第191話 姉
謎空間で出会った俺と同い年くらいのオラオラ系少年スサノオに体の主導権を奪われてしまった俺はなす術なく、レーヴァテインとスサノオの二人による激戦を見守るしかなかった。
「先程の威勢はどうしたんだ草薙ツルギ? 防戦一方ではないか!」
ここぞとばかりにレーヴァテインが空から視えない刃を放ってくる。
そして、スサノオはというと……空で浮遊しているレーヴァテインをジッと睨みつけまま動こうとしなかった。
そうなれば同然、俺の体は鎧を着ていても視えない刃でダメージを受けまくっており、既にボロボロである。
それなのに、スサノオはまだ動こうとしない。
というか……!
『おい、スサノオ! なんで避けねえんだよ? つーか、剣を持ってんだから防御くらいしろよこのクソボケ! こちとら精神体になってんのかと思ってたのに普通に攻撃受けて痛ぇじゃねえかよクソッタレ!?』
体の主導権を奪われ、自分が精神体的な存在にでもなったのかと思っていたが、攻撃を喰らうたびにめちゃくちゃ痛かった。
それなのにスサノオの奴は痛覚がないのか、落ち着いた様子で相変わらず空に浮遊するレーヴァテインを睨みつけていた。
正直、これは拷問だ。
なにもしないのなら俺と交代してくれよぅ!?
「目に視えない不可視の刃と宙を舞う奴のあの動き……なるほど。ネタがわかってきたぞ」
「おい、ネギ坊! 正気に戻ったのかと思って安心してたけどよ、さっきからなにしてやがるんだテメェは!? このままだと、失血死しちまうぜ!」
体の中身が俺とスサノオで入れ替わっている事に気付いてないのか、スレイブが焦った声で怒鳴りつけてくる。
まあそりゃあこんだけ全身からドバドバと血を流していたらスレイブが心配して必死になるのも頷ける。
だって、俺の足元には既に血溜まりができ始めているし、なんかフラフラしてきたし、マジで辛い。
つーか、スサノオの野郎は俺を殺す気なのか? ちょっとマジで交代してくれないかなぁ!?
『スサノオぉ! なにしてんだよお前は!? なんの抵抗もしないなら俺と代われよコラッ!』
(落ち着けツルギ。それより、お前のこの左腕が先程からグダグダとうるさいから黙らせてもいいか?)
『え? スレイブがウルセェのはわかるけど、どうすんだ?』
(簡単な話だ。コイツの機能を一時的に停止させる。問題はないだろ?)
『あ、そんなことできんのお前? でもさ、スレイブがいてくれないとサポートしてもらえなくなんぞ?』
(サポートなら赤龍と青龍で十分だ。とりあえず、コイツの声が頭にガンガンと響いて不快だから黙らせるぞ)
「おい、聞いてんのかネギ坊! 俺様はオメェのためを思って……あっ、スン」
ヤンヤンと騒ぐスレイブにスサノオが右手を翳した瞬間、まるで目隠しをされた鳥のように静かになった。
どうやら、スレイブはシャットダウンされたらしい。
俺のことを心配して騒いでいたのに、なんか申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
ゴメンね、スレイブ。とりあえず、この件が片付くまで寝ていてくれ。
「ふぅ〜、やっと静かになったな。さて、そろそろ反撃といくか」
『反撃とは言っても、レーヴァテインの野郎は自在に空中を移動できるし、近づいても離れてもあの不可視の刃で攻撃してくるんだぞ? その辺はどうするつもりなんだよ?』
「タネさえわかってしまえばどうということはない。それじゃあ、始めるぞ……赤龍!」
『破壊する』
スサノオの合図に俺の背中から生えた赤龍は大口を開けると、空を浮遊するレーヴァテインに向けて例の波動砲を放った。
しかし、その狙いは奴の体ではなく、左肩のやや後方に向けて放たれた。
その波動砲をレーヴァテインは容易く躱すと、再び地上の俺に向けて不可視の刃を放つ動作を見せた。
だが、それを予測していたのか、スサノオはそのまま波動砲を横薙ぎに放った。
すると次の瞬間、波動砲がレーヴァテインの真横を掠めた時に小さな稲光がバチバチと音を立てて発生し、奴がその体勢を大きく崩して落下しそうになった。
なんだ今のは? レーヴァテインの背後で小さな稲光が幾つも走ったけれど、なにが起こったんだ?
そんな風に俺が訝しんでいると、スサノオが腕組みをして言う。
「やはりそうだったか。ともなれば、最早俺の敵ではないな」
『スサノオ、今のは?』
「奴のカラクリが暴かれた瞬間だ。ほら、見てみろツルギ。奴が手品のネタをバラされて動揺しているぞ?」
スサノオに言われて視線を戻してみると、体勢を立て直したレーヴァテインがどこか驚愕したような素振りを見せて浮遊していた。
心なしか、さっきとは違って浮遊している奴の体が上下にブレているような気がする。
あの動きが奴の能力となにか関係しているのだろうか?
「これでわかったろツルギ。アレが奴のカラクリだ」
『奴のカラクリって、あの微妙に上下している事が?』
「そうだ。不可視の攻撃と空を飛べる理由……。その原理さえわかってしまえば、大したことのない相手ということだ」
『そ、そうなのか? んで、そのカラクリってのを俺に教えてくれよ?』
「ん? お前、まだわからないのか?」
『え? まぁ……』
「なら、お前に教えるつもりはない。黙って見ていろ」
『なんでだよ!?』
「ヒントならこの俺が十分に与えてやったではないか? それでもわからないと言うのならこれ以上教える価値もない。それに今は俺がこの体の主導権を握っているのだからお前には必要のない情報だろう。だから、黙ってこの俺の勇姿をよく見ているがいい。くははははっ!」
レーヴァテイン攻略のヒントを得たスサノオがどこか勝ち誇ったように高笑いを上げていて正直、めっちゃムカついた。
コイツ、正解をわかっていながらあえて俺に教えないとか性格悪すぎだろ。
あーやだやだ。クラスに一人はいるんだよなーこういう奴が。
自分だけ答えわかってて、やたらとマウント取ってくるやつぅー。
なーんて俺が不貞腐れていると、頭上にいるレーヴァテインが怒気を含んだ声音で威圧してきた。
「調子に乗るなよ草薙ツルギ。この程度で俺に勝ったつもりでいるならばそれは愚かだぞ」
「バカが。最早この戦は勝利したも同然だ。今からその証拠を見せてやろうじゃないか。青龍、回復だ!」
『再生する』
スサノオの言葉に青龍は真上を向くと、金色の液体を噴霧するように吐き出した。
その金色に輝く霧が俺の全身を包み込むと、負傷していた箇所があっという間に完治した。
なんというか、このチート級の能力があれば、エクスの回復は必要なくなるだろう。
あ、でも、俺的にはやっぱりエクスとチュッチュしたいから青龍の能力は使わないかもしれない。
やっぱり、回復する時はエクスたんが一番だよね♡ なんつって。
「さて、コチラの傷も癒えたことだし、死ぬ準備は出来ているか? 格下ぁ!」
「その減らず口を今すぐズタズタに切り裂いてやろう……」
挑発的なスサノオの台詞がレーヴァテインの逆鱗に触れたのか、奴は脇目も振らずに真っ向から突っ込んできた。
その様子にスサノオは口元をニヤリと笑ませて身構えると、凄まじい勢いで滑空してきたレーヴァテインを正面から迎え撃った。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
「くははははっ! なかなか良いぞ格下。それなりに楽しめそうではないか!」
レーヴァテインとスサノオの二人による目にも留まらぬような剣戟の応酬に俺は息を呑んでいた。
俺もそれなりに死闘を潜り抜けてきたからレーヴァテインの繰り出す斬撃を目で捉える事はできているけれど、それとは逆にコチラ側というか、俺の体を乗っ取っているスサノオが繰り出す斬撃の方を目で追うのはやっとだった。
コイツ、マジで凄い……。
傲慢で太々しく、性格悪くて、やたらと自信家。でも、それでいて大口を叩けるだけの実力をスサノオは確かに持っている。
現に俺よりも俺の体を上手く扱えているように思えるし、その剣筋と体捌きにも一切の隙も無駄もなかった。
これがスサノオか。なんか俺より主人公してやがるじゃねえか。
あれ? ちょっと待って! 俺が主人公だよね? このままスサノオが主人公に変わったりとかしないよね!?
そんなしょうもない不安に煽られる俺を他所にスサノオはレーヴァテインを蹴り飛ばすと、両手の剣をカンカンと打ちつけさらに煽り散らかす。
「どうした格下ぁ? 先程からお前の攻撃はこの俺に擦り傷ひとつすらも付けれていないぞ?」
「グッ、調子にのるなよ……草薙ツルギぃ!」
「そうだ。それでいい! この俺が直々に相手をしてやっているんだ。もう少し楽しませてくれなくてはつまらんからな!」
レーヴァテインが激昂して再び斬り合いとなり、そこから鍔迫り合いの状態になると、レーヴァテインは長剣で斬り払うように俺から距離を取り、再び不可視の刃を放つ動作を見せてきた。
だが、この機を待っていたかと言わんばかりにスサノオは両手の剣を振り上げると、それらをなんの躊躇いもなくレーヴァテインに向けて投げ放った。
そんな目を疑うようなスサノオの行動に相当度肝を抜かれたのか、レーヴァテインの動きが僅かに遅れた。
そして、スサノオが投げ放った二本の剣が奴の両肩のやや後ろ辺りに到達した直後、まるでガラスが割れるような甲高い音が辺りに鳴り響いた。
その時、ガラス片のようなものが光に反射して奴の足元に幾つも散らばった。
アレは一体なんなんだ?
「なっ!? バカな!」
「これでもう自由に空を飛べなくなったな。さて、そろそろ終いにするかな?」
「貴様、俺の能力に気付いていたのか?」
「無論だ愚か者。俺は
「中身だと? なにを言っているんだ貴様は?」
「コッチの話だ。気にするな」
……なーんか俺ってば、スサノオにバカにされてない? コイツの話し方もすんごく腹立つんだけど、今の俺は体の自由を奪われているからなんもできんからクッソムカつくんですけどぉ!?
ともかく、一連のやり取りを見ていて気付いたけれど、スサノオが投げつけた魔剣と聖剣がレーヴァテインの背後にあったなにかを破壊したらしい。
そのせいで奴は飛行能力を失ったようでそれから空を飛ぼうとする動きはしなくなった。
しっかし、なーんでスサノオは俺にその答えを教えてくれないのかねぇ? 嫌がらせなの? それとも出し惜しみなの? ねぇ、早く教えてくれよぅ!?
そんな俺の心の叫びが届いたのか、スサノオがため息混じりに口を開く。
「はぁ〜……まだわからんのかお前は? いいかツルギ。あの男はその背後に不可視の翼を隠し持っていたんだ」
『つ、翼を隠し持っていたって……。おい、スサノオ。それはどういう事なんだ?』
「フンッ、なんてことはない。奴はその背中にこの世界で例えるところの光学迷彩技術のようなモノを利用して背中に翼を隠し持っていたんだ。その証拠に、奴が空中で浮遊していた際にその体が僅かに上下していた。それは、背中の両翼を羽ばたかせていたからだ! そうだろう? レーヴァテインとやら」
ビシッと指差してスサノオが断言すると、レーヴァテインが悔しげに目を細めた。
どうやら、スサノオの推理は当たっていたらしい。
「……両翼を羽ばたかせる動作を悟られないようにしていたというのに、貴様はなぜそれに気が付けた?」
「なんてことはないと言っただろ? お前が不可視の刃を放ってくる際にその体が後方へと大きく下がっていた点とその直後に体が大きく上下にブレていた。その動作がどこか飛び立つ時に翼をはためかせる鳥のように思えてな。赤龍の咆哮波で確かめてみたのだ」
「たったそれだけの情報でこの俺の能力を看破したというのか? どうやら、俺は少し貴様を侮りすぎていたようだ……」
「くははははっ! まったくだ愚か者め。その程度で俺を欺くなど笑止千万だ!」
……やだなにその洞察力。チートアイテムを駆使して事件を解決する眼鏡をかけた見た目は子供、頭脳は大人の名探偵を思い出したわん。
レーヴァテインが背中に不可視の翼を持っていた? あーはいはい。まぁ、俺も知ってましたけどね? それでアイツが自由に空を飛んでいたんでしょ? うん、そうそう。知ってましたぁ〜。あるぇ〜? でも、ちょっと待ってよ? だとするなら、奴が放ってきた視えない刃の正体はなんなのかなぁ〜?
そんな疑問が頭に浮かんだ俺は、推理ドラマなどでよくあるモブ刑事が主人公にトリックの疑問点を投げかけるようなノリでスサノオに尋ねてみた。
『ちょ、ちょっと待ってくれよスサノオ! だとしたら、奴が俺に向けて放ってきた視えない刃の正体は一体なんだったんだ?』
「あれは不可視の両翼からその羽根を刃として放っていたんだ」
『でも、どうしてソレが羽だなんてわかったんだ?』
「俺たちの足元に血溜まりが出来ていたろ? その血溜まりの中に浮かんでいた刃が鳥の羽のような形状をしていた。そして、俺は奴が背中に鳥の翼のようなモノを身に付けていると確信したんだ。そうだろ格下?」
「……チッ。勘の良い奴め」
……正解なのかよ。なんか俺ってば、全然活躍できてないじゃ〜ん。これじゃあまるでゲンタ君とか光彦君みたいじゃ〜ん。
「まあ、この程度のことなどすぐに見抜けて当然だがな?」
『……そうですね』
「なんだツルギ? この俺の鮮やかな推理にぐうの音もでなくて悔しいのか? くはははは!」
……はいはい。完敗ですよクソッたれ。でも、あの短時間でレーヴァテインの能力を見抜けたんだからスサノオはやっぱり凄い奴なのかもしれない。
あんまり認めたくはないけどね!
完全に主人公ヅラでドヤ顔を決めるスサノオに俺が落ち込んでいると、レーヴァテインが静かに立ち上り、長剣の切先をコチラに向けてきた。
「この俺の能力を見抜いたからといってまだ戦いが終わったわけではないぞ。貴様には己が剣技だけで十分だ」
「ハッ、威勢が良いな格下。それなら、俺がお前にとっておきのモノを見せてやる……。青龍、赤龍! 【アマノヌボコ】だ!」
『合体する』
スサノオが片手を翳してそう叫んだ直後、俺の背中から生えていた青龍と赤龍が体から分離し、互いの体を絡ませて一本の大槍のような形状に変化した。
その大槍と化した青龍と赤龍を握りしめると、スサノオはそれを頭上でクルクルと振り回し、その先端をレーヴァテインに向けて構えた。
「本来ならここに【黄龍】が合わさる事により完全体となるのだが、今はまだ黄龍が覚醒しきれていないらしい。だが、お前程度の相手ならこれで十分だ」
アマノヌボコという大槍を構えた瞬間、俺の体から赤と青の凄まじいオーラが噴き出した。
その二つのオーラは交わるように渦を巻くと俺の体に纏わりつき、今まで感じたことがないほどの力が漲ってきた。
「さあて、格下ぁ……。最期に言い残したい言葉はあるか?」
「調子にのるなよ草薙ツルギぃ……。貴様如きに俺が敗北することなどない!」
「ほほぅ? それはまた殊勝なことだ。だが、それもこれで終わりだ!」
大槍を構えたスサノオがレーヴァテインに向かい駆け出すと、奴もまたコチラに向かい駆け出してきた。
一体この勝負はどうなるんだ?
そんな言い知れぬ緊張感に包まれ息を呑む俺を他所に、当の二人が互いの刃が届く距離に到達した。
そして……。
「死ねぇ! 草薙ツルギぃぃぃぃぃぃ!」
「残念だな。俺は草薙ツルギではない……、俺は悪神スサノオ様だぁぁぁぁぁぁ!」
両者の剣先が触れ合おうとしたその刹那、レーヴァテインの片腕が宙を舞った。
だが、それだけでは留まらず、スサノオの無慈悲な槍捌きが奴の体を鎧ごと突き砕いてゆく。
「オラオラオラオラオラァァァァァァァッ!」
「ガッ、グハッ、バカなっ!?」
「これでわかっただろ。俺とお前とでは格が違うんだよ。さぁ、これでトドメ……」
『それは無理よ。スサ』
「!?」
ボロボロになったレーヴァテインにスサノオがトドメとなる一撃を放とうとした直後、俺たちの真上から真っ白な甲冑を身に纏った何者かが突如として現れ、大槍の一撃を防いだ。
バチバチと火花を散らすスサノオの大槍が、まるで大きな鏡のような形状をしたソレに完全なまでに阻まれている。
なんなんだこのデカい円盾は……? ていうか、誰なんだよコイツは!?
「チッ、【
大槍による一撃を防がれ、スサノオが舌打ちしながら後方に飛び退くと、真っ白な甲冑を身に纏った人物がヘルムのバイザー部分を静かに上げた。
そして、その奥から現れたのは、透き通るような白い肌をした顔立ちの良い若い女性だった。
「久しぶりね。スサ」
真っ白な甲冑を纏ったその人物は、スサノオと同じ髪色をしためっちゃ美人の若い女性だった。
彼女は灰色の透き通るような瞳でコチラを見ると、その顔に柔らかな笑みを讃えた。
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