第112話 ここで、しちゃう?

 

 クラウの尻尾による凄まじい一撃を受ける際に、鎧化した左半身を盾にして受け身を取った俺だったが、その衝撃は想像を超えるほど強烈なものだった。


「がはあっ!?」


「ネギ坊、地面に激突するぞ!」


「くあっ……受け身が取れねぇ!」


 修練場の壁をぶち抜き、俺は地面に叩きつけられると、そのまま床やら壁を何度もバウンドするように跳ね上がりながら奥へと進み、最終的に通路の壁へと激突してようやく停止した。


「つぁ……マジか」


 激しい脳震盪のせいか、俺の視界は酷く歪んでおり、全身を激痛が支配している。


 不意に喉の奥から込み上げてきたモノを口から吐き出すと、鉄サビのような臭いが充満し、血反吐で口の周りが赤く染まった。


「……ハハッ。これは、ヤベェな」


 右手の甲で口元を拭い、俺が乾いた笑いを漏らすと、スレイブが言う。


「普通の人間なら即死だったぜ。俺様と契約して半分だけ鎧化しているとはいえ、生きてるのが不思議なくらいの重傷だ。早く回復でもしねぇと本当に死ぬかもしれねえぞ? ケケケッ!」


「ジョークなら笑えねぇな……」


「あ? そうか? そりゃあ悪かったな。ケケケッ!」


 ロクに身体を動かせない俺にスレイブはからかうようにそう言うと、愉快そうにケタケタと笑う。


 多分だけど、コイツなりにジョークを言ってくれているみたいなのだが、割と真面目な話このまま放置されていたら死ぬような気がしてならない。

 とは言っても、ここにエクスはいない。

 これはマジでヤバイかもしれない……。


「ゲホッ……あー……どうするよ、スレイブ?」


「どうもこうもねぇな。こりゃあ、誰かが助けに来るのを待つしかねえわな」


「それなら望み薄じゃねえか……エクスは負傷者を連れてどこかへ避難しているんだ。流石にここへは……」


「いや、そうでもないみたいだぜ……」


「?」


 スレイブの言葉に俺が訝っていると、通路の向こうから誰かの足音が近づいてくる。

 それを鎌首もたげて確認してみると、艶めく金髪を靡かせ、頭頂部のアホ毛を左右に揺らしながらコチラに駆けてくるエクスがいた。


「ツルギくぅぅぅぅぅぅぅぅん!」


「エクス……どうして?」


「その説明の前に――ンッ」


 エクスは地面の上を滑り込むようにしてスライディングすると、俺の上半身を抱き起こしてそのままキスをしてきた。


 久しぶりにした交わしたエクスとのディープキスはとても心地良く、それでいてなんだか懐かしくて、あっという間に俺の身体と心が癒やされていった。


「クチュ……ンゥ……」


 手足が動かせるようになった俺はエクスの後頭部に右手を回すと更に唇を密着させ、彼女の柔らかな感触を確かめるようにキスをした。

 本当に柔らかくて気持ちが良い……。

 俺はこの温もりと感触が、ずっと恋しかった。


「ンンッ……んふぅっ」


 すぐ近くで聴こえるエクスの淡い吐息。

 俺もそうだけど、本人もかなり興奮してきたのか、エクスが俺の上半身をしっかり抱き寄せながら夢中で舌を絡めてくる。


「あ〜……ネギ坊? それに、金髪の姉ちゃん? もう、いいんじゃねのか?」


 呆れたような口調でスレイブがそう言うと、エクスがハッとした顔をして俺から唇を離した。


「ぷはぁ〜……ツルギくん、大丈夫!?」


「あぁ、お前のおかげで回復したよ。それより、どうしてここに?」


「ツルギくんが飛ばされてきたのは負傷した人たちを避難させていた入口側の通路だったんだよ。怪我した人たちを通路の奥へ避難させていたら、もの凄い音がして見に来てみたんだけど、そしたらツルギくんが倒れているのが見えて急いで駆け来たんだよ!」


 エクスの話によると、俺は負傷者たちを避難させた方の通路へ叩き飛ばされたらしい。

 不幸中の幸いというか、俺の悪運はかなり強いようだ。


「そうだったのか……。ありがとうなエクス。やっぱり、お前は俺にとって最高のパートナーだよ!」


「フフッ。そう言ってもらえると、なんだか照れちゃうな?」


 エクスはペタンと地面に座り込むと、照れくさそうに頬を掻く。

 俺は片膝を立てて壁に背中を預けると、エクスの綺麗な金髪を右手で撫でて優しく微笑んだ。


 やっぱりエクスは可愛い。

 ここ何日か彼女に会えず、触れることすらできなくて、本当に寂しさを感じていた。

 だからこそ、目の前に居るエクスが愛おしくて、ただただ見つめて触れたくなるのだ。


「おい、ネギ坊。こんなところでイチャついてる場合じゃねえだろ? ティルヴィングたちだけならともかく、龍になったクラウも含めて相手にするとなれば、ちぃ〜とばかし力が足りねえ。どうするつもりだ?」


 イチャつく俺とエクスに、スレイブが呆れたような声音で訊いてくる。


 確かにスレイブが言う通り、ティルヴィングとエペタム二人を相手取るだけでもかなりキツイというのに、そこへ龍になったクラウも加わったとなれば俺ひとりの戦力ではキャパオーバーだ。

 とはいえ、ランスくんたちの力を借りるのもありだとは思うが、クラウの力は強大だ。

 やはりここは、絶対的な戦力が必要となるだろう……とはいえ、どうしたものか。


「奴らの攻撃力は桁外れだ。それで生身の体のランスくんたちがマトモに攻撃を受けたらひとたまりもねぇ……マジでどうすっかな?」


「ねぇ、ツルギくん。それならさ……」


 と言って、エクスは頬を赤く染めると、俺の袖口をツンツン引いてから、物欲しそうな顔で上目遣いをしてきた。


「ツルギくんには、でしょ? だから、その……」


「その?」


「……わ、私にエッチな事をして、聖剣を召喚すればいいんじゃないかなぁ〜?」


「なん……だと!?」


 どこか恥じらう素振りを見せながらも、エッチな事をして欲しいとおねだりするエクスに、俺の心拍数が跳ね上がった。


 なにその誘い方〜? めっちゃ興奮するじゃん! つーか、久しぶりにエクスと会って色々とモンモンしてきたよ〜? それじゃあ、お触りしちゃおっかな!?

 

「発情してるところ悪りぃけどよ、どうするんだ? ここで聖剣の召喚をおっ始めるのか?」


「当たり前だ。エクス、周囲に人は?」


「多分、居ないと思うよ」


 エクスにお触りできると期待してワクワクしている俺に、スレイブがやや引き気味に問いかけてくる。

 その言葉に、俺とエクスは周囲に誰もいないことを確認してから共に頷くと、真剣な表情で見つめ合った。


「エクス、一応聞いておくが……カナデたちは?」


「カナデさんやヒルドちゃんたちは、負傷者を手当を手伝っているから向こうの通路で待機しているよ。だから、コッチ側には来ないと思う……多分」


「そ、そうか。それなら……しちゃう、か?」


「う、うん……そだね」


 なんだか、初めてエッチをする初々しいカップルのような雰囲気に、エロの権化である俺もやや逡巡する。

 でも、眼前には豊満で見事な谷間があり、少し前のめりで覗き込めば、エクスの淡い薄ピンク色をした性感帯が二つ覗える。

 それに、今の俺たちには時間がない……。


 こうしている間にも、修練場の中ではランスくんたちがティルヴィングとエペタム。それに龍になったクラウと死闘を繰り広げていることだろう。

 それなら、急ぐ必要がある! というか、早くエクスにエッチな事をしたい!

 と、いうわけで……。


「エクス、始めるぞ!」

 

「うん!」


 俺の台詞にエクスは力強く頷くと、破れたローブの胸元を広げてきた。

 それを見て俺はゴクリと生唾を飲み込むと、彼女の豊かな胸元に右手を伸ばした。

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