第123話 男子なら、誰もが一度は頼まれてみたいこと
アヴァロンでの激戦から一週間が過ぎた。
無事に帰還した俺とはいうと、久々の我が家にて平和という名の日常を堪能し、リビングのソファでくつろいでいた。
「……あぁ〜、平和って素晴らしいなぁ〜」
「そうだね〜」
リビングの中心に置かれたコの字型のソファに背中を預け、久しぶりに日本のTV番組を視聴する。
そして俺のすぐ隣では、思わず抱きしめたくなるような可愛さを持つ美しく長い金髪の白人美少女が腰掛けていた。
「やっぱり、日本はいいよね〜」
母国よりも遠い異国の地である日本に安堵するとか、外国人としては珍しいと思われるだろうが、現在はこの日本こそが彼女の第二の故郷である。
そんなまったりとした俺のパートナーこと『エクス・ブレイド』は、膝上にタヌキ姿の琥珀ちゃんを乗せてそのモフモフとした頭や背中を撫でていた。
エクスに優しく撫でられて気持ち良さそうにスヤスヤと寝息を立てている琥珀ちゃんを見ているとなんだか和む。
これが平和であると思える瞬間だろう。
そんな光景に満足して口角を上げていると、不意にエクスが俺の肩に寄り添い、しなだれかかってきた。
「なんかこういう時間って、すごく癒やされるよね……」
エクスはぽそりと呟くと、細い指先で俺の胸板に円を描き微笑んでくる。
現在のエクスは、ベビーピンクのTシャツにデニムのショートパンツ姿であり、大きく突き出た胸元とショートパンツから伸びた細くしなやかな美脚が俺の心を揺さぶっていた。
「ツルギくんもそう思うよね?」
「お、おう」
上目遣いでそんな事を囁いてくるエクスに、俺は思わず生唾を飲んだ。
なんだろう……今のエクスからは、どこか蠱惑的というか、妙な艶めかしさを感じる。
しかも、なんかちょっと甘えているような声をしているからこれまた可愛い。
もしかして、これはアレか? 久しぶりの平和な空気にあてられて、なんか悶々としてきちゃったとかそういう類の……いやいや、流石にそれはないか。
などとひとりで勝手に頭の中で完結し、俺がかぶりを振っていると、エクスの指先が俺の胸板から片手に下がり恋人繋ぎをしてきた。
「ねぇ、ツルギくん……今日は触らないの?」
「なん……だと!?」
甘えるような声で物欲しそうに俺の顔を覗きこんできたエクスに、心拍数が一気に上昇する。
あらやだどうしちゃったのエクスたん!? そんな欲求不満そうな顔をして、『今日は触らないの?』なんて言われたら、そりゃあもちろん触るに決まってんでしょうがっ!
「ははっ。なんだよエクス? 俺にエッチな事をして欲しいのか?」
俺がそう訊くと、エクスが白い頬を赤く染めて「……うん」と頷いた。
はい、来ましたよコレ。お触りオーケーをいただきましたっ!
俺は照れくさそうに俯いたエクスに微笑みかけると、彼女の頬に右手を添えた。
「エクス。じゃあ、しようか?」
「うん、シテ……」
あえてそれ以上の事を口にしなくても、俺がこれからしようとしている行為を理解しいるのか、エクスは瞳を閉じて形の良い桜色の唇を俺の前に突き出してくる。
流石は俺のパートナーだ。
俺は今、猛烈にエクスとキスがしたい気分だった。
それを先読みしてくれるなんて、彼女はきっと良いお嫁さんになることだろう。
「ツルギくん、早くぅ……」
ねだるような声を漏らすエクスに俺は悶々としながら姿勢を正すと、その肩を抱き寄せ唇を近づける。
琥珀ちゃんがエクスの膝上で寝ているから、キス以上のことをするのはかなりの高難度だが、この俺にかかれば造作もないことだ。
「……ンッ」
エクスの唇に俺は優しくキスをすると、その柔らかくて温かい感触に夢中になった。
そして、僅かに開いた彼女の口内へ舌先を押し込むと、その奥で待機していた熱いエクスの舌と絡み合う。
互いの唇の隙間から漏れる水っぽい音が、TV番組から聴こえてくる喧騒と相まっているけれど、琥珀ちゃんは今も静かに寝息を立てている。
これなら、次の段階へ移行しても大丈夫だろう。
エクスの肩を抱き寄せながら、俺は元に戻った(スレイブが擬態している)左手を伸ばすと彼女の豊かな膨らみのひとつをTシャツ越しからそっと掌で包み込み、優しく撫で回した。
その瞬間、艶めくエクスの唇から淡い吐息が漏れる。
「……あ」
Tシャツ越しからでもわかるエクスの豊満で胸の柔らかな感触がとても心地良い。
これを一度でも知ってしまえば、一生忘れられなくなるだろう。
それ程までにエクスの豊かなおっぱいは、至高の逸品そのものなのだ。
「つ、ツルギくん……」
「なんだエクス?」
「今日はその……私の部屋に来ない?」
「なん……だとぅっ!?」
興奮で身体を火照らせたエクスからのお誘いに俺の聖剣が一気にバキる。
……これを断るなど、男としてあってはならぬことだ。
それ故に、俺こと草薙ツルギは今日こそ漢になって参ります!
「わかった。それじゃあ、琥珀ちゃんをベッドに寝かせてから行こうか?」
「うん。じゃあその前に、もう一回……ん〜」
膝上に乗せた琥珀ちゃんをひと撫ですると、エクスがキスを求めて顔を近づけてくる。
それに応えるため俺もエクスに顔を近づけ、唇の距離が残り数センチに至ったその時、俺の左腕になったスレイブから低い声音が聴こえてくる。
「おい、ネギ坊。誰か来やがったぞ?」
『え?』
スレイブがそう告げてきてから程なくして、我が家のインターフォンの呼び鈴がリビング内に響いた。
その音にエクスの膝上で丸くなり眠っていた琥珀ちゃんが片耳をピクリと動かし、顔を上げて鼻をスンスン鳴らすと、俺の顔を見上げて話しかけてくる。
「ツルギお兄ちゃん。あのお姉ちゃんが来たよ?」
「琥珀ちゃんには誰が来たのかわかるのか?」
「うん! 多分、この匂いは……ヒル――」
「――ドですけどなにくわぁっ!?」
と、琥珀ちゃんが言いかけた刹那、庭先の方にあるリビングの掃き出し窓が勢いよく開け放たれた。
そして、その人物はそこから土足でズカズカと上がり込んで俺の前に立つと、挑戦的な目で仁王立ちをしてくる。
「ツルギ先輩! どうして呼び鈴を鳴らしたのに、すぐに出迎えようとしないんですか!?」
「いや、その前に靴を脱げ靴を」
突如として現れたその横柄かつ不遜な態度をしたジャージ姿の小柄な少女は、青い髪のツインテールと薄い胸が特徴的な白人の美少女であり、不満そうな顔付きのまま俺を見下ろしている。
今更ながら、紹介するのもナンセンスなこの日本の常識を知らない不届き者なツインテールの美少女こと『ヒルド』は、なにが不満なのかわからないが、さっきからムスッとした顔でソファに腰掛けている俺を睨みつけていた。
「私が来たのに玄関も開けず、なに朝から二人で乳繰り合ってるんですか? そういう事をされてコッチはめちゃくちゃ腹が立っているんですよ!」
「なんだよヒルド、そんなの俺たちの勝手だろ? つーか、お前どこから見てたんだよ!?」
「それは言えません。でも、お二人がお盛んだという事は理解しました。あーやだやだ。こんな発情期のお猿さんみたいな先輩に私の大切なカナデお姉さまが御執心だなんて認めたくはありませんねっ!」
「ゴメン、ヒルドちゃん。その前に、どうやって私たちの事を覗き見していたのか教えてくれないかなぁ〜? 場合によっては、アヴァロンに報告してカナデさんとのセイバー契約を解除し、本国に強制送還させるけど……」
「どうもスミマセンでしたエクスさん本当はなにも見ていなくてただ単にカマをかけてみたら的中したって感じですのでどうかそれだけはお許しくだすわぁいっ!?」
豊かな胸を抱くように腕を組み、眉根を吊り上げて怒りを露わにするエクスに、ヒルドがフローリングに額をくっつけるほどベタ〜っとした土下座をして謝罪してきた。
やはり、アヴァロンにおけるエクスの権力は強い。
先程まで反抗的だったヒルドもご覧の有様だ。
「そんで、今日はどうしたんだよ? こんな早朝からお前がここに来るなんてなにか物入りの用事なんだろ?」
肩を竦めて俺がそう言うと、土下座をしていたヒルドが勢いよく顔を上げた。
「そうなんです! 実を言うと、私はカナデお姉さまからのお願いを受けてここに参上しました!」
「カナデからのお願いだと?」
その言葉に俺が眉を顰めると、ヒルドが続ける。
「そうです! カナデお姉さまいわく、『つーくんは、アタシがメールを送っても既読スルーをするだろうから、直接伝えてきてヒルドちゃん! このお願いを聞いてくれたら、アタシもヒルドちゃんのお願いをひとつだけ聞いたげる!』と、申されたので朝シャンもせずに私はカナデお姉さまのためだけにここへ参上したんです!」
くわっと、目を見開いて力説するヒルドに俺とエクスは互いに顔を見合わせると落胆してため息を吐いた。
まぁ確かに、カナデからのメールを俺が既読スルーしてしまうことはよくあるが、それはアイツが深夜に送ってくる事が多いからだ。
俺にとって、エクスと琥珀ちゃんが寝静まった深夜はVRのエロゲーに没頭する時間帯……その貴重な時間帯にメールを送ってくるなど、既読スルーをされても仕方のないことなのだ。
「……私としましては、ツルギ先輩のような下腹部でしか物事を考えないエロ猿のような男子と、高貴なカナデお姉さまをデートさせるなど断腸の思いでしかないのですが、これもお姉さまの願いとあればそれを受け入れるのが私の務め……くっ、殺せ! という感じですよマジで!?」
「よくわかんねえけど、要するにカナデは俺とデートをしたいってことなのか?」
「そうですよ、さっきからそう言ってるじゃありませんか耳の中にゴミでも詰まってるんですかツルギ先輩は! だからさっさとカナデお姉さまにメールを送れっつってんですよこのクズ野郎!?」
「後半は完全に俺への暴言じゃねえか!?」
憎々しげに俺を睨みつけながらギリギリと歯噛みをするヒルドに俺がツッコミを入れると、エクスがツンツンとシャツの裾を引いてくる。
「ねぇ、ツルギくん。それって、あの時の約束なんじゃないの?」
「はぁっ? あの時の約束ってなんだよ?」
「ほら、アヴァロンでクラウちゃんを……」
と、説明してきたエクスに俺の記憶が鮮明に呼び起こされた。
そう言えば、カナデからヒルドを説得する見返りに二人きりでデートをして欲しいと、頼まれていた。
「……あぁ、確かにそんな約束をしたな」
「そんな大事な事をなに忘れてるんですかツルギ先輩!? 私だったら、カナデお姉さまとデートできるなんて事になったらそれはもう一週間前から綿密なデートプランを立てて、それで最後は二人で……えへ、えへへ〜」
「ヒルドちゃん。あまり言いたくはないけれど、女の子がするような顔じゃないと思うよそれ……」
どこぞの嵐を呼ぶ園児のようなニヤケ顔を浮かべるヒルドに頭痛を感じたのか、エクスがこめかみに手を添えて頬を引き攣らせる。
ともかく、カナデとの約束を破るわけにはいかない。
しかも、わざわざヒルドを出向かせてまでそうしてきたのだから、ここは俺もその約束に応えるべきだろう。
「わかった。カナデにはメールを送っておく。そんで、その約束を果たす日時については追って連絡を――」
と、俺が答えようとしたその時、再び我が家のインターフォンが鳴り響いた。
すると、玄関が開けられる音と共に我が家の廊下を歩んでくる誰かの足音が聴こえてくる。
その気配に俺たちが訝しんでいると、今度は廊下側のリビングのドアが勢いよく開け放たれ、そこから見知った美少女が現れた。
「つーくん、今からデートに行くから早く着替えろってーの!」
凄まじい勢いでリビングのドアを開け放った人物は、亜麻色の髪に緩いウェーブパーマをかけたエクスに負けないくらいのプロポーションを持つ俺の親友こと同級生の『十束カナデ』だった。
そして今のカナデは、いつもとは違ってどことなく大人っぽいお洒落な洋服に身を包んでいた……って――。
「お前も土足かよっ!?」
「はぇ? あ、ゴメン。つい、いつもの癖で土足で上がっちゃった」
カナデは自分の頭に軽くゲンコツを落とすと、『てへ?』っと舌を出して俺にウィンクをしてきた。
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