第63話 レイピアさん

 特別車両が大自然の中を走り抜けること一時間弱、俺たちの視界にようやくアヴァロン本部が見えてきた。


「さぁ、あれがアヴァロンだよ!」


「ほえ〜!」


「あれがアヴァロンかよ……」


 車窓から見えたアヴァロン本部は、巨大な四角形の建造物だった。

 全体はガラス張りなのか、それともソーラーパネルで覆われているからなのか定かではないが、太陽光を反射してキラキラと輝いている。

 それを例えるなら、某ロボットアニメに登場する第五使徒みたいな感じの建造物だ。


「そろそろプラットホームに入るから、各自で準備をしてくれたまえ」


 ランスくんにそう促されて、俺たちはいそいそと降りる準備をする。

 そして、特別車両が静かに停止すると、いよいよアヴァロン本部へと到着した。


 プラットホームに降りて最初に目についたのは、どこか閉鎖されたような空間とセキュリティゲートと思しき設備、そして、その奥にある上の階層へ向かうエレベーターだった。

 左右対称に存在するセキュリティゲートの周囲には、銃器で武装した見張り役の兵士さんが十数人と立っている。


 俺たちがランスくんから預かったIDカードをゲート前にある認証機器にかざすと、ゲートの上部から青い光が照射され、頭から足の先までゆっくり照らしてゆく。

 すると、『UNLOCK』という英字が目の前に表示され、ゲートが開かれた。


『オーケーです。どうぞ、こちらへ』


 銃器で武装した兵士さんに案内され、俺たち六人が奥へ進むと、エレベーターの入り口が突然開かれ、そこから白衣姿の若い女性が現れた。


『皆さん、お待ちしておりました。ここからは私がご案内しますね』

 

 俺たちに優しく微笑みかけてきたその女性は、端正な顔立ちに真紅の長い髪を持ち、赤いフレームの眼鏡をかけた白人女性だった。


 彼女は白衣の下に赤いニットのセーターを着ており、その胸元は大きく突き出ていて、なんともグラマーだ。


 俺の見立てではおそらく、Eカップといったところだろう……。


 黒のタイトスカートから伸びる長く細い両脚はベージュのストッキングで包まれていてなんともエロイ。

 こんな女性がうちの高校で保健の先生として勤務していたら、俺は毎日保健室へ入り浸っていることだろう。


『私の名は「レイピア・スカーレット」と申します。今後とも宜しくお願いしますね。ツルギさんとカナデさん』


 レイピアさんは英語で自己紹介を終えると、俺とカナデにウィンクを投げてくる。

 それに対してカナデはぎこちない笑顔を返していたが、俺は決め顔で速攻握手を求めた。


『初めましてレイピアさん。貴女のような美しい女性にエスコートしてもらえるなんて感激です』


『あら? ツルギさんは英語がお上手なんですね。とても素晴らしいと思います』


『いえいえ、どういたしまして。なにせ俺は紳士ですから!』


「ツルギくんさぁ……」


「ちょ、つーくんが英語ペラってるし!? エクスちゃん、なんて話してんのかわかんないから日本語で訳して!」


「訳すのは構わないけれど、普段のツルギくんが美人を相手に言いそうなことだよ?」


 ジト目でエクスがそう言うと、「あー……ならいいや」と、カナデも同じようにジト目になって俺を見てくる。

 正直、心外だ。

 こんなに紳士な対応しているというのに、なぜガッカリしたような目で見られるんだ?


「なんだよその残念な子を見るような目は? せっかく外国に来たんだから英語力を身につける良い経験になるだろ? お前もとりあえずなんか話してみろよカナデ」


 俺がそう促すと、カナデが戸惑った様子で身振り手振りを使い「あ〜……アポ〜ペン?」とか、言い出したので思わず吹き出した。

 隣のエクスも必死に笑いを堪えているようで先程からぷるぷると震えている。

 その後ろに立つヒルドは、ランスくんとアロンちゃん同様に苦笑いを浮かべていた。


「あ、私は日本語も話せますから大丈夫ですよ?」


 と、ニッコリと微笑むレイピアさんに「早く言ってよそれぇ〜」と、カナデがカクッと肩を落としていた。

 どうやら、レイピアさんは日本語がペラペラらしい。

 それを見て俺はニシシと笑い、カナデを肘でつついた。


「カナデ。これ以上の恥をかかずに済んで良かったな?」


「う、うるさいし! あ、アタシだってその気になればマジYDK《やればできる子》だし!」


「どこがだよ。お前の場合はYDK《やってもダメな子》だろ?」


「そ、そんなことないっしょ! アタシだって、本気でやろうと思えばなんだってできるし! 例えば……あっ」


 と、俺の眼前に凄んできたカナデが急にその顔を真っ赤にして口を噤んだ。

 

「なんだ、どうしたよカナデ?」


「えっと、なんか……思い出しちゃったから」


 と、潤んだ瞳で自身の唇を指先で擦ると、カナデが俺をチラリと見つめてくる。

 その姿に俺も列車での出来事を思い出してしまい、一気に顔が熱くなった。


 やはりあの時のアレは、カナデで間違いなかったようだ。


「どうしたんですか草薙さんに十束さん? なんか二人とも、急によそよそしくないですか?」


 こてんと首を傾げるヒルドに俺とカナデはハッとしてブンブン首を横に振った。

 それは、あの時の事を極力思い出さないようにするためだ。


「あのさぁ、二人とも列車の中でなにかあったの?」


 核心をつくようなエクスの一言に、俺は口から心臓が飛び出るほどドキッとした。

 隣に目をやれば、カナデもまた同じような表情をしており、あわあわとしている。

 流石は俺のパートナーのエクスだ。

 感が鋭いというか、既に看破されているような気がして恐ろしいわん。

 とはいえ、これ以上のボロが出る前に上手く誤魔化さねばなるまい……。


 俺は短く息を吐いて気持ちを落ち着かせると、朗らかに微笑んでエクスの肩に手を置いた。


「なに言ってるんだよエクス。俺がお前に隠し事なんてするわけないだろ? なぁ、カナデ?」 


 と、俺的に上手くパスを出したつもりだったのだが……。


「はえっ!? そ、そそそうだね〜?」


 ……当のカナデはパスを受け取るどころか酷く狼狽していた。


「なんだか、すごく怪しいんだけど……」


 俺の正面に立ち、ジーッと顔を見つめてくるエクスに自然と片頬が引き攣る。


 やめてやめてそんな目で見ないでエクスたん! それ以上見つめられたら、涙が出ちゃう……だって、誤魔化しているんだモン!?


「あの、皆さん? ここで立ち止まっていてもアレですから、そろそろ上のフロアへと向かいましょうか?」


 微妙な雰囲気を醸し始めた俺たちを見かねてか、レイピアさんが苦笑いを浮かべて先を促してくれた。


 ナイスだぜ、レイピアさん!


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