第175話 イミテーター
北条先輩たちを外へと上手く逃すことに成功した俺は、三人の魔剣相手に激しい戦闘を繰り広げていた。
休む間も無く次から次へと襲いくる刃の嵐を斬り払っては反撃し、大健闘していると言っても過言ではないだろう。
とはいえ、流石に結構疲れていたりする。
「だらあああああああああっ!」
「あ〜ん! とっても素敵よ坊や」
「キシャシャシャシャ! やっぱ日本に来て正解だったぜ」
「いやはや、これは流石に驚いたな。僕らそれぞれの攻撃を同時に相手して互角に渡り合うなんて、草薙くんはとんでもない剣士のようだね」
歓喜に満ちた表情で俺と剣を結び、至極楽しそうにしているティルヴィングとエペタムの二人とは対照的に、俺の戦闘力を目の当たりにした泰盛さんが舌を巻く。
褒められるのは嬉しいけれど、ぶっちゃけこちらとしてはそろそろ休憩を挟みたいのが本音だ。
「おい、ネギ坊。大丈夫か?」
「はぁ、はぁ……なんとかな。でも、流石にちっとキツくなってきたぜ」
「俺様が推測するにあのお嬢ちゃんたちが屋敷から離れる時間は十分に稼げたはずだぜ。そろそろ適当なところでトンズラしねぇか?」
「それが出来ればありがたいんだけどな」
北条先輩たちをここから遠くへ逃す時間は、それなりに稼げたと思う。
だが、それとは別に俺がここから無事に脱出する事に関しては完全にノープランだった。
「アタシたちを相手にひとりでこ〜んなに頑張るなんて素敵よん。これがもしベッドの上だったら、お姉さん堪らなくて失神しちゃうかもしれないわよん♡」
「戦闘中に下ネタぶち込んでくるんじゃねえよ。まぁ、ベッドの上で俺が凄いのは確かな事だけどね!」
「あー……お前もティル姉の話にちゃっかり乗っかってんじゃねえかよ。あんまり下手なこと言ってると、ティル姉にヤられまくってアレを失くしちまうぜ?」
「アレってなんだよ?」
「オメェのち◯ち◯んだよ」
「ヒェッ!? なにそれ怖いんですけど!」
「草薙くん。一応確認しておくが、うちの時音の前でそのような猥談をしてはいないだろうね?」
「いやいや、そんなこと北条先輩にはしてないですよ絶対!」
「時音の前でということは、マドカの前ではしていたという事でいいのかい?」
「し、してませんよ! だから、そんな白い目で俺を見ないでくれませんかね泰盛さん!?」
「ちょっとぉ~、アタシと坊やの楽しい会話を邪魔しないでくれる? ちなみに、ここで坊やが力尽きた時には、アタシの部屋で監禁して、一生飼い殺してあげるわよん」
「おいおい、俺をペットになんてしたら噛みつくどころか吸い付くぜ。あえてどことは言わねえけどな?」
「ンフフッ、そんなことしてきたら好きなだけ吸わせてあげるわよん。勿論どことは言わないけれどねん?」
「え? マジ? ちょっと考えちゃおうかな……」
「おい、ネギ坊……」
「あー……なんの話で盛り上がってんのコレ?」
「やれやれ。いつからここは戦場でなく、互いの異常な性癖を暴露するような場所に様変わりしたんだい草薙くん?」
……やっべぇー。ティルヴィングのペースに完全に呑まれちまったんだワ~。
冷ややかな視線をこちらに送ってくる泰盛さんとエペタムに冷や汗を浮かべつつも、俺は咳ばらいをすると呼吸を整える。
なんかしょうもない会話をしていたように思うかもしれないけれど、実を言うとこれは俺の体力を回復させるための作戦であり、わざとくだらない話をして時間を稼いでいたのである。
よって、これはすべて計算通り!
いやホントだよ? これっぽっちもティルヴィングのペットになってエチチな行為をする妄想とかしていたんじゃなからね? 勘違いとかしないでよね!
さて、それなりに呼吸も整ってきた所で次の展開を考える。
とは言っても、この三人を相手にここから脱出するのは至難の技だ。
「おっといけない。このままでは草薙くんの狙い通り時音たちにどこかへ逃げられてしまうな。エペタムくん、ちょっといいかな?」
「あー……なんだよおっさん?」
「ちょっと、僕の能力を使いたいから剣を合わせてくれないかな?」
「あー……例のアレね。いいよ」
泰盛さんの提案にエペタムは自前の魔剣を差し出すと、気怠そうに突っ立っている。
すると、その魔剣に対して泰盛さんは自身の持つ魔剣を当てると、静かに黙り込んだ。
「なんだ? なにをしているんだ泰盛さんは?」
「見ろネギ坊! おっちゃんの魔剣が光りだしたぞ!」
スレイブに言われて視線を魔剣に移すと、泰盛さんの魔剣が淡く赤い光を放ちだしていた。
なんだあの光は? エペタムの魔剣に自分の魔剣を重ねて一体なにをしようとしているんだ?
「……ふむ、これでよし。ありがとうエペタムくん」
「あー……別にいいよー」
「おい、ネギ坊。おっさんの持つあの得体の知らねえ魔剣には十分注意しろよ」
「そりゃ注意はするけれど、泰盛さんの魔剣に特に変わった様子はないし、なにか起こったのか?」
「さて、草薙くん。そろそろ僕も時音たちを追いかけねばならない頃合いだから、ここからは本気で相手をさせてもらうよ」
泰盛さんはそう言って魔剣を軽く振ると、そのまま俺に向かい駆け出してきた。
俺としてはさっきの動作が気になるところだけど、とりあえず、今は泰盛さんをこの先へ行かせるわけにはいかない。
なんとしても阻止するんだ!
「さて、僕の持つこの新型魔剣『イミテーター』の能力をキミにお披露目しようじゃないか」
「新型魔剣、イミテーター……?」
「そう、イミテーターさ。それじゃあ行くよ、草薙くん!」
「ネギ坊、なんかあの魔剣から嫌な感じがするから気を付けろ!」
スレイブの忠告に頷くと、俺は得意げな表情で斬りかかってきた泰盛さんの刃を真っ向から受け止めた。
すると次の瞬間、ティルヴィングの魔剣と同じ蛇腹剣の形状だったはずの泰盛さんの魔剣が見る間に変形し、いつの間にかエペタムの持つチェーンソーのような形状に変化をした。
「な!? エペタムの魔剣と同じチェーンソーの形状に変化しただと!?」
「イミテーター……それは『模倣者』という意味でね。この魔剣は他の魔剣に刃を重ねると、その魔剣の特性と能力を
と、泰盛さんはチェーンソーに変化した魔剣の刃を高速回転させ火花を散らすと、再びその刀身を淡く発光させ始めた。
「……キミの持つその魔剣の能力もコピーさせてもらうよ」
「俺様の能力をコピーするだとぉ!? 上等じゃねえか、やってみろこの野郎!」
「落ち着けスレイブ! お前が取り乱してどうすんだよ!?」
「おや? 自分の能力をマネされるのは嫌いかい? でも残念だったね」
けたたましい駆動音を辺りに響かせ、鮮やかなオレンジ色の火花を散らしていた泰盛さんの魔剣が変形をし始めたのに気付き、俺は突き飛ばすようにして後方へ飛び退いた。
すると、徐々にその形を変えてゆく魔剣を見つめて泰盛さんが不敵な笑みを浮かべる。
「……ふむ、コピー完了だ。では草薙くん。キミたちの能力を早速使わせてもらうよ」
「俺たちの能力だと!? って……ぶっちゃけなんなのスレイブ?」
「あぁ? 鎧化して身体能力が上がるとかじゃねえのか?」
「え、お前も知らないの? 本体のくせに?」
「本体だからテメェの能力をなんでも知ってるとか思ってたのか? ケケケッ、それは大きな間違いだぜネギ坊!」
「なんでちょっとドヤってんのお前!? それってかなり重要な事なんじゃねえの?」
「おや? キミたちは自分たちの能力についてなにも知らないようだね。それなら、僕が代わりに教えてあげようじゃないか」
泰盛さんがそう言った直後、彼の左腕が真っ赤なガントレットに包まれ、スレイブとそっくりな髑髏型のガントレット姿に変化した。
そのフォルムこそ微妙に違うけれど、アレは間違いなくスレイブと同じタイプのガントレットだ。
「おい、スレイブ! なんか泰盛さんの左腕がお前と似たようなガントレットに変化したけど大丈夫なのか!?」
「ケッ、俺様に似せたところで所詮は紛い物だぜこの野郎! テメェのその紛いモンが俺様には敵わなねぇってことを証明してやるから掛かってこいやコラァッ!」
「やれやれ、随分と口の悪い相棒だね。さて、キミたち二人の持つ能力はどうやらこのガントレット形状に関係があるようだ」
完全にスレイブと似たような髑髏型のフォルムに変化した自身の左腕を見て、泰盛さんが興味深そうに観察する。
うちのスレイブと同じ特性があるとすれば、泰盛さんの魔剣も自らの意思を持ち、ひとりでに喋り出したりするのだろうか?
いや、今はそんな事よりもスレイブの能力が一体なんなのかという方に俺の興味が惹かれている。
今までの感覚からすれば、スレイブの能力は俺の体を鎧化させ、その身体能力を爆発的に向上させるというものだと思っていたがそうではなく、本当はまだ隠された能力があるのかもしれない。
だとすれば、それは是非とも知っておきたいところだ。
「さぁ、キミの能力を解放してみようか」
「スレイブの能力……一体なんなんだ!?」
「ケケケッ! 俺様の能力がなんなのか俺様自身もわからねぇってのに、できるモンならやってみろってんだこのパクリ野郎!」
泰盛さんの魔剣に対して煽り散らかすスレイブにちょっと笑いそうになるけれど、油断をしてはいけない。
俺たちの能力をコピーした泰盛さんの魔剣がどれほど危険な代物なのかわからない以上、最も警戒が必要だ。
「覚醒せよ、我が魔剣イミテーター!」
「来るか!」
泰盛さんの呼びかけに、スレイブに似た髑髏型のガントレットの双眸に赤い光が宿る。
そして、ゆっくりと息を吐くようにして、それは覚醒した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます