第62話 暗闇のキス
空港からアヴァロン本部へと向かう特別車両に乗り込んだ俺たちは、緑豊かな大自然が広がる景色の中を移動していた。
アヴァロンへと通じるこの特別車両の中は優雅なクラッシックが流れており、腰を下ろしたシートも心地良くてリラックスできる。
三人がけシートの真ん中に座った俺の両サイドには、興奮した様子で俺の片腕に抱きつき、車窓の外を眺めるカナデと、ちょっとだけムスッとした表情を浮かべたエクスがいる。
ランスくんとアロンちゃん、それとヒルドの三人は、俺たちから少し離れた前方のシートに腰掛けており、なにやら話し込んでいた。
おそらく、行方不明となったヒルドの父親であるヘグニさんのことについて詳しく聞いているのだろう。
「ねぇ、みてみてつーくん! 外の景色が大自然だけとか超ウケない?」
「外の景色が大自然だけで超ウケるとか言ってるお前の頭の中身の方がウケるわ。遠足に来た小学生かお前は?」
「えー。だって、海外旅行とか初めてなんだから普通はテンション上がるっしょ?」
「不法入国ギリギリの奴が言う台詞じゃねえなそれ」
「不法じゃないし、ちゃんとパスポートあるし」
「はいはい……」
俺のキャリーバッグに身を隠し、その流れで同行することになったカナデは、呆れている俺にぶーぶー文句を言ってくる。
まあでも、これから魔剣と戦うと想定してピリピリと張り詰めた空気でいるよりは、カナデのように能天気な奴がひとりでもいるとその場の雰囲気が緩和する。
そう思えば、それはそれでカナデを連れてきて正解だったのかもしれない。
「ね、つーくん。アタシ、お腹空いたし。なんか食べたい」
「お前、本当に海外旅行気分を満喫しているのな……。プロテインバーならあるぞ?」
「じゃ、それちょうだい!」
「ほらよ。もっと食いたければ俺のバッグにあるから適当に食え」
「じゃあ、つーくんがアタシに食べさせて。はい、あ〜ん」
「なんでだよ。自分で食え」
「えー、別にいいじゃ〜ん?」
不満そうにプロテインバーを齧ると、カナデが俺の顔を半眼で見てくる。
ひとつ言っておくが、俺の荷物は数本のプロテインバーだけであり、他の着替えやらなんやらは全て自宅の中に置き去りとなっている。
その原因を生み出した張本人は目の前で呑気にしているカナデなのだが、今さら憎む気にもならなかった。
「ねぇ、ツルギくん」
「ん? どうしたよエクス?」
と、通路側のシートに腰掛けているエクスに顔を向けてみると、エクスが上目遣いをしながら俺の片手をそっと握り、豊かな自身の胸に押し付けた。
「そのさ、こうやってツルギくんの手を握っていてもいいかな?」
そんなことを言って、頬を赤くしたエクスにどきりとする。
なんだろう……今のエクスは、どこか甘えたがっている感じだ。
「お、おぅ。それは全然構わねえけど、どうしたよ急に?」
「うん。なんていうか、こうしていたいんだよね」
「……っ」
……なんだよその仕草? 思わずギュッと抱きしめたくなっちゃうじゃん! というか、今すぐ抱きしめさせて。
お金払うから!?
甘えん坊なエクスの態度にドキドキしちゃう。
流石は俺のマイエンジェルだ。
これはもう、抱きしめてあげるしかない!
「ねぇ、つーくん」
「あ? なんだよカナデ。俺は今ちょっと忙し……」
と、反対側に顔を向けると、カナデが着ているブラウスの胸元をいつの間にか大きく開けており、エクスに引けを取らない豊満な胸の谷間を見せつけながら俺の片腕に密着してくる。
「つーくん。なんか今日、寒くない?」
「さ、寒いといえば確かに少しだけ肌寒いかもな?」
「だよね? ならさ、このままギュッとしていてもいい?」
そう言って、上目遣いをしながら潤んだ瞳で俺の顔を見上げてくるカナデに不覚ながらもドキッとしてしまった。
エクスに次いで美少女であるコイツが、真面目に甘えてくると、流石の俺でも心が揺れてしまう。
というか、普段とは違って、今日の二人はなんかすんごく積極的だ。
一体どうしちゃったのん?
二人からの猛アピールに俺が顔を熱くしていると、前方のシートからランスくんが言う。
「あ、そういえば。もう少し先に長いトンネルがあって車内がしばらく暗闇に包まれるから気を付けてくれたまえ」
「トンネルに入ってから移動すると危ないからねー」
ランスくんとアロンちゃんの忠告に、俺たち三人が瞳をぱちくりさせていた直後、視界が一瞬で闇に包まれた。
聴こえてくるのは、列車が走る音と少しばかりの息遣い。
夜目に強いはずの俺ですら、視界に広がる常闇の先を見据える事ができなかった。
「おいおい、これじゃあ本当になにも見え――」
と、言いかけた刹那、俺の両手がエクスとカナデの二人から開放された。
一体なにが起きたのか一瞬だけ戸惑っていると、俺の腰上に誰かが跨ってきた。
「えっ? だ……」
と、俺が言葉を発する前に唇が柔らかなモノで塞がれる。
すると、俺の口内に熱くヌルリとしたモノが入り込み、そのまま舌へと絡みついてきた。
これはまさか……エクス、なのか!?
列車の揺れとトンネル内を走る際に発生した空気抵抗で一時的に鼓膜に届く音が聞き取りづらくなる。
その間も、俺の唇は強引に、それでいて情熱的に蹂躙されていて、頭がボーッとしてなにも考えられなかった。
すると、今度は俺の両手がそのまま誘導されて柔らかななにかに押し付けられた。
それは、とても柔らかくて温かく、ひとたび力を込めれば指先が深く沈んでゆくような感触だった。
その感触に、俺は覚えがあった。
これは、おっぱいだ!
「……ンッ」
すく近くで聴こえた淡い吐息。
俺が指先にそっと力を込めるたびに、その息遣いは次第に乱れゆき、より艶めかしいものに色づいてゆく。
わかる……俺にはわかるぞ! この、何度も揉みしだいて慣れ親しんだ感触。
それはまさに、女神のマシュマロ!
なにも見えない闇の中で、両手で触れているそれを俺は優しく愛撫する。
まったく、エクスめ。
いくら暗闇の中だからって、こんな大胆なことをしてくるなんて予想外だったぜ。
でも、それを無下に扱うなんてそれは失礼な行為だろう。
それならここは、トコトンその行為に付き合って――って、あれ? なんか、いつもと少し柔らかさが違うような……。
「ツルギくん?」
「え?」
すぐ傍から聴こえた問いかけてくるようなエクスの声に俺の思考が停止した。
え? なんでエクスの声が真横から聴こえてくるんだ? それなら、俺の腰上に跨っているのは一体……。
「そろそろトンネルを抜けるよ」
ランスくんの声が再び聴こえた直後、俺の腰上に跨っていた誰かがサッと飛び下りた。
そして、再び俺の視界が光を取り戻すと、通路側に座るエクスが心配そうな顔で声をかけてくる。
「ツルギくん、大丈夫? なんか顔が真っ赤だよ?」
「えっと、あれ? エクス?」
「どうしたの?」
「あ、いや……お前は、ずっとそこにいたのか?」
「え? そうだけど、なんで?」
正直、わけがわからなかった。
俺の隣に座るエクスも小首を傾げてキョトンとしている。
今のがエクスじゃないとしたら、考えられる相手はもう一人しかいない。
いや、でもまさか、そんなことが――。
と、俺がエクスから視線を外し、何気なく車窓の方に顔を向けてみると……。
「……ッ」
車窓の窓枠に頬杖をつき、頬を真っ赤にしたカナデが、俺の顔をちらりと見ると、キュッと下唇を噛んで俯いた。
……え? まさか、今のって……えええええええええっ!?
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