第167話 嫌な予感

 どうも皆さん、お元気でしたかー?

 三話くらい前に続いて、今回もまたまたわたくしこと、美少女戦士ヒルドがお送りしていきたいと思いま〜す!


 さてさて、私からの挨拶はこの辺にして、まずは前回にありました私たちのエピソードのおさらいと行きましょう!


 部活を終えた私とカナデお姉様が帰宅しようとしていた時、突然エクス先輩からお食事会に誘われました。

 それからなんやかんやあり、ツルギ先輩が『北条時音』という全校生徒たちの間でもかなり美人として有名な先輩に寝盗られ……てしまっているかどうか定かではありませんが、その方のお家で今晩はお泊りするという浮気確定演出のようなメールがエクス先輩の元に届きました。

 そして現在――。


「つ、ツルギくんが北条先輩の家にお泊り……」

 

「マジで許さないし……」


 件のメールを見てからというもの、カナデお姉様はツルギ先輩に対して絶えず鬼電をずっとし続けていましたが結局のところ連絡はつかず、そこからお姉様は小一時間ほど休むことなくスマホに指を走らせており、眉間にシワを寄せながら画面を睨みつけていらっしゃいます。

 スマホを駆使して、お姉様は一体なにをお調べになられているのでしょうか?


「あーもうやっぱダメだし! 北条先輩ん家の住所調べようとしても全然出てこないんだけどなんなのこのスマホ? マジで役に立たないし!」


 ……いやいや、そりゃそうですよお姉様。

 いくらスマホでなんでも調べられる時代とはいえ、他人の住所録などのそういった個人情報までが調べられるワケないじゃないですか。

 でも、そんなちょぴっとだけおバカさんなお姉様が私は愛しくて堪りませんけどね!


「ツルギくんが浮気する……しない……する……しない……する……しない……」


 ツルギ先輩の正妻ポジションであるエクス先輩に至っては、件のメールが届いてからずっと現実逃避をしておりまして、さっきからずっと虚ろな目のままスマホのアプリで花占いをしている始末です。

 これでもし、ツルギ先輩が浮気をするという結果が出たらこの人はどうなってしまうのでしょうか?


「あの、エクス先輩? そんなアプリなんかしてみても現実はなにも変わりませんよ」

 

「グスッ……じゃあヒルドちゃんはツルギくんが浮気をするって言いたいの? ねぇ、どうなの? ねぇ? ねぇ?」


 まるで亡霊ように生気のない瞳をコチラに向けてきて、エクス先輩がテーブル越しに身を乗り出し私に迫ってきます。

 これは最早ホラーです。

 昔、日本で流行ったテレビから出てくる恐ろしい女性霊のようです。

 というか、マジで怖いんですけど……。


「まぁそのぉ〜……ツルギ先輩も性欲マシマシなお年頃ですからね。魔が差しただけに、ツルギ先輩がその北条先輩にアレを挿入さしちゃったという話ですよ。うん、我ながら例えが上手い! 座布団一枚!」


「全然上手くないよその例え!? むしろ、座布団を全没収だよ! うぅ〜……ツルギくんが北条先輩に……ひぎゅう〜っ」


「ヒルドちゃん、そうやってエクスちゃんをイジメるのやめろってーの。つーか、そんなのアタシが絶対に許さないし! ていうかさ、ヒルドちゃんもそんなくだらない事とか考えてないで北条先輩の住所見つけんのとか手伝ってよもぅ!」


 ……ふ〜む。カナデお姉様もかなり苛ついていらっしゃるご様子ですねぇ〜。

 とはいえ、私に出来ることなどたかが知れていますけど。


 エクス先輩がツルギ先輩の事で思い悩み苦しんでいるのは別になんとも思いませんけれど、カナデお姉様までもがあんなスケベ童貞野郎に心を悩ませているというのだけは正直納得がいきません。

 お姉様もあんな人なんて諦めて、さっさと見切りをつけてしまえばいいというのに……。


「あのー、カナデお姉様? もういっその事ツルギ先輩なんて放っておけばいいんじゃないんですかぁ〜?」


「なんでそう思うし?」


「いやだって、行く先行く先で見目麗しい女性たちとフラグを立ててばかりいるような浮気者ですし、そんな人のためにヤキモチ焼くなんて疲れるだけじゃないですか? ここはもうツルギ先輩ではなく、私という存在を選んでしまえば――」


「そんなの嫌だし。つーか、なんでヒルドちゃんが候補に入るワケ!?」


 ……チッ、ダメでしたか。

 ドサクサに紛れてお姉様の伴侶候補に私を擦り込もうとした作戦は失敗でした。

 とはいえ、私は諦めるつもりなどありせん。

 だって、この私に性別という垣根を超えた愛を教えてくださったのは他でもないカナデお姉様なのですから……えへ、えへへへ〜。


 そんな風にカナデお姉様への熱い想いにこの身を焦がしていると、急になにかを閃いたのかのようにお姉様がポンと手を打ちます。


「あ、そうだ! もし、ヒルドちゃんが北条先輩の家を見つけることができたらなんでもお願い事を聞いたげるよ!」


「なんでも、ですと?」

  

 ……皆さん、聞きましたか?

 今、カナデお姉様が私に北条先輩の家を特定できたらと、言いましたよ!?

 これはもう、手伝う以外の選択肢はありませんね! 

 ということで、私は今から本気で北条先輩の家を探すことにします。

 とはいえ、カナデお姉様のことですから土壇場になって『はぇ? そんな約束したっけ?』とか、すっとぼける可能性があります。ここは慎重に、そしてより確実な公約を結ぶために言質をおさえておきましょう。


「あのぅ〜、スミマセンお姉様。よく聞き取れなかったのでもう一度お話してもらえませんか? 私が北条先輩のお家を見つけたらなんでしたっけ?」


「はぇ? だから、ヒルドちゃんが北条先輩の家を見つけられたらなんでもひ――」


「へクシュッ! おおっとスミマセン。クシャミが出てしまいました。続きをどうぞ」


「……だから、お願い事を聞いてあげるって言ったの」


 ……クックックッ、全て計算通り! なんて愚かで可愛らしいお姉様なのでしょう。

 まさか今のクシャミが、お姉様の提示した条件を私にとってなんて事実に気付いていないのでしょうからねぇ〜。くふふふ〜っ。

 まぁ、私を甘く見たお姉様がいけないんですよ〜?


「オーケーわかりました。お姉様の頼みとあらばこのヒルド。三千世界のカラス共を皆殺しにしてでも探し出してみせますよ!」


「ホントに? ありがとうヒルドちゃん! ていうか、さんぜん世界ってなに?」


(あの、カナデさん。私がこんなことを言うのもアレだけど、ヒルドちゃんとそんな約束しちゃって大丈夫なの? あの子、カナデさんとの事になるとものすんごい狡猾なところがあるから、すごく心配なんだけど……)


(確かにちょっとヤバイかなぁ〜とか思ったけどさぁ、『背に脂は変えられない』じゃん? だからこれはアタシにとって、『苦痛の選択』って、ワケだし!)


(うん、そこは『背に腹は変えられない』で、苦痛の選択ではなく『苦渋の選択』だよね?)


(そ、そうとも言うし……。とりま、これで北条先輩ん家をさっさと見つけて、ツーくんの奴を引っ叩けるっしょ!)


(そんなつもりはないんだけど、それよりなんかヒルドちゃんがさっきからカナデさんのことを見つめてニヤニヤしているけれど大丈夫?)


(アタシのことなら心配ないって! ヒルドちゃんのお願い事なんてあとで適当にはぐらかせばいいだけだから問題ないっしょ! 別に口約束だし、ちゃんとした証拠もあるわけじゃないんだしさ?)


 おんやぁ〜? エクス先輩とカナデお姉様がなにやらコソコソ話しているようですけど、私の地獄耳の前では無意味ですよぉ〜? ぜぇ〜んぶまるっとお見通しなんですけどねぇ〜? 口約束ぅ〜? お姉様はわかっていませんねぇ〜……その口約束が確約になってしまったということを。


 さてさて、そんな楽しみはあとにして、今は敵の本丸を探すのみ。

 まぁ、とは言うものの、これはもう勝ち確みたいなものですけどね? ぐへへへへ〜。


「ヒルドちゃん。やけにどやってるみたいだけどさぁ、先輩の住所とかわかったの?」


「フッフッフッ、無論ですよカナデお姉様。この情報屋ヒルドに頼み事をするなんて、それはもう私のお願い事を聞くと確定したも同然のことですよ。ちゃんと準備をしておいてくださいね?」


「え? 準備って、どんな……?」


「そんなの私と迎えるの準備に決まっているじゃないですか。大丈夫ですよお姉様。私も初めてですから……きゃっ! 興奮しちゃう!」


「か、カナデさん……。嫌な予感しかしてこないよ?」


「ゴメン、ヒルドちゃん。やっぱ自分で調べるからさっきの話はナシで!」


「おおっと、そうは問屋が下ろしませんよお姉様。残念ですけど、さっきの一言はちゃんとスマホのボイスレコーダーに録音済みですからね?」


「「いつの間に!?」」


 声を揃えて驚愕する二人を尻目に私はテーブルの上にスマホを置くと、先程の会話をスピーカーにして流します。

 その直後、エクス先輩とカナデお姉様の二人から表情が消えました。

 

『あのぅ〜、スミマセンお姉様。よく聞き取れなかったのでもう一度お話してもらえませんか? 私が北条先輩のお家を見つけたらなんでしたっけ?』


『はぇ? だから、ヒルドちゃんが北条先輩の家を見つけられたらなんでもひ――……お願い事を聞いてあげるって言ったの』


「カナデさん、さっきの会話が都合良く改ざんされてるよ!?」


「しかも一番重要な『ひとつだけ』の部分が編集されてるとか有り得ないんだけど!?」


「フッフッフッ、そこに気付くのが遅すぎましたねお姉様……。これで先程の約束は既に証拠としてここに残されました。もう言い逃れなどできないんですよ!」


 バァーンッ! という効果音を脳内再生して私が指差すと、カナデお姉様が青い顔で脱力し、その場にヘタレ込みます。

 どうやらお姉様もようやくこの状況が呑み込めたようです。

 そう……全ては遅かったと。


「さて、それでは北条先輩の家を特定するとしましょうかね。確か、エクス先輩の話によると犬塚先輩が彼女と親しい仲でしたよね? ならば、彼から聞くほうが手っ取り早いでしょう……」


「あ、そういえばそうだよね」


「クッ……完全に盲目だったし」


「それを言うなら盲点ですよお姉様。さてさて、それでは犬塚先輩に連絡をして――」


 と、私が意気揚々とスマホに指を添えた次の瞬間、突然エクス先輩のスマホからアラートが鳴りました。

 その事態に私たちは虚をつかれ、騒然とします。

 このアラートは、アヴァロンからのコールでしょう。


「アヴァロンからの緊急コールだ……。一体どうしたんだろう?」


「とりま、早く電話に出た方がいいんじゃない?」


「そうですね。アヴァロンからの緊急コールなんて魔剣絡みの事しかないでしょうからね」


「それもそうだね。コホンッ! えっと、もしもし……?」


『エクスさん? 私です、レイピアです!』


「え? レイピアさん?」


 私とカナデお姉様が促してからすぐエクス先輩が緊張した面持ちで応答すると、電話の受話口からレイピアさんのぽやぽやした柔らかい声が聴こえてきました。

 一体どうしたと言うのでしょうか?

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