第129話 迫りくる危機!?
ドキドキした試着室での出来事から数十分後、俺とカナデはアパレルショップが立ち並ぶフロアから移動して、現在はレストラン街のあるフロアへと移動していた。
そして――。
「はい、つーくん。あ〜ん」
「……」
時計の針が午後三時を少し過ぎたこともあり、俺たち二人はショッピングモール内にあるレストラン街の飲食店にて、スイーツバイキングを堪能することとなった。
おやつタイムともあり、店内は若い女性客たちで埋め尽くされている。
その中に数名ほどの若い男性客もいるが、それは男女のカップルで構成されてあり、窓際の席に座りながら堂々とイチャついていた。
そんなカップルたちを睨む一部の女性客たちの視線には嫉妬が込められており、どこか怖かった。
そして、そんな視線を俺とカナデも背中越しにめっさ浴びていた。
「んもぅ、つーくん! 早く、あ〜んしてよ!」
「いやいや、流石にそれはキツイだろ?」
「はぇっ? なんで?」
「いや、なんでって……」
俺とカナデが座る窓際席はカップル専用らしく、密着しながら座る二人がけのシートだった。
そのカップル席に腰を下ろしている俺たち二人の前には、トレイ一杯に乗せられたケーキが鎮座していて、そのひとつをカナデが俺に食べさせようとしてくる。
しかし、これだけの妬みを孕んだ一部女性客たちからの視線を浴びながらそんなバカップルのようなマネごとをできるほど俺は逞しくはない。
しかし、隣に座るカナデはグイグイと攻めてくる。
「ねぇ、つーくん。早くアタシのケーキ食べてよ〜?」
「ふ、普通に食っちゃいけねえのかよ?」
「そりゃダメっしょ。だって今日はアタシにとって最高のデートを楽しんでるんだからさ? もっとイチャついてくんなきゃ嫌だし〜!」
とまあ、そんな事を言ってカナデが胸を押し付けてくるもんだから、背後の席に座っているお姉さん方から鋭い視線が飛んでくる。
……お願いだからそんな目で見ないでお姉さま方。別に睨まれるような悪いことなんてなにもしていないわよん?
そんな気まずさを抱く俺とは対象的に、隣に腰掛けるカナデは満面の笑顔を浮かべてケーキを刺したフォークを近づけ催促してくる。
「ほらぁ、つーくん! あ〜んしてって!」
「カ、カナデ……。俺のことはいいからお前が食べろよ」
「ダ〜メ。アタシはつーくんにあ〜んてしたいの! だから早く……あ〜ん」
「……っ」
フォークの先端に刺した一口分のケーキをカナデが性懲りもなく俺の眼前に突き出してくる。
多分、俺が食うまでコイツは同じ事を繰り返してくるつもりだろう。
やれやれ、この女性客たちからの嫌な視線をこれ以上は浴びたくはないのだが、ここはさっさと食べてカナデに満足してもらう方が得策かもしれん……。
そう判断した俺は羞恥心に顔を熱くしつつも、カナデが差し出してきたフォークの先端に刺さった一口分のケーキを頬張った。
「……はむっ。これでいいだろ?」
「えへへ〜っ。なんかいいねこういうの? じゃあ次は……はい、あ〜ん」
と、カナデは自分のフォークを俺に手渡してくると、今度は自らの口を開けてあ〜んとしてきた。
マジかコイツ……俺にもそれをしろというのか!?
「お、俺もやるのかよ?」
「そんなの当然っしょ! だから、はい……あ〜ん」
瞳を閉じて口を開けながら待つカナデに、自然と頬が引き攣る。
なんだこの羞恥プレイは? こんな小っ恥ずかしいことエクスともした事がねえよ。
いや、待てよ? 話は変わるけど、エクスと家で二人きりの時にアイツが目を閉じてあ〜んをしてきたら、その可愛いお口に俺の聖剣を……って、バカ! なにそんな素敵な事を妄想しちゃってんの俺? 股間が疼いちゃうじゃん……って、あれ? なんの話はだったっけ?
「あのさ、つーくん。まさかとは思うけど、アタシが隣にいるのに今、エクスちゃんでエッチなことを想像とか……」
「してません〜! 勝手に決めつけないでください〜? というか、ほらよっ!」
ジト目を向けてきたカナデの口に俺が一口分のケーキを刺したフォークを突っ込むと、カナデが「んんっ!?」とか、声を漏らして目を丸くした。
しかしそのあと、カナデはケーキを咀嚼すると、片頬に手を当てて幸せそうな表情を浮かべる。
その様子を見て俺はため息を吐くと、テーブルに頬杖をついた。
「これで満足だろ? あとは各自でこのケーキの山を片付けることに専念……」
「つーくん」
「あ? なんだよ?」
「口元に生クリームが付いてるよ?」
「え? ちょ!?」
カナデはいきなり顔を近づけてくると、なにを思ったのか俺の口元に付いた生クリームを舌先でペロッと舐め取った。
その行為に俺の心臓が一気に鼓動を早めて、心と股間がドキドキしてしまった。
「ちょ、おま! なにをしてんだよ!?」
「あははっ! つーくん、顔が真っ赤だけどまさか照れてんの〜? マジでウケるし!」
「ち、ちっげぇよ!? お前がいきなり口元を舐めてくるから、なんか違うところを舐められた妄想をしちまってちょっと興奮しただけだ!」
「いや、逆に今のでエッチな妄想を膨らませられる方があり得ないしっ!?」
本当はカナデに口元を舐められてドキッとして赤面しているのだが、こんな風に誤魔化さないとコイツを嫌でも意識してしまう。
ダメダメ、俺にはエクスがいる。
こういう時は、エクスのおっぱいを思い出して、カナデに抱きそうな桃色の想いを少しでも薄めてしまおう。
と、言うわけではい、ちーん……。
「ちょ、つーくん? なんでそんな悟りを開こうとしているお坊さんみたいな目をしてんのに、口元だけは厭らしく笑ってんの!?」
エロスの向こう側を見るために悟りを開こうとする俺に、カナデが声をかけてくるがガン無視を決める。
今の俺はゾーンに入った。そんな俺を止めたいならば、奇跡の世代でも連れてこなければ無理だろう。
と、自信満々にエロイ事を妄想していたのだが……。
「んもぅ、つーくん!」
むにゅん。
と、カナデのけしからんおっぱいの柔らかさを片腕が検知し、俺の下腹部にある聖剣が「わぉっ!」と、反応してしまった。
不覚だった……エロイ事を妄想し過ぎて、逆に外部からの刺激に対して過敏に反応してしまうようになっていた。
「今日はちゃんとアタシだけを見て!」
「わ、わかったからそれ以上顔を近づけてるのをやめろって!」
キスができそうなほど顔を近づけてくるカナデに心の動揺がとまらない。
どうしたちゃったの俺ってば? なんか今日は、やたらとカナデにドキドキされっぱなしなんですけど!? こんなのいつもの俺じゃないわん! ここはなんとしても、いつものペースに軌道修正しなければ――。
「ね、つーくん。このあと、ゲーセンでプリクラとか撮ろうよ?」
「プリクラだと? おいおい、いいのかよ? 俺とプリクラを撮るために個室の中で二人きりになるってことは、お前にエロイことをしちま――」
「つ、つーくんがそうしたいなら、アタシは別にいいけど……しちゃう?」
「……っ」
……ダメだぁ〜! なんだよその乙女な表情はさぁ〜? いつものお前なら勢いよくツッコんでくれるのに受け身にならないでよ可愛く思えちゃうじゃん!?
気恥ずかしそうにしながらも、上目遣いをして片腕に抱きついてきたカナデに俺は悶絶していた。
このままでは非常にマズイ。
なにがマズイって、俺がカナデに恋をしちゃいそうだからかなりマズイ!
こうなったら、例の秘策を使うしかないようだ……。
「カナデ、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「はぇっ? あ、うん。いいよ」
片腕に抱きつくカナデに断りを入れて席を立つと俺は男子トイレに駆け込み、そのまま個室へと入って鍵をかけた。
そして、タスキがけにしていたカバンの中からエクスのパンツを取り出すと、それを躊躇うこともなく顔に被った。
「はふぅ〜……落ち着くぅ〜」
何度か深呼吸をして気持ちを静めると、俺はエクスのパンツを綺麗にたたんでカバンの中に戻した。
うむ、やはりエクスの香りは最高だ。
さっきまでカナデに悶々としていた気持ちが、ウソのように浄化された。
「さてと、それじゃあ席に戻るとするかな」
「おい、ネギ坊。エクスのオーラが急に近づいてきたぞ?」
「なんだと!?」
急に喋りだしたスレイブに俺は眉根を寄せると、タスキがけにしていたカバンを強く抱きしめた。
まさかエクスのやつ……俺がパンツを盗んだことに気付いたというのか!?
「スレイブ、エクスとの距離はどのくらいだ?」
「距離にしたらまだ離れているみてえだが、なんだって急に接近して来たんだろうな? この勢いだとまるでネギ坊たちをとっ捕まえようとしているような勢いだぜ?」
「それはマズイな……。早めに場所を移動した方が良さそうだ」
「でもよ、アイツらはネギ坊とカナデのデートを監視するのが目的なんだろ? それなら気にする必要なんてねぇんじゃねえのか?」
「そうもいかねえ事情があるだよ俺には……。ともかく、今はここを即刻離れるべきだ!」
おそらく、俺からパンツを取り返すためにエクスは急接近してきているのだろう。
なんとしても、このパンツだけは死守しなければならない。
このパンツは俺のモノだ……誰にも渡さん!
俺は疑問を抱くスレイブをよそに急いで席に戻るとケーキの山を無理やり口に押し込み、戸惑うカナデの手を握りながら店を出てゲーセンへと向かう。
エクスのパンツだけは、絶対に渡したくねぇからなっ!?
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