してバルザイドの町に移住させろ。あとは、ゼルフィング商会の……なんだっけ? 婦人が誘ったヤツ?」
「サイロムさんですよ」
「そうそう、サイロムサイロム。ってことでサイロムに任せろ」
あの男ならイイようにやってくれんだろうよ。
「オレの力で音は漏れないようにしてるが、カイナーズの働きに期待する」
黒ずくめ集団は黙って頷き、ハンドサインで会話して家へと突入。三〇秒もかからずスパイと家の者を捕獲した。
「お見事」
覆面なので表情はわからんが、気配が喜んでいた。褒めて伸びるタイプか!
スパイを受け取り、結界を纏わせて浮かせた。
「また用があれば呼ぶよ」
黒ずくめ集団が敬礼して闇の中へと消えていった。
「……お前、いったいなんなの……?」
「おもしろ可笑しく生きてる最強にして最高の村人だよ」
有象無象の村人とは格が違う。オレは村人の中の村人。トップ・オブ・ザ・村人だ。
「ララリーさん。あまり深く考えないほうがいいですよ。べー様を理解できたら人として終わりですから」
……そのオレは、人として生きてるんですけどね……。
まあ、オレはオレを満足させるために生きている。誰に理解されなくともまったく問題ねーさ。
「猫のところにいくぞ」
あちらは町ではなく、森のほうへと向かった。
猫に纏わせた結界を頼りに向かうと、キャッツアイなレオタードを纏ったゼルフィング家の情報員(?)が狩人のような一団を蓑虫化させていた。
「ご苦労さん。スパイ以外はバルザイドの町へ運んでお話を聞かせてもらえ。白なら戻して黒ならバルザイドの町の外に放り出せ」
その後はそいつ次第。ガンバって生きてくれ、だ。
蓑虫化させられたスパイにも結界を纏わせて浮かばせる。
「また用があれば呼ぶよ」
レオタードな情報員(?)も一礼して闇の中へと消えていった。
「よし。要塞に戻るぞ」
「これで終わりなのか?」
「要塞に出たのはな」
まだ草として町で生きてる者もいるだろうが、敵対者になにも情報が渡らないのも不自然だ。情報は小出しであとがイイ、ってな。
スパイを連れて要塞へと戻ると、モーダルがオレたちが借りた部屋にいた。
「待ってなくともよいのにのぉ」
「わたしの問題を他人に任せてられないのでな」
「誰かに見習って欲しいですね」
他人に任せられないヤツは出世しないんだぜ。
「この二人に見覚えは?」
「あるに決まっている。ミドライル派とドルトル派の者だ」
多少なりとも自分の部下のことは調べていたようだ。
「モーダル殿は、信頼できる仲間か親族はあるか?」
「いたら苦労はしてないさ」
自虐的に笑うモーダル。悲しい英雄だな。
こうなると英雄としてこの地域を支配させるのは厳しいかもしれんな。
「なら、英雄ではなく商人としてのしあがってみる気はあるかのぉ?」
「フフ。商人か。それもおもしろいかもしれんな。金で苦労するのも嫌だしな」
金の苦労を知っているなら見込みはありそうだ。
「信頼できる仲間はおらんでも信頼できる部下ならおるだろう? その者を引き込んで商会を立ち上げなされ。わしの伝で北の大陸の商品を卸してやろう。酒、布、薬、食料、なんでもじゃ。モーダル殿が活躍できるくらい、な」
これ以上、婦人に仕事をさせたらオレが殺される。なら、別の者にやってもらえばイイ。
「潰れそうな商会を取り込めたら話は楽になるんじゃが、心当たりはあるかのぉ?」
「……部下に商人の息子がいた、と思う」
「ここの部下は、近隣の者かの?」
「ああ。幹部連中以外は地元出身者だ」
「ならば、地元出身者を引き込むとしよう」
味方は身近なところから集めて引き込むのが常套手段だ。
無限鞄からエルクセプルが入った箱を取り出す。
「これは、どんな怪我も病気も癒せる奇跡の薬。どんな権力者も手に入れることが難しいものじゃ。この辺境なら病気を持つ者ならいくらでもいよう? これを使って部下を引き込むがよい」
そのくらいの才覚はあるはずだ。もし、ないと言うなら切り捨てるまでだ。
「……おれに手を貸す理由はなんだ?」
「トレニード山脈の向こう側を他種族多民族国家、ヤオヨロズ国がいただいたからさ」
老魔術師の結界を解き、最強の村人の姿を見せた。
「初めまして。オレは、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。気軽にべーと呼んでくれや」
モーダルにニヤリと笑って見せた。
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