第34話 エピローグ
突然、自室のベッドで目覚めた俺は自分が置かれている状況に混乱していた。
「こんな……実は今までの話が全部夢でしたとかっていうオチはなし……だよな?」
頭の中で整理が追いつかない。
俺は確か、グラムに勝利したあとエクスとカナデ、それに村雨先生の三人から迫られて意識を失った……と、思う。
それなのに、今までの出来事が全部俺の妄想で完成された夢の世界だったのか?
いや、そんなはずはない!
だって、この手には今もエクスの温もりが――。
「……えっ?」
と、必死に記憶を巡らせて頭を掻き乱していると、俺の腰元に誰かが抱きついていることに気が付いた。
その温もりに視線を落としてみると、俺の下半身に掛けられた毛布から見慣れた金色のアホ毛が見えており、風もないのにそよいでいた。
「……やっぱり、夢じゃねえよな。そうだろ? エクス」
おもむろに毛布をめくってみるとそこには……俺の大切なパートナーが、気持ち良さそうな寝顔を浮かべて俺の腰に抱きついていた。
「んぅ……ツルギく~ん……寒いよ~」
「おっと、ごめんなエクス……」
俺はベッドの上でスヤスヤと眠るエクスの頭を優しく撫でると、その頬にチュッとしてから微笑んだ――。
○●○
グラムと戦ったあの日から数日が過ぎ去り、俺たちの生活に一応の平穏が戻っていた。
今回の一件で俺たちに協力してくれた村雨先生はアヴァロンから正式に危険対象外として認定されたらしく、粛清対象から除外された。
その一報を受けたときの村雨先生は本当に嬉しそうで、涙を流して俺に抱きついてきたことを覚えている。
カナデと犬塚先輩は今回の案件で最も活躍した協力者としてアヴァロンから色々と手厚い好待遇を受けたらしい。
それなのに、一番頑張ったはずのこの俺にはそう言ったご褒美はなかった。
ひょっとすると、アヴァロンはかなりのブラック企業なのかもしれない。
でも、エクスがいるから頑張れるぞい!
ところ変わって、俺とエクスは高校の屋上から街の景色を二人きりで眺めていた。
何度も見慣れたこの街の景色は、今日も変わらず平穏が流れている。
つい最近、恐ろしい魔剣の精霊が出現したとは思えないほどいつも通りに……。
「……なんだか、この数週間で色々とあったよな」
購買部で買ったコーヒー牛乳を啜りながら俺がそう言うと、エクスがそのコーヒー牛乳を横からそっと手に取り口をつけた。
「そうだね。私たち二人が出会ってからまだそれくらいしか経っていないのに、なんだか色々とあり過ぎてあっという間に時間が経っていたよね……」
フェンス越しに遠くを見つめてコーヒー牛乳を飲むエクスの瞳は穏やかで、どこか懐かしむようだった。
「ツルギくんとこの街で出会い、セイバー契約を交わして一緒に魔剣と戦って……ホント、目まぐるしい日々だったよね?」
彼女は風に靡いた自身の艶めく金髪を手串で梳かすと、微笑みながらそう言った。
目まぐるしいと言えば確かにそうだけど、その日々があったからこそ、俺はエクスと心を通わせ信頼し合える仲になれたと思う。
「そうだな。なんか、信じられないような事ばかり起きて最初は戸惑ったけれど、それでも、エクスと出会えて本当に良かったと思ってるよ」
「それを言うなら、私だってツルギくんに出会えて本当に良かったなぁ〜って、思っているよ。キミと出会えなかったら、今の私は存在していなし、こうやって……とても大切に想える人となんて、絶対に巡り会えなかっただろうしさ?」
「ん? それって、村雨先生やカナデのことか?」
俺がそう聞き返すと、エクスが苦笑する。
「う〜ん。それもそうなんだけど、私が想うとても大切な人って言うのは……」
と、フェンスの手前に設置された手すりにもたれると、エクスが俺の顔を見て優しく微笑んだ。
「ツルギくん……なんだけどなぁ〜?」
穢のない彼女の笑顔にドキッとして、俺は熱くなった顔を思わず逸らした。
もぅ、エクスったら〜! そんなことさり気なく言われたら、チュッとしたくなっちゃうぞ?
と、言いたいけど、そんな事が言えないくらいに俺は照れてしまった。
「な、なんだよ急にそんな……お、俺だって同じ気持ちだぜ!」
「え〜? ホントかなぁ〜?」
「ほ、ホントだよ。俺を信じろって!」
イタズラに笑うエクスが本当に可愛くて仕方ない。
彼女と出会ってからというもの、色々な事があり、共に死線を乗り越えてきた。
様々な魔剣と戦い、カナデと仲違いを起こしたり、村雨先生と戦ったりと本当に色々な事があった。
そして、最後はみんなと協力してアーサーとグラムに戦いを挑んで俺たちは見事に勝利した……。
その出来事が、瞼を閉じるといつでも思い出せるほど俺の脳裏に焼き付いている。
でも、その記憶の中でいつもエクスが俺の傍にいて支えてくれたからこそ、今に至るのだろう……。
俺は彼女無しではこれほどまでに強くはなれなかったし、生きてはいなかっただろう。
エクスは、俺にとって心の底から大切にしたいと思える愛する女の子だ。
「お前と出会って色々とあったけど、そのおかげで俺は強くなれた気がするよ」
「それは私も同じだよ。ツルギくんがいてくれたから今の私があるんだよ」
「マジでか? まあ、それを言われると素直に嬉しいわな」
「フフフッ。ツルギくんは素直でよろしい」
にっこりと微笑むエクスの顔を見て俺は青空を見上げると、実は少しだけ胸の奥に不安を感じていた。
――お前にエクスは相応しくない。
あのときのアーサーの言葉が時折俺を不安にさせる。
俺はこの数週間に及ぶ魔剣との戦いを経て、彼女にとって相応しい男に成長できたのだろうか?
俺は彼女が信頼できる男になれているのだろうか?
俺は彼女を悲しみから救える男になれたのだろうか……と――。
魔剣の精霊による脅威は完全に去ったわけではない。今も現在進行形のままだ。
その中で俺は彼女を守り続けることができるのかと、いつも不安を感じるようになっていた。
「……なあ、エクス」
「なに?」
「俺は……お前のセイバーとして立派にその役目を果たせているか?」
「なにそれ? 自信がないの?」
「……まあな」
「ふーん。そうなんだ。ねえ、ツルギくん?」
「ん?」
「その不安を消すおなじないをしてあげよっか?」
「不安を消すおまじない?」
「そう。それはね……」
「?」
「こうするの」
「え? なにを――」
そう言ってエクスは俺に寄り添ってくると、瞳を閉じてキスをしてきた。
その不意打ちに当惑して、俺が瞳を瞬かせていると、エクスが優しく微笑んでくる。
「ツルギくんは、立派な私のナイト様だよ」
「そう、か?」
「うん! だから、そんなに心配しないで」
「ありがとう、エクス」
「いいえ。どういたしまして」
「あ、そうだ」
「どうしたの?」
「俺はお前にちゃんと伝えなきゃならねえことがあるんだ」
そう言って、俺はエクスの両肩に手を置くと、真剣にその顔を見つめた。
「……好きだ」
「え? なにが?」
「なにが? じゃなくて、お前のことが好きだって言ったんだよ! 何度も言わせるな!」
「ふ〜ん……じゃあ。もう一回、私の目を見て言って」
エクスは俺と向かい合うようにして静かに見つめ返してくると、口元を笑ませる。
流石にこれだけジッと見つめられていると、なかなか口に出すのは難しい。
それでも俺は頑張った。
「エクス。俺は、お前のことが――」
「うん。なにかな?」
と、わざとらしく片耳をこちらに向けてきたエクスに俺は口を近づけると……。
――大好きだよ。
と、耳元で囁いてから彼女の身体を抱きしめ、そっと耳カプをした。
第一部 完
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