第11話 第二の襲撃者
茜色の空がその色を沈め、星が瞬く夜空に変わる頃、夜気に混じって俺たち二人の溜息が漏れた。
「……はあ~っ」
「……はあ~っ」
両肩にぶら下げたこの荷物が、見た目以上に重く感じるのは後悔のせいかそれとも疲れのせいか。
等間隔に並んだ街灯が灯され始めた暗がりの夜道を、俺とエクスは重い足取りで歩いた。
言葉を交わすよりも溜息を吐いている時間の方が長いと思う。
それほどまでに俺たち二人の間には、会話という会話が出てこなかった。
「ねぇ、ツルギくん?」
「なんだエクス?」
「私、どうしたらいいかな? あの子に悪いことをしちゃって、その……」
先程の件でかなりの責任を感じているのかエクスの表情が優れない。
彼女に悪意があったわけではない。それは俺も十分理解している。
「お前はなにも気にしなくていいよ。というか、なんであいつが怒る必要があるんだ? 俺がどうしようと俺の勝手だろ?」
「……それ、本気で言っているの?」
「え? なんで?」
「はぁ~……」
隣を歩くエクスが、どこか呆れたような表情でため息を吐いた。
「な、なんだよその態度?」
「いや、なんというか多分だけど……あの子、ツルギくんのことを……」
「あーもういい! この話はもう終わりだ、はい、やめやめ!」
肩にかけた幾つもの紙袋を担ぎ直すと、俺は歩くペースを速めた。
カナデの話をすると、自分自身に嫌悪感が生まれてくる。
そんな気持ちを誤魔化すように歩みを早めていたのかもしれない。
俺の後ろをエクスが子犬のようにとてとてと無言でついてくる。
その姿を肩越しに確認すると、俺は視線を落として溜息を吐いた。
カナデとの付き合いは高校入学をしてから約一年近くだ。
最初は、お互いに気が合うってわけでもないけれど、気付いたら親しい友人になっていた。
さりとて、俺とアイツが恋仲というワケではないし、親友以上ってのも言い過ぎだと思う。
でも、俺とエクスが一緒にいるのを見たときのカナデは本当に悲しそうだった。
もしあのとき、カナデとの立場が逆だったら俺はどう思ったのだろう?
あの場所でカナデが他の男とイチャついている現場を見かけたら、嫌ではないにしても少し複雑かもしれない。
しかし、だからといって別にいきり立つようなことはしないと思うけど……。
「ツルギくん」
「…………」
「ねぇ、ツルギくんってば」
「…………」
「ねぇ、ツルギくん!」
「へ? どうした、エクス?」
「この近くに魔剣のオーラを感じるから気を付けて! 多分、すぐ近くに――」
と、エクスが警告した直後、街灯の奥に広がる闇から無数の黒い刃が飛んできた。
闇の奥から放たれた刃から身を守るため、俺はエクスを抱き寄せると、電柱の影に身を隠した。
すると、刃渡り三十センチほどある刃が、次々と電柱に突き刺さった。
「おいおい、予告もなしにいきなり先制攻撃かよ!」
「どうやら相手は準備万端のようだね……。ツルギくん、《ミラー》を展開するけど準備はいい?」
「いつでもOKだ!」
俺が頷くと、エクスがホーリーグレイルを出現させ水平に振り抜いた。
その直後、視界が一瞬だけ歪み、ほどなくしてあの時と同じ重圧感が俺を包んだ。
「《ミラー》を展開したよ。だいぶ陽が落ちて視界が悪くなっているから十分注意して!」
「安心しろ。普段から薄暗い部屋でエロ動画を見ているから、夜目には慣れている!」
「……そ、それは褒めるかどうか迷うけれど、とにかく気を付けて!」
「わかっている。それより後ろを頼むぞエクス!」
街灯の奥に広がる闇をエクスが睨む。
それに続けて俺も反対側の闇をジッと見据えた。
仮想空間とはいえ、その景色は現実世界さながらである。
ただ、違いがあるとすれば、俺たち以外の生き物が存在していないという点だろう。
そのせいもあってか、周囲には虫の声ひとつすら聴こえてこない。
僅かに聴こえるのは、エクスと俺の息遣いだ。
「……!? エクス、そっちだ!」
「ふぇっ? きゃああっ!」
エクスを抱えてその場から跳躍した刹那、街灯に反射して黒い刃が見えた。
その刃は地面に落とした俺たちの荷物に容赦なく突き刺さってゆく。
「きゃああああああああっ! 今日買ったばかりの私の服があああああああっ!?」
「おいおい、服よりも命の方が大事だろ?」
「そ、それはそうだけど……あのワンピース、すごくお気に入りだったのに~!」
見る影もなくなった紙袋を見つめてエクスが肩を落とす。
しかし、そんな後悔している余裕などなく、次の攻撃が俺たちに迫っていた。
「エクス、飛ぶぞ!」
「え? あ、うん!」
再びエクスを抱えて民家の屋根に飛び移ると、そこを目掛けて刃が飛んでくる。
その都度、肩から下げていた荷物が次々と犠牲になり、エクスが涙目になった。
「くすんっ……あのスカートも、デニムも、全部可愛かったのに……はぅ~」
「また買ってやるからそんなに悲しむなよ? な?」
「だって、せっかくツルギくんが買ってくれたものなのに~」
「あんなものでよければ幾らでも買ってやるから不貞腐れるなって」
「ホントに!? 絶対に約束だからね!」
「……少しはこの状況に危機感を抱いてくれよ」
どこか緊張感の足りないエクスを抱えたまま、襲い来る刃の中を走り抜ける。
背後から感じる明確な殺意に神経を尖らせつつ、俺たちは付近の公園へと逃げ込んだ。
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