第二部

第35話 プロローグ

 背の高い木々が鬱蒼とする山林の中には突然現れた。


 森閑としていた空気は一瞬で消え失せ、その代わりに聞こえてくるのは、獣の雄叫びでも強風による枝葉の擦れ合う音でもない。

 明らかなだった。


 不躾に突如として現れたそれらは、耳障りな騒音を鳴らす得体の知れぬモノを手にして次々と樹木を切り倒してゆく。

 昔から見慣れてきた大木も、抵抗することなく切り倒されると、地面が大きく揺れた。

 その衝撃は次第に数を増してゆき、森に住み着いていた野生動物たちが、その場から逃げ去るように走り出した。


 まだ幼い妹を連れた彼は、小高い岩山から後ろを振り返り、目を疑うような惨状に奥歯を噛む。

 父と母は、大きな唸り声を上げる巨大な化物に踏みつけられ絶命していた。

 彼は、まだ幼い妹だけはなんとしても守りたいと必死に足を走らせ、逃げのびる事ができた。

 その間も皆同じ恰好をした侵略者たちは、我が物顔で山林を蹂躙してゆく。

 なぜ、自分たちが住処を失わなければならないのか。

 なぜ、自分たちの両親が命を奪われなければならなかったのか……。

 彼にはなにひとつ理解できなかった。

 ただ、ひとつわかることがあるとすれば、それは心の奥底に芽生えた強い殺意だろう。


 ……奴らを、皆殺しにしてやる!


 眉間に大きなシワを作ると、彼は憎々しげに奥歯を噛み締めた。

 ただ思うことは、力を欲っすること。

 ただ思うことは、奴らに復讐すること。

 彼の抱くその願いが叶えられたのは、もう少し先の話である……。

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