第165話 知的好奇心

「殲滅技が一つ、結界トルネードパーンチ!」


 で、終了。


「弱っ!?」


 いやいやいやいや弱すぎんだろう! X5は軽く三〇発打ち込んでもびくともしなかったぞ! 勇者ちゃんも金色夜叉で打ち返してたぞ!


「まあ、元々べー様は飛竜を倒すくらい強いんですから金目蜘蛛なんて敵じゃないですよ」


 う~ん。強いのも考えものだな。相手になるのが怪獣クラスにならないと訓練にもならんねだからよ……。


「勇者ちゃんと訓練したらいいじゃないですか」


「訓練は力加減がわかるヤツとしないと身にならんよ」


 オレは戦いの中で強くなるタイプじゃない。地道に訓練して強くなるタイプなんだよ。


「べー様。金目蜘蛛の子が親を食べてますよ」


「生存戦略は厳しいな」


 生き残るために親や子、交尾相手を食ったりする。しょうがないとは言え、人の立場から見ると切なくなるもんだ。


「どうします?」


「こちらも生存戦略のために潰すさ」


 これが弱肉強食と言うもの。食われたくないのなら食う立場になれ、だ。


 空飛ぶ結界を静かに降下させ、結界使用範囲まで広げる。


「……少し、逃がすな……」


 子が多すぎて結界からはみ出すのが出ている。結界を閉じたら小さいのは確実に逃げるだろう。


 だが、それも生き残った子の運がいいから。生存競争に勝ったと言うこと。なら、こちらは諦めるしかねー。


 ……競争を勝ち抜いて育ったらまた狩ってやるまでだ……。


 広げた結界を圧縮。金目蜘蛛を圧殺してやった。


「ナンマンダブナンマンダブ。アーメンソーメンミソラーメンっと」


 無神論者なので祈りがテキトーなのはご容赦を。


 結界でなにもなくなってしまった大地に降りる。


「やはり、逃げたか」


 周囲を探るが金目蜘蛛の子は見て取れない。まさに蜘蛛の子を散らす、だな。


 一応、土魔法でへっこんだところを回復し、オーガの取りこぼしがないかを確認するために山へと入った。


 テキトーにさ迷うと、茶猫が殺しただろうオーガの子が斬り裂かれていた。


「容赦はしなかったようだな」


 斬り裂きに迷いは見て取れず、一瞬で絶命させたのがよくわかった。


「四体か。意外と子だくさんだな」


 まあ、全部が兄弟かはわからんが、年代は別な感じだ。一年に一頭産んでるのかもな。


「検体として保存しておくか」


「ご主人様みたいですね」


「探究者はそんなもんだよ」


 オレはそこまで探究心はないが、知的好奇心はある。まあ、魔女さんに放り投げて結果だけ見せてもらうんだけどな!


 オーガの死体を結界に封じ込め、無限鞄へと放り込んだ。


「こうなるとメスも欲しくなるな」


 検体は多いほうがイイし、大人と子の違いがあったほうがイイだろう。って、オスを焼いたのは失敗だったな。


「茶猫はあっちにいたか」


 地面を探り、茶猫が駆けていったほうへと向かった。


「巣と巣の間がかなり離れてるな? 家族を大事にしながら危機には団結する。種としての知恵か、種としての本能か、生き物は謎が多いな」


「オーガなんて興味もありませんでしたが、知っていくとおもしろいですね」


 これまで興味も示さなかったのに、オーガを知っていくと鼻息荒くなってきたレイコさん。


 レイコさんも探究者と言うより知的好奇心が強いタイプ。いったん火がつくとのめり込んでしまうのだろう。


 新たな巣に到着すると、ここには子の死体が二つ。あと、なんか年老いた感じのメスもいた。


「当たり前だが、オーガも歳を取るんだな」


「はい。老いたオーガなんて初めて見ました。これは大発見ですよ」


 オレも多くのオーガを見たが、老いたオーガは初めてだ。見たことがなかったから老いるとか考えたこともなかったわ。


「見た感じは七〇は過ぎてる感じだな」


「そうですね。これまでオーガの寿命は三、四〇年とされてましたが、これを見ると、環境さえよければ一〇〇年とか生きそうな感じですね」


 医療技術もない大自然で百年生きる。それはまずあり得ないこと。それがあり得ると言うことは、元々長生きできる種族だったのかもしれないな。


「これで、他にも老いたオーガがいれば長生きできる種族だって可能性が高くなるな」


「そうですね。実におもしろいことです!」


 完全にレイコ教授の知的好奇心に火がついたようだ。


 老いたオーガ──メスを結界に封じ込めて無限鞄に放り込んだ。


「べー様。巣の様子も記録してください。どんな生活をしているか知りたいです」


「巣に生活か。そこまで考えもしなかったわ」


 オーガを知るには生活も知っておく必要がある。カメラ──はないので結界に包んで記録させる。結界超便利~。


「こうなると生きたオーガも欲しくなりますね。生態観察とかしたいです」


 その気持ちはわかる。が、さすがに今からとなると厳しいかもな。もう三時間くらいは過ぎている。


 勇者ちゃんとララちゃんなら倒している頃だろうからな。


「そうですね。どちらも容赦ない方々ですから……」


 容赦がないと言うよりは脳筋だな。二人とも。


 ハァ~。こんなことなら探究心がある魔女サダコを連れて来るんだった。あいつなら生きたまま捕まえることを考えただろうからな。


「まあ、あれもこれもと望んでもしかたがねーさ。あるものを回収するとしよう」


 オーガはゴブリン並みにいる生き物。また捕まえることもできるさ。


   ◆◆◆◆


 ドォーン!


 と、爆発音が轟いた。


「勇者ちゃんですね」


 オーガを退治したら合図しろとは言ったが、なにも極大爆発魔法で知らせなくてもイイんだよ。誰かに見られてたら何事かと思われるだろう。


「ガンバったようだな」


 排除の仕方は指定しなかったが、静かに、一匹ずつ狩れとは指定した。


 オーガもバカじゃないから仲間がいつの間にか消えてたら恐れて逃げるはず。その状況になってガキどもを放置してオーガを追うか、やむなしと思って広範囲攻撃で仕留めるか、勇者ちゃんの状況判断を養う訓練も含めてあった。


 昼過ぎまでかかったところをみると、ガキどもを守りながらオーガを一匹ずつ狩ったようだな。


「次の巣で待つことにするか」


 五分ほど進むとオーガの巣があり、火を焚いて煙がよくでる金属のカスを放り込む。


 結界煙突を創り、まっすぐ上空に上がるようにする。


 しばらくしてまたドォーン! って爆発音が轟いた。


「別に真似ることもねーだろうに」


 ララちゃんも勇者ちゃん並みに魔法を使える。数年で殲滅の魔女になりそうだな。


「暴虐さんに紹介してみるのもおもしろいかもな」


 ララちゃんの性格からして暴虐さんと気が合いそうだ。


「引き抜くつもりですか?」


 オレの真意を見抜くレイコさん。察しがイイこと。


「そうできたらイイな」


 叡知の魔女さんは許さないだろうが、それなりの代償を払えばチャンスはあるかもな。まあ、なんの代償がイイかは思いつかんけど。


「ここのオーガの子は産まれたばかりか」


「見た感じ、一年も経ってないですね?」


「だな。赤ん坊のオーガなんて初めて見たよ」


 小さい個体は見たことあるが、赤ん坊は初めてだ。これはかなり貴重なサンプルだぜ。


「苦しまず殺したか。あいつらしいな」


 見過ごさなかったのは褒めるところだが、苦しまず一瞬で心臓を突き刺しているところが甘さを感じるよな。


「器用なことする猫さんですね」


「そうだな。突刺つっさなんてどうやったんだ?」


 指一本分の穴だ。尻尾で突き刺したのか? あ、いや、今は中型犬くらいになってるから尻尾じゃないか。う~ん。想像もできんな。


 まあ、ファンタジーな世界に生きる猫に前世の記憶を宿して産まれた。きっとオレには理解できない身体機能だったり能力があるんだろうよ。


 心臓がないのはちょっと痛いが、赤ん坊は貴重だ。これでよしとしよう。


 結界に封じ込め、無限鞄へと放り込んだ。


「今日はここで野宿するか」


 ここは一家族、若いのが三人で暮らしていたようで、穴を掘っただけのところ。結界に残しておく価値もねーだろう。


 土魔法で穴を拡大させ、八畳くらいのリビング風にする。


「ここに住もうとしてるんですか?」


 レイコさんの呆れにハッと我を取り戻した。野宿するのに本格的な家を造ってたよ!


「イカンイカン。熱中しすぎた」


 凝り性もすぎたら病気だな。


 暖炉を創っていたのを止め──るのはもったいないので、完成させて創るのを止めた。


「秘密基地にでもするか」


 まあ、いつ使うかは神のみぞ知る、だがよ。


「なにこれ!?」


 と、勇者ちゃんが入って来た。


「ご苦労さん。オーガは倒せたか?」


「うん。バッチグーだよ!」


 バッチグーって、どこで覚えてきたんだよ。いや、オレが広めたのを村で耳にしたか? 


「ベー様、気をつけてるようで結構前世の言葉、広めてますよ」


 そうなの!? まったく気がつかんかったわ!


「そうか。なら、女騎士さんを連れて来てくれや。心配してるだろうからよ」


 きっとたい焼きを食いながら心配してるはず。たぶん。


「わかった!」


 バビュンと飛び出していった。


「だ、大丈夫なんですか? ここまで空を飛んで来たんです」


「大丈夫だよ。勇者ちゃんは野生児だから」


 お姫さまに生まれたのがよかったのか悪かったのか、難しいよな~。


「わたしは、よかったと思いますよ。あの能力では」


 そう、だな。あの能力は迫害の対象になる。オレのように前世の記憶があり、それなりの人生経験を積んで、世渡りができるくらいコミュニケーション能力がないと健やかには生きていけんだろうよ。


「今は、ベー様がいますからね」


「オレは苦労させられてるがな」


 神(?)はどんだけオレに厄介なのを押しつけんだよ。ほんと、これ以上は止めてくれ、だよ。


「わたしが神でもベー様に預けますよ。転生者は世界を壊しかねない能力を持ってるんですからね」


 責任を取らせたいなら前の世界の神(?)に責任を取らせろよ。こっちは迷惑でしかねーわ。


「まあ、その能力を利用させてもらってるんだから痛し痒しだよ」


 同じ能力を願わなかったお陰でやることに汎用性を得られた。ヤオヨロズ国を建国ができるのも転生者が集まってくれたからだ。


「なにより、丸投げできるのが最高だな!」


 きっかけを与えて面倒なことはやってもらえる。もうサイコーかよ! である。


「……そう言うところがなければもっと信頼されるのに……」


 信用ならまだしも信頼なんてそこそこでイイんだよ。信頼は重い。それは簡単に人を潰せるくらいにな。そんなもん、オレには不要だ。利用し利用される関係が楽でイイ。オレがオレであるためには、な。


「なんだ、これ!?」


「なんのホビットだよ!?」


 ララちゃんと茶猫がやって来た。


 まあ、気の合う友達関係になれるのが一番なんだけどな……。


   ◆◆◆◆


「まずは風呂に入れ」


 ララちゃんはともかくガキどもは山を駆け回って汚れている。うちは汚れたまま入ることは許されないのだ。


 風呂は外から入れるようにした。ふふ。オレに不備はねーのさ。


「面倒なことは他人に任せておいて偉そうに」


 心の中のセリフに突っ込まないで! 口にしない良心はあるんだから!


 外に出て風呂へと案内し、ララちゃんに任せた。


「わ、わたしが入れるの!?」


「ガキの世話くらいできるようになれ。勇者ちゃんですらできることだぞ」


 ちょっと失礼な言い方だが、お姫様なクセに年下の面倒見はよかったりする。そう言うところは勇者としての素質があるんだよな。


「……ど、どう入れていいかわかんないよ……」


「ったく。情けねーな。じゃあ、オレが入れるよ。ララちゃんは暖炉に火を炊いておけ」


 家を燃やしたってオチにしたら地獄見せるからな。


 まったく、魔女は生活力ねーよな。館に戻ったら家事全般教えなきゃな。まあ、教えるのはメイドさんたちだけど! おっと。突っ込みはノーサンキューだぜ、幽霊さんよ。


「……幸せな方ですよ……」


 それは認めよう。今のオレはハッピーでワンダフルなスローなライフを送ってるんだからな。


 無限鞄から沸いた状態のポットを出し、伸縮能力でデカくして湯船に入れた。


「さすがに熱湯じゃ入れんな」


 水を入れて温度を調整する。やはり水道を作るべきだったな。


 なんて反省点を考えながらガキどもを洗ってやり、湯船に入れた。


「一〇〇数えるまで入ってろよ」


 ガキどもの頭は結構イイようで、百まで数えられるのだ。


 なんでや? と尋ねたら傭兵は敵の数を把握できなければいけないとのことだった。意外と言っては失礼だが、頭を使う傭兵のようだ。


 一〇〇まで数えて風呂から上がったらガキどもを拭いてやり、新しい服を着せてやる。


「お前たち、よくやったな。立派だったぞ」


 まあ、見てないんだけど、囮として働き、こうして生き抜いた。立派と言っても過言ではねーさ。


 無限鞄から昔に作ったナイフ(鞘つき)をガキどもに渡した。


「あ、あの、これは……」


「働いた分の報酬だ。傭兵はタダ働きしないだろう?」


 こいつらが傭兵と言うことはないが、命を懸けた仕事には報いるタイプ。タダ働きはさせないのだ。


「まあ、そんな名刀ってわけじゃない。もらっとけ」


 牛乳を出してやり、皆で飲んでから風呂場から出た。


 家が燃えたオチにはなっておらず、ちゃんと暖炉で薪が燃えており、柵にヤカンがかけてあった。


「──たっだいまぁ~!」


 と、勇者ちゃんが帰って来た。早いこと。


「ご苦労さん。風呂入ってきな」


 風呂の場所を教えてやり、新しいお湯に代えて、女騎士さんに任せて風呂場を出た。


「ララちゃんも入ってこい」


 大人四人入ってもゆったりなサイズにしてある。そう狭くはならんだろうよ。


「そうする」


 もう風呂に入ることが当たり前になっているようで、完全に入ることに抵抗がなくなっているようだ。


「猫も入ってきたらどうだ?」


 ララちゃんに洗ってもらえや。


「お前、おれが元男なの理解してるか?」


「してるけど?」


 その口調で女だったら今世紀最大のびっくりだよ。


「なら、女と一緒に入れるかよ!」


「なんだお前、前世は魔法使いになった口か?」


 どうも茶猫は三〇前後で死んだ感じがするし、女を知っている感じもしない。ララちゃんに抱かれるのもぎこちなかったしな。


「に、二五で死んだし! 高校の頃は彼女いたし!」


 それはもう知らんって言ってるようなもんだよ。


「今生はハーレムでも築くとイイさ」


「猫に囲まれても嬉しくねーよ!」


 そうか? オレは猫派じゃないが、珍獣どもに囲まれるより最高なはずだ。って、珍獣ども、どこに置いてきたっけ? 


 まあ、きっと珍獣パラダイスで楽しくやってんだろう。あいつらがいなくてもハッピーでワンダフルなスローなライフは送れるんだからな。


「お前、人に化けられんの?」


「あいつらと一緒にすんなや! おれは普通の猫なんだよ!」


 いや、普通ではないだろう。しゃべるだけで異常だよ。


「人になりたいときは言え。できるヤツに話を通してやるからよ」


 エリナなら人にするのも難しくなかろう。まあ、変なオプションつけられるかも、だがな。


 そのときは、長靴を履いたバージョンもつけてもらおう。


「……お前、碌でもないこと考えてるだろう……?」


「ソンナコトナイヨー」


 純粋な願いを妄想しているだけです。


「と言うか、そろそろ体を元に戻せよ。魔物と間違われて狩られる未来しか見えねーよ」


「そのサイズは嫌か?」


「嫌じゃないが、元のサイズになれてるからな。いろんなところ入っていけるし」


 身も心も猫になってんな。


 そう言うことならと元のサイズに戻してやった。たぶん、そんくらいだったよな?


「──村人さん上がったよー! 飲み物ちょうだい!」


「はいはい」


 ホカホカになった勇者ちゃんたちに牛乳を出してやった。


「村人さん、お腹空いた! お肉食べたい!」


「はいはい」


 いっぱいガンバったのだから、カイナーズホームで買ったA5ランクな牛肉を出してやろう。

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