第88話 憤怒のエミリアおば様
一糸纏わぬソラスと俺がベッドの上でエロエロあらぬ色々あってから、ようやく本題に入れた。
ソラスは現在、服に着替えてこの家でお世話になっているエミリアおばさんの手伝いに行くと言って部屋を出て行った。
そして俺はと言うと、用意された服に着替え、スレイブと二人で話していた。
その内容は、俺がスレイブに敗北しソラスのお世話になっているこの家に運ばれるまでの経緯についてだ。
スレイブの話によると、コイツは俺に襲いかかり寄生したあと、そこへ駆けつけてきたランスくんやエクスのオーラを感知して崖の向こう側へ逃げようとしたらしい。
だが、寄生した俺の身体を上手く扱えなかったがために崖から転落。
そのまま落下して激流に呑まれてしまい、何キロも離れた陸地に辿り着いたという。
そしてその結果、俺の身体は長時間川に流されたことによりすっかり冷え切っていて、危うく死にかけていたそうだ。
そこで焦ったスレイブは、たまたま川の水を汲みに来たソラスを発見し、俺を助けて欲しいと懇願したという。
「ケケケッ! あの時は流石に俺様も焦ったぜ。なにせ、お前の身体を上手く操れなくてよ、マジで死ぬかと思ったからな?」
「人様に勝手に寄生しといて勝手に死にそうになってんじゃねえよ。ていうか、寄生して上手く操れないとかなんだそれ? そんなことあんのか?」
「そんなもん俺様が知りてえくらいだぜ。まぁでもよ、結果的に助かったんだからいいじゃねえか。おまけに、こんな良い女に介抱してもらえてお前も満足だろ?」
……うん、それは一理ある。
口を閉ざした俺を見てスレイブが愉快そうにケタケタと笑う。
まぁ確かにコイツの言う通り、ソラスのおかげで俺は死なずに済んだし、彼女のすんばらしいおっぱ……いや、とにかく、この話は置いておこう。
しかし、俺が気になるのは、スレイブがヘグニさんに寄生した時はその自我を完全に掌握できたはずなのに、どうして俺の場合にはそれができなかったのかという点だ。
「なぁ、スレイブ。どうしてお前は俺に寄生しているのに自我を奪えなかったんだ?」
「あ? それは多分だけどよ……」
「多分だけど?」
「あーっ……」
俺がそう訊いてから、スレイブが口を開けたままボーッとした様子でなにかを考察し始めた。
その姿があまりにもアホっぽくて思わず笑いそうになったが、頬の筋肉に力を込めてなんとか耐えた。
すると、スレイブがハッとなにかを思い付いたように話を始める。
「恐らくだけどよ、ネギ坊の身体に埋め込まれている『ホーリーグレイル』が関係しているのかもしれねえな?」
「ネギ坊って……まぁいいや。ていうか、俺のホーリーグレイルが関係しているって、どういうことだ?」
スレイブの話はこうだった。
まず、聖剣のホーリーグレイルとは、その元となる魔剣の力を聖剣用に変換し、魔剣と相反するように造られた代物ということらしい。
そして、それを俺たちは精霊とセイバーで互いにひとつづつ所有しているため、魔剣に寄生されても各々が持つホーリーグレイルが魔剣のオーラと反発し合うために自我を奪えないのではないかという。
「でもさ、それならどうして聖剣のホーリーグレイルを持つヘグニさんは、魔剣化したお前に寄生されて自我を奪われたんだ?」
「あくまで推測だけどよ、ヘグニの場合は、アイツの聖剣の精霊だった俺様自身が魔剣化した影響により、アイツのホーリーグレイルも魔剣寄りになり、そこへ俺様が寄生したから上手く操れたのかもしれねえな?」
「てことは、精霊のホーリーグレイルが魔剣化したらそのパートナーのホーリーグレイルもそれに応じて魔剣寄りになるってことかよ?」
「確証はねえけれど、おそらくその可能性があるだろうな。だからヘグニはホーリーグレイルが魔剣寄りになり、魔剣化した俺様と反発するどころか波長が合っちまってそのまま操れたんだろうな」
スレイブの推測を聞かされて、俺は過去に村雨先生と犬塚先輩と戦った時の事を思い出した。
あの時、魔剣の精霊である村雨先生と契約を交わしていた犬塚先輩は他の魔剣に寄生されて自我を奪われていた。
もし、スレイブの推測が正しければ、仮に村雨先生が聖剣の精霊だった場合、犬塚先輩は魔剣に寄生されても自我を失わずに済んだということになる。
そう考えると、あの時に寄生型の魔剣が俺ではなく犬塚先輩に寄生したのは偶然ではなくそれを理解していての行動だったということになるのだろう。
「まぁでも、俺様的にはネギ坊の意識を奪えなくても今の方が楽しいからそれでいいんだけどよ?」
「おいおい、俺はまったく楽しくねえんだけど?」
「そんな連れねえこと言うなよ相棒? 俺様がお前の左腕の神経に繋がっているから、こうやって左腕になった俺様を自由に動かせているんだぜ? そう考えてみりゃあ、悪い話でもねえだろ?」
「まぁ、そうかもな。ていうか、スレイブ。もうひとつ聞きたい事があるだけど、お前と一緒にいたあのティルヴィングって名前のエロい魔剣の姉ちゃんは、聖剣を魔剣化してその相手を操れる能力を持っていただろ? それについて詳しく教えてくれないか?」
俺がそう訊くと、スレイブが少し戸惑ったような素振りで「あーっ……」と、口を開けて再び無言になった。
一応コイツは魔剣側になるのだろうけれど、その割にはやけに俺ら寄りというか妙に人懐っこく感じたからあえて聞いてみたんだけど、やはり教えてはくれないか。
と、諦めていたのだが、スレイブの口から予想外の台詞が飛び出した。
「……まあ、俺様は元々アイツらの仲間ってわけでもねえから教えてやるよ」
「は? おいおい、元々アイツらの仲間じゃないってどういうことだよ!?」
「そのまんまの意味だぜ。俺様はアイツに魔剣化された時、『自由を与えてやった代わりに、いずれここに来る坊やに寄生してねん?』って、頼まれたんだ。そんで俺様は、女々しいヘグニなんかよりもそっちの方が面白そうだと思ってネギ坊に寄生するって約束したんだ。そんでその時まで協力するっていう約束だったんだぜ」
その言葉に俺は背筋がゾッとした。
スレイブの口ぶりだと、ティルヴィングはまるで俺たちがそこに来る事をあらかじめ知っていたということになる。
そう思えば、アイツに初めて合った時も奴は俺とエクスの情報を知っているような事を口にしていた。
「じゃあ、お前の目的は最初から俺に寄生することだったってのかよ?」
「まあ、そんなとこだな。ちなみに、ネギ坊が知りたがっているティルヴィングの能力だけどよ、アイツは聖剣のシステムにテメェのオーラを侵入させ、そのシステム自体を魔剣に変換しちまうみてぇな能力だったと思うぜ?」
「なんだそりゃ? 要するにどういうことなんだ?」
「なんつったらいいかわかんねぇんだけどよ、それ以上は俺様にもよくわかんねーんだわ」
スレイブはそう言うと、困ったように眉を顰めた。
オジェを襲ったカーテナさんは、自らが所有する聖剣をティルヴィングに魔剣化されて奴に操られていた。
もしそんな能力をティルヴィングがアヴァロンにいる聖剣の精霊たちに使用したなら恐ろしいことになる。
それを防ぐためにスレイブから少しでも情報を聞き出したかったのだが、コイツもその能力についてはよくわからないらしい。
「とにかく、奴の能力についてふわっとした情報は得た。それならさっさとアヴァロンに戻ってこの事を皆に伝えないといけないな……」
「あ? 皆に伝えるって、これからアヴァロンに戻るつもりか?」
「当たり前だ。俺がこうしている間にも可愛い俺のパートナーであるエクスが悲しい想いをして枕を濡らしているに違いない。だからこそ、早くアヴァロンに戻ってアイツに俺の元気な姿を見せてあげたいし、奴らの情報を提供しないといけねえんだ。つーわけだから、帰るぞ!」
「ねぇ、ネギ」
と、意気込んで俺がベッドから腰を上げた直後、いつの間にか部屋の入り口に立っていたソラスが、悲しそうな表情を浮かべて俺に抱きついてきた。
「ど、どうしたソラス?」
「ネギは……彼女のいるところへ帰るつもりなの?」
「え? あぁ、そのつもりだけど……」
「そんなのダメ」
「え?」
「ネギは私と一緒にいてくれなきゃダメ。その子の事は忘れて!」
「おいおい、なにを言ってるんだよソラス? 俺は早く戻らなきゃならねえ理由があってだな……」
「随分とテメェ勝手な事を言うガキんちょだね、アンタは!」
「誰!?」
部屋の入り口から聴こえた怒声に振り向くと、そこには片手斧を肩に担いだガタイの良いエプロン姿の女性が眉間にシワを寄せて立っていた。
「うちのソラスが死にかけていたアンタの命を助けてやったってのに、その恩を仇で返すようなマネをしようだなんていい度胸しているじゃないのさ? ええ!!」
「あの、ソラス……こちらの戦闘民族のようなご婦人は?」
「この人がエミリアおばさんだよ」
「エミリアおばさんって、この人が!?」
ソラスがエミリアおばさんと呼んだその人は四十代後半くらいの女性だった。
彼女は肩まであるウェーブのかかったブラウンの髪を後ろで束ねており、女子プロレスラーのような身体付きをしていて、その身に着ているシャツやデニムが、パッツンパッツンになるほど太く逞しかった。
「アンタね。命の恩人であるうちの可愛いソラスを泣かせるようなマネをしたら、その金○マをこの斧でバッサリぶった斬るよ!」
「いきなりバイオレンス過ぎて怖いんですけど、とりあえずその斧を下に置いて話し合えませんかねエミリアおばさまっ!?」
「エミリアおばさん。私、ネギに汚されちゃったんだ……」
「なんだって!? それは本当なのかい、ソラス!」
「うん。でもね、初めてだったから少し怖かったけど……ネギが上手で良かった」
「ソラスぅ〜? お前、なにわけのわからないこと言ってんのぉ!?」
両手を頬に当て、ソラスがポッと頬を赤らめると、それを見ていたエミリアおばさんが額に青筋を浮かべてこちらに歩み寄り、アイアンクローをして俺の身体を軽々と持ち上げた。
「このヤリ○ン野郎! うちのソラスを一人前の女にしておいて、ヤリ逃げしようってのかい!?」
「そ、ソラス……。お、お前のおばさんってゴリラが人間に転生したとかなの〜? ハッキリ言って人間技じゃないよこれ〜!?」
「誰がゴリラだいこのヤリ○ン野郎! 言っとくけれど、アタシはこれでも若い時は男どもの方から群がってくるほどのモテモテな人気女優だったんだよ!」
……やだうそでしょ? なにをどうしたらそんな人気女優がこんな凶悪で怪力なおばさんにクラスチェンジできるのん!?
俺の顔面を鷲掴み、鬼のような形相を見せるエミリアおば様にマジで殺されるかもと焦っていると、俺の危機を察知したのか、左腕に寄生したスレイブがケタケタと笑いながら言う。
「ケケケッ! おい、そこのおっかねぇおばちゃん。コイツの言っていることは本当だぜ?」
「あん? なんだいこの左腕は? 腹話術かなにかで操ってんのかい?」
「いやいやそうじゃねえよ。俺様は最新型の義手みてえなもんでよ、ネギ坊の相方なんだ。んでよ、話を戻すけどネギ坊はソラスを汚してなんかいねえぜ?」
「す、スレイブ……」
……正直、初めてコイツが神様に見えた。
なんだよスレイブぅ〜? お前、見た目と違って本当は良い奴じゃねえか。
最初は寄生されてすんごく嫌だったけれど、お前の俺を庇おうとするその心意気に胸を打たれ……とか、思っていたのだが。
「確かにネギ坊はソラスの貞操を奪っちゃいねえ。ただ、その乳をちぃとばかり弄んだだけだぜ?」
まさに地雷だった。
これはもう、言い逃れの方法がない。
「ちゃっかり手を出してんじゃないのさこのクソガキ!? アタシがとっちめてやんよ!」
「お前を少しでも信じた俺がバカだったよスレイブ!? ていうか、やめてやめておば様! 殴るならグーはダメ! せめてパーにしてパーに!」
結局そのあと、俺はエミリアおば様からボコボコにされ、その罪を償うまでの期間、この家で働かされることになった。
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