第117話 魔剣化封じ
聖剣をランスモードに切り替え、ドリル状の先端を高速回転させると、グラム戦の時と同じように大槍が稲光を纏った。
俺が大槍を構えると、ティルヴィングが地面の上で失神していたエペタムの上半身を引き起こして両頬を引っ叩いている。
「ちょっと、エペ公! いつまで伸びてんのよん! なんか坊やがヤバそうなモノを出してきたのよん? 早く起きなさいよん!?」
必死な往復ビンタにようやく目が覚めたのか、エペタムは気怠そうに周囲を見渡すと、最終的にティルヴィングの顔を見た。
「あぁ……ティル姉じゃん? つーか、俺っちはなんでこんなとこで倒れてたんだっけ?」
「アンタは坊やと一緒にクラウの尻尾で殴り飛ばされたのよん。覚えてないのん?」
「あぁ……そうだっけ? まぁいいや。んで、あのガキは?」
「俺はこっちだエペタム!」
高速回転をして稲光を纏う大槍を握り俺が声を上げると、エペタムがゆっくりと立ち上がって、両腕のチェーンソーを唸らせた。
「あぁ……なんか知らねえけど、その変な槍とか持ったくらいで粋がるなよ?」
エペタムは両腕のチェーンソーの刃を打ち付け合い火花を散らすと、ギョロリとした双眸を細めた。
「今度こそ、バラバラしてやんよ〜!」
「ちょ、待ちなさいよエペ公!? んもぅ、仕方ないわねん!」
単独で突っ走り出したエペタムに肩を竦めると、ティルヴィングもその後に続いて駆け出してくる。
俺はその二人を直線上に捉えると、大槍の柄部分にある引き金に人差し指をかけた。
「久しぶりに使うから上手く扱えるか不安だけど、一丁ブチかましてやるか!」
「ツルギくん、気を付けてね。なんていうか……ランスモードはかなりアレだったよね?」
不安そうな面持ちで俺の背後に立つエクスがそう言うと、左腕のスレイブが怪訝そうな声で訊いてきた。
「おいおい、ネギ坊。その大槍はなんか面倒な代物なのか?」
「面倒なんて言葉で片付けられるようなモノじゃねえのは確かだな……」
「なんだそりゃ? まあ、俺様的にはなんでもいいけどよ。ケケケッ!」
ランスモードの恐ろしさを知らないスレイブが、ケタケタと愉快そうに笑う。
多分だけど、コイツもその洗礼を受ければ、この大槍がいかにとんでもない武器か理解するだろう。
「キシャシャシャ! クソガキ、俺っちのチェーンソーでくたばれぇぇぇぇぇぇっ!」
「悪りぃけど、くたばるのは――」
と、俺は大槍の引き金にかけていた人差し指を一気に引いた。
「――お前の方だよ!」
引き金を引いた刹那、凄まじい爆発を修練場内に轟かせ、俺の身体が大槍ごと吹っ飛んだ。
久々に体感するこの衝撃に、やはり慣れることはなかった。
「ぎょえええええええええええっ!?」
仰天したスレイブの叫び声が修練場内に轟く。
まるでミサイルのように飛んでゆく俺たちを見て、誰もが目を丸くしている事だろう。
それは勿論、俺の目線の先にいるエペタムとティルヴィングも同様だった。
時速二百キロ近い速度で真っ直ぐ飛んで行く俺に対し、奴ら二人はその場で急停止すると、慌てた様子で顔を見合わせた。
「あぁ……!? な、なんだよアレ!」
「ちょ、エペ公! とりあえず避けるわよん!?」
ティルヴィングとエペタムの二人が同時に左右へ飛び退くと、俺はその中心を通過して、修練場の壁に向かっていた。
「しまった! いきなり外しちまった!?」
「おい、ネギ坊! このままだと、壁に激突しちまうぞぉぉぉぉぉぉっ!?」
迫り来る壁にスレイブが絶叫する中、俺は両脚を地面に着けて踏ん張りを利かせると、壁への衝突をなんとか回避できないか試してみた。
「ふんがああああああああ! 曲がれよおおおおおおっ!」
全身に力を込め、その軌道を修正するように大槍を傾けてみると、大槍の進行方向が変わり始めた。
「やったぞ! これなら、一発分の無駄を省ける……行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
この鎧のおかげなのか、俺は大槍を操作するように片脚を軸にして軌道を変えると、修練場の壁のギリギリの部分を飛行する。
そして、なんとか中央へ向かう事に成功すると、魔剣を構えたエペタムとティルヴィングに襲いかかる。
「あぁ……!? また来んのかよ! こんにゃろうめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「ちょ、エペ公!?」
大槍を構えた俺にエペタムが片腕のチェーンソーを振り抜こうとしてくる。
俺はそのまま大槍の柄をしっかり握ると、片腕を振り抜いてきたエペタムと接触した。
「ダラァァァァァァァァァァッ!」
俺の握る大槍がチェーンソーとなっているエペタムの片腕に触れた直後、チェーンソーの刃部分が爆散し、その鉄片が地面に散らばり、エペタムの身体が後方に吹っ飛んだ。
「ぎぎゃっ!? 俺っちのチェーンソーがぶっ壊されただと!」
「ははっ! どんなもんよ!」
「おい、ネギ坊!?」
切迫したスレイブの声に視線を戻すと、俺は対面していた壁に大槍ごと突き刺さり、そのまま壁に大穴を開けて外へ飛び出した。
「あっれぇぇぇぇぇぇぇ!? 止まらないんですけどぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「ネギ坊! 前を見ろ、前を!?」
修練場の外へと飛び出した俺の正面には、精霊とセイバーを輸送するための大型トレーラーが何台も停車していた。
そのトレーラーの行列に俺は大槍ごと突っ込むと、何台もの車両を大破させてようやく止まる事ができた。
「あいててて……参ったなこりゃ……」
「ケケケッ、とんでもねえ代物だなソイツは! ネギ坊の仲間になって正解だったぜ?」
ケタケタと笑うスレイブに俺は肩を竦めると、周囲を見渡し立ち上がる。
どうやら、俺がぶち抜いた壁の外は、アヴァロンの移動車両を停めておく駐車場になっていたようだ。
それにしても……。
「……これ、弁償しろとか言われっかな?」
「んなもん不慮の事故ってことにしとけば問題ねえよ。それより、ティルヴィングとエペタムを始末しようぜ!」
スレイブに促されて再び修練場の中へ戻ると、ティルヴィングが地団駄を踏んでいきなり俺に文句を吐いてきた。
「んもぅ、なんなのよそのヤバイ武器は!? いくらなんでも無茶苦茶じゃないのよん!」
「あぁ……ティル姉、どうする? 俺っちの魔剣は片方だけになっちったけど、まだ戦えるよ?」
「そうねん。あの聖剣の力は是非とも欲しいところよねん……というわけだから――」
と、ティルヴィングは鞭のような形状に変化させた魔剣の刃で地面を打つと、離れた位置にいるエクスを指差す。
「坊やの聖剣と精霊ちゃんをアタシのモノにするわよん!」
「あぁ……了解」
エペタムはティルヴィングに頷くと、残された片腕のチェーンソーを両手持ちしてエクスの方に振り向く。
まさか奴ら……今度はエクスを人質にするつもりなのか!?
「それじゃあエペ公。アンタは坊やの精霊ちゃんを抑えなさいよねん?」
「あぁ……脚とか切断してもいいの?」
「それはダ〜メ。あの子も可愛いくてアタシ好みだし、ベッドの上で抱きたいから傷物にはしないでよねん?」
「あぁ……わかったよ、ダリぃなぁ〜」
ティルヴィングの台詞にエペタムはげんなりとした顔を浮かべると、エクスの方へ足を向けて駆け出した。
それを視界に捉えて俺も奴の後ろを追いかけようとすると、ティルヴィングが目の前に立ち塞がってくる。
「ンフフッ……坊やの相手はア・タ・シ・よん?」
「テメェ……今度はエクスを人質にするつもりかよ? そんな事、この俺がさせるわけねぇだろうが!」
「あはは! 勝つためには手段を選ばないのが戦いの基本なのよん。それに、坊やのそのランス……なかなか強力みたいだしぃ〜、あっちの可愛い精霊ちゃんと一緒にいただきよん!」
いうなり、ティルヴィングは片手に持つ魔剣を頭の上で振り回すと、鞭のように長くなった刀身を撓らせて俺に向けて振り抜いてくる。
風を切る音を立てて襲い来るその刃を俺は前転して躱すと、大槍の中腹にあるスライダーを引いてリボルバーを素早く回転させ、四つある薬莢のひとつ吐き出させた。
「クソッ! このままじゃエクスが危ねってのに……こうなりゃ、もう一発ブチかまして――」
「ツルギ先輩!」
「!?」
壁際で身構えていたエクスにエペタムが襲いかかろうとしていたその時、風のような早さで駆けてきたヒルドが、突剣を構えて奴に飛びかかり連続突きを放った。
それに遅れてカナデも到着すると、エクスの肩を抱いてその場から離れようとする。
「あぁ……またお前かよぉ……」
「それはコチラの台詞です。いざ、勝負ですエペタム!」
軽やかな身のこなしでヒルドは聖剣を翻すと、エペタムを相手に凄まじい突き技を繰り出した。
その猛攻を片手のチェーンソーで受け流すと、エペタムが表情を険しくする。
「あぁ……あのさぁ、まな板。俺っちは、ティル姉からその金髪の姉ちゃんを拘束しろって言われてるから邪魔しないでくんね?」
「だ、誰がまな板ですくわぁっ!? わ、私だって……あと数年も経てばカナデお姉さまやエクスさんのように、バインバインになる(予定)なんですよ! ですから、謝ってください!」
「あぁ……そうなの? それは悪かったな……」
「いいえ。反省していただけたのならそれで結構です」
「ていうか、ヒルドちゃんその人に殺されかけたのになんでそんな普通に話してんの!? おかしいっしょそれ!」
「それにツッコミを入れてるカナデさんも相当だと思うよ……」
エペタムとヒルドのやり取りにツッコミを入れるカナデを見てエクスが苦笑する。
なんというか、間の抜けたアイツらなら放って置いても案外平気な気がしてきた。
「おいネギ坊。そんで、お前が思い付いたティルヴィング封じはいつお目にかかれるんだ?」
大槍を構える俺に、どこかワクワクした様子でスレイブが催促してくる。
俺は大槍の先端をティルヴィングに向けると、鼻を鳴らして答えた。
「ハッ。それならすぐにわかるつーの。よく、見ておけ!」
ドリル状になっている大槍の先が再び高速回転を始めると、その先端を稲光が纏った。
それを確認して俺は大槍を握り直すと、魔剣を鞭のように振り回すティルヴィングに向かい駆け出す。
「行くぞティルヴィング! 覚悟しやがれ!」
「ンフフッ。その威勢だけは認めてあげるわよん。でもね、その聖剣も……アタシがいただきよん!」
大槍を構えて接近する俺にティルヴィングの魔剣が迫る。
そして、撓りながら振り抜かれたその刀身が俺の構える大槍に巻き付こうとしたその時、それは起こった。
「え……ウソでしょん!?」
大槍に巻き付こうとしたティルヴィングの魔剣が、高速回転をするドリル状の先端に触れた瞬間、弾き飛ばされた。
俺の推測だと、ティルヴィングが聖剣を魔剣化する際、魔剣の刀身と聖剣の刀身を数秒間だけ触れ合わせる必要があった。
しかし、この高速回転をする先端に触れようにも弾かれてしまう……要するに、それこそが魔剣化を防ぐ方法なのだ。
そのあとも、ティルヴィングが同じように何度も魔剣を振り抜いてくるけれど、聖剣の刀身となる部分の先端が高速回転をしているため、それに触れるたびに弾き飛ばされ、魔剣化ができないようになっていた。
「はっはー! これぞ草薙流、『魔剣化封じ』だぜ!」
「なんでも草薙流とか付けなくていいんじゃね? そういうのダサいぜ……」
ため息を吐くスレイブを無視して、俺がティルヴィングの魔剣をひたすら弾き飛ばしていると、奴の刀身に亀裂が生じ始めていた。
それに気が付いたのか、ティルヴィングは魔剣を剣の形状に戻すと、悔しそうに地団駄を踏む。
「んもぅ、なんでそんなに面倒なのよん! こうなったら……クラウ!」
ティルヴィングの一声に龍と化したクラウが、ランスくんたちに背を向けてこちらに振り返る。
さっきまで視界を奪われていたから気付けなかったけれど、本体となる人間のクラウがいつの間にか消えていた。
おそらく、また眉間の部分に潜ってしまったのだろう。
「クラウ、例のアレをやってちょうだい! それとエペ公! もういいわ、こっちに戻って来なさいよん!」
「あぁ……いいの?」
「もういいって言ってるでしょん! 早くしなさいよん!」
「あぁ……つーことだから、また今度な?」
「そうですか、それなら仕方ありませんね。バイバイです」
「だからなんで敵と仲良さそうに話してるし!? しかも手を振るとかそれもう友達っしょ!」
「ちょ、落ち着いてよカナデさん!?」
かなり苛ついたティルヴィングの態度に、ヒルドと剣戟を繰り広げていたエペタムがどこか残念そうに肩を落として戻ってくる。
そんなエペタムの背に小さく手を振るヒルドにカナデが眉根を吊り上げ、それをエクスが必死に宥めていた。
「さてと、それじゃあそろそろアタシたちの本気を見させてあげるわねん……」
ティルヴィングは腰に片手を当て、エペタムを横に立たせると魔剣を構えた。
その行動に俺たちが警戒していると、龍と化したクラウの眉間から本体である人間のクラウが再び姿を見せた。
「クラウ、今よん!」
「チッ、また例の閃光かよ! 流石に二度は通じねえっつーの!」
クラウの閃光に備えて俺たちが目を覆った瞬間、閉じた瞼がやや白く見えた。
おそらく、例の眩い光が放たれたのだろう。
数秒経過し、俺が恐る恐る両目を覆っていた片腕を退けると……離れた位置に立っていたはずのティルヴィングとエペタムの姿が忽然と消えていた。
「あれっ……奴らがいねぇ!? 一体、どこに――」
「ツルギくん、アレ!」
エクスの指差す方角に俺が顔を向けてみると、先程の大槍で開けた大穴の向こうでジープに乗ったティルヴィングとエペタムがいた。
「なかなか楽しかったわよ坊や〜! この続きはまた今度にしましょうね〜ん?」
「あぁ……お宝は確かにいただいたぜ〜」
「え? ちょっと待って! お前ら、まさか――」
当惑する俺を他所に、ティルヴィングはこちらに投げキッスをすると、エペタムが運転するジープでそのまま走り去って行った。
「……逃げるのかよっ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます